【遺産共有に共有の規定を適用する際の持分割合(令和3年改正民法898条2項)】

1 遺産共有に共有の規定を適用する際の持分割合(令和3年改正民法898条2項)

遺産分割未了の状況では、遺産は相続人の「共有」であって、特殊性があるので、通常の共有(物権共有)と区別して遺産共有と呼びます。ただし、性質としては物権共有と同じです。
詳しくはこちら|遺産共有の法的性質(遺産共有と物権共有の比較)
そこで、遺産共有でも、(分割手続以外は)一般的な「共有」に関する民法の規定が適用されます。民法の規定を適用する場合、共有持分割合をどうするか、という問題が生じます。遺産分割が未了なので、いくつかの割合が存在します。法定相続分、指定相続分、具体的相続分という3種類の割合があるのです。
この問題について、令和3年改正でルールが新たに条文として作られました。本記事ではこのことを説明します。

2 令和3年改正前の問題点(改正の趣旨)

令和3年改正前は、(遺産共有に共有の規定を適用する場合に)前述の3種類の割合のうち、どれを使うのか、ということについて確定的な見解がありませんでした。そこで、条文としてルールを作ることになったのです。

令和3年改正前の問題点(改正の趣旨)

[問題の所在]
共有に関する規定は、持分の割合に応じたルールを定めているが、相続により発生した遺産共有では、①法定相続分・指定相続分と、②具体的相続分のいずれが基準となるのか不明確
※「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント」法務省民事局2021年p34

3 令和3年改正後の民法898条

遺産共有に共有の規定を適用する場合の共有持分割合のルールは、民法898条2項として新設されました。まず、条文を押さえておきます。
条文には、900条から902条までの規定により算定した相続分(を適用する)と記述されています。民法900〜902条には、法定相続分遺言による指定相続分が規定されています。この2つが適用されるということになります。
一方、民法903条と904条の2には、特別受益寄与分が規定されています。
詳しくはこちら|特別受益の基本的事項(趣旨・持戻しの計算方法)
詳しくはこちら|寄与分|全体|趣旨・典型例
これらは(共有の規定の適用の場面では)適用しないことになります。つまり、共有の規定の適用の場面では、特別受益や寄与分を反映させた相続分(具体的相続分)は使わない、ということになります。

令和3年改正後の民法898条

(共同相続の効力)
第八百九十八条 相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。
2 相続財産について共有に関する規定を適用するときは、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分をもって各相続人の共有持分とする。
※民法898条

4 遺産分割における扱いとの違い(10年制限の有無・参考)

なお、令和3年改正で、遺産分割の手続では、「相続開始から10年経過後」の場合だけ、(原則として)特別受益と寄与分を反映させない扱いとなります(民法904条の3)。
共有の規定の適用の場面では、この「10年制限」はなく、相続開始直後でも特別受益と寄与分を反映させない扱いが発動します。

5 令和3年改正の要点

令和3年改正で新設されたルールをまとめると、遺産共有に共有の規定を適用する場面では、原則として法定相続分を使い、遺言で相続分が指定されている場合には、その割合(指定相続分)を使う、ということになります。

令和3年改正の要点

[改正法]
遺産共有状態にある共有物に共有に関する規定を適用するときは、法定相続分(相続分の指定があるケースは、指定相続分)により算定した持分を基準とすることを明記(新民法898Ⅱ)
※「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント」法務省民事局2021年p34

6 令和3年改正の民法898条2項適用の具体例

最後に、令和3年改正の民法898条2項を適用する具体例を挙げます。相続人がABCで、各相続分は3分の1というケースで、遺産に共有の規定を適用する場合には、(遺言による相続分指定がなければ)それぞれの共有持分割合は3分の1ということになります。Aに寄与分が認められる、Bに特別受益が認められる、ということがあってもカウントされません。
共有不動産の管理行為については、過半数の持分割合の賛成で決定となります。
詳しくはこちら|共有物の(狭義の)管理行為の基本的な内容
AとBが賛成すれば合計3分の2になるので意思決定ができる(可決となる)という結論になります。

令和3年改正の民法898条2項適用の具体例

(改正法適用の具体例)
(例)遺産として土地があり、A、B、Cが相続人(法定相続分各3分の1)であるケースでは、土地の管理に関する事項は、具体的相続分の割合に関係なく、A・Bの同意により決定することが可能
※「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント」法務省民事局2021年p34

本記事では、遺産共有に民法の共有の規定を適用する際の共有持分割合について説明しました。
実際には、個別的事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に共有物(共有不動産)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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