【不動産登記申請をした司法書士の責任の裁判例(代理人からの依頼・登記済証あり)】

1 不動産登記申請をした司法書士の責任の裁判例(代理人からの依頼・登記済証あり)
2 根抵当権抹消・本人面談なし・銀行1社の書類偽造発覚・責任あり
3 抵当権抹消・本人面談なし・偽造登記済証の住所に誤記・責任あり
4 売買・本人面談なし・本人の登記済証+印鑑証明書・責任なし
5 売買・本人面談なし・真正書類+金融機関の関与・責任なし
6 売買・本人面談なし・信用金庫の支店長の関与・責任なし

1 不動産登記申請をした司法書士の責任の裁判例(代理人からの依頼・登記済証あり)

司法書士が不正を見抜けなかったために虚偽の不動産登記申請を行ってしまい,司法書士の責任の有無が問題となるケースは多くあります。
責任の判断の枠組みはありますが,これによって個々の事案の責任を明確に判断できるわけではありません。
詳しくはこちら|不動産登記申請を行う司法書士の確認義務の枠組み(疑念性判断モデル)
本記事では,このような実例について司法書士の責任を判断した裁判例のうち,本人以外の者(代理人)からの依頼であり,かつ,(偽造のものも含めて)登記済証を受け取った(保証書や本人確認情報の作成はない)ケースについて紹介します。

2 根抵当権抹消・本人面談なし・銀行1社の書類偽造発覚・責任あり

根抵当権抹消の登記申請について,登記義務者本人(根抵当権者の担当者)と面談しないまま登記申請をしてしまったケースです。
登記済証や委任状は精巧に偽造されていたので,見抜けないことがミスとはいえない状態でした。
しかし,当初依頼された抹消すべき複数の根抵当権のうち,1社については,抹消の委任をしていない,つまり,登記済証や委任状を誰かに渡したことはないということが発覚しました。
この時点で,他の根抵当権者の登記済証や委任状も偽造であることを疑うべきだったのに,司法書士は,その1社だけを除外して,他の根抵当権の抹消登記を申請したのです。
このような経緯から,司法書士の責任(過失)があると判断されました。

<根抵当権抹消・本人面談なし・銀行1社の書類偽造発覚・責任あり>

あ 申請した登記

先順位根抵当権抹消登記,根抵当権設定登記
(借換え)

い 精巧な偽造書類

別の司法書士Cから,登記義務者である先順位根抵当権者の委任状・登記済証を受領した
これらは精巧に偽造されたものであった
→一見して不自然,不合理と認められる点はなかった

う 一部の金融機関についての虚偽発覚

その後,先順位根抵当権者のうちF銀行の根抵当権抹消関係書類に不備があった
登記権利者X(金融機関)は,F銀行に問い合わせた
F銀行の担当者は,根抵当権の抹消を依頼していないと回答した
Xは,F銀行の根抵当権は抹消しなくて良いと考えた
Xは司法書士にその旨を伝えた

え 登記の申請と実行

F銀行以外の根抵当権の抹消登記とXの根抵当権設定登記を申請した
これらの登記が実行された

お 偽造の発覚

後から,F銀行以外の先順位根抵当権者に関する書類も偽造であることが発覚した

か 司法書士の責任

F銀行に関して虚偽の説明(登記済証・委任状の偽造)が発覚した時点で疑念性が生じた
司法書士の賠償責任あり
※東京地裁平成16年9月6日

3 抵当権抹消・本人面談なし・偽造登記済証の住所に誤記・責任あり

根抵当権抹消の登記申請について,司法書士が登記義務者本人(根抵当権者の担当者)に面談しなかったケースです。
依頼してきた者は,登記済証と委任状を偽造していました。これらの文面には誤字や不自然な記載内容があり,司法書士は見抜くべきだったと判断されました。
結局,司法書士の責任(過失)があると判断されました。

<抵当権抹消・本人面談なし・偽造登記済証の住所に誤記・責任あり>

あ 申請した登記

先順位抵当権抹消・抵当権設定(借換え)

い 不自然な状況

登記申請委任状・登記済証が偽造であった
根抵当権設定契約証書(登記済証)に抵当権設定者の住所の明白な誤記があった
(『新区』→本来は『新宿区』)
被担保債権の範囲に不自然な記載があった
(『平成12年9月29日債権者株式会社K各債務者等の保証委託契約による一切の求償権』→本来は『・・・に基づいてKが保証すべき債務』)
抵当権設定登記の抹消登記手続に必要な書類を事前に送付しなかった
(約束では前日に送付することとなっていた)

