目的外動産の保管を避ける手|即日売却への備え・動産執行の併用・所有権放棄書
1 目的外動産の保管を避ける手|即日売却への備え・動産執行の併用・所有権放棄書
建物明渡しの強制執行で目的外動産を執行官が保管することになると、保管の場所と費用の負担は、実際には債権者にかかりやすくなります。そこで債権者の側では、保管に回る動産を減らす手が実務で使われています。
この記事は、即日売却の実務上の位置づけ、動産執行の併用、所有権放棄書、価値のない動産の扱いを、実務書の記述から整理します。売却の要件と、保管・廃棄を含む手続の全体は、別の記事で説明しています。
目的外動産の即時・即日・近接日売却|引き渡す見込みがなければ保管を経ずに売る
建物明渡執行の目的外動産|引き渡せなければ保管・売却、無価値なら廃棄
2 保管を避ける手=動産執行の併用・放棄書・債権者の買受け(まとめ)
即日売却は、保管を経ない3つの特例の中では最も活用されていると書く文献があります。ただ、断行日に直ちに売却せず、いったん保管してから売却するのが通常だと書く文献もあり、保管になる前提で備えておくことが欠かせません。
保管を避ける手として文献が挙げるのは、次の3つです。いずれも万能ではありません。
保管を避ける3つの手
| 手 | 何をするか | 限界 |
|---|---|---|
| 動産執行の併用 | 明渡しの催告のときに差し押さえ、断行日に売却する | 差押えを実施できる場合は多くない。差押禁止動産は対象外 |
| 所有権放棄書 | 債務者から放棄書を取り付け、執行官が適宜に処理する | 放棄の確認が書類で取れなければ断行に進む |
| 債権者の買受け・廃棄 | 無価値な動産だけなら搬出して廃棄を委ねられる。買い受けて廃棄することも少なくない | 高価な動産には即日売却が使えない |
3 即日売却の位置づけ|特例の中では最も活用|通常は保管してから売却
即日売却がどれだけ使われているかについて、文献の書きぶりは一見すると違います。最も活用されていると書くものがある一方で、例外的な場合に行われると書くものや、通常は直ちに売却しないと書くものがあります。
ただ、比べている相手が違います。最も活用されていると書く文献は、保管してから売却する流れを基本としたうえで、3つの例外的な方法の中での比較を述べています。他の2つの文献は、保管してから売却する通常の流れと比べています。読み合わせると、即日売却は特例の中では多く使われるものの、基本の流れは保管のままということになります。
引用した3つの記述は、いずれも件数や割合を示していません。
保管後の売却が基本・3つの特例では即日売却が最も活用
売却については、上述した手続が基本であるが、例外的な方法として三つの方法が民事執行規則上認められている。
一つは、即時売却といわれるもので、催告のときに、断行時に残置された目的外動産を執行の場所で売却すると決定する手続である。
保管する必要がなくなり債権者にはメリットがあるが、債務者においては、十分その趣旨を伝えておかないと、引取りの機会を奪うことになるというデメリットがある。
二つ目は、即日売却といわれる手続で、断行日に、目的外動産について債務者の相当期間内での引取りが見込めないと判断できる場合にとられる手続(三つの手続中実務的には最も活用されていると思われる。)で、三つ目は、断行日から 1 週間未満の日を売却期日とする近接日売却といわれる手続である。
※『月報司法書士537号』日本司法書士会連合会p21
買受希望者が現場に居る例外的な場合に行われる
即日売却は、上記の場合で、かつ、買受希望者(債権者の場合が多い)が現場に存在するような例外的な場合に行われます。
※井上卓士稿/髙山崇彦・尾藤正憲編『民事執行の法律相談』青林書院2021年 3月p352
通常は直ちに売却せず一旦保管する
物件内の動産を債務者(賃借人)らに引き渡すことができない場合、直ちに売却(即日売却)することもできますが(民執168条5項後段)、通常、直ちに売却することはなく、執行官が一旦保管した上で売却することになります(民執168条6項前段)。
※東京弁護士会法友全期会業務委員会編『はじめての事件シリーズ 建物明渡請求』創耕舎2017年 2月p176
4 即時売却の決定|実務ではあまり使われない
即時売却は、明渡しの催告のときに、断行日に残った動産をその場で売却すると決めておく方法です。催告の段階で売却まで決めておけるものの、実務ではあまり使われないようだと書く文献があります。使われない理由は、この文献には書かれていません。
