建物明渡執行の目的外動産|引き渡せなければ保管・売却、無価値なら廃棄
1 建物明渡執行の目的外動産|引き渡せなければ保管・売却、無価値なら廃棄
建物の明渡しを強制執行で実現する場面では、部屋に残された家具や家電などの動産をどう扱うかが問題になります。これらは明渡しの対象ではない動産で、「目的外動産」と呼ばれます。
執行官は、目的外動産を取り除いて債務者などに引き渡すのが原則です。引き渡せないときは、売却するか、執行官が保管します。保管しても引き取られなければ売却し、売るだけの価値がない物は廃棄されます。
この記事は、引渡し・売却・保管・廃棄の振り分けと、保管の場所・期間・費用を扱います。保管を経ずに断行日などに売却する方法(即時売却・即日売却・近接日売却)の要件は、別の記事で説明しています。
目的外動産の即時・即日・近接日売却|引き渡す見込みがなければ保管を経ずに売る
2 引渡しが先|できなければ保管か売却|無価値なら廃棄(まとめ)
目的外動産がどう扱われるかを、場面ごとに整理すると次のとおりです。この表は当事務所の整理で、各行の根拠はこの記事の本文にあります。
場面ごとの目的外動産の扱い
| 場面 | 扱い |
|---|---|
| 債務者等に引き渡せる | 取り除いて債務者等に引き渡す |
| 引き渡せない | 売却するか、執行官が保管する |
| 引き渡せず、相当の期間内に引き渡せる見込みもない(高価な動産を除く) | 保管を経ずに断行日などに売却できる(即日売却・近接日売却) |
| 保管する | 保管の方法は執行官が決める。債権者を保管者とし、債権者が上申した場所に保管することが多い。期限は1か月程度が多い |
| 保管の費用 | 執行費用として債務者の負担。実際は債権者が負担する例が多い |
| 保管しても期限内に引き取られない | 動産執行の例により売却する |
| 客観的な換価価値がない | 廃棄する |
| 売却した | 売得金から売却と保管の費用を引き、残りを供託する |
3 目的外動産=明渡しの対象でない動産|付合物と従物は対象
建物の明渡しの強制執行は、執行官が債務者の占有を解いて、債権者に占有を取得させる方法で行います。このとき建物と一緒に債権者に引き渡されるのは、建物に付合した物と、建物の従物(畳や建具など)です。これらに当たらない動産、たとえば家財道具や什器備品が目的外動産です。
不動産の引渡し等の強制執行
不動産等(不動産又は人の居住する船舶等をいう。以下この条及び次条において同じ。)の引渡し又は明渡しの強制執行は、執行官が債務者の不動産等に対する占有を解いて債権者にその占有を取得させる方法により行う。
※民事執行法168条1項
目的外動産の定義と付合物・従物の扱い
本条1項の強制執行の目的物でない動産を、目的外動産という。
目的不動産等に付合した物(民242本文)は目的不動産等と一体として、目的不動産等の従物である動産(建物に対して、畳や建具など)は目的不動産等の処分に従い(民87②)、債権者に引き渡される。
※青木哲稿/伊藤眞ほか編『条解 民事執行法 第2版』弘文堂2022年p1576
付合物でも従物でもない動産が目的外動産
明渡執行において目的となる不動産以外の動産(不動産に附合しておらず、その従物でもない物)を目的外動産という。
※齋藤隆編著『民事執行〔第二版〕』青林書院2026年 1月p287
4 執行官の第一の義務=債務者等への引渡し
執行官は、目的外動産を建物から取り除き、債務者に引き渡さなければなりません。引き渡す相手は債務者本人に限らず、代理人や、同居の親族・使用人その他の従業者で相当のわきまえのある者でもかまいません(以下「債務者等」)。目的外動産は債権者に占有を取得させる対象に含まれないので、建物から取り除く必要があるのです。
不動産の引渡し等の強制執行
執行官は、第一項の強制執行においては、その目的物でない動産を取り除いて、債務者、その代理人又は同居の親族若しくは使用人その他の従業者で相当のわきまえのあるものに引き渡さなければならない。この場合において、その動産をこれらの者に引き渡すことができないときは、執行官は、最高裁判所規則で定めるところにより、これを売却することができる。
※民事執行法168条5項
取り除いて債務者等に引き渡す
目的不動産等に対する債務者の占有を解く必要があり、他方で、目的外動産は債権者に占有を取得させる対象には含まれないので、目的不動産等から目的外動産を取り除く必要がある(執行官提要168頁)。
