【マンションの老朽化→大規模修繕or建替え|修繕積立金の清算|マンション建替円滑化法】
1 マンションの老朽化→大規模修繕の場合,修繕積立金+不足額徴収となることが多い
2 マンションの老朽化→建替えの場合,修繕積立金は使えない
3 建替えに反対の区分所有者は,強制的に買い取られる|売渡請求・買取請求(上記※2)
4 売渡請求・買取請求の『時価』は『建替後の新マンション』の想定から遡って算定する
5 建替えに反対した区分所有者は,『時価』+『修繕積立金の返還』を受ける|投下資本の回収
6 マンションの建替えは,建替組合設立によりスムーズに進める|マンション建替円滑化法
7 国土交通省のマニュアル抜粋|『時価』
8 マンション全体+敷地売却・建替の容積率優遇措置|平成26年改正
1 マンションの老朽化→大規模修繕の場合,修繕積立金+不足額徴収となることが多い
全国的に,昭和50年代前後で『分譲マンション』が流行りました。
多くのマンションが建築されました。
現在,老朽化の進んだマンションが多く存在している状態です。
『大規模な修繕』や『全面建替』が行なわれつつあります。
より『合意形成(決議)』のハードルが低い『大規模修繕』から説明します。
<マンションの『大規模修繕』|まとめ>
あ 法的な扱い
大規模な共用部分の修繕→共用部分の『変更』
い 総会の決議要件
区分所有者およびその議決権の各4分の3
※区分所有法17条1項
う 費用負担
『修繕積立金』
不足する場合は区分所有者が徴収される
修繕に反対した区分所有者も,賛成した方と同様に費用を負担する義務があります。
もちろん『修繕積立金』でカバーされれば良いです。
文字どおり『修繕』なので『取り崩し』が認められます(標準管理規約28条1項)。
しかし,老朽化が進んだマンションの大規模な修繕の場合,通常『予算オーバー』となります。
管理組合が区分所有者から,多額の『不足額』を徴収することになります。
この費用については,区分所有者の私物(動産)に対する『先取特権』が認められます(区分所有法7条)。
差押などの強制執行が,より強化されているのです。
現実には,金融機関の融資を促すなどの交渉・努力により回収を実現することが多いです。
詳しくはこちら|集会|決議事項『管理・変更』|対象行為・判断基準・具体例
2 マンションの老朽化→建替えの場合,修繕積立金は使えない
(1)マンションの建替えはハードルが高い
老朽化の程度・立地によっては,全面的な建替えの方が合理的,ということもあります。
当然,すべての区分所有者にとって影響が大きいことです。
ハードルは高く設定されています。
<マンションの『建替え』|まとめ>
あ 法的な扱い
建替え
い 総会の決議要件
区分所有者及び議決権の各5分の4以上の賛成
う 費用負担
(賛成した)区分所有者
『修繕積立金』は使えない(※1)
え 売渡請求
反対した区分所有者は,強制的に買い取られる(※2)
建替えの費用は,賛成した区分所有者が負担することになります。
『修繕積立金』は原則的に使えません。
詳しくはこちら|区分所有法の集会・総会|基本|決議要件|管理規約の効力
(2)建替えに関して『修繕積立金』は使えない
<建替え×『修繕積立金』>
あ 原則
趣旨が違うので,通常は取り崩しができない
※標準管理規約28条1項
い 例外=事前調査費用
『建替えをすべきかどうか』の事前調査
(建物の建替えに係る合意形成に必要となる事項の調査)
※標準管理規約28条1項4号
う 修繕積立金の行方
区分所有者への返還(清算)が行われる
3 建替えに反対の区分所有者は,強制的に買い取られる|売渡請求・買取請求(上記※2)
(1)売渡請求・買取請求
建替えに反対した区分所有者は,『建替えに参加させられる』というわけではありません。
<建替えに反対した区分所有者の排除>
あ 売渡請求
建替え賛成者や『建替組合』→『建替えに反対した区分所有者』
い 買取請求
『建替えに反対した区分所有者』→『建替組合』
う 売渡・買取の『代金額』
『時価』
※区分所有法63条,マンション建替円滑化法64条1項,3項
4 売渡請求・買取請求の『時価』は『建替後の新マンション』の想定から遡って算定する
実際には,『時価』の金額について見解の相違→紛争となることが多いです。
『時価』については,判例の蓄積がありません。
この点,国土交通省の公的見解がありますので,まとめます。
<マンションの『時価』|国土交通省の見解|まとめ>
あ 1棟の建物全体の評価額
再建建物の敷地として予定した敷地の更地価格と現在の建物の取壊し費用の差額
い 各住戸の配分割合
各住戸の専有面積比×効用格差
効用格差=用途別・階層別・位置別の場所的利益(比率)
う 各住戸の評価額
各住戸の評価額(売渡金額)=1棟全体の評価額(上記『あ』)×各住戸の配分割合(上記『い』)
※国土交通省|マンションの建替えに向けた合意形成に関するマニュアル(後記『7』)
あくまでも標準的・基本的な算定方法の概要です。
5 建替えに反対した区分所有者は,『時価』+『修繕積立金の返還』を受ける|投下資本の回収