即時売却の決定は実務ではあまり使われない
執行官が、明渡しの催告(民執168の2①)を実施する際に、断行日に目的外動産を現場において売却する旨の決定(即時売却の決定)をした上で、その売却を実施する場合もありますが(民執規154の2②)、実務ではあまり使われない方法のようです。
※清水俊順(弁護士)、高村至(弁護士)編『〔改訂版〕借地借家事件処理マニュアル』新日本法規出版2024年 4月p347
5 即日売却できない場面=引取希望・大量の家財・高価品
相手方が引取りを希望しているとき、大量の家財道具が残っているとき、高価品が残っているときは、即日売却はできず、約1か月保管することになるとされています。
この場合に備えて、断行期日までに保管場所と保管者を執行官に上申しておく必要があります。保管費用は債務者の負担ですが、実質的には債権者の負担になることが多いので、執行予納金とは別に実費として見込んでおくことになります。
即日売却できない場面と保管への備え
ただし、相手方が引取りを希望している場合、大量の家財道具等が残置されている場合、高価品が残されている場合等は即日売却できません。
一旦、段ボール箱などで梱包して搬出し、一定の期間(約1か月)保管することとなります(保管替え)。
これに備えて、保管場所・保管者について、断行期日までに執行官に上申しておく必要があります。
保管費用は相手方(債務者)負担ですが、実質的に申立人(債権者)の負担となることが多いため、執行予納金とは別に、実費としてあらかじめ想定しておく必要があります。
※堂島法律事務所編『不動産明渡・引渡事件処理マニュアル』新日本法規出版2017年p234
6 動産執行の併用→催告時に差し押さえて断行日に売却
賃料滞納を理由とする明渡しでは、明渡しと未払賃料の支払を同じ債務名義で命じられていることが一般的で、明渡執行と同時に動産執行を申し立てることが多いとされています。
併用すると、明渡しの催告のときに目的外動産を差し押さえ、断行日に売却します。買受人がすぐに搬出すれば、また債権者自身が買受人になるなら動産を取り除かなくても、明渡執行を完了できます。
文献が挙げる狙いは、明渡執行を速やかに終えること、債権を回収すること、執行費用を減らすことです。
賃料滞納なら明渡しと動産執行を同時に申し立てることが多い
明渡の原因が賃料滞納である場合、建物の明渡と未払い賃料の支払い請求が1つの債務名義であることが一般的である。
そのため、明渡執行の申立と同時に動産執行の申立を行うことが多く、その場合は手続も同時に進行する。
※谷嘉浩稿『不動産の明渡執行について』/『月報司法書士537号』日本司法書士会連合会2016年11月p5
執行費用を削減するため併せて申し立てる
残置された目的外動産が多量である場合や美術品や貴金属等特殊な動産が残置された場合、執行費用が高額に及ぶこともあります。
そのため、実務上は、速やかに不動産明渡しの執行を終了させるとともに、債権回収を図るあるいは執行費用を削減するために、不動産明渡しの強制執行とともに動産執行を併せて申し立てることにより、不動産明渡しの催告の際に目的外動産を差し押さえ、断行日に売却するといったことが行われています。
※田辺総合法律事務所 弁護士法人色川法律事務所編『Q&A 民事保全・執行 実務の勘どころ110』新日本法規出版2023年 2月p255
催告時に差し押さえ断行日に売却すれば明渡執行を完了できる
実務上は、建物明渡しの強制執行の申立てと併せて動産執行の申立てをするのが通常です。
前記のとおり、債務者が目的外動産を引き取りたいと述べるなど債務者等が目的外動産を引き取る可能性が高い場合や目的外動産が高価な動産(宝石、貴金属、書画骨董等の美術品、機械など)の場合には、即日売却・近接日売却を行うことはできず、目的外動産を保管場所に搬出した上で、1か月間ほど保管せざるを得なくなります。
そこで、債権者は、動産執行の申立てをすることによって、明渡しの催告(民執168の2①)の際に目的外動産を差し押さえた上で、断行日にこれを売却すれば、買受人に直ちに搬出させることにより(債権者自ら買受人になる場合は、これらの動産を取り除くことなく)、目的建物の明渡執行を完了することができるというメリットがあります。
※清水俊順(弁護士)、高村至(弁護士)編『〔改訂版〕借地借家事件処理マニュアル』新日本法規出版2024年 4月p348〜349
(1)併用の限界=差押えできる場合は多くない|差押禁止動産は対象外
