1 一時使用目的であれば,『借家』として扱われない
2 賃貸借の経緯などから一時使用目的にあたるかどうかは判断される
3 一時使用目的の例は転勤療養親族介護などである
4 建物再築などの計画があっても具体化していないと一時使用目的と認められないこともある
5 一時使用目的の内容が具体的で実態がある場合は認められる;典型例
6 建物賃貸借の一時使用目的が判断された裁判例
7 現在は,定期借家を利用すると確実,明確になるのでベター

1 一時使用目的であれば,『借家』として扱われない

<事例設定>

私は自宅を所有している
1年間限定の海外赴任のため,家族で家を空ける
その間に他人に家を貸そうと思う
借地借家法で,明渡しが困難になってしまうのではないか

借地借家法は,借主の保護が非常に強いです。
反面,オーナーは思わぬ制約を受けることがあります。
海外赴任中限定の賃貸など,仮に借地借家法の適用があると,容易に貸せないということになってしまいます。
そこで,一時使用の目的であることが明らかな場合は,借地借家法のルールは適用されないことになっています(借地借家法40条,借家法8条)。
一時使用目的にあたるかどうか,について以下説明します。

2 賃貸借の経緯などから一時使用目的にあたるかどうかは判断される

賃貸借契約書のタイトルや条項で『一時使用(目的)』と明記していても,一時使用目的賃貸借としては認められないケースもあります。
その場合は,一般の賃貸借,つまり『借家』として,借地借家法が適用されることになってしまいます。
判例(後掲)に表れている判断基準は次のとおりです。

<判例上の一時使用目的の判断基準>

賃貸借の目的,動機,その他諸般の事情

当該賃貸借契約を短期間内に限り存続させる趣旨であることが客観的に判断される場合
※判例1

3 一時使用目的の例は転勤療養親族介護などである

借地借家法の改正前の『借家法』では,一時使用目的の例が記載されていました。

<旧借家法における一時使用目的の例示>

転勤,療養,親族介護その他のやむを得ない事情

現行法(借地借家法)では,このような例示は削除されています。
しかし,実質的には,改正前と同じように,転勤,療養,親族介護などの事情は一時使用目的の一例となります。
実質的に,内容が変更されているわけではありません。
むしろ,例示が削除されたことによって,適用範囲が拡がったと言えましょう。

4 建物再築などの計画があっても具体化していないと一時使用目的と認められないこともある

例えば,オーナーが将来建物を再築する計画を有している場合でも,その時期・計画が具体化していない場合は,一時使用目的としては認められない可能性が高いです。
この場合,次のように,動機にまでさかのぼって詳細な事情から判断されます。

<再築計画の具体化を判断する事情>

・再築などの計画がどこまで具体化しているか
・再築の理由から考えて,必然的・必要的なものなのか
・あくまでもオーナーの希望に過ぎないのか

一時使用目的が否定される例をまとめると次のようになります。

<一時使用目的が否定される典型例>

・期間を限定する理由が,オーナーの希望に過ぎない(上記)
・裁判所の和解調書や調停調書となっているが,一時猶予の趣旨が明確ではない
・契約書のタイトルが一時使用目的賃貸借契約となっているが,期間限定の理由が明確ではない
・契約書に将来再築するためと明記してあるが,再築計画が具体化していない

5 一時使用目的の内容が具体的で実態がある場合は認められる;典型例

一時使用目的の建物賃貸借として認められる典型例は次のようなケースです。

<建物賃貸借における一時使用目的の典型例>

・オーナーが一定時期に対象物件に戻る予定がある
・賃借人が一定時期に(従前の住居に)戻る予定がある

次に,一時使用目的の建物賃貸借が利用される事情,背景の典型的ケースを以下説明します。

<一時使用目的賃貸借の典型的ケース>

あ 賃借人の使用目的・動機の内容が一時的であるケース

・賃借人が避暑・(期間限定での)療養のため,環境の良い避暑地に居住する
・賃借人が自己の建物を建築中であり,工事期間限定で仮住まいに居住する

い 敷地(利用権)の制限があるケース

・区画整理・収用により,一定期間経過後に,オーナーが敷地(利用権)を失うことが分かっている
・敷地が定期借地であり,建物オーナーは一定期間経過後に建物を解体する義務がある

