【建物の瑕疵の鑑定(建築士の検査・調査)費用の相場と誰が負担するか】

1 建物の瑕疵の鑑定費用の相場と誰が負担するか
2 建築専門家(建築士)による鑑定の費用の相場
3 鑑定(調査)費用に影響を与える事情の例
4 私的鑑定の費用負担の原則とその理由
5 私的鑑定の費用を相手が負担する例外
6 裁判所の鑑定の費用の予納
7 裁判所の鑑定の費用の最終分担
8 専門委員や調停委員による調査費用の負担(概要)

1 建物の瑕疵の鑑定費用の相場と誰が負担するか

建物の瑕疵に関するトラブルを解決するためには,建物の鑑定(調査)が必要になります。
詳しくはこちら|建築のトラブルにおける判断のハードルと建築専門家の協力の必要性
本記事では,建物の鑑定(調査)の費用の相場や,これを誰が負担するのか,という問題について説明します。

2 建築専門家(建築士)による鑑定の費用の相場

建築の専門家による私的鑑定の費用は,個別的な事情によって変わってきます。
比較的小規模の居住用住宅で20〜40万円程度となることが多いです。
1時間1万円という時間単価で費用を算定する方法もよくあります。

<建築専門家(建築士)による鑑定の費用の相場>

あ 建築士のタイムチャージの相場

一般的な建築士のタイムチャージの相場
→1時間1万円程度

い 簡易鑑定の費用の相場

書面作成を伴わない簡易な鑑定の費用の目安
→10万円程度

う 私的鑑定書の作成費用の相場

調査対象=木造2階建中小規模住宅
目視・簡単な測定を伴う現地調査+私的鑑定書の作成の費用の目安
→20〜40万円程度

え 特殊性がある調査の費用の相場

他の分野の専門家の協力が必要or特殊な機械や検査を伴う場合
→100万円以上となることが多い
※第二東京弁護士会消費者問題対策委員会ほか編『改訂 欠陥住宅紛争解決のための建築知識』ぎょうせい2011年p297

3 鑑定(調査)費用に影響を与える事情の例

以上の説明は,建物の鑑定の費用のごく平均的な相場でした。
実際には,建物の規模や調査事項(調査対象の箇所),調査・判断の精度によって大きく費用は異なります。

<鑑定(調査)費用に影響を与える事情の例>

あ 鑑定の所要時間
い 鑑定の手間
う 鑑定に必要とする知識の量
え 責任の大きさ

例=建物や瑕疵の規模

お 専門家の権威の大きさ

鑑定結果の信頼性にも影響する

4 私的鑑定の費用負担の原則とその理由

建物の瑕疵の私的鑑定の費用は,原則的に,鑑定を依頼した者が負担します。
鑑定費用も含めて,瑕疵に責任がある施工会社や売主が負担するべきという感覚もあります。しかし,住宅取得者が,取引に伴って負ったリスクの一環として考える傾向が強いです。

<私的鑑定の費用負担の原則とその理由>

あ 一般的な原則

鑑定を依頼した者が負担する

い 理由

売買や建築の依頼(契約)を行う時点において
買主・施主は,事後的なトラブル発生,その場合のコスト負担というリスクを負っている
取引相手を選ぶ・取引する時点でこのようなコスト・リスクの負担を受け入れている
取引相手として別の者を選べば避けられたコストである
(契約一般に該当することである)

5 私的鑑定の費用を相手が負担する例外

私的鑑定の費用を住宅取得者(買主・施主)が負担するのは妥当ではないという状況もあります。
個別的事情によっては,例外的に,住宅取得者が相手(売主・施工業者)に鑑定費用(相当額)を請求できることもあります。

<私的鑑定の費用を相手が負担する例外>

あ 例外的な費用負担

鑑定を依頼していない者が鑑定の費用を負担する
例=施主が鑑定を依頼し,施工業者が費用を負担する

い 例外となる事情の例

ア 建築瑕疵が認められるイ 瑕疵の判断が困難・高度である 専門家の鑑定がほぼ不可欠であったといえる
ウ 強硬な責任の否定 相手方(施工業者)が瑕疵の存在・責任を頑なに否定していた

6 裁判所の鑑定の費用の予納

以上の説明は私的鑑定に関するものでした。
一方,裁判所が行う鑑定の場合は,その費用の負担(分担)の方法が違います。
まず,鑑定を実施する前の段階で,鑑定を申し立てた者が費用を暫定的に支払います。これを予納金とよびます。

<裁判所の鑑定の費用の予納>

あ 鑑定の申立人による予納金

訴訟において,裁判所が鑑定人を選任し,鑑定が施行される場合
裁判所が費用を出す(立て替える)ということは行われない
鑑定申立をした方が,鑑定費用相当額を裁判所に予納する扱いが一般的である

い 双方申立における予納金の折半

実際には,裁判所からの提案で,原告・被告の両方が鑑定申立をすることも多い
双方申立の場合は,鑑定費用を折半して予納すると扱いが一般的である

7 裁判所の鑑定の費用の最終分担

裁判所による鑑定の場合は,予納金を支払った者最終的に鑑定費用を負担する者が違うこともあります。
裁判所が,判決の中で負担する割合を指定します。
一方,和解で終わった場合は,当事者が和解内容の一環として決めることになります。

<裁判所の鑑定の費用の最終分担>

あ 判決による負担割合の指定

ア 判決による指定 最終的に,判決に至った場合
→判決の中で訴訟費用の(原告・被告の)負担割合が指定される
鑑定費用も訴訟費用に含まれている
イ 指定する割合の傾向 認められた瑕疵(請求額)の程度によって,訴訟費用の負担割合が決められることが多い
ウ 指定割合の具体例 1000万円の請求のうち,認容された金額が700万円の場合
→訴訟費用の10分の7を被告(施工業者)が負担する
ただし請求認容割合と訴訟費用の負担割合が必ずしも一致するわけではない

い 和解の際の負担割合

ア 和解の中での決定 和解が成立して訴訟が終わった場合
→和解内容によって鑑定費用の負担割合が決まる
イ 実務的な傾向 実務上は,鑑定費用を含めた訴訟費用は各自が負担することが多い
→お互いに請求しないという意味である
鑑定金額の清算も含めて和解金や解決金に織り込むということである

8 専門委員や調停委員による調査費用の負担(概要)

以上の説明は鑑定に関するものでした。
これとは別に,裁判所の専門委員調停委員(である建築士)が,建物の調査を行うこともあります。
この場合は,調査のための費用はかかりません。
詳しくはこちら|建築に関する訴訟に建築専門家が関与する制度(鑑定・付調停・専門委員)

本記事では,私的鑑定や(裁判所による)鑑定の費用の相場やその負担(分担)について説明しました。
実際の紛争解決においては,鑑定費用の負担についても戦略的に主張する必要があります。
実際に建築に関するトラブルに直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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