現物分割の賠償金の計算の基礎=分割後の各土地の価格の合計

1 現物分割の賠償金の計算の基礎=分割後の各土地の価格の合計

共有の土地を現物分割するとき、分割線をどこに引いても、各共有者が取得する土地の評価額が持分割合とぴったり一致するとは限りません。そこで、差額を金銭で調整することになります(部分的価格賠償)。

この金銭の額は「持分の価格」と実際に取得する土地の評価額との差ですが、ここでいう「持分の価格」を何に持分割合を掛けて出すのかは、条文にも最高裁の判示にも書かれていません。分割前の1筆としての価格に掛けるのか、分割後の各土地の評価額の合計に掛けるのかで、金額が変わります。

本記事では、この母数の置き方を説明します。
詳しくはこちら|部分的価格賠償の基本(昭和62年最判・法的性質・賠償金算定事例)
詳しくはこちら|現物分割の全体像(典型例・価格賠償との組み合わせ・分割線の決定)

2 母数を分割後の合計に置けば賠償金は一意に決まる

母数の置き方と賠償金の決まり方

母数を分割後の各土地の評価額の合計に置く
→各自の持分の価格の合計と、各自が取得する土地の評価額の合計が一致する
→超過額と不足額が必ず相殺するので、賠償金は一意に決まる

母数を分割前の1筆としての価格に置く
→分割後の合計と食い違うぶんだけ、超過額と不足額がずれる
→どちらを賠償金とするかの選択が別に生じる

賠償金の支払を命じた裁判例6件のうち、母数が判決文から読み取れるのは5件
→分割後の合計が4件/分割前の価格が1件
→分割前の価格が判決文に登場するもの自体が1件

3 昭和62年最判は「持分の価格」の母数を示していない

裁判所が命じられる分割の方法は、民法258条2項が2つ並べています。金銭による調整は2号の「持分の全部又は一部を取得させる方法」のうち「一部」に当たります。

差額を金銭で調整する方法そのものは、昭和62年の最高裁大法廷判決が認めました。もっとも、同判決が述べているのは「持分の価格以上の現物を取得する共有者に当該超過分の対価を支払わせ」ることまでで、その「持分の価格」を何に持分割合を掛けて出すのかには触れていません。

条文

裁判所が命じられる分割の方法

裁判所は、次に掲げる方法により、共有物の分割を命ずることができる。

※民法258条2項

共有物の現物を分割する方法

※民法258条2項1号

共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法

※民法258条2項2号

引用:判例

超過分の対価を支払わせる過不足の調整

民法二五八条による共有物分割の方法について考えるのに、現物分割をするに当たつては、当該共有物の性質・形状・位置又は分割後の管理・利用の便等を考慮すべきであるから、持分の価格に応じた分割をするとしても、なお共有者の取得する現物の価格に過不足を来す事態の生じることは避け難いところであり、このような場合には、持分の価格以上の現物を取得する共有者に当該超過分の対価を支払わせ、過不足の調整をすることも現物分割の一態様として許されるもの

※最高裁判所 1987-04-22 民集 41巻3号408頁/裁判集民 150号805頁/裁時 953号1頁/判タ 633号93頁/判時 1227号21頁/金商 771号3頁

4 分割前の更地価格を基礎とする主張を失当とした東京地判平成23年3月22日

母数を正面から判示した裁判例があります。東京地方裁判所平成23年3月22日判決は、1筆の土地を甲地と乙地に分割した事案で、甲地1億6700万円と乙地1億3300万円を足した3億円を母数とし、これに各自の持分割合を掛けて「持分に応じて取得すべき価格」を出しました。

そのうえで同判決は、分割前の更地価格を基準にすべきだという原告の主張を失当としています。理由は2つで、当事者は分割後の土地を更地の状態で取得するわけではないこと、共有持分は面積に対する割合ではないことです。

この事案では、超過額と不足額がともに1300万円で一致しています。母数を分割後の合計に置くと、各自が取得する土地の評価額の合計と、各自の持分の価格の合計が同じ額になるため、超過と不足は必ず相殺するからです。

