【旅館・ホテル営業×フロント設備義務・基準|設けないことができる場合】

1 フロントの基準は、政令と要領の二段で決まる

旅館業の許可を受けるには、施設が政令の定める構造設備の基準を満たしている必要があります。玄関帳場(フロント)もその一つです。政令と厚生労働省令が置いているのは大枠で、何をどこまで備えればよいかは、厚生労働省の通達である「旅館業における衛生等管理要領」が具体化しています。要領は通達であって、法令そのものではありません。

この記事が引いているのは、令和8年1月20日付の通知による改正を経た現在の要領です。

この記事は以前、「ホテル営業」と「旅館営業」を別の営業種別として書いていました。両者は旅館業法の改正(平成29年法律第84号・2018年6月15日施行)で「旅館・ホテル営業」へ統合され、同じ日に施行された平成30年政令第21号によって、施行令の構造設備の基準も一本になりました。玄関帳場の根拠となる条文の番号も、このときに移っています。

簡易宿所営業のフロントの要否は、別の記事で説明しています。

簡易宿所営業×フロントの要否|基本|いま何が要るか

2 設置義務の根拠は施行令1条1項2号——玄関帳場そのものでなくてもよい

施行令が求めているのは「宿泊しようとする者との面接に適する玄関帳場その他当該者の確認を適切に行うための設備」です。玄関帳場という形でなくてもよく、宿泊しようとする者の確認を適切に行える設備であれば足りる、という書き方になっています。その設備が満たすべき基準は厚生労働省令に委ねられ、施行規則が、緊急時に迅速に対応できる設備であることと、宿泊者名簿の正確な記載・客室の鍵の受渡し・宿泊者以外の出入りの状況の確認ができる設備であることの二つを挙げています。

この記事は以前、玄関帳場の根拠として施行令1条1項4号と2項4号を挙げていました。2018年6月14日まで施行されていた施行令では、1項がホテル営業、2項が旅館営業の基準で、玄関帳場はそれぞれの4号にありました。営業種別の統合でこの構成はなくなり、現在の玄関帳場は1条1項2号です。簡易宿所営業の基準(現在の1条2項)に、玄関帳場の項はありません。

条文

設置義務の根拠と、省令が定める基準

宿泊しようとする者との面接に適する玄関帳場その他当該者の確認を適切に行うための設備として厚生労働省令で定める基準に適合するものを有すること。

※旅館業法施行令1条1項2号

旅館業法施行令(昭和三十二年政令第百五十二号。以下「令」という。)第一条第一項第二号の基準は、次の各号のいずれにも該当することとする。

※旅館業法施行規則4条の3

事故が発生したときその他の緊急時における迅速な対応を可能とする設備を備えていること。

※旅館業法施行規則4条の3第1号

宿泊者名簿の正確な記載、宿泊者との間の客室の鍵の適切な受渡し及び宿泊者以外の出入りの状況の確認を可能とする設備を備えていること。

※旅館業法施行規則4条の3第2号

3 要領は4つの要件を挙げ、別の要件を満たせば設けなくてよいとしている

要領は、旅館・ホテル営業の施設設備の基準の中に玄関帳場又はフロントの項を置いています。善良風俗の保持上、宿泊しようとする者との面接に適し、(1)から(4)までの要件を満たす構造設備であることを求め、そのうえで、(5)の要件を満たす場合には、玄関帳場又はフロントに代替する機能を有する設備を備えているものとして、これを設置しないことができるとしています。順に見ていきます。

引用:文献・公開情報

要件は(1)〜(4)、(5)を満たせば設置しないことができる

8 善良風俗の保持上、宿泊しようとする者との面接に適し、次の (1)~(4)までの要件を満たす構造設備の玄関帳場又はフロントを有すること。
ただし、(5)の要件を満たす場合は、玄関帳場又はフロントに代替する機能を有する設備を備えているものとして、玄関帳場又はフロントを設置しないことができること。

※『公衆浴場における衛生等管理要領等について』厚生労働省p27

4 玄関から見える位置に置き、宿泊者と直接面接できる構造にする

(1)と(2)が、玄関帳場又はフロントそのものの構造についての要件です。玄関から容易に見えるよう宿泊者が通過する場所に位置すること、囲い等によって宿泊者の出入りが容易に見えなくなっていないこと、事務をとるのに適した広さがあり、相対する宿泊者と従事者が直接面接できる構造であることが挙げられています。

この記事は以前、ここに「受付台の長さは1.8メートル以上」「フロントの内側に鍵の保管設備があり、受付台から適当な距離を隔てている」「受付台の前1.6メートル以内に、宿泊事務の支障となる物品(植木・カーテンなど)を備え付けない」といった細かい基準も書いていました。現在の要領に、これらの記述はありません。

引用:文献・公開情報

玄関から見える位置に置き、直接面接できる構造にする

(1) 玄関帳場又はフロントは、玄関から容易に見えるよう宿泊者が通過する場所に位置し、囲い等により宿泊者の出入りを容易に見ることができない構造設備でないこと。
(2) 玄関帳場又はフロントは、事務をとるのに適した広さを有し、相対する宿泊者と従事者が直接面接できる構造であること。

