【老朽建物の修繕、それって増改築?借地契約の法的解釈】

1 借地権契約と老朽建物:現代の課題

借地に関する問題のひとつに、建物の増改築の問題があります。借地権契約の中には、建物の増改築を禁止または制限する条項(増改築禁止特約)が含まれることが多いです。その場合、建物が老朽化してきて借地人が修繕工事を計画した時に、「この修繕工事、契約上の増改築に当たるのだろうか?」という疑問が浮かびます。
老朽化した建物の安全性や快適性を維持するための修繕と、契約で制約されている増改築の境界は、一見明確ではない場合があります。この記事では、その境界についての法的な解釈と、実際の事例を通じて、修繕工事を計画する際のポイントを詳しく解説していきます。

2 増改築の定義

(1)増改築の定義

土地や建物に関するトラブルや疑問点の中でも、「増改築」という言葉は非常に頻繁に耳にするものです。しかし、この「増改築」とは具体的に何を指すのでしょうか?ここでは、法律や判例に基づいて、増改築の基本的な定義や、増築と改築の違いを詳しく見ていきます。

(2)法律における増改築の定義

日本の法律において、増改築の明確な定義は示されていませんが、多くの判例や法律文献において、増改築は「既存の建物に変更を加える行為」として捉えられています。ここでの変更とは、形状、構造、用途などの本質的な変更を意味します。

(3)増築と改築の違い

あ 増築

増築は、文字通り建物の「増加」を指します。具体的には、建物の延べ床面積を増加させる行為、新たに部屋を追加する行為、または既存の建物に隣接して新しい建築物を建てる行為などが該当します。

い 改築

改築は、建物の内部や外部の形状、構造を変更する行為を指します。ただし、これは建物の延べ床面積の増減に関係なく、既存の建物の形状や構造が変わることが主眼となります。
両者の大きな違いは、増築が建物の「量的」な変更を指すのに対し、改築が「質的」な変更を中心とする点にあります。

詳しくはこちら|増改築禁止特約における『増改築』の意味と解釈

3 修繕の定義

「修繕」という言葉は、日常的にもよく使われるものですが、法的な文脈における「修繕」はどのような意味を持つのでしょうか?そして、修繕と増改築の境界はどこにあるのでしょうか。

(1)法律における修繕の定義

法律の文言における「修繕」の明確な定義は存在しないものの、多くの判例や法律文献において、修繕は「既存の建物の機能や価値を維持するための行為」として解釈されています。これは、建物が時間の経過や使用によって受ける劣化や損傷を補修することを主目的とします。

(2)一般的な修繕の認識

一般的には、修繕とは建物の壊れた部分を修理することや、既存の機能を維持するための補修を行うことを指します。例えば、壊れた窓を交換する、屋根の雨漏りを修理する、床の傷を補修するなどの行為がこれに該当します。

(3)修繕の範囲と増改築との境界

修繕の行為が、増改築に該当するか否かの判断は、その行為が建物の本質的な変更をもたらすかどうかに依存します。たとえば、外壁の塗り替えや床材の交換は、建物の機能や価値を維持する目的で行われるため、通常は修繕と認識されます。しかし、外壁の追加や床面積の拡張など、形状や機能に本質的な変更をもたらす行為は、増改築として認識される可能性が高まります。

詳しくはこちら|借地上の建物の『修繕』の意味と修繕禁止特約の有効性

4 事例紹介

修繕と増改築の境界は、一見明確に見えるものの、実際の事例をもとに考えるとその判断は難しいものがあります。以下、実際の事例を元にその境界を探る試みをします。

(1)事例1:屋根の補修工事

Aさんは、老朽化により屋根の雨漏りがひどくなったため、屋根の補修工事を依頼しました。しかし、工事を進める中で、屋根の形状を少し変更する提案が業者からされました。結果的に、屋根の形状が変わったため、これが増改築に該当するとの指摘がされました。

<判例・法的解釈>

形状の変更は、本質的な変更をもたらす可能性があるため、このケースでは増改築と認識される可能性が高い。

(2)事例2:壁の塗り替えと追加の窓設置

Bさんの家の外壁は経年劣化により色あせていたため、塗り替えの工事を行いました。また、明るさを増すために新たに窓を追加する提案があり、それも同時に行われました。

<判例・法的解釈>

外壁の塗り替えは修繕に該当しますが、新しい窓の追加は建物の機能や形状に変更をもたらすため、増改築と認識される可能性がある。

(3)事例を通じたポイントの抽出

上記の事例から、以下のポイントが修繕と増改築の境界を明確にする上で重要であることが分かります。

<増改築と修繕の境界のポイント>

あ 建物の形状や構造に変更が生じるか

形状や構造に本質的な変更が生じる場合、増改築の可能性が高まります。

い 行為の目的

建物の機能や価値を維持する目的で行われる行為は、修繕として認識される可能性が高い。

う 追加される部分の大きさや機能

小さな変更であっても、それが建物の機能や利便性に大きな影響をもたらす場合、増改築として認識されることが考えられます。

5 まとめ

老朽化した建物の修繕や増改築に関連する法的問題は、地主、借地人ともに正確には理解できていないということが多いです。
早期にこの問題に詳しい弁護士に相談して適切な法的アドバイスや支援を受けることが、トラブルを最小限におさえて解決を実現することにつながります。
借地権契約や建物の修繕、増改築に関する問題でお悩みの方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。具体的な状況や問題点をお聞かせいただければ、最適なアドバイスや対応策をご提案させていただきます。

共有不動産の紛争解決の実務第2版

使用方法・共有物分割の協議・訴訟から登記・税務まで

共有不動産の紛争解決の実務 第2版 弁護士・司法書士 三平聡史 著 使用方法・共有物分割の協議・訴訟から登記、税務まで 第2班では、背景にある判例、学説の考え方を追加して事例検討をより深化させるとともに、改正債権法・相続法が紛争解決に与える影響など最新の実務動向を丁寧に追録して大幅改訂増補! 共有物分割、共有物持分買取権行使、共有持分放棄、共有持分譲渡などの手続きを上手に使い分けるためこ指針を示した定番書!

実務で使用する書式、知っておくべき判例を多数収録した待望の改訂版!

  • 第2版では、背景にある判例・学説の考え方を追加して事例検討をより深化させるとともに、改正債権法・相続法が紛争解決に与える影響など最新の実務動向を丁寧に追録して大幅改訂増補!
  • 共有物分割、共有持分買取権行使、共有持分放棄、共有持分譲渡などの手続を上手に使い分けるための指針を示した定番書!
  • 他の共有者等に対する通知書・合意書、共有物分割の類型ごとの訴状、紛争当事者の関係図を多数収録しており、実務に至便!
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINE
【経営者の離婚はどう違う?オーナー社長が直面する法的課題と対策】
【芸能人が直面する離婚の法的課題:実際にはどうなの?】

関連記事

無料相談予約 受付中

0120-96-1040

受付時間 平日9:00 - 20:00