1 弁済供託をされた債権者のリスクや対抗策
2 弁済供託が使われる状況の典型(前提)
3 弁済供託の還付請求(受領)をしないリスク
4 供託金の放置による弁護士の責任(参考)
5 供託金の還付請求(受諾)のリスクと対策(概要)
6 取戻請求権の仮差押による取戻対策
7 賃料の弁済供託をされた賃貸人の対応(まとめ)

1 弁済供託をされた債権者のリスクや対抗策

いろいろなトラブルの中で、弁済供託が使われます。供託をされた側(債権者)としては、対応を誤ると、もらうべき金銭がもらえなくなる、あるいは、別の場面で不利に働くということがあります。
本記事では、供託された債権者が負うリスクや対抗策について説明します。

2 弁済供託が使われる状況の典型(前提)

ところで、弁済供託が使われる状況にはとても多くのものがあります。本記事の説明の中では、主に、賃貸借契約の中で、賃貸人が賃料増額請求をした場面と、解除の意思表示をした場面で、賃借人がこれらが無効であると考えて、従来どおりに賃料を支払おうとしたが賃貸人が受領を拒否したため、賃借人が弁済供託をした、という状況を想定します。

弁済供託が使われる状況の典型(前提)

あ 賃貸借における賃料増額請求

賃貸人が20万円の賃料を22万円に増額するの意思表示をした
賃借人は賃料として20万円を提供した
賃借人は金額が不足しているという理由で受領を拒否した
賃借人は受領拒否を理由に20万円を弁済供託をした

い 賃貸借における解除

賃貸人は賃貸借契約を解除した
賃借人は解除は無効であると考えて、賃料を提供した
賃貸人は、「すでに解除済み(契約が終了している)」ことを理由に受領を拒否した
賃借人は受領拒否を理由に賃料として弁済供託をした

3 弁済供託の還付請求(受領)をしないリスク

弁済提供をされた側(債権者)としては、供託をした者(債務者)の主張を認めていないのだから、供託金も受け取らない(トラブルが解決するまでは還付請求をしない)という発想が自然です。
しかし、交渉や訴訟でトラブルが解決した時には、すでに供託金は債務者に戻されていた(なくなっていた)ということになりかねません。というのは、弁済供託については債務者が払戻請求をすることが可能なのです。
なお、債権者による受領(還付請求)の消滅時効は、トラブルが解決した時からスタートするので、「訴訟が長期化したため消滅時効にかかってしまった」ということは生じません(平成13年判例以前はこのようなことが生じていました)。

弁済供託の還付請求(受領)をしないリスク

あ 供託者(債務者)による取戻

ア 取戻しの制度 供託者(債務者)は供託金の取戻しをいつでも行うことができる
※民法496条1項
イ 担保を失うリスク 債務者が無資力となった場合や財産の把握ができないという場合
→差押による回収ができなくなる

い 消滅時効(参考)

ア 要点 以前は、供託された時点から5年または10年で時効が完成した
平成13年最判(イ)により、紛争解決の時点から5年または10年(まで時効は完成しない)こととなった
イ 供託金取戻請求権の消滅時効の起算点(平成13年最判) 弁済供託における供託物の取戻請求権の消滅時効の起算点は、過失なくして債権者を確知することができないことを原因とする弁済供託の場合を含め、供託の基礎となった債務について消滅時効が完成するなど、供託者が免責の効果を受ける必要が消滅した時と解するのが相当である・・・
※最判平成13年11月27日

4 供託金の放置による弁護士の責任(参考)

実際に、訴訟によってトラブルが解決した時点で、法務局に行って供託金の還付請求をしたら、すでに供託金がなくなっていたケースで、初期段階で還付請求をするようアドバイスをしなかった弁護士が約3000万円の賠償責任を負ったというものがあります。
とにかく、弁済供託をされた債権者は供託金を放置することでリスクを負うのです。

供託金の放置による弁護士の責任(参考)

