養親に権利を主張すると離縁事由になるのか|請求・保全と縁組の破綻

1 養親に権利を主張すると離縁事由になるのか|請求・保全と縁組の破綻

養子縁組の解消(離縁)が問題になる場面では、金銭の話が同時に動き出します。養親に慰謝料を請求する、財産の分与に相当するものを求めて調停を申し立てる、支払を確保するために養親の財産を仮に差し押さえる。こうした権利行使をしたことが、かえって「離縁の原因を作ったのはそちらだ」と言われる材料になるのではないか、という不安が生まれます。

この記事では、養親に対する請求や保全の申立てをしたこと自体が、裁判で離縁が認められる事情(民法814条1項3号の「縁組を継続し難い重大な事由」)として扱われるのかを説明します。結論を先に述べると、請求や保全をしたという事実だけを切り離して離縁の事由とすることはできず、そこで見られるのはその行為に至った経緯です。もっとも、事案の全体を見るときの材料としては働きます。

離縁そのものを求めること、たとえば相手方の離縁請求に対して自分の側も離縁を求めることについては、別の記事で説明しています。

双方が離縁を望むとき離縁は認められるか|民法814条1項3号の「重大な事由」

慰謝料そのものを請求できるのか、どのような場合に認められるのかについては、別の記事で説明しています。

離縁に伴う慰謝料は請求できるか|請求権としての対価

裁判で離縁が認められる事情の全体と、「縁組を継続し難い重大な事由」の判断の枠組みについては、別の記事で説明しています。

裁判による離縁が認められる事情(縁組を継続し難い重大な事由)

2 個々の権利行使→民法814条1項3号の「重大な事由」否定・総合考慮に算入

この記事の答えを先にまとめます。養親に対する請求や保全は、それ1つを取り上げて離縁の事由とされるものではありませんが、事案の全体を見るときの材料としては働きます。

個々の権利行使→民法814条1項3号の「重大な事由」否定・総合考慮に算入

あ 個々の権利行使(慰謝料請求や仮差押えは離縁の事由になるか)

養親への慰謝料の請求や財産の仮差押えは、各個の行為としては「縁組を継続し難い重大な事由」に当たらないとされた(福島地判昭和32年1月18日)

い 評価を分けたもの(何がその判断を導いたか)

その行為に至った経緯。養親が離縁と全財産の売却の決意を伝えたことを受けての行為であるとして、「人情の常として止むを得ない処置」と評価された

う 総合考慮での扱い(個々に当たらない行為も評価に入るか)

同じ事案で、各事実を考え合わせた全体としては「縁組を継続し難い重大な事由」をなすとされた。判例には、個々の行為が該当しなくても一連のプロセスや状況を総体としてとらえる傾向がある

え 縁組と婚姻の違い(同じに扱えるか)

養親子関係は「親子という非打算的ないしギブ・アンド・テイクを拒否する人間関係に擬して形成された」ものと理解されている。婚姻の側の扱いは別の記事で説明している

3 権利行使を個々に見るとき→「重大な事由」否定(福島地判昭32・1・18)

養親に対する請求や保全は、1つずつ取り上げるかぎり離縁の事由にはならない、という判断が示されています。養親と養子が互いに離縁を求めて争った事案で、裁判所は、養子がした調停の申立てと仮差押えを個別に検討したうえで、いずれも養子の責めに帰すべき事由ではないとしました(福島地判昭和32年1月18日)。

この判決は、2つの事件を通じて養親を「原告」、養子を「被告」と表示しています。以下の引用もその呼び方によります。

(1)離縁・財産分与請求の調停申立て・慰謝料請求権保全の全農地仮差押え

問題にされたのは、養子が養親を相手に離縁と財産分与の請求の調停を申し立て、さらに慰謝料請求権を保全するために養親所有の全農地を仮に差し押さえた、という行為です。行為があったこと自体は、当事者の間で争いがありませんでした。

(2)否定の理由=養親の離縁通告への対応→「人情の常として止むを得ない処置」

裁判所が見たのは、その行為に至った経緯です。養親の側が先に、離縁すること、そして所有する全財産を売却することを養子に伝えており、養子はそれを受けて離縁をやむを得ないと考えて申立てに及んだ、と認定されました。そのうえで、この経過であれば「人情の常として止むを得ない処置」であるとして、養子の責めに帰すべき「縁組を継続しがたい重大な事由」の1つと見ることはできないとしました。

ここで効いているのは行為の種類ではなく、その行為に至った経緯です。請求や保全の申立てをしたという事実だけを切り離して、離縁の事由とすることはできません。相手方が先に関係の解消を告げているような経緯のもとでは、これに応じて権利を行使することは人情として避けられない対応と評価され、行為者の責めに帰すべき事由には数えられません。

この判決が何をどう判断したのかは、別の記事で説明しています。

福島地判昭和32年1月18日|離縁の本訴・反訴の双方認容と慰謝料

4 権利行使は総合考慮に算入→全体として「重大な事由」肯定

もっとも、これは権利行使が評価の外に置かれるということではありません。同じ判決は、認定した各事実を考え合わせた全体としては「縁組を継続しがたい重大な事由」があるとして、離縁を認めています。個々の行為として否定されることと、全体を見るときの材料になることは、両立します。

