【不動産の付合の典型例(農作物・樹木・設備・機械)】

1 不動産の付合の典型例
2 権原ありの場合の農作物の不動産への付合
3 権原なしの場合の農作物の不動産への付合
4 無権原植栽者の農作物の所有権を認める見解
5 権原なしの場合の樹木の不動産への付合
6 権原ありの樹木と対抗関係
7 設備・機械の不動産への付合

1 不動産の付合の典型例

不動産に動産が物理的に付着すると,『付合』として,所有権が不動産所有者に移転することがあります。
詳しくはこちら|不動産の付合の基本(従として付合した動産は不動産所有者が取得する)
本記事では,不動産の付合が成立する典型例を用いて,問題となりやすい解釈について説明します。

2 権原ありの場合の農作物の不動産への付合

形式的に不動産の付合が成立しても,権原に基づいた行為による場合は,付合の効果は生じません。
植物の種子については多少異なる見解もありますが,実質的な違いはないといえます。

<権原ありの場合の農作物の不動産への付合>

あ 農作物に関する一般的見解

種子・稲苗などの農作物について
植栽が賃借権などの権原に基づく場合
→付合しない
※大判大正17年2月24日

い 種子に関する他の見解

種子の状態の時だけは付合するという見解もある
※川島武宣ほか編『新版 注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p400参照

3 権原なしの場合の農作物の不動産への付合

権原がない者が農作物を植栽しても,付合は原則どおり成立します。
特殊な事情がある場合には,例外的に付合が成立しないということもあります。

<権原なしの場合の農作物の不動産への付合>

あ 一般的見解

権原なく植栽された農作物について
→土地に付合する
※大判大正10年6月1日;小麦の種子について
※最高裁昭和31年6月19日;播種後生育した甜瓜苗について
※大判昭和6年10月30日,大判昭和12年3月10日;稲苗・稲立毛について

い 他の見解

無権原でも農作物に対する独立の所有権を認める方向性の見解もある(後記※1

う 費用償還請求権

無権原で植栽された農作物について
→償還請求権はあり得る
※民法248条,703条,704条

4 無権原植栽者の農作物の所有権を認める見解

例外的に,無権原で植栽した者に農作物の所有権を認めるケースもあります。
植栽している期間が長期間である場合に,このような例外扱いがなされることがあります。

<無権原植栽者の農作物の所有権を認める見解(※2)

農作物の植栽の権原があると信じていたケースについて
→無権原者の所有権を認めた
※大判昭和7年5月19日;黙示の権原付与によって
※大判大正10年4月4日;民法189条1項orその期待権によって

5 権原なしの場合の樹木の不動産への付合

樹木を土地に植えると,形式的(客観的)に付合の状態になります。
植樹する権原がない(無断であった)場合は,付合が成立します。
ただし,植樹した状況が長期間継続していると,救済的な解釈で付合が成立しないこともあります。

<権原なしの場合の樹木の不動産への付合>

あ 原則

権原なしで植栽された樹木について
→土地に付合する
※秋田地裁昭和30年8月9日

い 黙示の権原付与による付合の否定

植栽・管理に対して土地所有者が異議を述べなかった
→権原の付与を認める
→土地に付合しない
※大判大正9年12月16日
※大判昭和7年5月19日
※最高裁昭和39年12月11日

う 時効取得による付合の否定

長期に管理・育成していた
→樹木の時効取得を認めた
(結果的に付合の効果を否定したのと同じになった)
※最高裁昭和39年12月11日
※最高裁昭和38年12月13日
※最高裁昭和46年11月26日

6 権原ありの樹木と対抗関係

植樹する権原のある者が植樹した樹木については付合が成立しません。
そこで,樹木は植樹した者の所有物となります。
しかし,樹木の権利を持たない土地所有者が,樹木を(土地と一緒に)売却してしまったケースでは複雑になります。
明認方法によって優劣(所有権をどちらが得るか)が決まることになるのです。

<権原ありの樹木と対抗関係>

あ 対抗関係

Aの所有土地上にBが権原によって植樹した
土地所有者Aが,土地と樹木をCに譲渡した
→B・Cは対抗関係となる

い 明認方法による優劣

明認方法を得た方が優先される
例=Bが明認方法を得ていればBに樹木の所有権が認められる
※最高裁昭和35年3月1日
※最高裁昭和41年10月21日
(参考)対抗要件の制度について説明している記事
詳しくはこちら|対抗要件の制度(対抗関係における登記による優劣)の基本

7 設備・機械の不動産への付合

建物内に大型の設備や機械を設置すると付合が成立することがあります。
設備を取り外すことができるかどうかという判断で決まります。
しかし,実際にははっきり判別できないことも多いです。
価値が大きい機械・設備について,付合に該当するかしないかについて,熾烈な対立が生じることがあります。

<設備・機械の不動産への付合>

あ 付合の成立

設備が取り外せない場合
→付合を認める
※東京地裁昭和42年11月27日

い 付合の不成立

設備が取り外せる場合
→付合を認めない
※大阪地裁昭和48年4月23日
※熊本地裁昭和54年8月7日

本記事では,不動産の付合の典型例を元に主要な解釈論を説明しました。
具体的な事情によって判断は大きく異なります。
実際の問題に直面されている方は,本記事の内容だけで判断せず,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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