【建物の建築工事の監理・設計契約の締結義務と建築士の名義貸し】
1 建物の建築工事の監理・設計契約の締結義務と建築士の名義貸し
2 建築士の関与の強制と実情
3 建築士の名義貸しにおける契約当事者の特定
1 建物の建築工事の監理・設計契約の締結義務と建築士の名義貸し
建物の建築工事で施工ミスがあると,施工者の責任が生じるとともに,監理者や設計者にも責任が生じることがあります。
詳しくはこちら|建物建築工事における設計・監理業務の内容(告示・ガイドライン)
ところで,法律上,一定の規模の建物の設計と建築については,建築士に設計や監理を依頼することを要求しています。この義務を不正にクリアするために建築士が名義を貸すという手法が取られているケースもあります。
本記事では,監理や設計契約の締結義務と,建築士の名義貸しのケースで誰が契約当事者として扱われるかという問題について説明します。
2 建築士の関与の強制と実情
建築基準法と建築士法は,一定規模の建物については,建築士に設計と工事の監理を依頼することを強制しています。当然,危険な建物が作られないようにという趣旨です。
このルールを不正に回避する方法として,建築士の名義貸しが行われる実例もあります。
<建築士の関与の強制と実情>
あ 法令による契約義務
建築基準法,建築士法は,一定の規模・種類の建物の設計,建築については
建築士による設計と監理を要求している
※建築基準法5条の4,建築士法1条,3条以下
い 名義貸しの横行(※1)
実際には,建築確認申請のためだけ建築士の名義を貸す事例が多く見受けられる
※松本克美ほか編『専門訴訟講座2 建築訴訟 第2版』民事法研究会2013年p35,36
3 建築士の名義貸しにおける契約当事者の特定
本来あってはならないことですが,実際に設計や監理の契約書に調印した建築士が業務に関与していないという名義貸しの事例があります。
このような場合には,設計者や監理者としての責任を誰が負うのか,という問題があります。不正に名義を貸した建築士は,不正な方法を取ったのであるから委託を受けた者として扱うこともあります。一方で,現実に関与していないのであるから契約成立を否定するという扱いもあります。
<建築士の名義貸しにおける契約当事者の特定>
あ 法的扱いの問題
建築士の名義貸し(前記※1)がなされたケースにおいて
工事監理契約が建築主と建築士の間で成立しているのかどうかが問題となる
い 古い裁判例の傾向
確認申請書に設計者・監理者として記名捺印があった
→設計と監理について委託を受けたものと推認する
※名古屋地裁昭和48年10月23日
う 最近の裁判例の傾向
実質的に工事監理契約の締結がない場合には,契約成立を否定する
※松本克美ほか編『専門訴訟講座2 建築訴訟 第2版』民事法研究会2013年p36
本記事では,建物の建築工事における設計と監理の契約の締結義務と,建築士の名義貸しにおける契約当事者の判断について説明しました。
実際には,個別的な事情や主張・立証のやり方次第で結論が違ってくることもあります。
実際に建物の建築工事に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。