(1)福島地判昭32・1・18=個々では否定・全体では「重大な事由」肯定

判決は、縁組以来互いに愛情に欠け、対立を繰り返し、円満な養親子関係を築く意思がなかったこと、その結果として別居し、事実上離縁も同然で復帰の見込みがないことを挙げ、各事実を全体として見れば「縁組を継続しがたい重大な事由」をなすとしました。調停の申立てと仮差押えも、この「各事実」の中に含まれています。

この判決の事案の運びと判断の全体は、別の記事で説明しています。

福島地判昭和32年1月18日|離縁の本訴・反訴の双方認容と慰謝料

この事案の構造は、注釈も同じように読み取っています。個々の行為は「重大な事由」ではないが、それらを考え合わせると復帰の見込みがなく「重大な事由」がある、という形です。

引用:文献・公開情報

個々の行為と全体の評価が分かれた事案

しかしXはYの個々の行為こそ「重大な事由」に当たると主張したので、それらの個々の行為(YがXを相手方として離縁・財産分与の請求の調停を申し立てたり、慰謝料請求権保全のためX所有の全農地の仮差押えを執行したことなど)について検討したうえで、各個の行為は「重大な事由」ではないが、それら各事実を考え合わせてみるとX・Y間は事実上離縁も同然の状態で、もはや復帰の見込みはなくて「重大な事由」があると判示したのである。

※中川 善之助・山畠 正男編『新版 注釈民法(24)』有斐閣2010年 11月p522

(2)判例の傾向=一連のプロセス・状況の総体で「重大な事由」の認定

このような読み方は、この事案に限られません。注釈は、養親子の間の葛藤を組み立てている個々の行為や事実が「重大な事由」に該当しなくても、一連のプロセスや状況を総体としてとらえて該当するとする裁判例が多いと述べ、破綻を原因とする離縁の考え方のもとでは、これが正当な姿勢であるとしています。

引用:文献・公開情報

判例の傾向=一連のプロセス・状況を総体としてとらえる

判例においては、養親子間の葛藤を組成する個々の行為ないし事実は「重大な事由」に該当しなくとも、それら一連のプロセスないし状況を総体としてとらえて「重大な事由」に該当するとする場合が多い(典型的なケースとして、前掲福島地判昭32・1・18)。
破綻主義離縁法にあっては、判例のこのような傾向は正当な姿勢というべきである。

※中川 善之助・山畠 正男編『新版 注釈民法(24)』有斐閣2010年 11月p520

5 縁組の破綻の前提|養親子関係=非打算的な人間関係への擬制

同じように金銭を請求しても、婚姻の場合と養子縁組の場合で読まれ方が同じになるとは限りません。注釈は、双方が離縁を望んでいる場合にもはや回復が不可能だといわなければならない理由を、養親子関係そのものの理解に置いています。すなわち、養親子関係は、親子という打算を離れた、見返りを求め合わない関係に擬して形成されたものであり、両当事者に縁組を続ける志向も回復への志向も残っていなければ、関係はもはや回復不可能だとされます。

この理由づけは、養親子関係に固有のものとして述べられています。縁組の破綻を考えるときの出発点がそこに置かれるので、財産上の請求や保全が正面に出てくること自体が、この理解と衝突する事情として、全体を見るときの材料に加わります。注釈の理由づけに従えば、同じ行為であっても、縁組では関係の終わりを示す事情として読まれやすいことになります。

この理由づけが置かれている、双方が離縁を望んでいる場合の扱いそのものは、別の記事で説明しています。

双方が離縁を望むとき離縁は認められるか|民法814条1項3号の「重大な事由」

6 配偶者への請求・保全と離婚原因(参考)(概要)

夫婦の間で共有物の分割を求めることが権利の濫用になるのかについては、別の記事で説明しています。

夫婦間の共有物分割の実例(権利濫用の判断など)

共有物分割訴訟における権利濫用・信義則違反・訴えの利益なし(基本・理論)

7 おわりに

養親に慰謝料を請求したことや、財産を仮に差し押さえたことは、それ自体を取り上げて離縁の事由とされるものではありません。判断を分けるのは行為の種類ではなく、その行為に至った経緯です。

一方で、権利行使が評価の外に置かれるわけでもありません。個々には離縁の事由にならない事実も、全体を見るときの材料としては働きます。縁組を続けられるかどうかが争われる場面では、何を請求したかと同じだけ、なぜそこに至ったかが問われることになります。

本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

本記事の引用は、書籍・判例などの原文から範囲を選んで載せたものです。改行の位置は読みやすさのために当方で整えており、原文の改行と同じとは限りません。また、記号や外字の扱いにより、文字の一部が原文と異なって表示されることがあります。

本記事の表示では、読点を「、」に統一しています(引用の原文が全角の「,」や半角の「,」である場合を含みます。ただし「1,000」のような桁区切りはそのまま表示しています)。

弁護士法人 みずほ中央法律事務所 弁護士・司法書士 三平聡史

2021年10月発売 / 収録時間:各巻60分

相続や離婚でもめる原因となる隠し財産の調査手法を紹介。調査する財産と入手経路を一覧表にまとめ、網羅解説。「ここに財産があるはず」という閃き、調査嘱託採用までのハードルの乗り越え方は、経験豊富な講師だから話せるノウハウです。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINE
双方が離縁を望むとき離縁は認められるか|民法814条1項3号の「重大な事由」
離縁に伴う慰謝料は請求できるか|請求権としての対価

無料相談予約 受付中

0120-96-1040

受付時間 平日9:00 - 20:00