最判令和8年8月28日|借地上の建物の持分を対象とする建物買取請求権の成否
1 最判令和8年8月28日|借地上の建物の持分を対象とする建物買取請求権の成否
借地上の建物が共有になっていて、その持分だけが第三者へ売られることがあります。地主が賃借権の譲渡を承諾しないとき、持分を買い受けた第三者は、地主に対して建物を買い取れと求められるのでしょうか。
最高裁判所第二小法廷は、令和8年8月28日、この問題について判断を示しました。本記事では、この判決が何を判断したのかを、事案と訴訟の経過から順に見ていきます。
第三者の建物買取請求権(借地借家法14条)そのものの要件と効果は、別の記事で説明しています。
第三者の建物買取請求権(無断の借地権譲渡・転貸ケース・借地借家法14条)
2 結論——建物の持分について建物買取請求権は成立しない→上告棄却
この判決から取り出せる規範を並べます。いずれも後述の各節で、判決文を挙げて説明します。
結論——建物の持分について建物買取請求権は成立しない→上告棄却
あ 判決が明示したこと
(ア)賃借権の目的である土地の上にある建物の持分について、建物買取請求権は成立しない(イ)譲渡の対象が区分所有建物の専有部分の持分であっても異ならない(ウ)借地借家法14条は、建物等についての投下資本の回収や、社会経済的効用を有する建物等の存続を図る規定である(エ)持分について認めると、借地権設定者は建物の共有関係に巻き込まれ、自らの意思によることなく時価相当額の負担を余儀なくされながら建物の処分を自由にできない。建物所有権の全部につき行使された場合に比して、重大な不利益を被るおそれがある(オ)建物の持分に関する投下資本の回収は共有物分割請求によって図り得るので、全部の譲渡の場合に比して、認める必要性も乏しい(カ)裁判官全員一致の意見である。尾島明裁判官の補足意見が付されている
い 判決に明示なし——尾島明裁判官の補足意見
(ア)借地権設定者が建物全部の所有権を取得する場合でも、成立は認められない。双方に全面的価格賠償を含む共有物分割という調整手段があるから(イ)借地借家法19条1項の許可と14条は適用の場面も効果も異なるので、「土地の上の建物」の解釈を異にしてよい
3 事案——相続した専有部分の持分4分の3の譲受人→地主へ時価相当額を請求
まず事案です。判決は当事者を訴訟上の地位で呼びます。上告人が持分を買い受けた者、被上告人が地主です。
争われたのは、買い受けた持分について建物買取請求権が成立するかどうかです。
専有部分の持分の譲受人が持分につき建物買取請求権を行使→成否が争点
1 本件は、賃借権の目的である土地の上にある区分所有建物の専有部分の持分を譲り受けた上告人が、これに伴う賃借権の持分の譲渡について借地権設定者である被上告人が承諾しないため、当該専有部分の持分につき借地借家法14条所定の建物買取請求権(以下、単に「建物買取請求権」という。)を行使したとして、被上告人に対し、当該持分の時価相当額及び遅延損害金の支払を求める事案である。本件においては、上記持分について建物買取請求権が成立するか否かが争われている。
※最高裁判所 2026-08-28 裁判所ウェブサイト
原審が確定した事実関係は次のとおりです。借地契約の期間は平成元年10月から30年で、令和元年10月から30年として更新されています。
確定事実=平成2年の借地契約・相続で持分各4分の1・令和3年に3名分の持分を買受け
2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
⑴ 被上告人は、平成2年7月、Aとの間で、被上告人が所有する第1審判決別紙物件目録記載1の土地の一部(以下「本件土地部分」という。)について、建物の所有を目的とし、期間を平成元年10月から30年として賃貸する契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結した。Aは、本件土地部分上に区分所有建物を建築し、その専有部分(第1審判決別紙物件目録記載2のもの。以下「本件専有部分」という。)の所有権を有していた。
⑵ Aは、平成30年8月、死亡し、Aの4名の子らは、相続により、本件専有部分の持分各4分の1を取得した。
⑶ 本件賃貸借契約は、その後、期間を令和元年10月から30年として更新された。
⑷ 上告人は、令和3年2月、上記子らのうち3名から、本件専有部分の同人らの持分合計4分の3(以下「本件持分」という。)を買い受けた。
