1 建物譲渡代金の条文規定
2 建物買取請求権と同様とする見解
3 特殊性を反映させる見解
4 相当の対価の見解の優劣
5 相当の対価の算定で考慮される一般的な事情
6 相当の対価のトラブルリスクと予防策
7 建物譲渡代金に関する条項内容の例

1 建物譲渡代金の条文規定

建物譲渡特約付借地では,文字どおり建物が地主に譲渡されることが予定されています。
詳しくはこちら|建物譲渡特約付借地の基本(建物譲渡の定めの種類と条項の具体例)
本記事では,建物の譲渡の際の代金について説明します。
まずは,条文の規定を確認しておきます。

<建物譲渡代金の条文規定>

あ 代金額

建物譲渡特約付借地の建物譲渡時の代金額について
→『相当の対価』である(※1)
※借地借家法24条1項

い 決定方法

裁判所が決定するという規定はない
当事者が協議して定める(合意する)ことになる

う 法的拘束

合意した賃料額が『相当の対価』を逸脱した場合
→合意が無効となることがある

2 建物買取請求権と同様とする見解

建物譲渡特約付借地における建物譲渡代金について,条文では『相当の対価』と規定してあるだけです(前記)。
具体的な評価・算定については,主に2つの見解があります。
まず,一般的な借地の終了時の建物買取請求権の算定方法を流用する見解をまとめます。

<建物買取請求権と同様とする見解(※2)>

あ 見解の内容

『相当の対価』(前記※1)について
建物買取請求における代金額と同様とする
※稲本洋之助他編『コンメンタール借地借家法 第3版』日本評論社p186

い 建物買取請求の代金額(概要)

建物の現存する状態での評価額+場所的利益
※最高裁昭和35年12月20日
詳しくはこちら|建物買取請求における代金算定方法・場所的利益の意味と相場

3 特殊性を反映させる見解

建物譲渡代金の算定で,一般的な借地との違いを反映させる見解もあります。

<特殊性を反映させる見解(※3)>

あ 見解の内容

『相当の対価』(前記※1)について
建物譲渡特約付借地の特殊性を考慮すべきである

い 考慮事項(引用)

『単に,建物の現存価格に場所的環境を参酌すればよいわけではなく,借地権の残存期間,法定借家権が発生すること及び法定借家権の賃料(想定額)その他建物譲渡特約付借地権であることなどを考慮した相当な額でなければならないと解せられる』
※澤野順彦『論点借地借家法』青林書院p154

う 考慮する具体的内容

ア 建物譲渡が当初から予定されている
イ 建物譲渡時期と借地権の存続期間の違いが当初から明らかである
ウ 法定借家権の発生がありうること

4 相当の対価の見解の優劣

以上のように,相当の対価,つまり建物譲渡代金の算定については主に2つの見解があります。
一般的には,この2つのうち,特殊性を反映させる見解の方が有力であると思われます。

<相当の対価の見解の優劣>

あ 建物買取請求権と同様とする見解(前記※2)

非常に硬直的である

い 特殊性を考慮する見解(前記※3)

個別的事情が反映される

う 見解の優劣

判例による統一的見解はない
『い』の方が合理的であり有力である

5 相当の対価の算定で考慮される一般的な事情

相当の対価の算定では,建物譲渡特約付借地の特殊事情も反映する見解が一般的です(前記)。
これを前提として,具体的に考慮される事情をまとめます。

<相当の対価の算定で考慮される一般的な事情>

ア 権利金授受の金額(有無)
イ 借地契約の残存期間
ウ 法定借家権の賃料
エ 建物を地主が買い取ることによる経済的な負担
オ 譲渡時の建物の状況
カ 譲渡時の社会経済の状況
キ その他の借地条件
※水本浩ほか『基本法コンメンタール借地借家法 第2版補訂版』日本評論社p87

6 相当の対価のトラブルリスクと予防策

建物譲渡の相当の対価の算定では幅広い事情が考慮されます。
ということは,当事者の間に見解の違い,つまり対立が生じる傾向があります。
トラブル発生リスクとその予防法についてまとめます。

<相当の対価のトラブルリスクと予防策>

あ トラブル発生リスク

建物譲渡の『相当の価格』について
借地の開始時から長期間が経過した時に建物譲渡が行われる
例;30年経過後
→個別性が高い判断となる
→当初の想定から外れた評価となる可能性が高い

い トラブル予防策

借地開始時において
『ア・イ』の事情を合意し,契約書に記載しておく
ア 建物譲渡代金の金額or算定方法
イ 『ア』の理由や根拠
合理性を判断する材料となる

7 建物譲渡代金に関する条項内容の例

建物譲渡特約付借地の開始時には,トラブル予防となるような条項を契約書に規定しておくことが望ましいです(前記)。
規定する条項の候補となる具体例を紹介します。

<建物譲渡代金に関する条項内容の例>

あ 建物譲渡代金の金額or算定方法

ア 譲渡時の建物の時価とする
イ 建物の時価に場所的利益を考慮した価格とする
ウ 建物の時価に譲渡時の借地権価格を加えた額とする
エ 不動産鑑定士の鑑定評価額による
オ 基本的な算定額に一定の加減を行う

い 理由や根拠

ア 交渉経緯
条件交渉において
一方の希望を他方が承服,譲歩した経緯
イ 実質的対価関係
意図的に一方に有利な条件とした内容
その対価として他方が得た有利な条件の内容