【受領拒絶による供託|基本|弁済提供の必要性・賃料増減額との関係】

1 受領拒絶による供託|弁済の提供|原則

弁済供託の1つとして『受領拒絶による供託』があります。
本記事では受領拒絶による供託の基本的事項を説明します。
まず『弁済の提供』が供託の前提として必要とされています。
これについてまとめます。

受領拒絶による供託|弁済の提供|原則

あ 弁済の提供の必要性|原則

弁済の提供が必要である
債権者が予め弁済の受領を拒絶していても省略できない
※大判明治40年5月20日
※大判昭和16年11月29日

い 弁済の提供|内容

現実or口頭の提供が必要である
※東京地裁昭和36年6月23日
※横浜地裁昭和63年4月22日

う 弁済の提供|ない場合→無効

弁済提供がない供託は無効となる
※大阪地裁昭和32年3月26日

このように、原則的に弁済の提供が必要なのです。
『弁済を提供しても債権者が受け取らない』という場合に供託ができるのです。
これ自体は当然のように思えます。
逆に言えば『債権者が受け取らないから払わないまま』ではまずいのです。
債務者は損賠賠償責任を負うとか解除されるなどのリスクがあるのです。

2 受領拒絶による供託|弁済の提供|例外

『弁済の提供が必要』という解釈には例外もあります。

受領拒絶による供託|弁済の提供|例外

債権者が明確な受領拒絶の意思を持っている場合
→例外的に『弁済提供』は不要となる

これについては別に説明しています。
詳しくはこちら|弁済供託|受領拒絶による供託|明確な受領拒絶意思→弁済提供不要
次に『弁済の提供』に関する具体的事例の判断、判例を紹介します。

3 現実の提供×債権者居留守|判例

債権者が居留守を使って受け取らない、というケースです。

現実の提供×債権者居留守|判例

あ 事案

債務者が弁済のための金銭を債権者のもとに持参した
債権者が居留守を使った=受領を拒絶した
これが2、3回繰り返された

い 裁判所の判断

現実の提供あり、と認めた
※東京地裁昭和39年6月10日

4 現実の提供×債権者不在|判例

債権者が不在なので供託をしたというケースを紹介します。

現実の提供×債権者不在|判例

あ 事案

債権者が不在であった
債務者が弁済供託をした
債権者は『提供がないので弁済供託は無効だ』と考えた
債務者の動産について動産執行を申し立てた

い 裁判所の判断

債務者の営業が妨害された
債権者は損害賠償責任を負う
※大判昭和9年7月17日

債権者から積極的に攻撃してきた、という様相です。
さすがに不当な方法だと考えられる状況です。
債権者の方が賠償責任を負う、という結果になりました。

5 提供から供託までの期間|2年9か月→有効|判例

弁済の提供があってもその後『長時間が経過した』というケースです。

提供から供託までの期間|2年9か月→有効|判例

あ 事案

債務者は弁済の提供をした
2年9か月半が経過した
債務者は弁済供託をした

い 裁判所の判断

弁済供託を有効と認めた
※大判昭和15年1月6日

いったん拒否した以上は、長時間経過後の供託を認めるという判断でした。

6 平成6年東京地判・銀行送金の組戻→受領拒絶にあたる

債権者が債務者の指定口座に送金したのに対し、債務者が銀行に組戻しを依頼したため、結局債権者に送金が戻されたケースがあります。これについて裁判所は受領拒絶にあたると判断しました。つまり、弁済供託は有効、という判断です。

平成6年東京地判・銀行送金の組戻→受領拒絶にあたる

・・・原告は、平成元年五月一二日に被告の指定銀行口座に賃料及び管理費を振込送金したが、送金に係る金銭が被告の銀行口座に入金されず、同月二二日、原告の銀行口座に戻されたことが認められ、この事実と〈書証番号略〉を合わせ考えると、この振込金の返金は、被告による取引銀行への受領拒絶の依頼に基づくものと推認される。
してみると、被告は原告による賃料及び管理費の送金の受領を拒絶したものと認められるから、原告による弁済供託は、その効力を有するものということができる。
※東京地判平成6年1月26日(判タ853号p273)

7 賃料増額請求×弁済供託

賃貸借において賃料増額や減額請求の制度があります。
詳しくはこちら|借地・借家の賃料増減額請求の基本
この場合『賃料を受け取らない』ということが生じやすいです。
そして、誤解により『滞納の状態』になってしまうケースもあります。
弁護士が誤解して損害が生じたケースもあるくらいです。
詳しくはこちら|不慣れな弁護士のミス→賠償責任|不動産・税務編
賃料増額請求に関連する供託の事例を紹介します。

賃料増額請求×弁済供託

あ 弁済の提供・必要性|基本

『賃料増額請求』が行われた場合
→相当額の賃料の提供が必要である
例;従前同様の金額
『弁済提供+拒絶』がないのに供託した場合
→供託は無効となる
※名古屋地裁昭和47年4月27日

い 留保付受領意思→供託可能

賃借人が相当額の賃料を提供した
+賃貸人が『一部弁済として受領する』意思表示をした場合
→『全額として』は『受領拒絶』となる
→(賃貸人主張の金額の)提供がなくても供託可能
※名古屋高裁昭和58年9月28日
※東京地裁平成5年4月20日

賃料増減額請求における賃料支払のルールについては別に説明しています。
詳しくはこちら|賃料増減額の紛争中の暫定的な賃料支払(基本・誤解による解除事例)

本記事では、受領拒絶による弁済供託の基本的事項任について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に弁済供託に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【弁済供託|基本|制度趣旨・被供託者|受領拒否/不能・債権者不確知】
【弁済供託|受領拒絶による供託|明確な受領拒絶意思→弁済提供不要】

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