1 賃貸ビルでの悪臭によってオーナーが損害賠償義務を負う
2 賃貸ビルが悪臭で使えない→賃料を支払わなくて良い
3 上の階からの水漏れについては,オーナーに過失がある場合は損害賠償責任が生じる
4 賃貸ビルのエレベーター過剰混雑→オーナーの損害賠償責任が生じる
5 近隣の嫌がらせが過剰→オーナーへの損害賠償請求や契約解除が認められる

1 賃貸ビルでの悪臭によってオーナーが損害賠償義務を負う

<事例設定>

当社は,賃貸ビルの1フロアを借りて,衣類販売業を行っている
別フロアに入居している居酒屋からの臭いが結構ひどい
衣類に臭いが吸着してしまっている
ビルオーナーに責任を追及できないのか

賃貸借契約におけるオーナーは賃借人に使用収益をさせる義務を負っています(民法601条)。
店舗など営業用の物件では,入居者に営業活動をさせる義務です。
より詳しく言えば,営業活動の妨害となる状態を除去する義務と言えます。
本件では,悪臭に関する解決策を取るという義務です。
具体的には『悪臭の発生源である入居者に,悪臭発生を止めるよう要請すること』となりましょう。
ただし,僅かでも臭いが発生していたらオーナーに責任が生じる,というわけではありません。
常識的な範囲を超える臭い(悪臭)が発生している場合だけです。
専門用語で受任限度(を超える)と言います。
裁判例では,大部分の人が不快感を示す魚の臭い,について,受忍限度を超えたものと認めています。
※東京地裁平成15年1月27日
結論的には賃貸人(オーナー)に対し,損害賠償責任を認めました。

2 賃貸ビルが悪臭で使えない→賃料を支払わなくて良い

<事例設定>

A社は,賃貸ビルの1フロアを借りて,レストランを営業している
ビルのメンテナンスの不備で,下水の配管が損傷し,悪臭が発生している
オーナーにすぐに伝えましたが,なかなか直してくれない
レストランの営業ができないような状態である
オーナーに対してどのような請求ができるのか

飲食店の営業が目的として賃貸借契約が締結されていると思われます。
悪臭の程度によっては営業すること自体に差支えが生じるでしょう。
賃貸人は,修繕義務を負います(民法606条1項)。
賃貸人が修繕義務を履行しない場合,賃貸人は次のような法的責任が生じます。
※東京地裁平成24年7月25日

<悪臭により営業ができない場合の法的な結論>

あ 賃料支払義務の免除
賃借人は賃料を支払わなくても良い
修繕義務不履行による危険負担という制度
※民法536条1項類推
い 逸失利益の損害賠償
本来入るはずであった売上(利益)相当額の損害賠償が認められる

修繕がなされない結果,レストランの営業ができないことになります。
そうすると,当然本来入るはずだった売上(利益)が入らないという状態になっているはずです。
これを逸失利益と呼びます。
逸失利益については,損害として,賃貸人に賠償請求できることになります(民法415条)。
なお,悪臭により,店舗の転居をせざるを得ない,という状況であれば,転居にかかる費用も損害に含まれると考えられます。

3 上の階からの水漏れについては,オーナーに過失がある場合は損害賠償責任が生じる

<事例設定>

A社は,賃貸ビルに入居している
1フロア上から水漏れが発生し,A社の事務所が水浸しになった
各種機材・什器類が壊れた
階上の入居者は倒産している
オーナーに損害賠償請求をできないのか

賃貸借契約においては,賃貸人は賃借人に目的物を使用・収益させる義務があります。
階上からの水漏れによって水浸しになれば,使用・収益ができない状態になったと言えます。
では,賃貸人の使用・収益させる義務の違反と言えるでしょうか。
この点,債務不履行については,過失が前提であると解釈されています。
この事例では,階上からの水漏れの原因を突き止めていくことになります。
例えば,次のように考えます。

<水漏れの原因と賃貸人の責任>

あ オーナーの責任が認められない事情

・水道の止め忘れ(出しっぱなし)
・掃除不足による排水口の詰まり
 →入居者に過失あり
  賃貸人(オーナー)には過失がない
  →賃貸人の責任が認められない

い オーナーの責任が認められる事情

・排水管のメンテナンス不足(錆の発生など)
 →入居者に過失はない
  賃貸人(オーナー)に過失あり
  →賃貸人の責任は認められる

実際の水漏れ事故のケースでも,階上の入居者とオーナーの両方に過失を認め,最終的にオーナーの損害賠償責任を肯定した裁判例があります。
※東京地裁平成20年4月22日

4 賃貸ビルのエレベーター過剰混雑→オーナーの損害賠償責任が生じる

<事例設定>

A社は,賃貸ビルの1フロアを借りている
他のフロアの居酒屋の顧客が高い頻度でエレベーターを使っている
結局A社の顧客やスタッフは,スムーズにエレベーターを使えない
ビルオーナーに責任を追及できないのか

賃貸ビルでの店舗営業においては,エレベーターのスムーズな利用は非常に重要です。
他のフロアの店舗の顧客によってほぼ間断なくエレベーターが使用されることは問題です。
もちろん,100%エレベーターが利用できなくなるわけではありません。
しかし,現実的に,営業活動に大きな打撃が与えられることでしょう。
このような実際のケースについての裁判例では,使用収益させる義務の『不完全』履行と認定しています。
※東京地裁平成10年9月30日
つまり債務不履行の一種です。
賃貸人(オーナー)に対する損害賠償請求が認められることになります。
裁判例においては,賃借物の一部滅失のルール(民法611条2項)を類推適用して,契約解除を認めました。

5 近隣の嫌がらせが過剰→オーナーへの損害賠償請求や契約解除が認められる

<事例設定>

賃貸マンションに入居した
後から分かったのだが,1フロア上の居住者が,精神疾患のある乱暴な人であった
日頃,嫌がらせを受けていて辛い状況にある
オーナーに対して責任追及できないのか

居住用の賃貸建物については,賃貸人には平穏・円満な居住環境を維持する義務が認められます。
近隣に粗暴な者が居住しており,賃借人が日頃嫌がらせを受けているような場合は,居住環境を維持する義務,が履行されていないことになります。
債務不履行に該当します。
そこで,賃借人(入居者)は,賃貸人に対する損害賠償請求契約解除をすることができます。
※大阪地裁平成元年4月13日