上告人は、同年11月、被上告人に対し、上記の買受けに伴う本件土地部分の賃借権の持分の譲渡について被上告人が承諾しないとして、本件持分につき、建物買取請求権を行使する旨の意思表示をした。
※最高裁判所 2026-08-28 裁判所ウェブサイト
4 下級審——1審は発生を認めつつ行使が信義則違反→請求棄却
第一審は、地主が賃借権の譲渡の承諾を拒絶したと認めて、買取請求権の発生そのものは認めました。
被告は本件譲渡の承諾を拒絶したと認めることができる
したがって、被告は、本件譲渡の承諾を拒絶したと認めることができる。
※東京地方裁判所 2023-12-18 Westlaw Japan
もっとも第一審は、持分の譲渡を伏せたまま交渉に臨み、地主が持分の譲渡に否定的な態度を取るや直ちに登記を移して買取請求権を行使したという一連の対応を捉えて、行使は信義に反するとして請求を棄却しました。控訴審も請求を棄却し、上告審は後述のとおり原審の判断を正当として是認しています。
一連の対応は誠実対応といえない→買取請求権の行使は信義に反し認められない
このような経緯を踏まえると、原告の一連の対応は誠実対応とはいえず、原告による買取請求権の行使は信義に反し、認められないというべきである。
※東京地方裁判所 2023-12-18 Westlaw Japan
5 上告受理申立て理由——投下資本の回収の要請→持分についても成立
上告人は、建物買取請求権の中心的な趣旨が投下資本の回収の要請にあることなどから、建物の持分が譲渡された場合にも成立すると解すべきであり、これを否定した原審の判断には法令解釈の誤りがあると主張しました。
上告受理申立て理由=投下資本の回収の要請→持分が譲渡された場合も成立すると解すべき
3 所論は、建物買取請求権の中心的な趣旨が投下資本の回収の要請にあることなどからすると、賃借権の目的である土地の上にある建物の持分が譲渡された場合には、当該持分について建物買取請求権が成立すると解すべきであるにもかかわらず、これを否定した原審の判断には、法令解釈の誤りがあるというものである。
※最高裁判所 2026-08-28 裁判所ウェブサイト
6 判示|建物の持分について建物買取請求権は成立しない
最高裁は、建物の持分について建物買取請求権は成立しないと判断しました。理由は3段に分かれます。借地借家法14条が何のための制度かを示し、持分について認めた場合に地主が被る不利益を述べ、そのうえで認める必要性も乏しいとしています。順に見ていきます。
(1)借地借家法14条の趣旨=投下資本の回収と社会経済的効用を有する建物等の存続
まず、借地借家法14条が何のための制度かです。賃借権の譲渡の承諾も、承諾に代わる許可も得られない譲受人は、建物の収去と土地の明渡しを請求されるおそれがあります。14条はそのときに買取請求権を認めることで、建物についての投下資本の回収と、社会経済的効用を有する建物の存続を図る規定だとされています。
借地借家法14条=投下資本の回収と社会経済的効用を有する建物等の存続を図るもの
4 賃借権の目的である土地の上にある建物その他借地権者が権原によって土地に附属させた物(以下「建物等」という。)の譲受人は、賃借権の譲渡の承諾又は承諾に代わる許可を得られない場合、当該譲渡を借地権設定者に対抗することができず、借地権設定者から建物等の収去及び土地の明渡しを請求されるおそれがある。借地借家法14条は、このようなときに建物買取請求権を認めることによって、建物等についての投下資本の回収や、社会経済的効用を有する建物等の存続を図るものであると解される。建物買取請求権を認めたとしても、借地権設定者は、建物等の時価相当額を支払うことによって建物等の所有権を取得し、建物等を譲渡して新たに借地権を設定するほか、建物等を取り壊して土地を新たな用途に供することも可能となる。
※最高裁判所 2026-08-28 裁判所ウェブサイト
(2)持分に認めると借地権設定者が共有関係に巻き込まれる→重大な不利益のおそれ
次に、建物の持分について買取請求権を認めた場合に何が起こるかです。地主は、自分の意思によらずに建物の共有関係に入り、時価相当額を負担しながら建物を自由に処分できず、他の共有者と調整しながら使用または収益するにとどまります。建物の全部について行使された場合と比べて、重大な不利益を被るおそれがあるとされています。
持分に認めると借地権設定者が共有関係に巻き込まれる→重大な不利益を被るおそれ