併用の申立てが通常だと書く文献がある一方で、動産執行による差押えを実施できる場合は多くなく、ほとんどが執行不能で終わると書く文献もあります。債務者が換価できる物を持っていないことが多く、差押えには法令上の制限もあるためです。
生活必需品などの差押禁止動産は、動産執行では差し押さえられません。ただし、債務者が長期不在で生活実態がまったくない場合は適用がないと考えられています。差し押さえられない動産は、目的外動産として即日売却・近接日売却か保管後の売却に回ります。
差押えを実施できる場合は多くない
実務上、動産執行による差押えを実施できる場合は多くはない。
多くの債務者が経済的に行き詰まっており、換価可能な物を有していない場合がほとんどであり、また、差押えをするには様々な制限が法令上課されているからであり、そのほとんどが執行不能で終わるといっても過言ではない。
※『月報司法書士537号』日本司法書士会連合会p21
差押禁止動産は即日売却・近接日売却か保管後の売却へ
もっとも、生活必需品などの差押禁止動産(民執131)については、動産執行の申立てによる差押えはできませんので(ただし、債務者が長期不在で、目的建物に生活実態が全く認められない場合には、上記の規定の適用はないと考えられています。)、目的外動産として、即日売却・近接日売却又は保管後の売却をすることになります。
※清水俊順(弁護士)、高村至(弁護士)編『〔改訂版〕借地借家事件処理マニュアル』新日本法規出版2024年 4月p349
(2)差し押さえなかった動産→引渡し・保管替え・即日売却
動産執行で差し押さえた動産は、断行日に売却して買受人に引き渡します。それ以外の目的外動産は別に処理が要ります。搬出して債務者に引き渡し、引き渡せなければ保管替えになります。
断行日に債務者が不在で引渡しの見込みがなければ、差押物件以外の目的外動産について、執行官に即日売却を求めることも可能だと書く文献があります。売却に及ぶかは執行官の判断です。
残った目的外動産は引渡しか保管替え
なお、建物賃貸借契約を賃料不払により解除し、建物の明渡しとともに、未払賃料等の支払を命じる判決を取得した上、建物明渡執行と並行して、未払賃料債権に基づき、相手方(債務者)所有動産類の差押えを申し立てる場合(【参考書式27】参照)がありますが、その場合、執行官は、前記明渡催告の日に動産を差し押えた上、断行期日において、差押動産を売却して買い取った者に即時に引き渡し、残った目的外動産を搬出して、相手方(債務者)にその場で引き渡し、引き渡せない場合は保管替えをします。
※堂島法律事務所編『不動産明渡・引渡事件処理マニュアル』新日本法規出版2017年p234
差押物件以外は即日売却を求めることもできる
ところで、明渡催告の際に、動産執行も同時に行って、高価な動産については差押手続をなしているので、仮に、断行日においても、債務者が不在で引渡しの見込みがないのであれば、差押物件以外の目的外動産について執行官に即日売却をお願いし、執行官の判断で即日売却に及ぶことも可能である(民執規154条の2第3項)。
※山北英仁著『今日から実践! アパート・マンション明渡し・滞納家賃回収等の実務』日本加除出版2022年 1月p103
7 所有権放棄書→執行官が適宜に処理できる
明渡催告期日か断行期日に、債務者から目的外動産の所有権放棄書を取り付けることができれば、執行官が目的外動産を適宜に処理でき、明渡執行が円滑に進むとされています。
反対に、建物内に動産が残っていて所有権放棄の確認が書類で取れていなければ、断行に進むのが通常です。同意なく賃貸人が家財道具を処分すると、自力救済になってしまうためです。確認書は執行催告のときに執行官が賃借人に渡すことがあり、断行当日に室内に署名押印済みの確認書が置いてあった事案も紹介されています。
所有権放棄書があれば執行官が適宜に処理できる
また、明渡催告期日あるいは断行期日において、相手方(債務者)から、目的外動産について所有権放棄書(【参考書式28】参照)を取り付けることができると、執行官において、目的外動産を適宜に処理することができ、明渡執行が円滑に行われます。
※堂島法律事務所編『不動産明渡・引渡事件処理マニュアル』新日本法規出版2017年p234
放棄の確認が書類で取れていなければ断行に進む
執行の実務上は、建物内に動産類が残っていて、かつ所有権放棄の確認が書類で取れていない場合には断行に進むのが通常です。
所有権放棄の同意がないのに賃貸人が勝手に賃借人の家財道具を処分するのは自力救済になってしまうからです。
