【不動産売買の仲介抜き行為の責任(みなし報酬・損害賠償)】

1 不動産売買の仲介抜き行為の責任(みなし報酬・損害賠償)

宅建業者の努力で不動産売買契約が締結に至った場合、仲介手数料(報酬請求権)が発生しますが、成立した売買契約が解消された場合、その状況によって、仲介手数料は発生しなくなる、あるいは減額になる、ということがあります。
詳しくはこちら|売買契約解消×仲介手数料|全体|報酬請求権・相当額・算定
そのようなイレギュラーなケースの1つとして、当事者が意図的に仲介抜きで売買契約をするという悪質な手法があります。仲介の抜き行為と呼ばれるものです。
本記事では、(仲介)抜き行為では、どのような責任が発生するか、具体的には、みなし報酬損害賠償義務が発生するかどうか、ということを説明します。

2 仲介抜き行為の手法と法的扱いの要点

(仲介)抜き行為とは、文字どおり、仲介業者を抜きにして、当事者(売主と買主)だけで、直接売買契約を締結する、というものです。仲介業者が抜きになる(排除される)ので、(形式的には)仲介手数料を払わなくてよくなる、という構造です。
もちろん、状況によって、当事者は実質的な仲介手数料を支払う義務を負うことになります。

仲介抜き行為の手法と法的扱いの要点

あ 仲介抜き行為の内容

仲介業者の紹介によって知った当事者と、仲介業者を排除して直接取引すること
仲介手数料を逃れる目的で行われることが多い

い 法的扱いの要点

ア 特約によるみなし報酬 仲介契約(媒介契約)の中に、直接取引(抜き行為)をした場合には一定の報酬(に相当する)請求権が発生するという特約がある場合
→この特約により、報酬を請求できる
イ 民法上のみなし報酬 仲介手数料が発生する条件の成就を当事者が妨げたことになる
→報酬請求権が発生する
報酬の金額は相当額(後記※1)となる
※民法130条、商法512条
ウ 不法行為による損害賠償 仲介契約の当事者ではない者が、抜き行為に加担した場合
不法行為による損害賠償責任を負うことがある

3 抜き行為発生(助長)の背景→成功報酬という解釈

なお、抜き行為が発生する背景として、仲介手数料(宅建業者の報酬)は成功報酬である、つまり売買契約が成立するまでは発生させてはいけないという規制があるからです。規制とはいっても、条文に明記されているわけではなく、国交省がそのような見解を示している、という状況です。このことについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|宅建業法の報酬は成功報酬(成約前の請求・受領は違法)という考えがある

4 みなし報酬の相当額算定の傾向と具体例

前述のように、抜き行為がなされた場合、仲介業者は本来発生したはずの報酬を請求できることがあります。請求できる金額は、本来発生したはずの報酬の金額(満額)とは限りません。たとえば、仲介業者の努力で契約書締結の直前まで進んでいた(のに仲介業者抜きで直接契約をされた)場合には、その成果はほぼすべて仲介業者の努力によるものです。手柄だけ横取りされた状態なので、みなし報酬は、本来発生した報酬の金額(満額)となります。
一方、仲介業者にミスが多いので、まだ売買すると決まっていない初期段階で仲介業者が外された(媒介契約の解除)場合には、逆に、当事者同士の直接交渉のおかげで売買契約の締結に至ったといえます。仲介業者の成果は少ないので、みなし報酬が発生するとしても低めの金額となります。

みなし報酬の相当額算定の傾向と具体例

あ みなし報酬の「相当額」の算定傾向
仲介業者の影響 「相当額」の算定傾向
先行契約解消への関与が大きい 小さい
後行契約成立への関与が大きい 大きい
い 相当額算定の例

ア 実質的完結ケース 売買契約締結直前で抜き行為がなされた
→本来発生した仲介手数料と同額(満額)
イ 未完結ケース 仲介業者の不備が多かった
事後的な当事者の努力が大きかった
→本来発生した仲介手数料の5割程度

5 特約による相当額報酬請求権を認めた裁判例(本来の5割)

以上のように、抜き行為によるみなし報酬は、発生するとしてもその金額は、個別的な事情によって大きく違ってきます。
以下、いくつか具体例を紹介します。
まず、特約(約款)に基づくみなし報酬(相当額報酬)が(本来の報酬額の)5割と認められた事例を紹介します。
成立した売買契約に、仲介業者が関与(寄与)した程度を判断するために、多くの事情が考慮されていることが分かります。トータルで(100%とゼロの)ちょうど中間とする、と考えられたのです。