取り除いた目的外動産は、債務者、その代理人または同居の親族もしくは使用人その他の従業者で相当のわきまえのあるもの(債務者等)に引き渡さなければならない(本条(5)前段)。
※青木哲稿/伊藤眞ほか編『条解 民事執行法 第2版』弘文堂2022年p1577
5 引き渡せない動産→売却か執行官保管
債務者等に引き渡せないときは、執行官は目的外動産を売却することができます。引渡しも売却もしなかった物は、執行官が保管しなければなりません。保管した物も、あとで売却することができます。引き渡せない動産の行き先は、すぐに売却するか、いったん保管するかのどちらかです。
不動産の引渡し等の強制執行
執行官は、前項の動産のうちに同項の規定による引渡し又は売却をしなかつたものがあるときは、これを保管しなければならない。この場合においては、前項後段の規定を準用する。
※民事執行法168条6項
引き渡せなければ執行官が保管・売却する
目的不動産等およびその従物以外の動産(4)は、執行官が取り除いて債務者(または、その代理人、同居の親族・使用人その他の従業者で相当のわきまえのある者)に引き渡し、それができないときは執行官が保管・売却する
※中野貞一郎ほか著『民事執行法 改訂版』青林書院2021年 8月p836
引渡しも売却もできなかった動産は保管
引渡しも売却もできなかった動産は、執行官において保管しなければならず、保管場所において前同様の手続により売却することになる(民執168条6項、民執規154条の2)。
※齋藤隆編著『民事執行〔第二版〕』青林書院2026年 1月p288
6 保管を経ない売却=即時・即日・近接日売却(概要)
引き渡せない動産を、保管を経ずに売却する方法があります。明渡しの催告のときにあらかじめ決定しておく即時売却、断行日にその場で売却する即日売却、断行日から1週間未満の日に売却する近接日売却の3つです(民事執行規則154条の2)。即日売却と近接日売却は、相当の期間内に債務者等に引き渡せる見込みがないときに使え、高価な動産には使えません。
それぞれの要件と実務での使われ方は、別の記事で説明しています。
目的外動産の即時・即日・近接日売却|引き渡す見込みがなければ保管を経ずに売る
7 執行官保管|場所・期間・費用
保管になると、どこに、どれだけの期間、誰の費用で保管するかが問題になります。保管の方法は執行官の裁量に委ねられていますが、実務では、利害の大きい債権者が保管場所を上申し、保管者になることが多くなっています。
(1)保管場所=執行官の裁量|現場保管の扱いは庁で分かれる
建物から搬出し、保管場所を定めて保管するのが原則です。実務では、債権者を保管者と定め、債権者が上申した場所(執行業者の倉庫、債権者所有の倉庫など)が保管場所に指定されます。建物の中にそのまま置いておく現場保管は、債権者の同意などを条件に認められる場合があります。
ただし、大阪地方裁判所の執行官室は、現場保管は債務者の占有を解いたことにならないとして、原則として認めていません(新民事執行実務No.17に参考資料として掲載された同執行官室の「不動産引渡明渡執行の手順」)。現場保管ができるかは、管轄の執行官室の運用によって分かれます。
保管方法は執行官の裁量
目的外動産の保管方法は、執行官の裁量に委ねられている。
目的不動産等から搬出し保管場所を定めて保管することが原則であるが、実務上、債権者の同意等一定の条件の下で、現場で保管することも合理的な方法とされる(条解規則(下)708頁注4))。
※青木哲稿/伊藤眞ほか編『条解 民事執行法 第2版』弘文堂2022年p1579
債権者を保管者とし、保管場所は債権者の上申による
実務上は、債権者を保管者と定め、保管場所は、債権者が上申した保管に適した場所が指定されることになります。
具体的には、執行業者の倉庫、債権者所有の倉庫、マンションなど様々ですが、保管に適した場所がない場合には、例外的に、債権者の申出により、目的建物内で保管すること(現場保管)が認められる場合もあります。
※清水俊順(弁護士)、高村至(弁護士)編『〔改訂版〕借地借家事件処理マニュアル』新日本法規出版2024年 4月p348
大阪地方裁判所執行官室は現場保管を原則として認めない
現場保管は債務者の占有を解いたことにならないので、原則として認めておりません。
※『〈座談会〉建物(土地)明渡・引渡執行等全般の諸問題―過酷執行、障害者配慮、執行妨害等』/日本執行官連盟編『新民事執行実務 No.17』民事法研究会2019年p93
