借地上の建物の持分|借地借家法19条1項の許可→肯定・3項の介入権→否定

1 借地上の建物の持分|借地借家法19条1項の許可→肯定・3項の介入権→否定

借地の上に建てた建物が共有になっていることは珍しくありません。相続で兄弟の共有になった、2人で費用を出して建てた、といった事情です。その共有者の1人が、自分の持分だけを他人へ売りたいと考えたとき、建物に付いている土地の賃借権も一緒に動きます。

賃借権を譲渡するには地主の承諾が必要で、承諾が得られないときは、裁判所に承諾に代わる許可を求めることになります(借地借家法19条1項)。ところが条文は、「土地の上の建物」を第三者に譲渡しようとする場合と書くだけで、建物の持分を譲渡する場合に触れていません。申立てができるのか、できるとして誰が申立人になるのかは、文言からは決まりません。

本記事では、建物の持分だけを譲渡する場面について、19条1項の許可の対象になるのか、申立人は誰か、そもそも承諾も許可も要らない場合があるのか、そして地主の側から持分だけを買い取る道があるのかを順に見ていきます。

19条1項の許可の形式的要件と実質的要件の全体は、別の記事で説明しています。

借地権譲渡許可の形式的要件・実質的要件(判断基準)の基本

2 19条1項の許可→肯定・申立人はその準共有者のみ・3項の介入権→否定(まとめ)

結論を先にまとめます。いずれも後述の各節で、文献や裁判例を挙げて説明します。

建物の持分だけを譲渡するときの許可と申立人・地主の介入権

あ 許可の対象(持分だけの譲渡でも申し立てられるか)

建物の共有持分と賃借権の準共有持分をまとめて譲渡する場合も、19条1項の譲渡許可の申立てができる

い 申立人(準共有のとき誰が申し立てるか)

自己の持分だけを譲渡するときは、その準共有者のみが申立人になればよい

う 地主の介入権(持分を対象に行使できるか)

建物所有権の割合的一部(持分)を対象として介入権を行使することを認める法律上の根拠はない

3 借地借家法19条1項|「土地の上の建物」「借地権者」に持分の定め→なし

許可の対象と申立人は、条文の2つの文言で決まります。

借地借家法19条1項は、申立てができる場面を「借地権者が賃借権の目的である土地の上の建物を第三者に譲渡しようとする場合」と定め、申立てをする者を「借地権者」と書いています。建物が共有であるとき、あるいは賃借権が準共有であるときに、その持分だけを動かす場合をどう扱うのかは、どちらの文言にも書かれていません。

以下では、この2つの文言を順に見ていきます。

借地借家法19条1項の条文

借地権者が賃借権の目的である土地の上の建物を第三者に譲渡しようとする場合において、その第三者が賃借権を取得し、又は転借をしても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者がその賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。この場合において、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、賃借権の譲渡若しくは転貸を条件とする借地条件の変更を命じ、又はその許可を財産上の給付に係らしめることができる。

※借地借家法19条1項

4 「土地の上の建物」|持分だけの譲渡への19条1項の許可→肯定

賃借権が準共有されている場合に、そのうちの1人が自己の準共有持分を、準共有者でない第三者へ譲渡するときは、民法612条1項にいう賃借権の譲渡があったことになります。地主の承諾が要るということであり、承諾が得られなければ承諾に代わる許可を求める道に入ります。実務解説借地借家法は、建物の共有持分と賃借権の準共有持分をまとめて譲渡しようとする場合について、譲渡許可の申立てをすることができると明示しています。

建物の共有持分とともに賃借権の準共有持分を譲渡→譲渡許可申立てをすることができる

賃借人の一部が自己の準共有持分を準共有者ではない第三者に譲渡するときは、民法612条1項による譲渡があったものといえる
(賃借人の一部が建物の共有持分とともに賃借権の準共有持分を譲渡しようとする場合には、譲渡許可申立てをすることができる)。

※澤野順彦編『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p245

吉原知志氏は、共有者の1人が所在等不明で、その持分を他の共有者が取得する場面を取り上げ、借地上の建物と借地権が併せて譲渡される場合には19条1項の制度を利用することも考えられる、としています。ただし同じ箇所で、1項が申立権者として書いている「借地権者」は借地権の譲渡人を指すと解されている、という問題を挙げています。この点は次の節で見ます。

持分が動く場面でも19条1項の制度を利用できる→ただし申立権者の「借地権者」は譲渡人と解されている

なお、借地上の建物と借地権が併せて譲渡される場合には、借地権設定者の承諾に代わる許可の裁判の制度が用意されており(借借19条1項)、これを利用することも考えられる。
ただし、その場合には、同項の裁判の申立権者として規定されている「借地権者」が借地権の譲渡人である従前の借地権者を指すと解されていること
(稻本洋之助ほか編『コンメンタール借地借家法〔第4版〕』(日本評論社、2019)147頁〔鎌野邦樹])
が問題となる。

※吉原知志稿/潮見佳男ほか編著『Before/After民法・不動産登記法改正』弘文堂2023年p61

5 「借地権者」|自己の持分だけの譲渡→その準共有者のみが申立人

持分を譲渡するとき、誰が申立人になるかが問題になります。借地権が準共有されている場合、借地権の全部を譲渡するのであれば借地権者全員が申立てをしなければなりませんが、自己の持分だけを譲渡するときは、その準共有者のみが申立人になります。