※『公衆浴場における衛生等管理要領等について』厚生労働省p27

5 「玄関帳場に類する設備」と、モーテル等の特例

(3)と(4)は、玄関帳場又はフロントそのものを置かない形を認めるものです。(3)は、従業者が常時待機し、来客の都度、玄関に出て客に応対する構造の部屋を玄関に付設する形で、これを玄関帳場に類する設備として認めます。(4)は、モーテル等の特定の用途を有する施設について、施設への入口、または利用しようとする者が必ず通過する通路に面した場所に、面接に適する規模と構造を有する設備(管理棟など)を設けることができるとするものです。

この記事は以前、(3)にあたる定めを「旅館営業だけの基準」として書いていました。現在の要領は「旅館・ホテル営業においては」としており、営業種別の統合にあわせて、旅館・ホテル営業に共通の定めになっています。

引用:文献・公開情報

玄関帳場に類する設備と、モーテル等の特例

(3) 旅館・ホテル営業においては、玄関帳場に類する設備として従業者が常時待機し、来客の都度、玄関に出て客に応対する構造の部屋を玄関に付設することができること。
(4) モーテル等特定の用途を有する施設においては、玄関帳場又はフロントとして、施設への入口、又は宿泊しようとする者が当該施設を利用しようとするときに必ず通過する通路に面して、その者との面接に適する規模と構造を有する設備(例えば管理棟)を設けることができること。

※『公衆浴場における衛生等管理要領等について』厚生労働省p28

6 設けないことができる場合——緊急時の体制・本人確認・鍵の受渡し

(5)は、玄関帳場又はフロントを設置しないことができる場合の要件です。挙げられているのは3つで、そのすべてを満たし、宿泊者の安全や利便性の確保ができていることが求められます。

1つめは、事故が発生したときや、宿泊者専用区域へ無断で侵入する者がいるときなど、緊急時における迅速な対応のための体制が整備されていることです。要領は、宿泊者の求めに応じて、通常おおむね10分程度で職員等が駆けつけることができる体制を想定していると述べています。

2つめは、営業者自らが設置したビデオカメラ等を用いて常時鮮明な画像により確認する方法か、ICTを活用した方法により本人確認を実施する方法のいずれかで、宿泊者の本人確認と、宿泊者以外の出入りの状況の確認を行うことです。ICTによる場合は、本人確認を受けた者に交付した鍵がなければ宿泊者専用区域に無断で出入りできないようにしたうえで、出入りの状況を顔が判別できる角度で録画し、必要なときに確認することまで求められています。

3つめは、鍵の受渡しを適切に行うことです。

引用:文献・公開情報

緊急時におおむね10分で駆けつけられる体制

(5) 次の全ての要件を満たし、宿泊者の安全や利便性の確保ができていること。
1) 事故が発生したとき、宿泊者専用区域(客室その他の専ら宿泊者の利用に供する区域をいう。
以下同じ。)
に無断侵入する者がいるときその他の緊急時における迅速な対応のための体制が整備されていること。
緊急時に対応できる体制については、宿泊者の緊急を要する状況に対し、その求めに応じて、通常おおむね 10 分程度で職員等が駆けつけることができる体制を想定しているものであること。

※『公衆浴場における衛生等管理要領等について』厚生労働省p28

引用:文献・公開情報

ビデオカメラ等かICTによる本人確認と、鍵の受渡し

2) 次の①又は②のいずれかの方法により宿泊者の本人確認や宿泊者以外の出入りの状況の確認を実施すること。
① 営業者自らが設置したビデオカメラ等を用いて、常時鮮明な画像により実施すること。
② Ⅵ4の 2)の要件に該当する ICT を活用した方法により本人確認を実施するとともに、本人確認を受けた者に交付した鍵がなければ宿泊者専用区域に無断で出入りできないこととしつつ、宿泊者専用区域に入ろうとする者の出入りの状況について、当該者の顔を判別できる角度で、防犯のために営業者自らが設置したビデオカメラ等により鮮明な画像で録画して、宿泊者専用区域に無断侵入する者がいるときその他の必要なときに録画した画像の確認を実施すること。
3)鍵の受渡しを適切に行うこと。

※『公衆浴場における衛生等管理要領等について』厚生労働省p28

7 条例がフロントの条件を上乗せしていることがある

ここまでは施行令・施行規則と要領の話です。これとは別に、自治体が条例で玄関帳場の条件を定めている例があります。条例による上乗せが有効かどうかは別の問題で、別の記事で説明しています。

簡易宿所営業×フロントの要否|衛生管理要領×条例・食い違い問題

本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

本記事の引用は、書籍・判例などの原文から範囲を選んで載せたものです。改行の位置は読みやすさのために当方で整えており、原文の改行と同じとは限りません。また、記号や外字の扱いにより、文字の一部が原文と異なって表示されることがあります。

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【平成28年4月改正施行令・通達|基本|簡易宿所・延床面積基準緩和】

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