(2)保管期間=1か月程度が多い|期限後は売却
保管期限は1か月程度とされることが多いようです。期限内に債務者等が引き取らなければ、執行官は換価価値のある物を動産執行の例によって売却します。売却の期日は、原則として保管の日から1週間以上1か月以内の日に定められます。買受人は債権者となる例が多いようです。
保管期限は1か月程度・期限後は売却
保管期限は、1か月程度とされることが多いようです。
執行官が指定した保管期限内に債務者等が目的外動産を引き取らない場合、執行官は、換価価値のある動産を動産執行の例によって売却しますが(民執168⑥、民執規154の2①)、債権者が買受人となる例が多いようです。
※清水俊順(弁護士)、高村至(弁護士)編『〔改訂版〕借地借家事件処理マニュアル』新日本法規出版2024年 4月p348
保管後の売却期日は1週間以上1か月以内
原則として、保管の日から1週間以上1か月以内の日を競り売り期日又は入札期日として日時場所を定めることになります(民執規114条1項・120条3項)。
※井上卓士稿/髙山崇彦・尾藤正憲編『民事執行の法律相談』青林書院2021年 3月p352
(3)保管費用=執行費用|実際は債権者が負担する例が多い
保管の費用は執行費用です。執行費用は本来債務者が負担するものですが、実際には取り立てるのが難しく、債権者が負担する例が多いのが現実です。債権者が目的外動産を買い受けた場合は、その代金から支払を受けることになります。保管料は、保管期間に応じて建物の1か月分の賃料を基準に日割りで計算するのが通常とされています。
不動産の引渡し等の強制執行
前項の規定による保管の費用は、執行費用とする。
※民事執行法168条7項
保管料は債務者負担だが、債権者が負担する例が多い
保管料は、債務者の負担とされますが(民執168⑦・42①)、実際の取立てが困難なため、債権者が負担する例が多いのが現実です(債権者等が目的外動産を買い受けた場合は、その買受代金から支払を受けることになります。)。
※清水俊順(弁護士)、高村至(弁護士)編『〔改訂版〕借地借家事件処理マニュアル』新日本法規出版2024年 4月p348
保管費用は賃料1か月分を基準に日割り
保管費用については、保管期間に応じて本件物件の1か月分の賃料を基準に日割り計算するのが通常です。
※滝口大志著『建物明渡請求の事件処理50』税務経理協会2017年p169
8 換価価値のない動産→廃棄
引渡しも売却もできない物を、いつまでも保管し続けることはできません。売るだけの価値がない物は廃棄されます。廃棄の基準と、扱いに注意が要る物は次のとおりです。
(1)廃棄の基準=客観的な換価価値の有無
廃棄できるのは、客観的な換価価値が認められない動産です。廃棄するときは廃棄物の処理に関する法令に従う必要があり、廃棄物処理の資格が必要とされています。
換価価値のない動産は廃棄できる
客観的な換価価値が認められない動産は、廃棄することができる(不動産明渡実務419頁、基本法コンメ493頁〔小林=榎本〕)。
※青木哲稿/伊藤眞ほか編『条解 民事執行法 第2版』弘文堂2022年p1579
廃棄は廃棄物処理の法令に従う
目的外動産のうち、客観的な換価価値が認められない動産は、原則として破棄することになり、廃棄物処理に関する法令に従った廃棄処理をすることになります。
※清水俊順(弁護士)、高村至(弁護士)編『〔改訂版〕借地借家事件処理マニュアル』新日本法規出版2024年 4月p349
廃棄には廃棄物処理の資格が要る
目的外動産を廃棄する場合には、廃棄物処理の資格が必要です。
※『〈座談会〉建物(土地)明渡・引渡執行等全般の諸問題―過酷執行、障害者配慮、執行妨害等』/日本執行官連盟編『新民事執行実務 No.17』民事法研究会2019年p93
(2)パソコンは破棄|位牌・遺骨は寺院に保管を依頼
換価価値があっても、売却に向かない物があります。パソコンは換価価値が認められても、データが漏れるおそれがあるため破棄されます。位牌や遺骨は売却に適さないため、寺院などに保管を依頼します。仏壇は売却されることもあり、債権者が買い受けたうえで供養して焼却することも多いようです。
パソコンは破棄、位牌・遺骨は寺院に保管を依頼
①パソコン
パソコンは換価価値が認められますが、データ漏えいの問題があるため、破棄することになります。
②位牌や仏壇等
位牌や遺骨等は、売却に適さないため、執行官又は執行官から委託を受けた債権者等が、しかるべき寺院等に保管を依頼することになります。