引用:判例

母数=両土地価格の合計額3億円

以上によれば、原告及び被告が取得する各土地の価格は、上記のとおりであり、各持分に応じて取得すべき価格は、原告が両土地価格の合計額3億円に持分割合5分の3を乗じた1億8000万円、被告が同3億円に持分割合5分の2を乗じた1億2000万円であり、それぞれが取得する各土地の価格とは1300万円の過不足が生じるから、持分に応じて取得すべき価格を超えて乙地を取得する被告に対し、原告に対する代償金1300万円の支払を命じるのが相当である。

※東京地方裁判所 2011-03-22 ウエストロー・ジャパン

引用:判例

更地価格を基準とする主張は失当

これに対し、原告は、本件土地の更地価格を基準として、その単価に被告が超過して取得する面積(乙地の面積から本件土地の面積の5分の2を差し引いたもの)を乗じた金額を被告が代償金として支払うべきであると主張するが、原告及び被告は、甲地及び乙地を更地の状態で取得するわけではなく、また、不動産の共有持分は、面積に対する割合ではないから、上記主張は失当である。

※東京地方裁判所 2011-03-22 ウエストロー・ジャパン

5 分割後の価格の合計を母数とした裁判例が平成元年から続く

母数を分割後の価格の合計に置いた裁判例は、平成元年から現在まで続いています。計算の形が判決文から読み取れるものを3件挙げます。

(1)土地全般の価格=分割後3区画の合計とする神戸地判平成元年6月2日

神戸地方裁判所平成元年6月2日判決は、1筆の土地を3棟の建物の敷地部分に三分した事案です。同判決は、分割後の3区画の価格2311万円・2215万円・1880万円を足した6406万円を「土地全般の価格」と呼び、これに持分割合を掛けて各自の「持分に相当する土地の価格」を出しています。

引用:判例

土地全般の価格6406万円=分割後3区画の合計

(1) 正己の持分に相当する土地の価格 金二五六二万円
6406万円(2311万円+2215万円+1880万円=土地全般の価格)×20/50=2562万円)
(2) 正己の取得すべき土地の価格 金二三一一万円
(3) 不足額 金二五一万円

※神戸地方裁判所 1989-06-02 判タ 711号225頁/判時 1346号129頁

(2)分割後の状態を前提とした価格を母数とする東京地判平成19年2月27日

東京地方裁判所平成19年2月27日判決は、1棟の建物を区分所有建物として各室に分割した事案です。同判決が母数にした1億7310万円は、「区分所有建物であることを前提とした」価格、つまり分割後の状態を前提とした評価です。1棟のままの価格は判決文に出てきません。

引用:判例

区分所有建物であることを前提とした価格を母数とする

区分所有建物であることを前提とした本件建物の価格は1億7310万円であり、その14分の1(原告X及び被告Y3の持分割合)は1236万4000円(千円未満切り捨て)、102号室の価格は1420万円、105号室の価格は1270万円であると認められ、原告X及び被告Y3は、その持分を超えて105号室及び102号室を取得することとなる

※東京地方裁判所 2007-02-27 ウエストロー・ジャパン

(3)各部屋合計評価額に持分割合を乗じる東京地判平成20年11月12日

東京地方裁判所平成20年11月12日判決は、33室の共同住宅を部屋ごとに分割した事案で、計算式を判決文に書いています。母数は「各部屋合計評価額」6496万7000円です。

引用:判例

各部屋合計評価額×持分割合の計算式

本件建物1の各部屋合計評価額は6496万7000円である(当事者間に争いがない。)。そうすると、原告の持分(7866分の1656)に相当する評価額は、1367万5554円(計算式:6496万7000円×1656/7866=1367万5554円)となる。
一方、原告が取得する上記(2)の7部屋の評価額合計は、1345万5078円(計算式:200万4603円+200万4603円+197万4170円+197万4170円+182万2366円+182万2366円+185万2800円=1345万5078円)である。
原告は、その持分に相当する評価額1367万5554円よりも22万0476円不足する現物を取得することになる

