1 裁判に伴って専門委員調停委員として建築専門家が関与すると鑑定費用がかからない
2 専門委員の建築専門家の調査の前に,一定の主張,立証が必要
3 民事調停の場合,建築専門家が調停委員に選任されるとは限らない
4 訴訟,調停での建築専門家の現地調査進行協議期日現地における調停期日という扱いとなる
5 専門委員調停委員の現地調査の際は当事者(代理人)が立ち会う
6 専門委員調停委員の現地調査結果を審理で使うには証拠化が必要
7 付調停後,調停が成立した場合は,訴えの取下は不要;取下擬制
8 東京地裁民事22部(建築紛争専門部)では新築だけが対象とされる

1 裁判に伴って専門委員調停委員として建築専門家が関与すると鑑定費用がかからない

<発想>

建築瑕疵について,専門家に調査してもらいたいけど,費用を節約したい

一般的に私的鑑定を専門家に依頼すると,当然ですが,一定の費用がかかります。
<→別項目;私的鑑定の費用相場は,居住用住宅で30〜50万円程度
東京地方裁判所民事22部は建築専門部となっており,建築に関する紛争だけを担当しています。
建築紛争専門としている強力なメリットとして,調査自体の費用がかからない建築専門家の関与が挙げられます。
手続きとしては,次の2つのルートが用意されています。

<建築専門家の関与ルート>

専門委員として建築専門家を選任する
 ※民事訴訟法92条の2
・調停に付した上で調停委員として建築専門家を選任する
 ※民事調停法20条1項,8条

いずれのルートでも,建築専門家が関与し,建築瑕疵の有無について調査・判断をすることになります。
この場合,建築専門家による調査,に対する費用を当事者(原告や被告)が負担する,ということはありません。
結果的に,鑑定費用を節約する,ということが可能になります。
ただし,裁判官も現地に同行した場合などは,旅費については当事者が負担することになります。

2 専門委員の建築専門家の調査の前に,一定の主張,立証が必要

<発想>

東京地裁の建築紛争の専門部で,建築専門家に鑑定してもらいたいと思っている
どのような手続きをしたら良いのか

(1)専門家の調査の前に争点整理を行う必要がある

東京地裁に,建築紛争について訴訟提起すると,建築紛争の専門部である民事22部に配点されます。
ただ,『訴訟提起さえすれば,すぐに建築専門家が選任され,現地に調査しに来てくれる』,ということではありません。
その前に,原告が瑕疵の内容についてより正確に主張します。
写真その他の書類で,可能な範囲で証拠も提出します。
その上で,被告の主張も行われます。
このようなやりとりを経て,原告・被告の主張の食い違いがはっきりしてきます。
言い方を変えると,調査によって判断すべきこと(=専門家に判断を委ねるべき事項)が明確に特定される,ということです。
なお,このようなプロセスのことを争点整理と呼んでいます。

(2)争点整理の後に専門委員調停委員の調査が行われる

争点整理が終わった段階(=調査対象が明確化された段階)で,専門委員または調停委員として建築専門家が選任されるのです。
『とにかく現地を見ればひどさが分かる。早く見に来て欲しい』と考える方も多いです。
しかし,このような勢いだけではこの手続きは適用されないのです。

3 民事調停の場合,建築専門家が調停委員に選任されるとは限らない

民事調停は,簡易裁判所が管轄です。
この点,東京簡裁では建築紛争専門部はありません。
東京地裁では民事22部が建築紛争専門部となっており,建築の専門家が専門委員や調停委員の候補としてスタンバイしています。
しかし,東京簡裁ではそのような制度がないのです。
もちろん,調停委員の一部に建築専門家が混ざることもあるでしょう。
しかし,そうならない可能性もありますし,また,現地調査が行われるとは限りません。
制度としてしっかりと整備されているのは東京地裁22部だけなのです。

