1 契約締結後に想定外の事情が発生→契約変更や解除ができる;事情変更の法理
2 事情変更の法理の要件と効果

1 契約締結後に想定外の事情が発生→契約変更や解除ができる;事情変更の法理

(1)想定外の事情発覚後の民法上の問題解消手段

契約締結後に,想定外の事情が発生,発覚することがあります。
このような場合に,この問題を解消する方法はいくつかあります。

<契約締結後の契約解消に関する規定>

・錯誤無効;民法95条
・詐欺取消;民法96条
・債務不履行解除;民法415条
・瑕疵担保責任;民法570条

しかし,それぞれの要件に該当せず,これらが適用できないこともあります。

(2)事情変更の法理の意義

想定外の事情発覚の際の救済措置として,判例上,「事情変更の法理」が認められています。
まずは,「事情変更の法理」の意義について説明します。
これは,条文上に規定はないものです。
判例,学説において信義則を根拠として肯定されています(民法1条2項,後記『2』)。

<事情変更の法理の意義>

契約締結後その基礎となった事情が,当事者の予見しえなかった事実の発生によって変更し,このため当初の契約内容に当事者を拘束することがきわめて苛酷になった場合に,契約の解除または改訂が認められるか,という問題
#参考情報#
新版注釈民法(13)債権(4)66頁,71頁

2 事情変更の法理の要件と効果

判例において認められている事情変更の法理について,その内容を説明します。
元々,条文としての明文規定がないものです。
逆に言えば,想定外の程度が,民法上の規定よりも小さいものを対象とした救済手段なのです。
そこで,個々の要件が抽象的で,かつ,効果も概括的なものとなっています。
個別的な具体的事情をもとに,適用の有無などが判断されます。
予測可能性,再現性は,一般の法律上の規定よりも低いです。

<事情変更の法理の要件>

※判例1;『※1』について
※判例2;『※2』について

あ 前提事情が該当する要件

・契約成立当時その基礎となっていた事情が変更すること
・事情の変更は,当事者の予見したもの,または予見できたものでないこと (※1)
・事情の変更が当事者の責めに帰することのできない事由によって生じたこと (※1)
・事情変更の結果,当初の契約内容に当事者を拘束することが信義則上著しく不当と認められること

い 効果発生のための要件

・意思表示(※2)
 内容改訂や契約解除をする旨の通知,主張のことです。
#参考情報#
新版注釈民法(13)債権(4)72頁〜

<事情変更の法理の効果>

※裁判例3,裁判例4
・契約内容の改訂
 内容が変更される,という意味です。
・契約解除
#参考情報#
新版注釈民法(13)債権(4)88頁〜

条文

[民法]
(基本原則)
第一条  私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
2  権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
3  権利の濫用は、これを許さない。

判例・参考情報

(判例1)
[平成 9年 7月 1日 最高裁第三小法廷 平8(オ)255号 ゴルフクラブ会員権等存在確認請求事件]
事情変更の原則を適用するためには、契約締結後の事情の変更が、当事者にとって予見することができず、かつ、当事者の責めに帰することのできない事由によって生じたものであることが必要であり、かつ、右の予見可能性や帰責事由の存否は、契約上の地位の譲渡があった場合においても、契約締結当時の契約当事者についてこれを判断すべきである。

(判例2)
[最判昭和31年4月6日]
(要約)事実審で事情変更の原則の適用を主張せず,上告理由ではじめて主張したが,認められなかった。

(判例3)
[昭和34年11月26日 東京地裁 昭29(ワ)10204号 土地所有権移転登記請求事件]
本件土地の範囲が確定した昭和二五年頃はインフレーシヨンの昂進に伴い本件契約締結時たる昭和一九年に比し、土地の価格が暴騰していたことは当裁判所に顕著な事実であり、それは終戦によつてもたらされた経済事情の著しい変化に基因するものであつて、被告の予見せず、又予見し得ないものであり、且つ被告の責に帰すべからざるものである。このように、貨幣価値の著しい下落の為給付と反対給付との等価値性が失われ、給付が契約当時に期待されたものとは認められない程度に変つた場合にも、なお被告に対して契約の文言通りの履行を強いることは、まさに信義の原則に反するものであつて、売主は等価値性が回復された場合にのみ給付義務を負うものといわなければならない。従つて、売主は等価値性を回復する為に不足分の填補請求権を有し、買主がこの催告を受けたににも拘らずその履行をしないときは売主は契約を解除する権利を取得するものというべきである。

(判例4)
[昭和62年 6月30日 東京高裁 昭59(ネ)2660号 不動産売員予約不存在確認等請求控訴事件]
不動産価格の騰貴という事態も、前示の一般的社会情勢だけで直ちに本件予約の効力を否定することが信義衡平の観念上要求されるものとは認められないのみならず、もし仮に右価格の騰貴の結果予約に係る代金額が看過できないほど均衡を失するに至ったのであれば、それに応じて代金額を合理的に修正することがまず検討されるべきであり(本件において右検討が無意味であると認めるべき資料はない。)、これを経ずしてたやすく予約の解除を認めることは当事者間の衡平を保つ所以ではない。