1 下着ではなく全身を普段着の上から撮影して犯罪となった判例
2 衣類の上からの撮影×有罪|事案内容
3 『羞恥』『不安』はあっさり認定突破
4 『卑わいな言動』の解釈
5 『明確性の原則違反』の主張を排斥
6 最終的な裁判所の判断=有罪
7 判決文の引用(メインの判断部分)

1 下着ではなく全身を普段着の上から撮影して犯罪となった判例

『撮影』について罰則を規定する条例の条文は非常に不明確です。
詳しくはこちら|盗撮・迷惑防止条例|東京都・神奈川県の条文規定・定義・罰則
この点『下着ではなく全身を撮影した』だけで犯罪成立,と判断した最高裁判例があります。
なお,これは北海道の迷惑防止条例が前提となっています。
ただ,前述の東京都や神奈川県の条例と実質的に違いはありません。
そして『撮影』に関する規定ではなく,より広い『卑わいな言動』に該当すると判断されています。大きな問題を含んだ判例と言えます。実際に裁判官の1名は反対意見として無罪である旨の意見を示しています。以下,この事案と判断を説明します。

2 衣類の上からの撮影×有罪|事案内容

<事案内容=撮影の態様>

あ 時間帯と場所

平成18年◯月◯日午後7時頃
ショッピングセンター1階の出入口付近から女性靴売場の間

い 被害者

当時27歳の女性客
細身のパンツ(ズボン)を着用していた

う 撮影の時間(長さ)

少なくとも約5分間
40m余りにわたって付けた(直後を歩いた)

え 撮影態様

背後の約1〜3mの距離に位置していた
右手にキャメラ付きの携帯電話を自分の腰部付近で保持していた
撮影場所は『臀部』
撮影は約11回行った
撮影時点では,被害者は撮影に気付いていなかった

3 『羞恥』『不安』はあっさり認定突破

問題になったのは要件(条文)のうち,『卑わいな言動』と『著しく羞恥させ,又は不安を覚えさせる』の2点です。
このうち『羞恥・不安』については最高裁はアッサリと認定しました。

<『羞恥・不安』についての裁判所の判断>

これを知ったときに被害者を著しくしゅう恥させ,被害者に不安を覚えさせるものといえる

4 『卑わいな言動』の解釈

この最高裁判例では『卑わいな言動』という条文の文言の解釈を示しました。

<『卑わいな言動』の解釈(最高裁判例)>

社会通念上,性的道義観念に反する下品でみだらな言語又は動作をいう

これについての従来の解釈論も紹介します。

<『卑わいな言動』の解釈と判断要素(従来)>

あ 『卑わいな言動』の解釈

住民の善良な風俗環境を害し,法的安全の意識を脅かすような卑猥な言動である
いわゆる猥褻な行為には達しないものである

い 判断要素

卑わいな言動に該当するかの判断について
健全な社会常識に基づいて判断する
次の事情を考慮する
ア 言動自体
イ 対象となった被害者の年齢
ウ 言動の際の周囲の状況
※『東京高等裁判所判決時報(刑事)28巻10号』p143

いずれにしても,言葉が増えましたが,あまり,評価のサポート・手がかりとしては少ないです。

5 『明確性の原則違反』の主張を排斥

弁護人は『明確性の原則違反』を強く主張しました。これは,規制内容が不明確であるため,適法と違法の境界が分からないので,規定自体を無効とする理論です。過去の最高裁判例で何度か登場しているものです。
詳しくはこちら|青少年育成条例の『みだらな性交』の解釈と明確性の原則違反
しかし,この件について,最高裁はアッサリ退けます。

<『明確性の原則違反』の主張を排斥>

『公共の場所又は公共の乗物にいる者に対し,正当な理由がないのに,著しくしゅう恥させ,又は不安を覚えさせるような』を加味すると『不明確』ではない

6 最終的な裁判所の判断=有罪

以上の判断を前提に,結論に移ります。

<裁判所の判断(結論)>

あ 撮影態様の評価

『社会通念上,性的道義観念に反する下品でみだらな動作』であることは明らかである
これを知ったときに被害者を著しくしゅう恥させ,被害者に不安を覚えさせるものといえる

い 結論

『卑わいな言動』に該当する
→有罪である
罰金30万円の刑が確定した
※北海道迷惑防止条例2条の2第1項4号
※最高裁平成20年11月10日

なお,他にも『下着なし・全身のみ撮影』の検挙事例は報道されています。
要するに『風景の撮影』であっても,写り込んだ女性が『執拗だ』と主張すると逮捕・検挙リスクがあるのです。
さらに,実際に『撮影』しておらず『キャメラを向けた』だけでも同様に認定リスクはあります。

7 判決文の引用(メインの判断部分)

最後に,参考として,最高裁判例の判決文そのものを引用します。

<判決文の引用(メインの判断部分)>

すなわち,被告人は,正当な理由がないのに,平成18年7月21日午後7時ころ,旭川市内のショッピングセンター1階の出入口付近から女性靴売場にかけて,女性客(当時27歳)に対し,その後を少なくとも約5分間,40m余りにわたって付けねらい,背後の約1ないし3mの距離から,右手に所持したデジタルカメラ機能付きの携帯電話を自己の腰部付近まで下げて,細身のズボンを着用した同女の臀部を同カメラでねらい,約11回これを撮影した。
 以上のような事実関係によれば,被告人の本件撮影行為は,被害者がこれに気付いておらず,また,被害者の着用したズボンの上からされたものであったとしても,社会通念上,性的道義観念に反する下品でみだらな動作であることは明らかであり,これを知ったときに被害者を著しくしゅう恥させ,被害者に不安を覚えさせるものといえるから,上記条例10条1項,2条の2第1項4号に当たるというべきである。これと同旨の原判断は相当である。
※最高裁平成20年11月10日