4 訴訟,調停での建築専門家の現地調査進行協議期日現地における調停期日という扱いとなる

民事訴訟,調停において,建築専門家が現地調査を行うことについての法律上の形式的な方式は次の2つとなります。

<建築専門家関与の法律上の根拠>

あ 専門委員として調査するケース

進行協議期日として実施する

い 調停委員として調査するケース

現地における調停期日として実施する

なお,一般的には,専門家ではなく裁判官が直接現地で確認・調査する,という方法もあります。
これを検証と呼びます(民事訴訟法232条)。
しかし,東京地裁民事22部では,建築専門家による調査が行われるので,裁判官のみによる調査はあまり意味がありません。
そこで,検証は原則的に実施されない運用となっています。

5 専門委員調停委員の現地調査の際は当事者(代理人)が立ち会う

建築専門家が専門委員調停委員として現地調査をする場合は,進行協議期日調停期日という形式となります。
期日であるので,原則的に当事者双方が立ち会う前提です。
通常は,代理人弁護士が立ち会います。
なお,規則上は,準備として,専門委員が単独で現地調査することも可能です(民事訴訟規則34条の6)。
しかし,東京地裁民事22部の運用では,この適用は行われていないのが実情です。
当事者が立ち会った上で調査をすることで公平・中立性が明確になりますし,準備とメインを重複するのは手間が過重となるからです。

6 専門委員調停委員の現地調査結果を審理で使うには証拠化が必要

(1)専門委員調停委員の調査結果を元にして和解協議が進む

調停委員が調査した結果については,(それ以降の)調停期日において,口頭で当事者に説明されるのが通常です。
この説明内容を元にして,当事者が譲歩して調停(和解)が成立する,ということはあります。
和解(調停)が成立しない場合も当然よくあります。
付調停により調停となっている場合,再び審理に戻ります。

(2)訴訟の審理では,調査結果証拠化が必要

審理では証拠を元に裁判官が建築瑕疵の有無や程度を判断します。
ここで,調停委員や専門委員の調査結果が,そのまま証拠になる,ということはありません。
この点,正式な鑑定であれば,その結果が訴訟の審理で証拠となります(民事訴訟法215条)。
しかし,建築専門家が専門委員または調停委員として調査に関与した場合は,鑑定ではありません。
これらの調査内容・判断結果を証拠として使うためには次のような方法を取ります。

<専門委員・調停委員の調査結果の証拠化方法>

・調査当日に当事者が写真撮影をして,写真撮影報告書(準書証)として提出する
・当事者が調停不成立調書を謄写し,これを書証として提出する
・尋問の際,専門委員から質問してもらう
 関係者の尋問について,調査を行った専門委員が質問者として参加する方式です。
 当事者の同意が必要となります(民事訴訟法92条の2第2項)。

7 付調停後,調停が成立した場合は,訴えの取下は不要;取下擬制

<事例設定>

東京地裁民事22部の訴訟が調停に付され,調停委員の調査が功を奏して,調停(和解)が成立した
訴訟本体はどうなるのか

訴訟が調停に付されると,訴訟本体の方は保留とも言える状態になります。
調停の手続において,調停成立に至ると,訴訟本体の方は,宙に浮いた状態,になります。
この点,法律上,訴えの取下とみなされるということになっています(取下擬制;民事調停法20条2項)。
訴訟については特別な手続を取る必要はありません。

8 東京地裁民事22部(建築紛争専門部)では新築だけが対象とされる

東京地裁民事22部は,建築紛争の専門部です。
運用上のルールとして扱う対象案件が特定されています。
法律上のルールではないので絶対ということはないです。運用としての実情です。

<東京地裁民事22部専門部の対象案件>

あ 建物建築請負に関するトラブル

設計監理,施工(請負代金請求,損害賠償請求)
工事に伴う振動又は地盤沈下(損害賠償請求)
※瑕疵,追加変更工事,出来高,工事の完成・未完成などの専門的事項が想定ではない案件は対象外