これに対し、賃借権の目的である土地の上にある建物の持分の譲渡の場合において、建物の持分について建物買取請求権が認められるとすると、一般に、借地権設定者は、その行使によって、当該建物の共有関係に巻き込まれることになる。その結果、借地権設定者は、自らの意思によることなく、当該持分の時価相当額の負担を余儀なくされながら、建物の処分行為を自由にすることはできず、当該建物の共有者として他の共有者との調整を図りつつこれを使用又は収益することができるにとどまることになるのであるから、建物所有権の全部につき建物買取請求権が行使された場合に比して、重大な不利益を被るおそれがあるということができる。
※最高裁判所 2026-08-28 裁判所ウェブサイト
(3)持分の投下資本の回収は共有物分割請求で図り得る→認める必要性の乏しさ
そのうえで、持分について買取請求権を認める必要があるかです。持分についての投下資本の回収は共有物分割請求によって図り得るので、建物の全部が譲渡された場合と比べて、認める必要性も乏しいとされています。
持分の投下資本の回収は共有物分割請求で図り得る→認める必要性も乏しい
また、建物の持分に関する投下資本の回収は、共有物分割請求をすることによって図り得ることからすると、建物所有権の全部の譲渡の場合に比して、建物買取請求権を認める必要性も乏しいというべきである。
※最高裁判所 2026-08-28 裁判所ウェブサイト
7 あてはめ——専有部分の持分でも異ならない→原審の判断を是認・上告棄却
以上から、最高裁は、建物の持分について建物買取請求権は成立しないとし、譲渡の対象が区分所有建物の専有部分の持分であっても異ならないとしました。
建物の持分について建物買取請求権は成立しない→専有部分の持分でも異ならない
したがって、賃借権の目的である土地の上にある建物の持分について、建物買取請求権は成立しないと解するのが相当である。そして、このことは、譲渡の対象が区分所有建物の専有部分の持分であっても異なるものではないから、本件持分について建物買取請求権は成立しないというべきである。
※最高裁判所 2026-08-28 裁判所ウェブサイト
そして、原審の判断を正当として是認し、上告を棄却しました。
原審の判断は正当として是認できる→論旨は採用しない
5 以上によれば、所論の点に関する原審の判断は正当として是認することができる。論旨は採用することができない。
※最高裁判所 2026-08-28 裁判所ウェブサイト
8 尾島明裁判官の補足意見——法廷意見の射程は狭く読めない
この判決には、尾島明裁判官の補足意見が付いています。補足意見は、法廷意見が何を前提にしているかを述べたうえで、法廷意見の射程を狭く読む余地を塞いでいます。論点は2つです。
(1)借地借家法19条1項の許可と14条→「土地の上の建物」の解釈は別
1つは、借地借家法19条1項との関係です。19条1項の賃借権の譲渡の承諾に代わる許可については、「土地の上の建物」に建物の持分を含むという解釈が実務で定着しているのに、14条の同じ文言に持分が含まれないのは整合性を欠く、という主張がありました。補足意見は、19条1項の許可と14条では適用の場面も効果も大きく異なるので、関係者の利害関係の違いによって解釈を異にしても不自然不合理ではないとしています。
19条1項の許可の申立てが何を対象とするか(形式的要件)は、別の記事で説明しています。
借地借家法19条1項の許可と14条は適用の場面も効果も異なる→解釈を異にしてよい
1 所論は、借地借家法19条1項の賃借権の譲渡の承諾に代わる許可については、「土地の上の建物」に建物の持分を含むという解釈が実務で定着しているのに、同法14条で同じ「土地の上の建物」の譲渡が問題になっているにもかかわらずここに建物の持分が含まれないのは解釈としての整合性を欠く旨の主張をする。しかし、借地権者が建物を第三者に譲渡しようとする場合に裁判所が一切の事情を考慮して(同法19条2項)承諾に代わる許可をするのと、第三者が借地権設定者の承諾を得ないまま建物を取得した場合に借地権設定者の意思にかかわらず形成的に建物の売買契約が成立するのとでは適用の場面も効果も大いに異なるのであるから、それぞれの場合における関係者の利害関係の違いによって、「土地の上の建物」の解釈を異にすることは特に不自然不合理なことではないというべきである。
※最高裁判所 2026-08-28 裁判所ウェブサイト
(2)設定者が建物全部の所有権を取得する場合でも不成立=双方に共有物分割の調整手段
もう1つは、法廷意見の射程です。補足意見は、法廷意見が、建物の持分については一般的に、どのような場合であっても成立しないという判断を前提にしていると読みます。
法廷意見は、持分についてはどのような場合であっても成立しないという前提に立つ