う 司法書士の確認不足

司法書士は抵当権者(登記義務者)Kに問い合わせをしなかった

え 司法書士の責任

司法書士の賠償責任あり
※東京地裁平成17年11月29日

4 売買・本人面談なし・本人の登記済証+印鑑証明書・責任なし

以上の事案は司法書士の責任が認められたものです。次に,司法書士の責任が否定されたケースを紹介します。
売買の登記について,売主(所有者)本人と面談しないまま登記申請をしてしまったケースです。
依頼してきた者は,真正な印鑑証明書と委任状を持ってきていました。しかも,これらは,真の所有者が記入して交付したものだったのです。
また,売買に伴う担保権設定の登記については,金融機関から依頼されていました。
以上から,司法書士が所有者本人が依頼していると信じるような状況であると判断されました。
結論として,司法書士の責任(過失)は否定されました。

<売買・本人面談なし・本人の登記済証+印鑑証明書・責任なし>

あ 申請した登記

売買(所有権移転)と抵当権設定

所有権移転 X→A
根抵当権設定 A→金融機関
い 依頼の経緯

土地建物の所有者X
Aが,Xから登記済証・印鑑証明書・白紙委任状をだまし取った
Aが所有者Xの代理人として司法書士に依頼した
登記に必要な書類(特に登記済証・印鑑証明書)が揃っていた
(AがXからだまし取ったものであった)
委任状の押印はX自身によるものであった
金融機関からも依頼されていた
司法書士はX本人に面談していない

う 司法書士の責任

司法書士の賠償責任なし
※東京地裁昭和61年10月31日

5 売買・本人面談なし・真正書類+金融機関の関与・責任なし

売買の登記について,売主(所有者)本人に面談しないまま登記申請をしたケースです。
依頼してきた者が持ってきた印鑑証明書と委任状は真正なものでした。また,この司法書士が過去に依頼を受けたことのある金融機関も,担保権設定登記の依頼者となっていました。
以上から,真の所有者が依頼していると信じるような状況にあったと判断されました。
そこで,司法書士の責任(過失)は否定されました。

<売買・本人面談なし・真正書類+金融機関の関与・責任なし>

あ 申請した登記

所有権移転・根抵当権抹消

い 依頼の経緯

登記申請に必要な書類は,すべて自称代理人Aと金融機関が揃えていた
委任状の印影は印鑑証明書により実印と確認できた
金融機関からも依頼を受けていた
司法書士は,過去にAから登記申請を数件受任していた,事故を起こしたことはなかった

う 司法書士の責任

司法書士の賠償責任なし
※東京高裁平成2年1月29日

6 売買・本人面談なし・信用金庫の支店長の関与・責任なし

売買の登記について,売主(所有者)本人と面談しないまま登記申請をしてしまったケースです。
売買やこれに伴う融資については,金融機関を含む当事者の間で交渉が成立し,契約の調印まで終わっていました。代金決済の直前に司法書士は依頼されたのです。
また,売主本人は決済の現場にはいませんでしたが,売主の元夫が同席していました。
多少疑わしい状況ではありましたが,取引の関係者の間で相互に信頼している状態であり,かつ,司法書士には十分な本人確認をする時間(機会)がなかったことから,司法書士の責任(過失)はないと判断されました。

<売買・本人面談なし・信用金庫の支店長の関与・責任なし>

あ 申請した登記

所有権移転・抵当権設定

い 当事者

売主(所有者)=A
B=Aの元夫
BがAの代わりに在席していた

う 信用する事情

信用金庫の支店長が関与して土地売買と融資の話がまとまった
司法書士は,融資実行,代金決済の段階に至って初めて取引場所に呼ばれた
その時点では,登記申請に必要な書類はすべて揃っていた

え 信用できない事情

売主の代理人(同席していた者)は売主の元夫であった
売主本人の意思確認は『本人と称する者』からかかってきた電話でなされた

お 司法書士の責任

司法書士の賠償責任なし
※福岡高裁平成12年6月28日

本記事では,不正な不動産登記申請をしてしまった司法書士の法的責任を判断した裁判例を紹介しました。
実際には,個別的な事情や,その主張・立証のやり方次第で判断結果は変わります。
実際に司法書士の責任(不正な登記)に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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