特約による相当額報酬請求権を認めた裁判例(本来の5割)

あ 事案の要点

買主(候補者)と仲介業者が媒介契約を締結した
一般媒介契約書の仲介抜き行為に関して、みなし報酬(相当額報酬請求権)の特約があった

い 特約(約款)内容

本件約款には、要旨以下の記載がある。
・・・
被告賛興は、本件約款の有効期間内に原告以外の宅地建物取引業者に重ねて本件物件の売買又は交換の媒介又は代理を依頼しようとするときは、原告に対して、その旨を通知する義務を負う。
一般媒介契約の有効期間内又は有効期間の満了後2年以内に、被告賛興が、原告の紹介によって知った相手方原告を排除して目的物件の売買又は交換の契約を締結した時は、原告は、被告賛興に対して、契約の成立に寄与した割合に応じた相当額の報酬を請求できる(以下「本件相当額報酬請求権」という。)。

う 約款による請求権の発生

被告Sは、一般媒介契約の有効期間内である平成22年9月10日に、原告の紹介によって知った訴外Oとの間で、原告を排除して本件物件につき売買契約2を締結したものであるから、本件約款に基づき、売買契約2の成立に寄与した割合に応じた本件相当額報酬請求権を有するというべきである。

え 相当額の算定

ア 高額方向の事情 本件物件は、原告が平成22年7月14日被告賛興に紹介し、本件売買契約締結日である同年9月6日までの間、仲介業務を行い、同日、締結に至っているものであること、
売買契約2は、本件売買契約解除の翌日に締結されていること、
本件売買契約及び売買契約2の融資銀行はいずれも本件銀行であり、売買契約2が速やかに締結・実行されたのは、本件売買契約において提出されていた資料等が売買契約2の融資に利用されたものと推認されること、
本件売買契約において手付金として訴外大美に支払われていた2000万円が売買契約2の売買代金の一部と相殺処理されていること、
本件売買契約解除後、被告賛興は、原告に対し、売買契約2の交渉を継続していることを一切告げていないこと、
イ 低額方向の事情 他方、
本件売買契約は、原告の提案により融資特約条項に基づいて解除されたものであること、
本件売買契約が解除されたのは、本件和解調書が、本件売買契約当日まで被告賛興に呈示されなかったことが主たる原因となったものと認められること
からすれば、被告賛興が原告ではなく被告代理人に売買契約2の交渉を依頼したことにも相応の理由があると認められること、
売買契約2は、被告代理人による交渉がなければ締結に至らなかったことが推認されること
ウ まとめ など、本件証拠に顕れた事情を総合勘案すれば、原告が、売買契約2の成立に寄与した割合は5割と認めるのが相当であり、被告Sは、原告に対し、売買契約2の売買代金2億2850万円の2.5%に6万円及び消費税を加算した(甲2の割合による)606万1125円の5割である303万0562円を支払う義務があると認めるのが相当である。

え 特約の解釈(目的(主観)の影響→なし)

・・・本件約款が本件相当額報酬請求権の支払義務を定める趣旨には、不動産取引の媒介に誠実に努力した媒介者の媒介報酬を意図的に排除する目的で、売買契約の当事者間で直接に取引することを防止する意図があるとしても、
本件相当額報酬請求権を認める期間を媒介契約の有効期間の満了後2年以内長期に定めていることからすれば、上記媒介者を意図的に排除する目的の有無にかかわらず、媒介者の行った労力に対し、その効果が残存していると認められる相当な期間について、媒介者の寄与に応じて仲介手数料の支払義務を認める趣旨があるものと解するのが合理的である・・・
※東京地判平成24年11月16日

6 民法上のみなし報酬を認めた裁判例(上限の約8割)

