【終身借家契約は借地借家法に抵触するが高齢者住まい法で認められた】
1 終身借家契約は借地借家法に抵触するが高齢者住まい法で認められた
終身借家契約とは,文字どおり終身,つまり,賃借人が亡くなった時に終了する賃貸借契約です。
このような不確定である期限(期間)は,借地借家法では禁止されていますが,高齢者住居法(高齢者住まい法)によって一定の要件をクリアした場合にだけ例外的に認められることになりました。
本記事では,「終身」の建物賃貸借(借家)について説明します。
2 借地借家法による「終身」の建物賃貸借の否定
借地借家法は,「終身」の建物賃貸借を禁止しています。具体的には,普通借家については,「終身」という設定は借主に不利なものとして無効となると解釈されています。また,定期借家では文字どおり期間が定まっている必要がありますので,誰かが亡くなった時というような決め方は否定されているのです。
借地借家法による「終身」の建物賃貸借の否定
あ 普通借家
ア 澤野氏見解(関連事項)
わが国においては,不確定期限の定めをすることによる普通借家契約は存在しない。
ただし,借地借家法39条の「取壊し予定の建物の賃貸借」については不確定期限付きの借家契約である場合も存する。
また,平成13年8月施行の後述の「終身借家権」(本章第3節)により不確定期限付きの借家契約が認められることとなった。
※澤野順彦編『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p137
イ 高齢者住居法と借地借家法の関係(関連事項)
終身建物賃貸借は,賃借人となれる者を高齢者に限定するとともに,対象となる建物を高齢者向けのバリアフリーの賃貸住宅に限定して,
借地借家法第30条の規定(賃借人に不利な特約を無効とする規定)にかかわらず,賃借人が死亡した時に終了する旨を定めることができることとする制度です。
このように,終身建物賃貸借制度は,対象を限定した建物の賃貸借であり,高齢者の居住安定を図ることを目的とする本法(注・高齢者住居法)において,借地借家法の特例として設けられています。
※国土交通省住宅局住宅総合整備課監『高齢者住居法の解説』大成出版社2002年p122
ウ 補足説明
借地借家法30条は普通借家に適用される→普通借家では「終身」の期間は否定されていることになる
い 定期借家
「期間」とは,ある時点からある時点までの継続した時間の区分であるが,定期建物賃貸借では,必ず存続期間を定めていなければならない。
この期間は,確定したものでなければならない。
賃借人の死亡した時を終期とするような不確定期限付の賃貸借は,定期建物賃貸借とはなりえないものと解される
(福井=久米=阿部注釈定期借家78,研究会新しい借地借家188,澤野理論と実務166,木村田山基本コンメ114,上原・国士舘法学33-7)。
※藤井俊二稿/稲本洋之助ほか編『コンメンタール 借地借家法 第4版』日本評論社2019年p310
3 終身借家サービスの創設の経緯
以上のように,もともと終身の建物賃貸借(借家)は禁止されていたのです。その結果,高齢者に建物を賃貸すると,その方(賃借人)が亡くなった時に,相続人が新たな賃借人となることになります。相続人が合意解除に応じてくれればよいですが,応じるとは限りません。つまり,亡くなった時に確実に建物が戻ってくるわけではないという構造がありました。そうすると貸すことに抵抗があるという状況になります。
そこで,政策として,高齢者に良好な居住環境を提供することを促進するために,高齢者住居法によって,高齢者向けの終身借家サービスを認めるに至った,という経緯があったのです。
4 終身借家契約を利用した事業の認可要件
終身借家契約が認められるようになった前述の経緯から,高齢者の居住に適した住環境であること,が大前提となっています。事業者は,個別的に,都道府県知事の認可を受ける必要があります(高齢者住居法52条~)。
終身借家の事業の認可要件は事業の運営者,運営する環境が適切であるかどうか,ということです。以下,代表的な判断要素を示します。
終身借家契約を利用した事業の認可要件
あ 資力
終身賃貸事業の事業者が,事業遂行に問題がないと言える程度の資力が必要とされます。
い 住居の性能
ア バリアフリー
バリアフリー構造
イ その他の設備
床面積,廊下の幅,居室の出入口の幅,浴室の大きさなどについて一定の基準を満たす
5 小規模な建物における終身借家サービス
終身借家(契約)の事業者は,特に大規模であったり法人であるという限定はありません。
個人で認可を取られている方もいらっしゃいます。
結果的に,借地借家法の適用がなく,個別的な事情に合致した不動産の利用ができることになります。
6 期間付死亡時終了建物賃貸借契約
終身借家契約では終身,つまり,借家人が亡くなった時に終了するという規定が原則です。
これに加えて,通常の期間,つまり年数などを併用することも可能です。
この方式は,賃借人の立場からすると,亡くなるまでの間に退去せざるを得なくなる可能性がある,ということを意味します。賃借人にとっては大きなリスクがあるのです。そこで,期間付にすることができるのは,賃借人が希望した(申出をした)時だけとなっています。
期間付死亡時終了建物賃貸借契約
あ 期間付死亡時終了建物賃貸借契約の例
賃借人が亡くなった時と規定した期間(例=10年間)の経過の早い方で賃貸借が終了する
い 期間付にする要件
期間付死亡時終了建物賃貸借契約は,賃借人から特に申出があった場合にだけ締結することができる
※高齢者住居法57条
7 サービス付高齢者向け住宅(参考)
なお,高齢者向けの施設,建物を運営する事業として,サービス付高齢者向け住宅というものがあります。これは,一定の設備,サービスを備えて登録すると,費用の補助,税金・融資の優遇措置が受けられる制度です。
以上で説明した終身借家とは別の制度です。サービス付高齢者向け住宅については,別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|サービス付高齢者向け住宅
8 使用貸借における「終身」の設定(参考)
以上の説明は建物の賃貸借を前提としていました。この点,使用貸借(無償の貸し借り)では,「終身」という期間(期限)を設定することは可能です。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|借地・借家・使用貸借の「期間」に関するルール比較(普通・定期・終身)
本記事では,建物賃貸借で「(賃借人の)終身」という期間の設定ができるかどうか,ということについて説明しました。
実際には,個別的な事情によって,法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に建物の賃貸借や住居を提供するサービスに関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。