2 ところで、法廷意見は、賃借権の目的である土地の上にある建物の持分については、一般的に、すなわちどのような場合であっても、建物買取請求権は成立しないという判断が前提になっているものと解される。
※最高裁判所 2026-08-28 裁判所ウェブサイト
問題になるのは、建物が賃借権設定者とそれ以外の者との共有になっていて、持分の買取請求によって設定者が建物全部の所有権を取得する場合です。この場合は他の者との共有関係に巻き込まれないので地主に不利益は生じないのではないか、という疑問が提起されていました。
設定者が建物全部の所有権を取得する場合は不利益が生じないのではないかという疑問
所論中には、本件とは異なる事案であるが、建物が賃借権設定者とそれ以外の者との共有になっていた場合には、それ以外の者が第三者に持分を譲渡したときに、その持分について建物買取請求権が行使されると賃借権設定者が建物全部の所有権を取得し、他の者との共有関係に巻き込まれることはないことになり、借地権設定者に不利益は生じないのではないかとの疑問を呈するかのように解される箇所もある。
※最高裁判所 2026-08-28 裁判所ウェブサイト
補足意見は、法廷意見がそのような不利益のない場合に成立を認めるという判断を含むものではないとします。そのうえで、その場合も地主と第三者の双方に全面的価格賠償を含む共有物分割という調整手段が残ることを挙げて、どのような場合であっても成立しないと解することができるとしています。
不利益がない場合に成立を認める判断は含まない→双方に共有物分割の調整手段
法廷意見は、建物の持分について建物買取請求権が認められるとすると、借地権設定者が当該建物の共有関係に巻き込まれることになり、重大な不利益を被るおそれがあることを本件のような事案において持分を取得した第三者に建物買取請求権を認めない根拠の一つにしているのであるが、そのような不利益がない場合には建物買取請求権の成立が認められるという判断を含むものとは解されない。持分を取得した第三者からの建物買取請求が認められる結果、借地権設定者が建物全部の所有権を取得することになると、これによる負担(特に自己の意思に基づかない売買代金の負担)は借地権設定者の側だけに生ずることになるが、一方でこのような場合に建物買取請求権の成立を認めないこととしても、借地権設定者及び第三者双方の側に全面的価格賠償を含む共有物分割による柔軟な利害の調整手段が存在する(第三者が建物全部の所有権を取得した場合にはこの調整手段がない。)。関係者の利害のバランス等に鑑みると、賃借権の目的である土地の上にある建物の持分については、一般的に、どのような場合であっても、建物買取請求権は成立しないと解することができるものと私は考える。
※最高裁判所 2026-08-28 裁判所ウェブサイト
9 学説——本判決より前から13条型について同じ結論(概要)
建物の持分だけを対象とする買取請求ができないという結論は、本判決より前から学説が述べていました。もっとも学説が述べていたのは借地借家法13条(借地期間の満了)についてで、本判決が判断したのは14条です。
この点は、別の記事で説明しています。
借地の期間が満了したときの建物買取請求権は、別の記事で説明しています。
10 決めていないこと——建物全体の買取請求の決め方・借地借家法19条1項の許可
この判決が決めていないことを2つ挙げます。
1つは、建物の全部を対象とする買取請求を共有者の誰が決められるかです。本件は持分を対象とする請求だったので、全部を対象とする場合の決め方は判断されていません。これについては、別の記事で説明しています。
もう1つは、借地借家法19条1項の許可を求める道です。補足意見は19条1項の許可と14条の違いに触れていますが、持分の譲渡について19条1項の許可を得られるかどうかは、この判決が判断したことではありません。
11 おわりに
借地上の建物の持分を買い受けても、その持分だけを対象として地主に買い取らせることはできません。投下した資本を回収する道は、他の共有者に対する共有物分割請求に求めることになります。
持分の買取請求が認められないことの裏返しとして、建物の全部を対象とする買取請求であれば認められます。共有者の間で足並みをそろえられるかどうかが、実際には分かれ目になります。
本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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