【建物賃貸借の相当賃料算定におけるスライド法】

1 建物賃貸借の相当賃料算定におけるスライド法
2 スライド法の基本的な考え方(概要)
3 変動率を乗じる2つの方法
4 変動率算定のための指数と総合判断
5 変動率算定において採用する指数の傾向
6 変動率の算定(指数の採用)の実例

1 建物賃貸借の相当賃料算定におけるスライド法

相当な賃料の算定手法の中にスライド法があります。主に借地についての利回り法については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|スライド法の基本(考え方と算定式)
本記事では,スライド法による算定の中で,建物の賃貸借に特有の算定方法について説明します。

2 スライド法の基本的な考え方(概要)

借地と建物賃貸借に共通して,スライド法の内容を大雑把にいうと,従前の賃料を物価の変動に合わせて変動させるというものです。

<スライド法の基本的な考え方(概要)>

従前賃料を物価の変動によってスライド(変動・比例)させる
詳しくはこちら|スライド法の基本(考え方と算定式)

3 変動率を乗じる2つの方法

スライド法は物価(などの)変動率を従前賃料に掛けるのですが,建物賃貸借の場合は,従前の賃料の内容を,土地と建物のそれぞれの使用対価について分けて,違う変動率を掛ける方法もあります。

<変動率を乗じる2つの方法>

あ 全体

変動率(騰貴率)を乗じる方法は2種類(い・う)がある

い まとめて乗じる方法

従前賃料全額に1つの変動率を乗じる
※大阪地裁昭和40年10月26日

う 土地・建物に区分する方法

従前賃料のうち純賃料額と地代相当分にそれぞれ対応した変動率を乗じる
※大阪地裁昭和42年8月17日
※京都地裁昭和47年4月27日

4 変動率算定のための指数と総合判断

スライド法で用いる変動率として,どの指数(指標)を使うのかはハッキリと決まっているわけではありません。消費者物価指数によるのが代表的ですが,他の指標も加味することがあります。借地の相当賃料算定で用いる指数と同様です。
詳しくはこちら|スライド法の試算における指数(指標)
なお,建物賃貸借の場合は,土地(利用権)と建物について別の指数(変動率)を用いることもあります(前記)。

<変動率算定のための指数と総合判断>

あ 主な指数(指標)

ア 土地建物価格の変動率(※1)イ 消費者物価指数の変動率ウ 所得水準の変動率

い 総合的な判断

『あ』などの指数を総合的に勘案して変動率を決めることが合理的である
※藤田耕三ほか編『不動産訴訟の実務 7訂版』新日本法規出版2010年p771

5 変動率算定において採用する指数の傾向

前記のようにスライド法で用いる指数には複数の候補があります。実際には物価指数を採用する傾向が強いです。家賃も物価に含まれるという考え方を元にして,家賃の指数も用いることもあります。
一方,不動産の価格(の指数)を使うと,利回り法と同じになってしまうので,総合方式の多様な視点で考えるという特徴が損なわれます。そこで土地建物価格の変動率は一般的に用いません。

<変動率算定において採用する指数の傾向>

あ 家賃指数・消費者物価指数の重視

平成3年以降は(平成3年基準が浸透した後は)
家賃の変動率が次第に統計資料としても現れた
家賃も物価の一種という考えもあり,
次第に家賃指数や消費者物価指数が利用されることが多くなった
※藤田耕三ほか編『不動産訴訟の実務 7訂版』新日本法規出版2010年p771

い 土地建物価格変動率の排除(概要) 

土地建物価格の変動率(前記※1)は使わない傾向がある(特に借地について)
詳しくはこちら|スライド法の試算における指数(指標)

6 変動率の算定(指数の採用)の実例

用いる指数を選択して採用し,変動率を決める実例を紹介します。物価指数を中心として,家賃指数も加えることがある,ということが分かります。

<変動率の算定(指数の採用)の実例>

あ 家賃指数+所得指数

東京都区内の民営家賃指数,総理府統計資料による一般勤労者の所得指数のそれぞれの変動率を参酌した上,統制額その他諸般の事情を勘案した
※江戸川簡裁昭和52年9月29日

い 家賃指数+消費者物価指数

東京都区部の家賃指数,同総合消費者物価指数のそれぞれの変動率による試算値と賃貸当事者間の主観的事情を総合した
※東京地裁昭和54年6月19日

う 消費者物価指数

東京都区部の消費者物価指数の変動率によるものと当事者間の具体的事情を総合した
※東京地裁昭和55年2月13日

本記事では,スライド法による建物賃貸借の相当賃料の算定について説明しました。
実際には,個別的な事情や主張・立証のやり方次第で結論が違ってきます。
実際に建物賃貸借の賃料の金額に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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