【法定地上権の物理的要件（設定時に建物が存在すること）の解釈論】

１　法定地上権の物理的要件

法定地上権の成立要件の中の１つに物理的要件があります。
抵当権設定の時点で土地上に建物がある，という要件です。
詳しくはこちら｜法定地上権の成立要件には物理的要件や所有者要件がある
本記事では，物理的要件に関する細かい解釈論を説明します。

物理的要件は，あくまでも現実に建物が存在するという内容です。
登記されているかどうかは関係ありません。

物理的要件について
現実に建物が存在していれば足りる
建物保存登記は不要である
※大判昭和１４年１２月１９日

建物を建築する予定の段階ではまだ建物が存在するとはいえません。
そこで物理的要件を満たしません。

土地抵当権設定当時において
建物が存在しない
建築予定にすぎない

将来建物が建てられることについて
土地抵当権者があらかじめ承認していた

『あ』に該当する場合
『い』があってもなくても
物理的要件を満たさない
→法定地上権の成立を否定する
※最高裁昭和５１年２月２７日

建物の建築工事中の段階でもまだ建物が存在するとはいえません。
そこで，物理的要件を満たしません。

土地抵当権設定当時において
建物建築に着手していた

抵当権者は土地を更地として評価していたはずである
→物理的要件を満たさない
→法定地上権の成立を否定する
※最高裁昭和３６年２月１０日

建物の建築工事が進み建物といえる段階までは，建物が存在することにはなりません。
このように建物未満であっても，ほぼ完成という状態の場合には，物理的要件を満たすと判断されることもあり得ます。

土地抵当権設定当時において
建物建築の工事中であった

建物の規模・種類が外形上予想できる程度までに進行していた

法定地上権を肯定しても抵当権者に不測の損害を与えない
社会経済上も建物の存立を図る必要性がある

物理的要件を満たす
→法定地上権の成立を肯定した
※東京高裁昭和４７年５月２４日

以上の説明のように，建物の建築工事が終盤であれば建物未満であっても物理的要件を満たすという判断があり得ます。
実務的な基準としては，抵当権設定と建物完成のズレが数か月以内であれば物理的要件を満たすと判断する傾向があります。

建物完成が土地抵当権設定から数か月以内である

特段の事情がない限り
土地抵当権設定時には建物の規模が通常予想できる
→法定地上権の成立を肯定している
※東京地裁民事執行実務研究会編『改訂不動産執行の理論と実務（上）』法曹会１９９９年ｐ２６５