次に紹介する事例は、みなし報酬を定める特約(約款)はなかったケースです。特約はなくても、民法上の規定によって、みなし報酬が認められました。
細かい判断の中身ははっきりと示されていませんが、結論として売買代金額の3%の80%がみなし報酬の金額となりました。
宅建業法の規制で、報酬(仲介手数料)の上限は売買代金額の3%+6万円となっています。裁判所は、+6万円は除外して、単に3%を上限として使ったのでしょう。
その上で裁判所は、仲介業者の関与(寄与)の程度を80%であると評価した、と読み取れます。
ちなみに、もともと両手仲介だったので、売買代金額の3%の80%の金額を売主と買主それぞれに請求できる結果となっています。つまりトータルでは両手仲介の手数料上限の約8割が認められたということです。

民法上のみなし報酬を認めた裁判例(上限の約8割)

あ 事案の要点

売主・買主が(単独の)仲介業者を通して売買契約を締結した
交渉における代金額は3400万円とほぼ合意されていた
売主・買主が、仲介手数料を逃れる目的で仲介業者抜きで、直接売買契約を締結した
後行の売買代金額は3280万円であった
(先行の売買代金額3400万円から媒介手数料相当額120万円を控除したものである)

い みなし報酬の発生

仲介契約は、売買契約成立を停止条件に相当額の報酬を支払うことを約す契約であるから、依頼者が故意に停止条件の成就を妨げたときは、その条件を成就したものとして、仲介者は依頼者にその報酬を請求しうるものであり(民法130条)、報酬額の取りきめがないときには、相当額の仲介報酬料を支払うべきである(商法512条)。
よって、原告に対し、被告Dは売却仲介にかかる報酬を、被告Cは買受仲介にかかる報酬をそれぞれ支払わなければならない。

う 相当額(報酬額)算定の判断要素

ア 上限張り付き慣行→否定 同報酬額について、原告は、被告らとの間において、売買代金額の3パーセントに6万円を加算した額であるとする慣行があると主張するが、これを認めるに足りる証拠はない
イ 判断要素 同報酬額については、宅建業法46条1項、昭和45年建設省告示1552号に定める最高限度額108万円(売買代金額の3パーセントに6万円を加算した額)の範囲内において、仲介の難易、仲介行為の内容及び程度、期間、労力、仲介業者の寄与度、委任者との関係、その他諸般の事情を斟酌して判断すべきである。

え 相当額→売買代金の3%(の80%)

・・・経過及び事情に照らすと、各被告が支払うべき報酬額としては、成立予定であった売買代金額3400万円の3パーセント(102万円)80パーセント(81万6000円)に消費税分5パーセントを加算した85万6800円をもって相当額と考える。
3400万円×0.03×0.8×(1+0.05)=85万6800円

お 両手(2倍)

よって、被告らはそれぞれ、原告に対して、仲介報酬として85万6800円及びこれに対する本件不動産の売買を原因とする所有権移転登記が済んだ平成12年8月21日から支払済みまで商法所定の年6分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

か 不真正連帯

ア 債権侵害 被告らは原告を除外して直接取引をしたのであるが、このことにより、被告Cは原告の被告Dに対する報酬請求権を侵害し、被告Dは原告の被告Cに対する報酬請求権を侵害したことになり、いずれも民法709条による債権侵害と認めることができる。
各被告は、原告が受けるべき各報酬相当額につき損害賠償すべきである。
よって、各被告はいずれも原告に対し、損害賠償として85万6800円及びこれに対する上記平成12年8月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務がある。
イ 不真正連帯債務 上記被告Dの報酬支払義務と被告Cの損害賠償支払義務は、損害賠償支払義務の限度で不真正連帯債務の関係にあり、また、被告Cの報酬支払義務と被告Dの損害賠償支払義務も、損害賠償支払義務の限度で不真正連帯債務の関係にある。
※岡山地倉敷支判平成15年1月15日

7 抜き行為のみなし報酬を認めた他の裁判例(7割・6分の1)

繰り返しになりますが、抜き行為のみなし報酬は、個別的な事情によって認められるかどうか、認められる場合にはその金額が、個別的事情によって大きく違います。
たとえば、本来の報酬の7割と認められた実例、6分の1だけが認められた実例などがあります。

抜き行為のみなし報酬を認めた他の裁判例(7割・6分の1)

あ 7割認定事例

相当額として、本来の仲介手数料の7割を認めた
※大阪地裁昭和55年12月18日

い 6分の1認定事例

相当額として、本来の仲介手数料の6分の1を認めた
※東京地裁昭和56年6月29日

本記事では、不動産売買の仲介抜き行為による責任(みなし報酬)について説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に不動産仲介に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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