あ 事案の概要

ア 弁済供託 金融機関Xは、顧客Aに対する貸金債権を被担保債権として、Bから、BのCに対する甲請求権に質権の設定を受けた
Aが返済を遅滞したため、XはBに対して質権実行を通知し、Cに対しては甲請求権にかかる債務の履行を求めた
Bは質権設定契約は無効であると主張した
Cは債権者不確知を理由として、約3260万円の弁済供託をした
イ 訴訟による解決 XはB、Cに対して訴訟を提起した
結局、質権設定を有効とする、供託金還付請求権の取立権は存在することを確認する判決が確定した(X勝訴)
ウ 供託金の還付不能 Xは供託金の還付請求をした
しかし、すでにCが供託金の取戻済であり、供託金の還付を受けられなかった

い 保険会社の判断

債権者が供託を受諾した後は供託物の取戻しができなくなるため(民法496条1項)、Cが供託金の取戻しを行う前にXが受諾の意思表示をしていれば、Xは債権の満足を得られたはずである。
・・・
供託の受諾について助言等をしていないことが弁護士の注意義務違反・・・があるものと判断できるため、本保険で対応することとなった。
※『弁護士賠償責任保険の解説と事例 第6集』全国弁護士協同組合連合会2020年p30

5 供託金の還付請求(受諾)のリスクと対策(概要)

では、弁済供託をされた債権者は、供託金を受け取ればよいのでしょうか。債権者が供託金を受け取ることを(供託所に対する)還付請求といいます。還付請求の手続では、通常、弁済供託を受諾するという記述(丸をつける)をします。そうすると、供託された金額を認めた、また、賃料として認めた(解除されていないと認めた)、ということになってしまうリスクがあります。
これを避けるために、「債権(額)の一部として」受諾することを明記して還付請求をする方法があります。ただし「賃料ではなく(解除後の)損害金として」受諾する、と明記して還付請求をすることは認められていません。
いずれのパターンでも、訴訟を提起してその係属中に還付請求をした場合には、「債権の一部として」、あるいは「解除後の損害金として」受諾したものとして扱われることになります。
これらについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|不足額の弁済供託の効力(受諾の影響や条件付受諾)

詳しくはこちら|弁済供託に対する別の債権としての受諾(還付請求)

6 取戻請求権の仮差押による取戻対策

弁済供託をされた債権者の対抗策としては別の方法もあります。それは、債務者が持っている供託金の取戻請求権について仮差押をする、という方法です。
これであれば、弁済供託の受諾は避けられます。それでいて、債務者が供託金の払戻を受けてしまうことを防げます。
ある意味パーフェクトな方法ですが、手間・コストが大きいです。前述の条件付受諾(による還付請求)で済ませることができる場合はそちらの方が最適選択肢でしょう。

取戻請求権の仮差押による取戻対策

あ 供託金の仮差押

債権者は、債務者が供託所に対して有する供託金取戻請求権について仮差押をする

い 効果

債務者が供託金の取戻しを受けられなくなる
受諾の意思表示ではないので、債務者側の主張を認めたものとして扱われるリスクも回避できる

7 賃料の弁済供託をされた賃貸人の対応(まとめ)

以上のように、弁済供託をされた債権者の対応は、不足額のタイプと、別の債権(として供託された)タイプの2つで違います。
不足額タイプの典型である賃料増額請求のシーンでは、賃料債権の一部として受諾する(条件付受諾)、という簡単な方法が最適でしょう。
別債権タイプの典型である、解除後の賃料としての供託のシーンでは、供託手続として条件付受諾は認められていないので、訴訟を提起した後に還付請求をするか、あるいは供託金の取戻請求権の仮差押をする、という対抗策が候補となります。

賃料の弁済供託をされた賃貸人の対応(まとめ)

あ 賃貸借における賃料増額請求

賃貸人は、「賃料債権の一部として」受諾することを明記して還付請求をする

い 賃貸借における解除

賃貸人は、明渡請求訴訟を申し立ててから還付請求をする
または、供託金の取戻請求権の仮差押をする

本記事では、弁済供託された債権者が負うリスクや対抗策について説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に、弁済供託に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。