【スライド法の試算における指数(指標)】

1 鑑定評価基準における変動率の規定
2 指数選択の基本方針
3 選択する変動率の指数の分類
4 不動産価格の変動率
5 売上・所得に関する指数
6 物価指数
7 継続賃料の指数
8 借地に関するスライド法の指数の候補(まとめ)
9 借家に関するスライド法の指数の候補(まとめ)

1 鑑定評価基準における変動率の規定

本記事では,スライド法の試算で用いる指数の内容について説明します。
まずは,不動産鑑定評価基準の中の指数,つまり『変動率』についての規定を引用します。

<鑑定評価基準における変動率の規定>

1 変動率は、直近合意時点から価格時点までの間における経済情勢等の変化に即応する変動分を表すものであり、継続賃料固有の価格形成要因に留意しつつ、土地及び建物価格の変動、物価変動、所得水準の変動等を示す各種指数や整備された不動産インデックス等を総合的に勘案して求めるものとする。
※不動産鑑定評価基準p35(第7章第2節Ⅲ3(2)1)
詳しくはこちら|改定(継続)賃料に関する不動産鑑定評価基準の規定内容

2 指数選択の基本方針

スライド法の指数は,継続賃料の変動との相関性が大きいものを選択するという方針があります。

<指数選択の基本方針>

あ 選択の基本方針

継続賃料の変動との相関性の大きい指数を用いる

い 実務の現状

実務における現状について
継続賃料市場の動向を反映する信頼性のある指標が見いだせない
→いろいろな指数を総合的に勘案する傾向がある(後記※1
※賃料評価実務研究会『賃料評価の理論と実務〜継続賃料評価の再構築〜』住宅新報社p96,97

う 複数の指数の扱い

性格が異なる複数種類の指数を用いる場合
→変動率のレベルで調整することは妥当ではない
=1つの変動率にまとめることは妥当でない
それぞれを独立した指数として扱う
→それぞれの試算賃料を求めるべきである
※江間博『新版 不動産鑑定評価の実践理論』株式会社プログレスp97

3 選択する変動率の指数の分類

スライド法で用いる候補となる指数は多いです。指数を分類します。

<選択する変動率の指数の分類(※1)

あ 基本的事項

スライド法における変動率として用いる指数の候補として
主に『い〜え』の3つ種類に分けられる

い 不動産価格の変動率(後記※1
う 一般的経済事情の指数

ア 売上・所得に関する指数(後記※2 例;国民所得
イ 物価指数(後記※3

え 継続賃料の指数(後記※4

それぞれに分類される指数の内容については,以下順に説明します。

4 不動産価格の変動率

不動産価格の変動率を示す指数も存在します。
しかし,一般的にスライド法では用いられません。

<不動産価格の変動率(※1)

対象の不動産価格の変動率
正確には必要諸経費を控除したものの変動率である
→利回り法と同様の内容・結果になる
→現在では採用されない
※江間博『新版 不動産鑑定評価の実践理論』株式会社プログレスp96
※賃料評価実務研究会『賃料評価の理論と実務〜継続賃料評価の再構築〜』住宅新報社p96,97

5 売上・所得に関する指数

スライド法で用いる指数の典型は売上・所得に関する指数です。この内容をまとめます。

<売上・所得に関する指数(※2)

あ 国民所得指数

ア 基本的事項 総務省発表の1人当たり国民所得指数(イ)
=国民純生産−間接税
イ 国民所得指数 国民総所得(GNI)
=従前の国民総生産(GNP)

い 国内総生産(GDP)
う 売上高指数

経済産業省発表の小売業売上高指数

え 労働賃金指数

厚生労働省発表の1人当たり平均賃金に関する指数
※江間博『新版 不動産鑑定評価の実践理論』株式会社プログレスp97
※黒沢泰『新版 逐条詳解 不動産鑑定評価基準』株式会社プログレスp336
通貨供給量
※寺田逸郎『新しい『借地借家法』の成立』/『ジュリスト992号』1991年p28

6 物価指数

スライド法で物価指数が用いられることもあります。この内容をまとめます。

<物価指数(※3)

あ 消費者物価指数

消費者物価指数を用いるのが主流である
※横浜地小田原支部昭和45年6月10日
※大阪高裁昭和59年8月17日

い 卸売物価指数

卸売物価指数を用いることもある
※賃料評価実務研究会『賃料評価の理論と実務〜継続賃料評価の再構築〜』住宅新報社p96,97

う 企業物価指数
え 建設物価指数
お 企業向けサービス指数

※黒沢泰『新版 逐条詳解 不動産鑑定評価基準』株式会社プログレスp336
通貨供給量
※寺田逸郎『新しい『借地借家法』の成立』/『ジュリスト992号』1991年p28

7 継続賃料の指数

継続賃料の変動を示す指数は,スライド法で用いるのに適しています。
実際には信頼性のある指数が存在しないので用いることができないということも多いです。

<継続賃料の指数(※4)