い 建物売買契約における瑕疵(損害賠償請求等)

新築物件は対象となる
中古物件は対象外

条文

[民事訴訟法]
(民事調停委員)
第八条  民事調停委員は、調停委員会で行う調停に関与するほか、裁判所の命を受けて、他の調停事件について、専門的な知識経験に基づく意見を述べ、嘱託に係る紛争の解決に関する事件の関係人の意見の聴取を行い、その他調停事件を処理するために必要な最高裁判所の定める事務を行う。
2  民事調停委員は、非常勤とし、その任免に関して必要な事項は、最高裁判所が定める。

(付調停)
第二十条  受訴裁判所は、適当であると認めるときは、職権で、事件を調停に付した上、管轄裁判所に処理させ又は自ら処理することができる。ただし、事件について争点及び証拠の整理が完了した後において、当事者の合意がない場合には、この限りでない。
2  前項の規定により事件を調停に付した場合において、調停が成立し又は第十七条の決定が確定したときは、訴えの取下げがあったものとみなす。
3  第一項の規定により受訴裁判所が自ら調停により事件を処理する場合には、調停主任は、第七条第一項の規定にかかわらず、受訴裁判所がその裁判官の中から指定する。
4  前三項の規定は、非訟事件を調停に付する場合について準用する。

(専門委員の関与)
第九十二条の二  裁判所は、争点若しくは証拠の整理又は訴訟手続の進行に関し必要な事項の協議をするに当たり、訴訟関係を明瞭にし、又は訴訟手続の円滑な進行を図るため必要があると認めるときは、当事者の意見を聴いて、決定で、専門的な知見に基づく説明を聴くために専門委員を手続に関与させることができる。この場合において、専門委員の説明は、裁判長が書面により又は口頭弁論若しくは弁論準備手続の期日において口頭でさせなければならない。
2  裁判所は、証拠調べをするに当たり、訴訟関係又は証拠調べの結果の趣旨を明瞭にするため必要があると認めるときは、当事者の意見を聴いて、決定で、証拠調べの期日において専門的な知見に基づく説明を聴くために専門委員を手続に関与させることができる。この場合において、証人若しくは当事者本人の尋問又は鑑定人質問の期日において専門委員に説明をさせるときは、裁判長は、当事者の同意を得て、訴訟関係又は証拠調べの結果の趣旨を明瞭にするために必要な事項について専門委員が証人、当事者本人又は鑑定人に対し直接に問いを発することを許すことができる。
3  裁判所は、和解を試みるに当たり、必要があると認めるときは、当事者の同意を得て、決定で、当事者双方が立ち会うことができる和解を試みる期日において専門的な知見に基づく説明を聴くために専門委員を手続に関与させることができる。

(鑑定人の陳述の方式等)
第二百十五条  裁判長は、鑑定人に、書面又は口頭で、意見を述べさせることができる。
2  裁判所は、鑑定人に意見を述べさせた場合において、当該意見の内容を明瞭にし、又はその根拠を確認するため必要があると認めるときは、申立てにより又は職権で、鑑定人に更に意見を述べさせることができる。

[民事調停法]
(付調停)
第二十条  受訴裁判所は、適当であると認めるときは、職権で、事件を調停に付した上、管轄裁判所に処理させ又は自ら処理することができる。ただし、事件について争点及び証拠の整理が完了した後において、当事者の合意がない場合には、この限りでない。
2  前項の規定により事件を調停に付した場合において、調停が成立し又は第十七条の決定が確定したときは、訴えの取下げがあったものとみなす。
3~4(略)


[民事訴訟規則]
第34条の6(専門委員に対する準備の指示等・法第92条の2)
1 裁判長は、法第92条の2(専門委員の関与)又は第34条の2(進行協議期日における専門委員の関与)の規定により専門委員に説明をさせるに当たり、必要があると認めるときは、専門委員に対し、係争物の現況の確認その他の準備を指示することができる。
2(略)