最後までごねていた賃借人も、最後の最後には意外と律儀に退去していくこともあり、断行当日に室内に入ったところ、あらかたの荷物は運び出し済で、居間のちゃぶ台に署名押印のされた所有権放棄の確認書(執行催告の際に執行官が賃借人に渡した)が置いてあったというような事案もあります。
※東京弁護士会法友全期会業務委員会編『はじめての事件シリーズ 建物明渡請求』創耕舎2017年 2月p177
8 放棄書の約定による保管・廃棄を違法としなかった|神戸地判平成6年10月18日
放棄書に基づく保管と廃棄の適法性が争われた裁判例に、神戸地判平成6年10月18日があります。この事件では、執行官が搬出した動産を債務者の1人に引き渡すと告げました。債務者は全部を運んで保管することが難しかったため、現場に来ていた業者が保管することになり、期限までに引き取らなければ所有権を放棄したものとみなして業者が廃棄するという合意をして、放棄書に署名しました。引取りがなかったため、業者は動産を廃棄しました。
裁判所は、搬出・保管・廃棄のいずれも違法とはしませんでした。挙げた事情は、約定に基づくこと、重要と思われる品物を事前に持ち出していること、保管期間が1か月以上あったことの3つです。放棄書さえあれば常に適法だと述べたものではありません。また、この事件の放棄書は引取りの期限を置いたもので、直ちに廃棄する内容ではありませんでした。
期限までに引き取らなければ放棄とみなして廃棄する合意
そして、原告郁子と被告北川との交渉により、右動産を訴外会社が保管し、原告らが平成二年三月三一日までに同社の保管場所までこれらの動産を引き取りに行かない場合には、原告らがその所有権を放棄したものとみなして、同社においてこれを廃棄することを内容とする合意が成立し、原告郁子は同内容の放棄書(丙第二号証)に署名した。
※神戸地方裁判所 1994-10-18 判例タイムズ880号165頁
約定・事前の持ち出し・1か月以上の保管期間
しかしながら、右搬出・保管・廃棄行為は原告郁子との約定に基づくものであり、しかも、原告らにおいて重要と思われる品物は事前に持ち出していること、右保管期間は一か月以上あったことが認められるから、右搬出・保管・廃棄のいずれの行為についてもこれを違法なものとすることはできない。
※神戸地方裁判所 1994-10-18 判例タイムズ880号165頁
9 無価値な動産だけなら→廃棄は債権者に委ねる|買い受けて廃棄する例も少なくない
断行時に無価値な目的外動産しか残っていないときは、すべて搬出し、廃棄を債権者に委ねて手続が終わることもあるとされています。この形なら、売却も保管も経ません。
また、その場で売却する形をとる場合に、債権者が買い受けて廃棄することも少なくないと書く文献があります。
無価値な動産だけなら搬出し廃棄は債権者に委ねる
以上が基本的な手続の流れであるが、断行時に無価値な目的外動産しか残存していないときは、それらをすべて搬出し、その廃棄は債権者に委ねることをもって手続が終わることもある。
※『月報司法書士537号』日本司法書士会連合会p21
債権者が買い受けて廃棄することも少なくない
実際には、債権者が買い受けて廃棄することも少なくない。
※平野哲郎著『実践 民事執行法民事保全法 第3版補訂版』日本評論社2022年p305
10 おわりに
目的外動産の保管を避ける手は、動産執行の併用、所有権放棄書、債権者の買受けや廃棄です。ただ、差押えを実施できる場合は多くなく、放棄書が取れるとも限らず、高価品や大量の家財があれば即日売却もできません。どの手も使えないときは保管になるので、保管場所の上申と保管費用の見込みは別に必要です。
保管の場所・期間・費用は、次の記事で説明しています。
建物明渡執行の目的外動産|引き渡せなければ保管・売却、無価値なら廃棄
即時売却・即日売却・近接日売却の要件は、次の記事で説明しています。
目的外動産の即時・即日・近接日売却|引き渡す見込みがなければ保管を経ずに売る
本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
本記事の引用は、書籍・判例などの原文から範囲を選んで載せたものです。改行の位置は読みやすさのために当方で整えており、原文の改行と同じとは限りません。また、記号や外字の扱いにより、文字の一部が原文と異なって表示されることがあります。原文の段落の行頭にある字下げは再現していません。
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