あ 基本的事項

対象の賃料と同一の傾向のある市場の指数を選択する

い 新規賃料の指数

新規賃料は継続賃料とは別の市場である
→原則的に用いない
※江間博『新版 不動産鑑定評価の実践理論』株式会社プログレスp97

う 指数の例

ア 地代家賃統計指数 ※東京地裁昭和51年3月26日
※黒沢泰『新版 逐条詳解 不動産鑑定評価基準』株式会社プログレスp336
※藤田耕三ほか『不動産訴訟の実務 7訂版』新日本法規出版2010年p761

以下,実務で用いられることが多い指数の具体的内容について,借地・借家で分けてまとめます。

8 借地に関するスライド法の指数の候補(まとめ)

スライド法による借地の相当賃料の試算で用いられる代表的な指数をまとめます。

<借地に関するスライド法の指数の候補(まとめ)>

あ 消費者物価指数(CPI)

総合指数(全国・都市別)
公表機関=総務省統計局
国が行う基本統計として信頼性が高い
過去からの継続性もある
一般的な経済変動を捉える指標として最も重要である
全国的な調査である
→地域性・品目の細分化は不十分である
一般的に総合指数(全国,都市別)が有用である
他の指数は継続性・信頼性で劣る

い 企業物価指数(卸売物価指数)

公表機関=日本銀行調査統計局
かつては『卸売物価指数』として公表されていた
平成14年に名称が変更された
企業間の『物』の取引価格の変動を表す指標である
消費者物価指数の先行的指標として位置付けられる
不動産賃貸料を含むサービス価格は調査項目に入っていない

う 国内総生産(GDP)・国内総支出(GDE)

公表機関=内閣府経済社会総合研究所
日本全体の経済活動を表すマクロ経済指標である
不動産の賃料の変動を直接的に反映するものではない
賃料の変動も国全体の経済変動と一定の相関関係は想定できる

え 継続地代の実態調べ

『継続中の既存借地権の地代実態』
公表機関=日税不動産鑑定士会
東京23区を中心にその周辺地域が対象である
昭和49年から3年ごとに調査・発表している
地代の評価のために貴重な資料である

お 土地貸借条件・地代等の実態調査

発表機関=社団法人日本不動産鑑定協会近畿地域連絡協議会
近畿圏の土地賃貸条件・地代など
2年ごとに調査したもの
一般に公表されていない

か その他

各地の不動産鑑定士協会において
各地域の独自の調査を行ったものがある
一般に公表されている資料は少ない
※賃料評価実務研究会『賃料評価の理論と実務〜継続賃料評価の再構築〜』住宅新報社p97,98,100

9 借家に関するスライド法の指数の候補(まとめ)

スライド法による借家の相当賃料の試算で用いられる代表的な指数をまとめます。

<借家に関するスライド法の指数の候補(まとめ)>

あ 消費者物価指数(CPI)

総合指数・家賃指数(全国・都市別)
公表機関=総務省統計局
新規家賃や継続家賃の区別はない
調査時点の支払賃料額を基に指数化したものである
→継続家賃の性格が強い

い 企業向けサービス価格指数

公表機関=日本銀行調査統計局
企業のサービス価格の調査
日本銀行が平成3年より調査・公表している
不動産賃貸サービスの調査結果について
→地域別の公表は東京圏・名古屋圏・大阪圏の事務所賃料のみである

う 全国賃料統計

公表機関=財団法人日本不動産研究所
オフィス賃料・共同住宅賃料
平成8年より毎年9月に調査し指数化して公表している

え オフィスビル全国賃料改定状況調査

発表機関=株式会社生駒データサービス
平成9年より毎年
全国主要都市のオフィスビルの賃料改定状況
一般に公表されている情報は一部だけである

お ビル実態調査

公表機関=社団法人日本ビルヂング協会連合会
昭和40年から毎年調査を行っている
調査対象=同協会会員のビル

か その他のオフィスビル調査

オフィスの賃料については
大手オフィス仲介業者が調査・公開している
公平性・継続性などが不十分である傾向にある
一般的に,鑑定の指標としては妥当ではない

き その他の情報(公的機関)
指数 公表機関
実質賃金指数 厚生労働省
建築費指数 財団法人建設物価調査会
住宅・土地統計調査 総務省
小売物価統計調査 総務省
全国消費実態調査 総務省
く その他の情報(一般機関)

ア 住宅情報誌掲載新規募集賃料イ 新聞社各社の調査 例;住宅系新聞,経済紙
ウ インターネットの住宅情報サイト ※賃料評価実務研究会『賃料評価の理論と実務〜継続賃料評価の再構築〜』住宅新報社p98,99

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【スライド法の基本(考え方と算定式)】
【スライド法の不合理性と修正方法や総合方式での比重】

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