※東京地方裁判所 2008-11-12 ウエストロー・ジャパン

6 分割前の一体価格を母数とした唯一の例=東京地判平成25年7月19日

これに対して、分割前の1筆としての価格を母数にした裁判例もあります。在庫の判例では1件です。

(1)母数は本件土地建物の価格1億1670万円

東京地方裁判所平成25年7月19日判決は、鑑定が1筆としての価格1億1670万円と、分割後の敷地4880万円・残余地6910万円の両方を出した事案です。同判決は、代償金の算定にあたって前者を母数とし、原告の持分4分の3の価格を8752万5000円、被告の持分4分の1の価格を2917万5000円と出しました。

なお同判決は、分割後の合計1億1790万円の方も使っていますが、それは分割によって著しい価値減少が生じるかどうか(民法258条3項)を判断する場面であって、代償金の算定ではありません。

引用:判例

母数=本件土地建物の価格1億1670万円

本件土地建物の価格が1億1670万円であるから、これを前提にすると、原告の持分(4分の3)の価格は8752万5000円、被告の持分(4分の1)の価格は2917万5000円となる一方、被告が取得する本件敷地の価格は4880万円であるからその持分の価格に比較して1962万5000円分超過する

※東京地方裁判所 2013-07-19 ウエストロー・ジャパン

(2)超過額1962万5000円と不足額1842万5000円が食い違う

母数を分割前の価格に置くと、超過額と不足額が一致しなくなります。この事案では、被告の超過額が1962万5000円、原告の不足額が1842万5000円で、120万円の開きが出ました。分割後の合計が分割前の価格を120万円上回っていたためです。

同判決は、この2つを並べたうえで、原告が残余地の取得を望んでおらず被告は希望どおり敷地を取得できることを理由に、原告に有利な超過額の方を採りました。母数を分割前の価格に置くと、どちらを採るかという選択が別に生じることになります。

引用:判例

不足額1842万5000円との食い違いを希望で埋める

もっとも、原告が取得する本件残余地の価格は6910万円であるところ、その持分の価格に比較して1842万5000円分不足するから、この額を被告に支払わせることも考えられなくもないが、原告が本件残余地の取得を望んでおらず、被告は希望どおり本件敷地を取得できることを考えると、原告に有利な代償金を認めるべきである

※東京地方裁判所 2013-07-19 ウエストロー・ジャパン

7 文献は母数の選択として論じていない

文献は、母数をどちらに置くかという形では論じていません。もっとも、書き方からは母数の置き方が読み取れます。

(1)部分的価格賠償は合計額・全面的価格賠償は甲の価額で式を書き分ける

山田誠一氏は、共有者A・Bの持分をa・bと置いたうえで、分割方法を式で整理しています。部分的価格賠償(【A】と呼ばれるもの)では、母数が「甲3と甲4の価額の合計額」すなわち分割後の2つの物の合計です。他方、全面的価格賠償(【B】)では、母数が「甲の価額」すなわち分割前の物そのものの価格です。

2つの式は隣り合って置かれており、母数が書き分けられています。ただし、なぜ書き分けるのかは説明されていません。

引用:文献・公開情報

部分的価格賠償は甲3と甲4の合計額・全面的価格賠償は甲の価額

共有物分割における基本事例として、一つの物(甲)を、A.B二人の共有者が共有しAの共有持分はa、Bの共有持分はbというものを考えることとする。
この物を現物で分割すること(現物分割)と、競売で売却し代金を分配すること(競売による分割)とが、基本的な分割方法である。
現物分割とは、甲という一つの物を、甲1と甲2という二つの物に、それぞれの価額の比が、aとbの比に一致するように分け、甲1をAが、甲2をBが取得するという分割方法である。
競売による分割とは、甲を、一つの物のまま、競落人が取得し、その代金を、aとbの比に一致するように分け、AとBに分配するという分割方法である。
この基本事例において、次のような分割方法が可能であるかがまず問題となる。
甲という一つの物を、甲3と甲4に二つの物に分け、甲3をAが、甲4をBが取得し、甲3の価額と、甲3と甲4の価額の合計額にaを乗じaとbの和で除した額との差額(超過分の対価)を、AからBに支払う分割方法である(価格賠償による調整を伴う現物分割【A])。
その例としては、一筆の土地があり、その位置および形状からみて可能な方法で、二つの部分に分割をすると、二つの部分の価額の比が、共有者の共有持分の比に一致しない場合が考えられる。
さらに、基本事例において、次のような分割方法が可能であるかが問題となる。
甲を、一つの物のまま、Aが取得し、甲の価額にbを乗じaとbの和で除した額(超過分の対価)を、AからBに支払う分割方法である(全面的価格賠償の方法による分割【B])。

