1 不足額の供託の効力(受諾の影響や条件付受諾)
2 不足額の供託の効力(基本)
3 賃料増額請求の際の不足額の弁済(供託)の特別扱い(参考)
4 不足額の供託の還付をした効果
5 不足額供託の還付・「留保の意思表示」による無効維持
6 不足額供託の還付・留保付還付(条件付受諾)の具体的方法
7 不足額供託の還付・訴訟遂行による留保扱い
8 不足額の弁済供託をされた側の対応(概要)

1 不足額の供託の効力(受諾の影響や条件付受諾)

いろいろな債権(債務)について、当事者の間で金額について認識が異なるということがあり得ます。債務者が弁済しようとしても、債権者はその金額では不足しているため、受け取らない、ということがあります。債務者の認識する金額が正しければ、履行の提供をした以上、弁済しないままでも債務不履行とはなりません。そこで、遅延損害金の発生、解除されるといったリスクは生じません。ただし、債務は消滅しません。そこで、債務を消滅させるために、弁済供託をする、という対応がよく行われます。
ここで、債権者の認識する金額が正しかった場合には、供託した金額は不足していたことになります。本記事では、不足した金額の弁済供託がどのように扱われるか、ということを説明します。

2 不足額の供託の効力(基本)

結果的に供託した金額が不足していた、つまり、債権額の一部の金額だけを弁済供託したという場合は、この供託は不適法となり、債務消滅という供託の効果は発生しません。債務不履行の状態は解消されないことになります。

不足額の供託の効力(基本)

債権の一部の金額の弁済の提供をし、受領を拒まれたため、この金額を供託した場合
供託は不適法で、供託金額に相当する債務を免れることはできない
※大判昭和12年8月10日
※大判明治44年12月16日(同趣旨)

3 賃料増額請求の際の不足額の弁済(供託)の特別扱い(参考)

なお、賃貸借契約において、賃貸人が賃料増額を請求したのに対して、賃借人が増額に応じず、従来の賃料の金額を支払う(弁済供託をする)ことがよくあります。後で、裁判所が賃料増額を認めた場合、結果的に不足額を支払っていた(供託していた)ことになります。前述の原則ルールをあてはめると、供託は不適法で、弁済とはならない、その結果、債務不履行として賃貸借契約を解除されることになってしまいます。
しかし、借地と借家については、特別なルールがあり、このような場合であっても解除はできないことになっています。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|賃料増減額の紛争中の暫定的な賃料支払(基本・誤解による解除事例)
本記事の説明では、この特殊ルールについては触れません。なお、賃料増額請求に対して賃料の供託がなされた状況でも、以下の説明は当てはまります。

4 不足額の供託の還付をした効果

前述のように、不足額の供託では、債務消滅(債務の弁済とみなす)という効果は生じません。しかし、債権者がその供託をそのまま受諾した場合には、債務消滅の効果が生じます(昭和33年判例)。受諾するとは、具体的には、供託金の還付請求をする(受領する)ことです。要するに、そのまま受領した場合は、その金額でよいと認めたことになるのです。

不足額の供託の還付をした効果

あ 債権者の受諾による有効化方向

不適法な弁済供託債権者の受諾なきかぎりその効力を生じない
※大判昭和18年9月29日

い 債権者の無留保受諾による有効化

金額に争のある債権につき金額に対する弁済を供託原因として供託した金額が債権者の主張する額に足りない場合であつても、債権者が供託書の交付を受けて供託金を受領したときは、受領の際別段の留保の意思表示をなした等特別の事情のないかぎり、その債権の全額に対し弁済供託の効力を認めたものと解するのが相当である
※最判昭和33年12月18日

5 不足額供託の還付・「留保の意思表示」による無効維持

前述の昭和33年判例の中には、(債権者が供託を受諾しても)「別段の留保の意思表示」(特別の事情)がある場合には、不足額部分には債務消滅の効果は生じない、ということが示されています。
この「別段の留保の意思表示」がどんなものか、ということは、その後の判例の中に登場します。
まず、昭和36年判例は、「一部の弁済として受領する」というメッセージを債務者または供託所(法務局)に対して伝えたことが「別段の留保の意思表示」になると判断しました。具体的には、このような意思表示があれば、不足額(受領した金額の残額)の請求をすることができる、という結論です。
もともと、供託の受諾の意思表示は債務者か供託所のどちらかに対して行うことになっているので、一部を受諾しないことを意味する意思表示もどちらか一方に対して行えばよい、ということになっています。
昭和38年判例は、「一部の弁済として受領する」というメッセージを債務者に対して通知した上で、さらに供託所にもその通知書の写しを提出したという事案で、「別段の留保の意思表示」があると認めました。つまり、不足額の請求をすることができるという結論です。

不足額供託の還付・「留保の意思表示」による無効維持

あ 供託者または供託所への意思表示による無効維持

債務金額に争ある債権につき債務者が債務全額の弁済であることを供託原因中に指摘して供託した場合債権者は供託金は債権の一部弁済であるとして受領する旨予め留保してこれを受領したときは、債権者が真実の債権額が供託金額を超えることを主張且つ立証して債務者に対し残額の弁済を請求することを妨げるものではなく、しかもこの場合その留保の意思表示供託所に対してなされると供託者に対してなされるとでその効力に消長あるものと解すべきでないとした原判決の判断は、当裁判所もこれを正当として是認する。
※最判昭和36年7月20日

