1 借地非訟手続の管轄
2 借地非訟手続の管轄
3 借地非訟手続と調停前置
4 職権調査主義・非公開
5 審理の方法(審問期日)
6 鑑定委員会の意見(概要)
7 借地非訟手続における和解・調停
8 本裁判・付随的裁判の決定と効力
9 決定の確定と不服申立(即時抗告)

1 借地非訟手続の管轄

借地非訟の裁判には,大きく4つの種類のものがあります。
詳しくはこちら|借地非訟の裁判の制度の全体像(変遷・趣旨・性質)
本記事では,借地非訟に共通する手続について説明します。

2 借地非訟手続の管轄

借地非訟の管轄は,要するに申し立てる裁判所がどこか,というルールです。
対象の土地のエリアに限定されます。
当事者の合意によって簡易裁判所に変えることはできます。
しかし,場所は変えることができません。

<借地非訟手続の管轄>

あ 原則

借地権の目的の土地の所在地を管轄する地方裁判所

い 合意管轄

当事者の合意がある場合
→土地の所在地を管轄する簡易裁判所も可能である
※借地借家法41条

3 借地非訟手続と調停前置

借地非訟の裁判には調停前置のルールはありません。
借地(や借家)の賃料改定の裁判では調停前置の適用があります。
そのため,誤解する人も多いので,調停前置の適用の有無を整理しておきます。

<借地非訟手続と調停前置(なし)>

あ 調停前置の適用なし

借地非訟手続について
最初に調停を申し立てる必要はない

い 調停前置のある手続(比較)

賃料増減額請求(賃料改定手続)
→調停前置の適用がある
詳しくはこちら|賃料改定事件の裁判手続(調停前置の適用範囲と例外)

4 職権調査主義・非公開

借地非訟の裁判は,文字どおり『非訟』ですので,非訟事件手続法が適用されます。
主なものとしては職権調査と非公開というものがあります。
一般的な訴訟にはない特徴です。

<職権調査主義・非公開>

あ 借地非訟の手続に関する規定

原則として非訟事件手続法が適用される
借地借家法に特則があるものを除く
※借地借家法42条1項参照

い 職権調査主義

裁判所は職権で事実の調査をする
申立or職権で必要と認める証拠調べをする
当事者はこれに協力する
※非訟事件手続法49条

う 非公開

原則として審理は非公開である
裁判所は相当と認める者の傍聴を許可できる
※非訟事件手続法30条

5 審理の方法(審問期日)

借地非訟の審理は審問期日によって行われます。
訴訟とは違うルールですが,実務の運用では当事者の両方が出席します。
期日の点では,訴訟と現実的な違いはありません。

<審理の方法(審問期日)>

あ 審問期日

借地非訟の審理は『審問期日』によって進められる
※借地借家法51条

い 同一期日の指定

実務では通常,当事者双方に対する同一の審問期日が指定される
=当事者双方の立会で行われる
※澤野順彦『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p211

6 鑑定委員会の意見(概要)

借地非訟の裁判では,鑑定委員会の意見が尊重されています。
鑑定委員会のメンバーは弁護士・不動産鑑定士・一級建築士の3名であることが多いです。
実際には鑑定委員会の意見どおりに裁判所が判断(裁判)することが多いです。
当事者(代理人弁護士)は鑑定委員会に,当方に有利な見解を持つような主張・立証活動が求められます。
詳しくはこちら|借地非訟の裁判における鑑定委員会とその意見

7 借地非訟手続における和解・調停

借地非訟の手続において和解が成立することは多いです。
単に話し合う,というよりも,鑑定委員会の意見の影響が大きいことが要因です。
なお,ルール上は調停に移すこともできます。
実際には調停に移すメリットがあまりないので,行われることは少ないです。

<借地非訟手続における和解・調停>

あ 和解の実情

鑑定委員会の意見(意見書)が提出された後において
これを参考として和解交渉が進むことが多い
和解が成立するケースも多い

い 付調停の制度

裁判所は借地非訟事件を調停に付すこともできる
※民事調停法20条1項,4項

う 付調停の実情

借地非訟事件も実質的な交渉に適している(あ)
→調停に付するケースは少ない
※澤野順彦『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p212

8 本裁判・付随的裁判の決定と効力

借地非訟では,和解が成立しない限り,最終的には裁判所が判断します。
具体的にはメインの本裁判と付随的裁判がセットになるのが通常です。
いわゆる承諾料を条件として許可するというものが典型例です。

<本裁判・付随的裁判の決定と効力>

あ 借地非訟事件の裁判の方式

決定によりなされる
※非訟事件手続法54条

い 付随的裁判の効力

法律上は給付を命じる部分は執行力を有する
※借地借家法55条2項

う 付随的裁判の実情

個別的な決定内容としては
財産上の給付を認容決定の効力発生の条件とすることが一般的である
→この場合は給付部分に執行力はない

9 決定の確定と不服申立(即時抗告)

裁判所の決定に対しては即時抗告をすることができます。
2週間の期限を超えると即時抗告ができなくなります。
これを確定と呼びます。
確定した時点で決定が効力を生じます。

<決定の確定と不服申立(即時抗告)>

あ 決定の確定

決定は確定しないと効力を生じない
※借地借家法55条2項

い 不服申立(即時抗告)

当事者は即時抗告をすることができる
期限=告知を受けた日から2週間以内
※非訟事件手続法66条,67条