う オーナーに建物の具体的利用計画があるケース

・オーナーが海外旅行や海外赴任・地方赴任のため,一定期間限定で住居地を移す
・オーナーが対象建物を売却し(売買契約書調印),引渡までの猶予期間が残っている

え 裁判等による紛争解決として一定期間経過後の明渡が定められたケース

・建物明渡請求訴訟,調停などの結果,和解や調停内容として明渡を一定期間猶予する趣旨として賃貸借が条項化された

6 建物賃貸借の一時使用目的が判断された裁判例

『結婚する時期まで』という約束が一時使用目的に該当するか否かが争われたケースについて,肯定・否定の裁判例があります。
いずれも古いですが,近い時期に,たまたま類似する争点についての判断(判決)がなされました。
いずれも個別的な細かい背景事情,賃貸するに至る経緯の判断によって結論が出されています。

<裁判例の判断概要>

・結婚予定の具体化の程度が低い→一時使用目的否定
 判例2
・婚約済み(結婚の実現可能性が高い)→一時使用目的肯定
 判例3

7 現在は,定期借家を利用すると確実,明確になるのでベター

以上のように,一時使用目的は,後からあてはまらないと判断されるリスクがあります。
現在では定期借家という契約の方式があります。
これを用いれば,確実に『更新がない』という内容を実現できます。
<→別項目;定期借家契約

条文

[借地借家法]
第40条 この章の規定は、一時使用のために建物の賃貸借をしたことが明らかな場合には、適用しない。
[借家法]
第8条 本法ハ一時使用ノ為建物ノ賃貸借ヲ為シタルコト明ナル場合ニハ之ヲ適用セス

判例・参考情報

(判例1)
[最高裁判所第3小法廷昭和33年(オ)第208号家屋明渡請求事件昭和36年10月10日]
借家法八条にいわゆる一時使用のための賃貸借といえるためには必ずしもその期間の長短だけを標準として決せられるべきものではなく、賃貸借の目的、動機、その他諸般の事情から、当該賃貸借契約を短期間内に限り存続させる趣旨のものであることが、客観的に判断される場合であればよいのであつて、その期間が一年未満の場合でなければならないものではない。

(判例2;『結婚するまで』→一時使用目的否定)
[東京地方裁判所昭和39年(ワ)第6385号家屋明渡請求事件昭和40年6月30日]
本件賃貸借契約を締結するにいたつた動機ないし主観的意図が,原告の結婚するまで特に二年間という一定期間を限つて賃貸借を存続させようとするものであつたとしても,原告本人尋問の結果によれば,本件賃貸借契約締結当時原告の結婚は何ら具体化していなかつたことが認められるのであつて,原告の結婚は賃貸人である原告の意思にのみかかつている事情であり,その時期も非常に不明確で,右のような原告の主観的意思があつたからといつて,本件賃貸借が直ちに客観的に一時使用を目的とするものであると断定することはできない。

(判例3;『結婚するまで』→一時使用目的肯定)
[東京地方裁判所昭和42年(ワ)第762号建物明渡請求事件昭和43年9月6日]
原告が昭和三九年九月三日被告に対し原告所有の本件建物を賃料一ヵ月一五,〇〇〇円,期間同年九月六日から二年と定めて賃貸したこと,右賃貸借契約において期間を二年限りとし更新しない旨の特約がなされたことは当事者間に争いがない。しかし,右のような特約がなされたからといって,ただちに右賃貸借が一時使用のためのものであるということはできない。建物の賃貸借が一時使用のためのものであるというためには,その賃貸借の目的,動機その他の事情から,当事者が賃貸借の期間を短期に限り,期間経過後は賃貸借を継続させる意思がなかったと認むべき相当の理由がある場合でなければならない。
 よってこの点につき検討するに,《証拠略》によると次のような事実が認められる。
 原告は,将来自己の住家に供する目的をもって昭和三九年六月頃当時新築の本件建物を買受けた。当時原告は現在の妻ひで子と婚約中であり,一,二年のうちには同女と結婚できる見込であったが,さしあたり本件建物を空家にしておくわけにもゆかず,短期間に限りこれを第三者に賃貸しようと考え,不動産屋の仲介により被告に対し前記のような約定でこれを賃貸した。右賃貸にあたって,原告は被告に対し右のような事情を打明け,二年後には必らず本件建物を明渡してくれるよう申し向け,被告はこれを諒承した。原告はその後昭和四〇年三月右ひで子と結婚し,現在二児を儲け,父義雄の借家に同居中である。
 右認定の事実によれば,本件賃貸借当時原告が近い将来遅くとも二年以内には本件建物を自らの住居として使用する必要性の生ずることは,相当の確実性をもって予見され得たものであり,被告もこれを十分に諒知していたものであって,両当事者とも二年経過後は本件賃貸借を継続させる意思がなかったものと認めるのが相当である。したがって,本件賃貸借は一時使用の賃貸借というべきである。