※山田誠一稿『民法256条・258条(共有物の分割)』/広中俊雄ほか編『民法典の百年Ⅱ』有斐閣1998年p512

(2)分割後の取得財産の総計は分割前の価額と相違しないと置く

奈良次郎氏は、共有物分割訴訟の訴額を論じる中で、分割後の各共有者の取得財産の総計は分割前の目的物件の価額と相違しない、と述べています。母数をどちらに置いても同じだ、という前提に立っていることになります。

引用:文献・公開情報

総計は分割前の価額と相違しない

そして分割後の各共有者の取得財産の総計はまさに分割前の目的物件の価額でありその間に相違はないのである

※奈良次郎稿『共有物分割訴訟の若干の問題点について』/『判例タイムズ854号』1994年10月p44

(3)分割処分には価格の低下が通常伴うとする東京高判昭和59年8月30日

この前提は、裁判例と食い違います。東京高等裁判所昭和59年8月30日判決は、一団として処分した場合の価格と、現物分割してそれぞれを処分した場合の価格の合計とを比べると前者の方が高くなるのが通常である、と述べています。2つの数字は一致しないのが通常だ、ということです。

引用:判例

分割処分には価格の低下が通常伴う

本件第一土地と本件第二土地とを一団として処分した場合の価格とこれを現物分割してそれぞれを処分した場合の価格の合計とを比較すると、前者の方が高価であろうことは容易に予想されるが、それは土地の分割処分には通常伴なうところであって、その故に現物分割が価格を損なうとか現物分割の方法によるのが相当ではないとすることはできない

※東京高等裁判所 1984-08-30 判時 1127号103頁

8 課税実務は分割後の各土地の価額比を基準にする(参考)

課税実務は、分割後の各土地の価額比を基準にしています。所得税基本通達33-1の7は、分割後の各土地の面積比が持分割合と異なる場合であっても、価額比が持分割合とおおむね等しいときは、分割による土地の譲渡はなかったものとして取り扱うとしています。

通達は法規範ではありませんので、民法258条の解釈を決めるものではありません。もっとも、分割の結果を持分割合と突き合わせる場面で、実務が分割後の価額を基準に置いていることは参考になります。

引用:文献・公開情報

分割後の各土地の価額比が持分割合とおおむね等しいとき

分割された各々の土地の面積比と共有持分の割合とが異なる場合であっても、分割後の各土地の価額比が持分割合とおおむね等しいときは、分割による土地の譲渡はなかったものとして取り扱われることとされている(前掲所基通(注)2)。

※東京弁護士会編著『法律家のための税法 民事編 新訂第8版』第一法規2022年p54

9 母数は分割後の各土地の価格の合計と考える(筆者見解)

母数は、分割後の各土地の評価額の合計に置くのが筋だと考えます。現物分割は、分割後の各土地の評価額が持分割合に対応するように分ける方法だからです。分割前の1筆としての価格は、その対応関係の外にあります。

在庫で実測した限りでも、賠償金の支払を命じた裁判例6件のうち、母数が判決文から読み取れる5件は4対1で分割後の合計が優勢です。分割前の価格が判決文に登場するもの自体が1件だけです。

もっとも、分割前の価格を母数にした裁判例が現に存在する以上、鑑定が1筆としての価格と分割後の各土地の価格の両方を出している事案では、どちらを基礎とするかが争点になります。その場合、分割前の価格を母数にすると超過額と不足額が食い違いますので、どちらを採るかもあわせて主張しておくことになります。

本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

本記事の引用は、書籍・判例などの原文から範囲を選んで載せたものです。改行の位置は読みやすさのために当方で整えており、原文の改行と同じとは限りません。また、記号や外字の扱いにより、文字の一部が原文と異なって表示されることがあります。原文の段落の行頭にある字下げは再現していません。

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