(1)建替え反対者は『時価』を受け取る
建替えに反対した区分所有者は,売渡請求or買取請求により,権利を失うことになります。
その対価が,代金としての『時価』となります。
当初,マンション購入によって得た資産が,再び金銭に戻った,という見方ができます(投下資本の回収)。
(2)建替え反対者は『修繕積立金の返還(清算)』を受ける
『修繕積立金』は,『預けていた資金』ですので,返還を受けられます。
<修繕積立金の清算|まとめ>
従前の管理組合
建替え合意により消滅する
理事長は『修繕積立金の残額』の清算義務を負う
返還する者
建替え決議時点の区分所有者
分配割合
修繕積立金の負担割合
共用部分の持分割合
床面積の割合
※区分所有法19条,64条
6 マンションの建替えは,建替組合設立によりスムーズに進める|マンション建替円滑化法
マンションの建替えの一連の流れは,時間・手間・規模が大きく,これに伴い,費用的コストも大きいです。
大きなプロジェクトとなります。
このプロジェクトをサポートするために,マンション建替円滑化法による制度が用意されています。
<マンション建替円滑化法による制度|概要>
あ マンション建替組合
一定の要件のもと,建替組合に法人格を付与する
建替えプロジェクトの主体となる→プロジェクトがスムーズに進む
い 権利変換手続
従前のマンションの所有権(などの権利)を新たなマンションの権利に『変換』する制度
<マンション建替円滑化法を利用した全体フロー>
建替え決議
↓
建替組合の設立
↓
不参加者(反対者)への売渡請求or買取請求
↓
修繕積立金の清算
↓
住戸の選定・調整
↓
権利変換実施
↓
工事請負契約の締結
↓
解体・新マンション建設スタート
↓
新マンション竣工
↓
登記設定(申請)
↓
再入居・新管理組合設立
7 国土交通省のマニュアル抜粋|『時価』
外部サイト|国土交通省|マンションの建替えに向けた合意形成に関するマニュアル
<マンションの建替えに向けた合意形成に関するマニュアル|p121より引用>
●時価の算定方法
・ 時価の算定方法としては、法務省の見解や判例等先行事例において、次のような考え方が一般的に定着しています。
1)売渡請求の『時価』は、建替えを相当とする状態(建物の老朽化等によりその効用を維持・回復するのに過分の費用を要する状態)での建物及び敷地の価格ではなく、『建替え決議の存在を前提とした(つまり、建替えによって実現される利益を考慮した)、区分所有権及び敷地利用権の客観的取引価格』とされています。
2)時価算定の基準は、売渡請求権が行使された時点であり、売渡請求権が形成権であることから、その行使の意思表示が相手方に到達した日が時価の算定時点(価格時点)となります。
3)建替えを予定した場合の1棟の建物及び敷地の全体の評価方法については、以下の二つの考え方があり、両者は経済学的にみれば一致すると考えられています。
1建替えが完成した場合の再建建物・敷地利用権の価額から建替えに要する経費を控除した額
2再建建物の敷地として予定した敷地の更地価格と現在の建物の取壊し費用の差額
4)しかし、上記1の『建替後の総床価額から、建替え費用を控除した価額』は、実務上の不動産鑑定評価においては、更地としての上限価格を意味することになると考えられます。通常の不動産鑑定評価で求められる更地価格は、一般的にはそれよりも低廉に求められる傾向にあります。このため、上記2の『再建建物の敷地として予定した敷地の更地価格と現在の建物の取壊し費用の差額』による評価手法が、より実際的であると考えられます。
5)売渡請求の対象となる1棟の建物及び敷地の評価がなされると、次に、具体の売渡請求の対象となる住戸の区分所有権及び敷地利用権の価額算定を行います。全体価格の配分方法としては、以下の二つの考え方があります。
1各住戸の専有面積比(敷地持分)による評価・配分
2上記1に各住戸の用途別・階層別・位置別の効用格差(場所的利益)を考量した評価・配分
6)不動産鑑定の実務から見れば、2の考え方が一般的ですが、効用格差をつけないで評価を行っている実例も多いようです。それぞれのマンションの状況や当事者の意向等を踏まえ、適切な評価方法を採ることが重要であると考えられます。
7)なお、売渡請求の時価の中には、生活の継続性が絶たれることへの補償や店舗の営業権の補償は含まないものと考えられています。
8 マンション全体+敷地売却・建替の容積率優遇措置|平成26年改正
マンションの老朽化への対応は大規模修繕・建替だけではありません。
建物を解体+敷地を売却,という,言わば『完全イグジット』が有利,ということもあります。
従前は『区分所有者全員同意』が必須なので,ほとんど使えない状態でした。
しかし,平成26年の法改正で制度が新設され,使いやすくなりました。
さらにこの法改正では容積率の緩和制度も作られています。
平成26年のマンション建替円滑化法改正については別記事で説明しています。
詳しくはこちら|平成26年マンション建替円滑化法改正|耐震強度不足→敷地売却・容積率緩和制度