損害賠償には2種類あるのですか。
損害賠償請求権は「契約責任」と「不法行為責任」に分類されます。
実際の違いは「消滅時効」が大きなものです。

1 損害賠償は契約責任と不法行為責任に分類できる
2 契約責任についても慰謝料は認められる
3 契約責任と不法行為責任は併存し請求権競合となる

1 損害賠償は契約責任と不法行為責任に分類できる

何らかの契約があり,この契約に基づく約束(債務)を履行しなかった,という場合に生じるのが債務不履行による損害賠償です。
ジャンル分けとして契約責任と呼ぶこともあります。
また,一般的に契約不履行と呼ぶこともあります。
一方,特に契約などはない関係で,違法性のある行為自体によって生じるのが不法行為による損害賠償です。
ジャンル分けとして不法行為責任と呼ぶこともあります。
以上の分類で,具体例を振り分けると次のとおりになります。

<損害賠償の分類>

あ 債務不履行による損害賠償

賃貸借契約,売買契約に規定した債務の不履行
 →例=賃料支払,代金支払,登記移転の遅滞など
婚約破棄による損害賠償
安全配慮義務違反(不履行)による損害賠償
 →例=職場の環境整備を怠ったケースなど

い 不法行為による損害賠償

例=交通事故,不貞行為(不貞相手に対して),傷害事件など

2 契約責任についても慰謝料は認められる

債務不履行によって慰謝料が認められるかどうかを説明します。

(1)条文上は,債務不履行には精神的損害の規定がない

不法行為について,精神的損害の条文はありますが,債務不履行については条文がありません。
条文上,債務不履行については,慰謝料の規定がありません。

慰謝料が規定されているのは不法行為による損害賠償請求として,だけです(民法709条,710条)。
なお,条文上は財産以外の損害に対する賠償,という体裁で記載されています。
つまり,不法行為について,賠償すべき損害の中には,精神的苦痛も入る,ということです。
精神的苦痛に対する損害賠償のことを精神的損害賠償とか慰謝料と呼んでいるのです。
このように,不法行為としては,精神的損害賠償が含まれるというルールがあります。
一方,債務不履行については,精神的損害賠償の条文がありません(民法415条~)。

(2)実務上は債務不履行でも精神的損害を認めている

条文がないからと言って,債務不履行の時には精神的損害を認めないのは不合理です。
例えば,婚約破棄などの場合,その損害の大部分は精神的なものです。
精神的ショックが考慮されないのは本末転倒です。

実際に,実務上では,特に問題視せずに,債務不履行についても慰謝料を肯定しています(後掲判例1)。

<文献の見解>

あ 一般に損害の中には精神的損害も含まれる。

民法710条は注意的規定である。
↑松坂佐一『民法提要 債権各論』(第5版)有斐閣
い債務不履行による損害賠償にも民法710条が類推適用される
↑我妻榮・有泉亨・清水誠・田山輝明『我妻・有泉コンメンタール民法 総則・債権・物権』(第2版追補版)743頁

3 契約責任と不法行為責任は併存し請求権競合となる

契約責任(債務不履行)と不法行為による損害賠償の関係について説明します。

実務上は,債務不履行不法行為の両方ともが成立する,というケースは多いです。
その場合,債務不履行による損害賠償不法行為による損害賠償の両方が成り立ちます。
請求権競合,と呼ぶこともあります。

両方成り立つ場合は,債務不履行の慰謝料だけ,をクローズアップして議論する必要はありません。
しかし,片方しか成り立たないということもあります。
典型例は,不法行為の損害賠償請求権について,時効が完成している,というような場合です。
このような場合に,債務不履行の慰謝料を正面から考えることになります。
ただし,現在では,これを否定する見解は特にありませんので議論自体がなされていない状況です。

条文

[民法]
(債務不履行による損害賠償)
第四百十五条  債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。
(損害賠償の範囲)
第四百十六条  債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2  特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求することができる。

(不法行為による損害賠償)
第七百九条  故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

(財産以外の損害の賠償)
第七百十条  他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。

判例・参考情報

(判例1)
[最高裁判所第3小法廷平成元年(オ)第1667号損害賠償並びに民訴法一九八条二項による返還及び損害賠償請求事件平成6年2月22日]
本件は、被上告人が経営していた長崎県北松浦郡所在の各炭鉱の従業員として炭鉱労務に従事し、じん(塵)肺に罹患した患者六三名(別紙従業員目録(一)(二)(三)記載のとおり)の本人又は相続人が、被上告人に対し、雇用契約上の安全配慮義務の不履行に基づく損害賠償を請求するものである

上告人らは、被上告人の安全配慮義務の不履行に起因するところの、財産上のそれを含めた全損害につき、本訴において請求し、かつ、認容される以外の賠償を受けることはできないのであるから、本訴請求の対象が慰謝料であるとはいえ、他に財産上の請求権の留保のないものとして、原審が慰謝料額を認定するに当たっても、その裁量にはおのずから限界があり、その裁量権の行使は社会通念により相当として容認され得る範囲にとどまることを要するのは当然である。

本件において死者を含む管理四該当者の被った精神的損害に対する評価については、一般の不法行為等により労働能力を完全に喪失し、又は死亡するに至った場合のそれに比してさしたる違いを見出すことはできず、したがって、以上の事実関係の下においては、特段の事情がない限り、原審の認定した一二〇〇万円又は一〇〇〇万円という慰謝料額は低きに失し、著しく不相当であって、経験則又は条理に反し、右にみるような慰謝料額認定についての原審の裁量判断は、社会通念により相当として容認され得る範囲を超えるものというほかはない。