い 供託者と供託所への意思表示による無効維持

所論は、原判決は弁済供託に関する法令の解釈適用を誤まると主張するけれども、被上告人が本件供託金一一万二〇〇〇円を、上告人に対する本件公正証書表示の二四四万七二〇〇円の商品残代金及びこれに対する昭和二九年一一月四日より完済に至るまで年一割二分の割合による遅延損害金のうち、右損害金の一部に充当する旨の通知を特に上告人に対してなし、且つ、その供託所である東京法務局に右通知書を添附して右供託金還付申請をなし、予め右留保の意思表示を明らかにして右還付を受けた事実が確定された本件において、
原判決が右供託金は右遅延損害金の一部弁済に充当されるけれども、その余の右債務消滅の効果を生ずるものではないと判断したことは正当であり、当裁判所の判例(昭和三五年(オ)第七〇号同三六年七月二〇日第一小法廷判決、裁集民事五三号二〇三頁参照)とするところである。
※最判昭和38年9月19日

う 「受諾」の意思表示の相手方(参考)

供託の受諾は、債権者が供託所または債務者に対する意思表示によってする。
※我妻栄ほか著『我妻・有泉コンメンタール民法 第7版』日本評論社2021年p1007

6 不足額供託の還付・留保付還付(条件付受諾)の具体的方法

以上のように、不足額を弁済供託された側(債権者)としては、そのまま単純に還付請求(受諾)すると、「不足してなかった」ことにされてしまうので、受領する場合には、「一部の弁済として」受領することが必要です。
実際に供託所(法務局)で還付請求する具体的方法としては、「還付」(の番号)にマルをつけて、備考欄に「一部弁済として受領する」、「一部弁済受領の留保をする」というような記述をしておきます。供託実務として認められた方法です。
なお、これとは別に債務者への通知をしておく(知らせておく)ことが多いですが、債務者への通知がなくても、留保付の還付としては問題ありません。

不足額供託の還付・留保付還付(条件付受諾)の具体的方法

あ 備考欄への「一部弁済として」の記載

最近の供託実務の取扱いでは、債務者が全額として供託した金額を一部弁済として受領したい場合には、右書式の備考欄にその旨を記載して受領することを認めているという。
※鈴木重信稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 昭和42年度』法曹会1968年p379

い 供託実務先例

〔照会〕家賃弁済供託金の払渡請求書の払渡請求事由を「供託受諾、但し家賃一部弁済受領の留保をする」と記載してある場合でも、払渡を認可してさしつかえないでしょうか。
※昭和35年2月26日付日記供第九四号京都地方法務局長照会
〔回答〕客月二六日付日記供第九四号で照会の件は、当該払渡請求を認可してさしつかえない
※昭和35年3月30日付民事甲第七七五号民事局長電報回答(法務省民事局編『供託関係先例集(2)』p277)

7 不足額供託の還付・訴訟遂行による留保扱い

繰り返しになりますが、不足額の弁済供託をされた側(債権者)としては、「一部の弁済として受領する」という留保をつけて受領することが必要です。ただし、債務者や法務局にそのような意思表示をしなくても、訴訟を提起していれば、留保したこととして扱われます。「債務者の主張する金額(弁済供託した金額)では不足している」という主張が訴訟の中でなされた状態が続いているので、供託金を受領しても(形式的には「受諾」であっても)、一部として受領したという意図が読み取れる、という判断です。

不足額供託の還付・訴訟遂行による留保扱い

上告人は昭和三七年七月二日本訴提起以来被上告人の弁済供託金額を受領するまで、一貫して本訴で、利息は一カ月三分と主張(被上告人は日歩一・三六九銭と主張)していたことは本件記録上明らかである。
このような場合には、上告人主張の金額中供託金額を超える部分については、当然留保の意思表示がなされていると見るべきであり、右判決にいう特別の事情ある場合にあたるというべきである。
※最判昭和42年8月24日

8 不足額の弁済供託をされた側の対応(概要)

以上のように、不足額が供託された場合に、そのまま還付請求(受諾)してしまうと、債権全額を弁済したことになるというリスクがあります。
では、トラブルが解決するまでは延々と供託金を受け取らなければよいという発想もありますが、この対応もリスクを負います。賃借人が供託金を戻すこと(取戻請求)は簡単にできてしまうのです。
そこで、「債権の一部として受諾する」と明記して還付請求をする、というのが有効な対抗策になります。これ以外にも、債権者の対抗策はあります。
不足額の供託に限らず、弁済供託をされた債権者が負うリスクや、対抗策については、別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|弁済供託をされた債権者のリスクや対抗策(条件付受諾・取戻請求権の仮差押)

本記事では、不足額を弁済供託された債権者が供託金を受け取ることについて説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に、弁済供託に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。