【相殺のまとめ|機能・要件・効果・デメリット・相殺契約】

1 相殺の機能=簡易決済・担保|名称=自働債権・受働債権

(1)相殺の機能

相殺は『お互いの支払を打ち消し合う』という意味では単純です。
『そうさい』というのが正式な読み方です。
『そうさつ』という誤用が多く、文字変換機能(IME)でも変換できてしまうことが多いくらいです。
相殺の特徴を整理すると2つの機能に分けられます。

相殺の機能

あ 簡易決済機能

お互いに『送金』『現金持参』の手間を省略できる

い 担保的機能

『払ってもらえない』場合に、結果的に『こちらも払わない』
→『払ってもらった』と同様になる

ここまでは特に難しいことはありません。
しかし、状況によってはいろいろな解釈によって大きな違いが生じます。
要するにどちらかの経済力が悪化した場合に問題が具体化します。
いわゆる『債権回収』のカテゴリの問題です。

(2)債権の名称|自働債権・受働債権

以下相殺の内容を説明します。
2つの債権が登場します。
法学上の名称を示しておきます。

2つの債権の名称→自働債権・受働債権

AがBに対して相殺(の意思表示)をする
Aの持っている債権=『自働債権』
Bの持っている債権=『受働債権』

2 相殺の要件

(1)相殺が行われる構造

相殺が行われる構造

相殺の要件(相殺適状)+相殺の意思表示→相殺の効果発生
(相殺の意思表示ではなく、相殺合意(両者で合意する)という方法もある)

まず、前提条件、つまり『相殺できる状態』というものがあります。
『相殺適状』(そうさいてきじょう)といいます。

(2)相殺の要件=相殺適状

相殺の要件=相殺適状

次のすべてを満たすこと
あ 当事者双方が同種の債権を対立させている
い 自働債権(債務)が弁済期にある
う 相殺禁止事由に該当しない

※民法505条1項本文、136条2項本文

(3)相殺禁止事由

『相殺禁止事由』については次にまとめます。

相殺禁止事由

あ 相殺を禁ずる合意(相殺禁止特約)がある(民法505条2項)
い 法律上、相殺が禁止されている

ア 一定範囲の損害賠償債権を受働債権とする場合(概要) 悪意(積極的害意)、または、生命や身体の侵害による損害賠償のケースで、これらを受働債権とする相殺
使用者責任の責任(請求権)も含む
詳しくはこちら|不法行為の損害賠償債権の相殺禁止(平成29年改正後民法509条)(解釈整理ノート)
イ 差押禁止債権(民法510条) 《例》
・扶養請求権;民法881条
・賃金請求権
・破産法・民事再生法・会社更生法関係
詳しくはこちら|給与は4分の3、公的年金は全額が差押できない|差押禁止

う 解釈上、自働債権とすることができない債権

ア 相手が抗弁権をもっている債権 抗弁権の例=同時履行の抗弁権、催告・検索の抗弁権
イ 差押を受けた債権

3 相殺の方法=相殺通知(概要)

相殺を実行する方法は単純です。
意思表示です。
詳しくはこちら|相殺の方法・効力(民法506条)(解釈整理ノート)
相殺の意思表示を相殺通知と呼ぶことも有ります。
実際のケースでは、通知をしたかどうか、ということが問題になることがあります。そこで実務上は通知書としを内容証明郵便で送付するのが一般的です。

4 相殺の効果=相殺適状時点に遡って債務消滅

相殺は意思表示(または契約)で効力を生じます。その効力とは、債権と債務が(同じ額の範囲で)打ち消し合う、つまり消滅する、というものです。正確には、相殺適状の時にさかのぼって、消滅します。ただし、例外的にさかのぼらないこともあります。
詳しくはこちら|相殺の方法・効力(民法506条)(解釈整理ノート)

相殺の効果

あ 法的効果

双方の債務は相殺適状の時点に遡及して消滅する
※民法506条2項

い 具体的な効果|例

相殺適状以降のイベントを『なかったこと』にできる
《『なかったこと』になるイベント》
ア 利息・遅延損害金の発生イ 自働債権の『消滅時効完成→援用→消滅』ウ 自働債権の差押・譲渡

う 注意点=『なかったこと』にはならない事項

相殺適状『前』のイベントは『なかったこと』にできない
例;差押(民法511条)

このように『差押や債権譲渡』を、言わば無効化できるのです。
この特徴は、『債権回収』という面では非常に『優先的』と言えます。
また『簡易』という特徴もあります。

相殺の『簡易』という特徴

あ 実行のための具体的アクション

『通知』(意思表示)のみ

い 省略できるアクション

ア 登記・登録などの公的な手続イ 相手の同意・承諾(書面への調印)

5 相殺を利用する上での注意点|債権の存在・内容+相殺実行の『証拠化』

以上のように、相殺は非常に『簡易』に『優先的』な効果を得られるのです。
実務上トラブルになること、はこのような相殺の性質・特徴から類型が決まっています。
そこから、実際に利用する上での注意点、も整理できます。

相殺を利用する上での注意点

あ 債権の存在・内容(特約)の証拠の確保

《生じがちなトラブル》
ア 『2つの向かい合う債権が存在する』というところが曖昧→見解の相違発生イ 『相殺適状』が成立するか否か、について見解の相違発生
《対策》
金銭貸借・売買契約などの契約書を作成・保管しておく
『期限の利益喪失条項』を条項として明記しておく

い 相殺実行(通知)についての証拠の確保

《生じがちなトラブル》
相殺の通知を行った/行っていない、という見解の相違発生

《対策》
相殺通知を内容証明郵便で行う
両者で『相殺合意書』として調印する

6 相殺のデメリット|『相殺しないほうが良い』の可能性

相殺を行うことはメリットが大きいです。
一方で、相対的なデメリット=『他の手段の方が有利』という可能性、があります。

相殺のデメリットの分析→最適化

あ 相殺の効果のうち注意を要する側面

自分の持つ債権(自働債権)も消滅させる

い 具体的な『失う利益』

ア 利息・遅延損害金(将来発生分含む)イ 担保(保証人・担保権)

う 判断の相対性

『相殺した場合』と『相殺しない場合』の比較によりトータルの利害を検討する
↓判断の概要
仮に相殺しない場合『失う利益』について『活用の最適化』がどこまでできるのか

え 『相殺契約』による利害の最適化

相殺の要件・効果を個別的にカスタマイズする
→『当事者両方が合意』すれば可能;相殺合意・相殺契約

7 相殺合意・相殺契約|相殺内容=要件・効果をカスタマイズ

当事者両方が合意すれば、本来的な『相殺の細かい内容』を変えることが可能です。
これを『相殺合意』『相殺契約』と言います。

相殺合意(相殺契約)のまとめ

あ 意味

相殺の要件・効果について当事者両者の合意で変更(カスタマイズ)すること

い 相殺合意の活用方法|例

ア 『要件』を変更 『相殺通知』(一方的に実行)できない場合
・相殺禁止
・履行期前
・金銭同士、ではない→この場合、むしろ『代物弁済』が混ざっている
イ 『効果』を変更 遡及しない、訴求する『時点』を特定する

う 類似語の注意

『相殺の意思表示』+『意思表示受領の確認』という趣旨で『相殺契約書』を調印するケース(前記『3』)
これは、法的な意味での『相殺契約』=『要件・効果を変えるもの』とは違う

本記事では、相殺の基本的事項について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に相殺や債権回収に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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