仏壇は、債権者が買い受けた上で破棄する(例えば、寺院等に依頼して供養した上で焼却する)ことが多いようです。
※清水俊順(弁護士)、高村至(弁護士)編『〔改訂版〕借地借家事件処理マニュアル』新日本法規出版2024年 4月p349
仏壇は売却されることもあり、遺骨容器・位牌は寺院へ
葬祭具のうち、例えば、仏壇は売却されることもあります。
これに対し、遺骨容器や位牌等については売却が困難なため、寺院等に保管を依頼する対応をとることもあります。
※井上卓士稿/髙山崇彦・尾藤正憲編『民事執行の法律相談』青林書院2021年 3月p353
9 保管か廃棄かの線引き→執行官の判断|統一基準なし
保管にするか廃棄にするかの線引きには、明確な基準がありません。執行官自身が、判断はその場の執行官に委ねられており、執行官室として統一的な取扱いを出すことはできないと述べています。どの物が保管になり、どの物が廃棄になるかは、事案ごとに執行官の判断で決まります。
保管と廃棄の判断基準は明確でない
保管と廃棄の判断基準が明確でなく、執行官のその場の判断に委ねられるので、手続の利用者にとってどういう場合に保管になるのかを明らかにする必要があるでしょう。
※『〈座談会〉建物(土地)明渡・引渡執行等全般の諸問題―過酷執行、障害者配慮、執行妨害等』/日本執行官連盟編『新民事執行実務 No.17』民事法研究会2019年p83
執行官室として統一的な取扱いは出せない
廃棄するしないは、執行官が最終的に判断することではあるのですけれど、廃棄と保管の基準を明確にしてほしいというのは、常々、弁護士会のほうからいわれてはいるのです。
ただ、そこはいろんな要素が絡んできて、ケースバイケースとしかいえないので、執行官室として統一的な取扱いが出せないというところです。
※『〈座談会〉建物(土地)明渡・引渡執行等全般の諸問題―過酷執行、障害者配慮、執行妨害等』/日本執行官連盟編『新民事執行実務 No.17』民事法研究会2019年p84
10 売却後→売得金から費用を控除して供託
目的外動産を売却したときは、執行官は売得金から売却と保管に要した費用を引き、残りを供託します。この供託は、債務者を被供託者とする一種の弁済供託です。もっとも実務では、供託の必要が生じないように売却代金が定められるのが通常とされています。
不動産の引渡し等の強制執行
第五項(第六項後段において準用する場合を含む。)の規定により動産を売却したときは、執行官は、その売得金から売却及び保管に要した費用を控除し、その残余を供託しなければならない。
※民事執行法168条8項
供託は債務者を被供託者とする弁済供託
この供託は、引渡し等の執行の債務者を被供託者とする一種の弁済供託とされ、供託金の払渡しは被供託者の還付請求により行われる(執行官提要170頁)。
※青木哲稿/伊藤眞ほか編『条解 民事執行法 第2版』弘文堂2022年p1579
実務上は供託が要らない売却代金になるのが通常
ただし、実務上は、供託の必要が生じないように売却代金が定められるのが通常です。
※井上卓士稿/髙山崇彦・尾藤正憲編『民事執行の法律相談』青林書院2021年 3月p353
11 おわりに
目的外動産は、まず債務者等に引き渡され、引き渡せなければ売却か保管に回り、売る価値がなければ廃棄されます。保管になると、場所・期間・費用の負担が債権者に生じやすくなります。保管か廃棄かの線引きは執行官の判断によるので、管轄の執行官室の運用で結果が変わることがあります。
保管を経ずに売却する方法は、次の記事で説明しています。
目的外動産の即時・即日・近接日売却|引き渡す見込みがなければ保管を経ずに売る
本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
本記事の引用は、書籍・判例などの原文から範囲を選んで載せたものです。改行の位置は読みやすさのために当方で整えており、原文の改行と同じとは限りません。また、記号や外字の扱いにより、文字の一部が原文と異なって表示されることがあります。原文の段落の行頭にある字下げは再現していません。
本記事の表示では、読点を「、」に統一しています(引用の原文が全角の「,」や半角の「,」である場合を含みます。ただし「1,000」のような桁区切りはそのまま表示しています)。
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