1 土地オーナーは『有効利用・高度利用』が要請される|時代の変化
2 有効活用目的の貸地明渡・正当事由が認められる傾向+明渡料高額化
3 『背景の主張』次第で明渡料高額化が抑制できる
4 有効利用・高度利用を理由とする正当事由|肯定された判例
5 有効利用・高度利用を理由とする正当事由|否定された判例
6 『借地人の』土地の高度利用計画→正当事由を否定した判例

1 土地オーナーは『有効利用・高度利用』が要請される|時代の変化

(1)『土地所有の優位性』強調地代=製造業全盛の高度成長期

『土地利用の必要性』の中でもよく問題になるのが『土地の有効利用・高度利用』です。
要するに,地主が老朽化した建物を解体し,地代のニーズに合った建物・ビルを建築する,というものです。
昔は『土地所有者=優位な立場』という感覚が強かったです。
そのため『借地人保護』が強く,『有効利用による正当事由(明渡)』は否定される傾向がありました。

(2)『土地の有効活用』強調地代=IT化社会

しかし,現在では産業・社会構造(人口分布)の変化により『土地所有の優位性』は低くなっています。
『土地さえあれば,自ら事業を行うか貸して不労所得を得る』ということは現在では成り立ちません。

(3)不動産のオーナーの重い税金の負担→有効活用が必須

むしろ,不動産のオーナーは,固定資産税や将来の相続税という『重い負担』が課せられています。
そのため,オーナー側のニーズとして,老朽化した建物を機能の優れた建物に再築し,収益性を改善する必要に迫られています。
貸家を解体し,高層建物・ビルを建築する,という方法が典型です。
有効活用→社会への価値提供,という方向性が期待されているのです。

2 有効活用目的の貸地明渡・正当事由が認められる傾向+明渡料高額化

時代の流れに伴い『有効利用による正当事由(明渡)』が認められる傾向が強くなっています。
当然,明渡料として経済的負担(借地人への配分)ということが条件とされるのが通常です。
次に,土地の有効利用が正当事由に該当するかどうかを判断した判例を紹介します。
ただ『明渡料で補完する』ことが要求されるのが通常です。
明渡料は高額化する傾向があります。

3 『背景の主張』次第で明渡料高額化が抑制できる

一方で収益改善の根本的背景をうまく裁判官に伝えることができれば高額化を抑制できます。

<オーナーの立場・背景=収益改善は必須>

収益改善の理由は『金儲け』という低レベルの欲求ではない
固定資産税・将来の相続税により多くの財産を失う想定がある
最小限の資産維持・最悪の事態防止のためには収益改善以外の方法がない

次に有効利用・高度利用を理由とした『正当事由』の具体例・判例を紹介します。

4 有効利用・高度利用を理由とする正当事由|肯定された判例

<借地の代替物件を取得するための資金提供>

あ 東京地裁平成7年2月24日

明渡料=6450万円=代替物件を取得する費用相当額
→これによって正当事由を肯定

い 東京地裁平成10年5月21日

明渡料=6500万円
→これによって正当事由を肯定
土地使用の必要性は『経済的な利益の追求にある』

<移転先がある場合・提供された場合>

あ 東京地裁平成6年8月25日

借地人が既に『移転先物件』を保有していた
明渡料=10億3800万円
→これによって正当事由を肯定

い 東京地裁平成7年9月26日

借地人は他所に居住していた
借地上の建物は賃貸していた
明渡料=3000万円
→これによって正当事由を肯定

5 有効利用・高度利用を理由とする正当事由|否定された判例

(1)地主の土地の高度利用計画→正当事由が認められなかった判例

『土地の高度利用』については,古い時代は否定的見解が強かったです(前述)。
また,個別的な事情によって否定されることもあります。

<菓子製造販売業の社員寮建築計画>

あ 事案

地主=菓子製造・販売業(法人)
地主が社員寮を建築する計画があった

い 裁判所の判断

正当事由を否定した
※東京地裁昭和53年12月8日

<隣地と一体としたビル建築計画>

あ 事案

地主が隣地(更地)と一体としてビル建築予定

い 裁判所の判断

正当事由を否定した
※東京地裁昭和61年12月26日

<本社ビル建築計画>

あ 事案

地主=リゾートマンション開発業者(法人)
地主が本社ビル建築計画を立てた

い 裁判所の判断

正当事由を否定した
※東京高裁平成4年6月24日

<借地人による映画館経営の存在意義を尊重>

あ 事案

借地人の利用形態=映画館運営

い 裁判所の判断

社会的に有意義な活動
従業員に雇用の機会を提供
多種多様の知的蓄積をも含んだ文化的意義・社会的意義も有する
→正当事由を否定した
※東京地裁平成5年9月13日

『映画館』が娯楽の中で重要な地位を占めていた,という時代背景がありました。
現在では,インターネッツの爆発的普及→娯楽の超多様化,という社会的事実があります。
この判例の判断は現代では再現性が低くなっています。

6 『借地人の』土地の高度利用計画→正当事由を否定した判例

特殊な事例として『借地人側の』土地有効活用が考慮されたものがあります。

<借地人側の土地の有効利用計画|借地人の防御策>

あ 事案

借地人が『高層ビルへの改築計画』を立てている
借地人は,『借地条件変更許可』を裁判所に申し立てている

い 一般的な判断の傾向

借地人の予定が『建物現存』ではない
→正当事由肯定方向

う 本件の裁判所の判断

『借地人の計画の実現が可能であること』を考慮する
ポイント;『借地人の計画を地主が妨害』という関係と捉えた
→正当事由を否定した
※東京地裁平成2年4月25日

一般的には『借地人が現存建物として使用しない』計画は保護されません。
つまり正当事由を肯定=明渡を認める,という方向性です。
しかし,このケースでは『借地人の計画を地主が妨害』という関係だと判断されたのです。
そこで『一般論』が逆転した状態と言えます。
さらに違う角度からみると『借地人による,地主の高度利用計画キャンセラー(無効化)』とも言えましょう。