申立人と申立時期の一般論、および借地権の全部を譲渡する場合に全員で申し立てることは、別の記事で説明しています。

借地権譲渡許可の裁判の申立人と申立時期

建物も賃借権も共有・準共有であるとき、そのうちの1人が自分の建物の共有持分と賃借権の準共有持分だけを譲渡しようとするときは、その者のみが申立人になります。

注釈民法は、建物も賃借権も共有・準共有である場合について、全部を譲渡するときと持分だけを譲渡するときを i と ii に分けて書いています。以下の引用はその ii で、賃借権を準共有する2人をB1・B2として書かれています。

自己の建物と土地賃借権の(準)共有持分権のみの譲渡→B1のみが申立人となる

ii同様に建物もB1・B2の共有であるが、B1の有する建物と土地賃借権の(準)共有持分権のみの譲渡(あるいは後者について転貸)がなされようとするときは、B1のみが申立人となる。

※鈴木禄弥・生熊長幸稿/幾代通ほか編『新版 注釈民法(15)増補版』有斐閣2003年p527

書式借地非訟・民事非訟の実務も同じ扱いで、この点について9つの文献を挙げています。

借地権の準共有者が地上建物と借地権の自己の持分のみを譲渡→その準共有者のみが申立人になればよい

借地権の準共有者が地上建物と借地権の自己の持分のみを他に譲渡する場合は、その準共有者のみが申立人になればよい
(借地法規の解説111頁、借地非訟の解説60頁、借地非訟の実務388頁、借地講座1・315頁(22)、借地法下1142頁・1145頁、詳解借地非訟255頁、借地非訟便覧438頁、植垣・借地非訟の実務317頁)。

※園部厚著『書式 借地非訟・民事非訟の実務 全訂五版』民事法研究会2016年p115

6 他の準共有者への譲渡は民法612条1項の譲渡にあたらない→許可も不要(概要)

持分を譲渡するときでも、相手が他の準共有者であれば、民法612条1項にいう譲渡にあたりません。地主の承諾が要らないので、承諾に代わる許可を求める必要もありません。ただし、この結論がどこまで及ぶかには留保が置かれています。

どのような持分の移転が民法612条1項の譲渡にあたるのか、その射程は、別の記事で説明しています。

特殊な事情による賃借権の移転と賃借権譲渡(共有・離婚・法人内部)

7 借地借家法19条3項|持分を対象とする介入権の行使→否定

ここまでは借地人の側から見てきました。地主の側には、借地人からの申立てを受けて、自ら建物の譲渡と賃借権の譲渡を受ける旨の申立てをする道があります。実務では介入権と呼ばれます。

介入権の制度の趣旨や相当の対価の決め方は、別の記事で説明しています。

借地権優先譲受申出(介入権)の基本(趣旨・典型例・相当の対価)

借地借家法19条3項の条文

第一項の申立てがあった場合において、裁判所が定める期間内に借地権設定者が自ら建物の譲渡及び賃借権の譲渡又は転貸を受ける旨の申立てをしたときは、裁判所は、同項の規定にかかわらず、相当の対価及び転貸の条件を定めて、これを命ずることができる。この裁判においては、当事者双方に対し、その義務を同時に履行すべきことを命ずることができる。

※借地借家法19条3項

問題は、地主がこの介入権を建物の持分だけを対象として行使できるかです。競売で建物を買い受けた第三者が賃借権の譲受けの許可を申し立て、地主が自ら譲渡を受ける旨の申立てをした事件で、建物所有権の割合的一部、つまり持分を対象として介入権を行使することを認める法律上の根拠はないとされました。19条3項を準用する借地借家法20条2項の下での判断です。

借地権設定者が建物所有権の割合的一部(持分)を対象として介入権を行使→認める法律上の根拠はない

借地権設定者が建物所有権の割合的一部(持分)を対象として介入権を行使することを認める法律上の根拠はないから、抗告人の主張を採用することはできない。

※東京高等裁判所 2006-09-12 最高裁判所民事判例集61巻9号3261頁

8 借地借家法14条|持分を対象とする建物買取請求権→否定(参考)(概要)

借地借家法14条は、賃借権の目的である土地の上の建物などを取得した第三者が、借地権設定者が賃借権の譲渡を承諾しないときに、建物などを時価で買い取るべきことを請求できると定めています。19条1項と同じ「土地の上の建物」という文言ですが、建物の持分については、この買取請求権は成立しないとされています。同じ文言でも、条項によって持分の扱いが分かれるということです。

この判断の内容は、別の記事で説明しています。

最判令和8年8月28日|借地上の建物の持分を対象とする建物買取請求権の成否

9 おわりに

借地上の建物の持分だけを譲渡したいときでも、承諾に代わる許可の申立ては閉ざされていません。申立人は、持分を手放す準共有者だけで足ります。相手が他の準共有者であれば、そもそも承諾も許可も要りません。

裏返しに、地主の側から持分だけを買い取る道はありません。建物を共有のまま地主が1人加わる形は、介入権では作れないということです。

許可するかどうかの実質的な判断、とくに借地人が増えることを地主の不利と見るかどうかは、別の記事で説明しています。

借地権の分割譲渡・一部譲渡を裁判所が許可しない傾向とその例外

本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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