建物の持分だけを対象とする建物買取請求権→成立しない
1 建物の持分だけを対象とする建物買取請求権→成立しない
借地上の建物が共有になっていることがあります。相続で持分が分かれた場合や、持分だけが第三者へ売られた場合です。
建物買取請求権は、借地権が消滅したときに、建物を取り壊さずに地主へ買い取らせる制度です。この権利を、建物の全部ではなく自分の持分だけを対象として行使することはできるのでしょうか。本記事では、借地借家法13条の場合と14条の場合に分けて説明します。
第三者の建物買取請求権(借地借家法14条)そのものの要件と効果は、別の記事で説明しています。
第三者の建物買取請求権(無断の借地権譲渡・転貸ケース・借地借家法14条)
借地の期間が満了したときの建物買取請求権(借地借家法13条)は、別の記事で説明しています。
2 持分だけの買取請求→14条は判例が否定・13条型は学説が否定
14条については、最判令和8年8月28日が判断を示しています。13条については判例がなく、学説が述べています。現在の考え方を先にまとめます。
持分だけを対象とする買取請求ができるか
(ア)借地借家法14条(第三者の建物買取請求権)=判例は、建物の持分について建物買取請求権は成立しないとする。譲渡の対象が区分所有建物の専有部分の持分であっても異ならない(イ)借地借家法13条(借地期間の満了)=判例はない。学説は、建物の共有者が各自の持分について買取請求をすることはできないとする
3 借地借家法13条・14条の文言→持分を含むかは書かれていない
条文を確認しておきます。建物買取請求権は、借地権の存続期間が満了した場合の13条と、第三者が建物を取得した場合の14条に分かれています。
どちらも買取請求の対象を「建物その他借地権者が権原により土地に附属させた物」と書いています。それが建物の全部を指すのか持分を含むのかは、文言からは決まりません。
借地借家法13条1項・14条=買取請求の対象は「建物」で持分に触れていない
借地権の存続期間が満了した場合において、契約の更新がないときは、借地権者は、借地権設定者に対し、建物その他借地権者が権原により土地に附属させた物を時価で買い取るべきことを請求することができる。
※借地借家法13条1項
第三者が賃借権の目的である土地の上の建物その他借地権者が権原によって土地に附属させた物を取得した場合において、借地権設定者が賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは、その第三者は、借地権設定者に対し、建物その他借地権者が権原によって土地に附属させた物を時価で買い取るべきことを請求することができる。
※借地借家法14条
4 学説——建物の持分だけの買取請求→否定
建物の持分だけを対象とする買取請求について、学説はこれを否定しています。新版注釈民法は、建物の共有者が各自の持分について買取請求をすることはできないとしています。以下、その理由と、この記述がどの条文についてのものかを順に見ていきます。
(1)理由=権原なき者と土地所有者の共有という「奇妙な状態」
まず理由です。借地権が消滅したあとに持分だけの買取請求を認めると、建物は、土地を使う権原を持たない共有者と土地所有者との共有になります。新版注釈民法はこれを「奇妙な状態」と呼び、持分の買取請求を否定しています。
共有者の各自が自己の持分の買取請求をすることはできない→「奇妙な状態」
(c)借地上の物件が数人の共有であるときはどうなるか。
この共有者が同時に借地権の準共有者で、かつ、全員共同して買取請求権を行使する場合は、問題がない。
しかし、
①建物の共有者たちが同時に借地権の準共有者である場合でも、共有者の各自が建物についての自己の持分の買取請求をすることは、できない。
けだし、それを許せば、建物は、借地権消滅の結果土地使用の権原をもたぬものと土地所有者との共有という、奇妙な状態におちいるからである。
※鈴木禄弥・生熊長幸稿/幾代通ほか編『新版 注釈民法(15)増補版』有斐閣2003年p429
(2)射程=13条型(旧借地法4条2項)の記述→14条型へそのまま重ねられない
この記述があるのは、借地法4条2項についての解説の箇所です。借地法4条2項は、借地期間が満了して更新されない場合の買取請求権で、現在の借地借家法13条1項に引き継がれています。これに対して14条は、第三者が建物を取得したのに地主が賃借権の譲渡を承諾しない場合の規定で、権利が働く場面が違います。
したがって、学説が13条型について述べたところを、そのまま14条型の結論として使うことはできません。14条型については、最判令和8年8月28日が別に判断を示しています。
5 最判令和8年8月28日→建物の持分について14条の成立を否定(概要)
最判令和8年8月28日は、賃借権の目的である土地の上にある建物の持分について、建物買取請求権は成立しないと判断しました。理由は2つです。持分について認めると地主が望まない共有関係に巻き込まれて重大な不利益を被るおそれがあること、持分についての投下資本の回収は共有物分割請求によって図り得るので認める必要性も乏しいことです。譲渡の対象が区分所有建物の専有部分の持分であっても異ならないとしています。
この判決の事案と判示は、別の記事で説明しています。
最判令和8年8月28日|借地上の建物の持分を対象とする建物買取請求権の成否
6 建物全体を対象とする行使=管理行為の一種→過半数持分の共有者で可能(概要)
これに対して、建物の全部を対象とする買取請求は認められます。そこで問題になるのは、共有者の誰が行使を決められるかです。買取請求権の行使を共有物の管理行為の一種とみて、持分の過半数を占める共有者で足りるという考え方がとられています。
この点は、別の記事で説明しています。
7 第三者による買取請求の成否→建物の取得時点での賃借権の存続(参考)(概要)
なお、建物を取得した第三者が14条の買取請求権を持つかどうかは、建物を取得した時点で賃借権が存続していたかで決まります。取得より前に賃貸借契約が解除されていた場合は、買取請求権は認められません。
この点は、別の記事で説明しています。
賃借権の消滅と第三者の建物買取請求権|取得の前後・消滅の原因
8 おわりに
建物の持分だけを対象とする買取請求は、14条については判例が、13条については学説が、いずれも否定しています。持分を取得した者が投下した資本を回収する道は、建物買取請求権ではなく共有物分割請求に求めることになります。
これに対して、建物の全部を対象とする買取請求であれば認められます。そこで実際には、共有者の間でどう足並みをそろえるかが問題になります。
本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
本記事の引用は、書籍・判例などの原文から範囲を選んで載せたものです。改行の位置は読みやすさのために当方で整えており、原文の改行と同じとは限りません。また、記号や外字の扱いにより、文字の一部が原文と異なって表示されることがあります。
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