賃借権の消滅と第三者の建物買取請求権|取得の前後・消滅の原因
1 賃借権の消滅と第三者の建物買取請求権|取得の前後・消滅の原因
詳しくはこちら|借地期間満了時の建物買取請求権の基本(借地借家法13条)
借地上の建物を第三者が買い受けたものの、地主が借地権の譲渡を承諾しないことがあります。このとき第三者は、地主に建物を買い取らせること(建物買取請求権・借地借家法14条)ができます。
ところが、建物を買い受けた時点で既に借地権が消滅していたり、買い受けたあとに借地契約が解除されたりすると、この権利が認められるかどうかが変わってきます。本記事では、賃借権の消滅が第三者の建物買取請求権にどう影響するかを、取得の前か後か、消滅の原因は何か、という2つの軸で説明します。
詳しくはこちら|第三者の建物買取請求権(無断の借地権譲渡・転貸ケース・借地借家法14条)
2 取得時の存続が要件→取得後の消滅は原因で分岐
結論を先にまとめます。
取得の時点と消滅の原因で、建物買取請求権がどうなるか
| 場面 | 建物買取請求権 |
|---|---|
| 取得した時点で既に賃借権が消滅していた | 発生しない |
| 取得後に、無断譲渡を理由とする解除で消滅した | 消滅しない |
| 取得後に、合意解除で消滅した | 消滅しない |
| 取得後に、賃料不払いを理由とする解除で消滅した | 消滅する |
| 無断譲渡を理由に解除した後、損害金不払いを理由に解除した | 消滅しない |
3 14条の発生要件=取得時に賃借権が存続
まず、第三者の建物買取請求権がそもそも発生するための要件です。借地借家法14条(旧借地法10条)は、地主が承諾しさえすれば賃借権を取得できたはずの第三者を救う規定です。そこから、第三者が建物を取得した時点で賃借権が存続していたことが要る、という帰結が導かれます。
14条が適用されるのは賃借権の存続中に第三者が建物等を取得した場合に限られる
本条による買取請求権が成立するためには、第三者が建物等を取得した時点において賃借権が存続していることを要する
(ここでは、判例の立場の整理にとどめるが、判例に対する批判も含め、問題の全般的検討は鈴木・借地(下)1301以下、星野・借地借家355以下などに詳しい)。
すなわち、判例によれば、本条は、土地賃借権の譲渡につき土地賃貸人の承諾があれば適法に賃借権を取得しうる地位にある第三者が、賃貸人の不承諾のため賃借権者となることができない場合に、第三者に買取請求権を与えた規定である。
したがって、本条の適用があるのは、賃貸人の承諾があるならば第三者において賃借権を取得しうる場合、いいかえれば、賃借権の存続中に第三者が建物等を取得した場合であることを要するのである(最判昭39.6.26民集18-5-910)。
※山本豊稿/稻本洋之助ほか編『コンメンタール借地借家法 第4版』日本評論社2019年p111〜112
同条の適用は、承諾があれば借地権を取得しうる場合=存続中の取得に限られる
借地法一〇条は、借地権譲渡につき土地賃貸人の承諾があれば適法に従来の借地権を取得しうる地位にある第三者が、賃貸人の不承諾のため借地権者となることができない場合に、建物保護のために第三者に買取請求権を与えた規定である。従つて、同条の適用があるのは、賃貸人の承諾があるならば第三者において従来の借地権を取得しうる場合、換言すれば借地権の存続中において第三者が建物等を取得した場合であることを要するものといわなければならない。
※最高裁判所 1964-06-26 民集 18巻5号910頁/裁判集民 74号233頁/判タ 164号87頁/判時 381号24頁
4 取得前に解除済み→買取請求権なし
この要件から、取得の前に既に賃貸借契約が解除されていた場合の結論が決まります。建物と賃借権が甲から乙、乙から丙へと順に譲渡されたケースで、地主が甲から乙への無断譲渡を理由に既に解除していたときは、そのあとに乙から建物を取得した丙は買取請求権を持ちません。
既に解除された後に取得した者は買取請求権を有しない
ア)それゆえ、地上建物および敷地賃借権が、土地賃借人の甲から乙→丙と順次譲渡された場合に、賃貸人が甲から乙への賃借権無断譲渡を理由として賃貸借契約をすでに解除した後に乙から地上建物等を取得した丙は、その建物の買取請求権を有しない(前掲最判昭39.6.26)。
※山本豊稿/稻本洋之助ほか編『コンメンタール借地借家法 第4版』日本評論社2019年p112
5 取得後の消滅→原因による分岐
これに対して、取得した時点では賃借権が存続していて、そのあと買取請求権を行使するまでの間に消滅した場合は、一律には決まりません。判例は、賃借権が消滅した原因によって結論を分けています。
取得後に消滅した場合は、消滅の原因に応じて結論が分かれる
イ)これに対して、第三者による地上建物等の取得当時には敷地賃借権が存続していて、その後買取請求権が行使されるまでに消滅した場合には、判例は賃借権消滅の原因に応じて解決を異ならしめている。
※山本豊稿/稻本洋之助ほか編『コンメンタール借地借家法 第4版』日本評論社2019年p112
(1)無断譲渡解除・合意解除→消滅せず
無断譲渡を理由とする解除と、地主と前の借地人との合意解除では、買取請求権は消滅しません。合意解除について、最高裁は特段の事情がないかぎり消滅しないとしています。
無断譲渡を理由とする解除・合意解除では買取請求権は消滅しない
すなわち無断譲渡を理由とする解除や賃貸人と賃借人(地上建物等の譲渡人)との合意解除によって賃借権が消滅する場合には、それによって買取請求権が消滅することはない
(無断譲渡解除につき大判昭14.8.24民集18-877、
合意解除につき最判昭48.9.7民集27-8-907)。
※山本豊稿/稻本洋之助ほか編『コンメンタール借地借家法 第4版』日本評論社2019年p112
承諾のない間に合意解除しても、特段の事情がないかぎり買取請求権は消滅しない
第三者が地上建物とともにその敷地の賃借権の譲渡をうけた場合において、賃借権の譲渡につき賃貸人の承諾のない間に、賃貸人と従前の賃借人である譲渡人との間で賃貸借契約を合意解除しても、特段の事情がないかぎり、借地法一〇条にもとづく建物買取請求権はこれによつて消滅しないものと解するのが相当である。
※最高裁判所 1973-09-07 民集 27巻8号907頁/裁判集民 110号7頁/裁時 628号1頁/判タ 301号171頁/判時 718号49頁/金法 701号31頁/金商 392号2頁
(2)賃料不払いによる解除→消滅
一方、前の借地人の賃料不払いを理由とする解除では、買取請求権は消滅します。賃料を払わなかったことの不利益は、建物を取得した第三者の側が引き受けることになります。
賃料不払いを理由とする解除では買取請求権は消滅する
しかし、賃借人(地上建物等の譲渡人)の賃料不払いを理由とする契約解除によって賃借権が消滅する場合には、買取請求権は消滅する(最判昭33.4.8民集12-5-689)。
※山本豊稿/稻本洋之助ほか編『コンメンタール借地借家法 第4版』日本評論社2019年p112
賃料不払のため解除されたときは買取請求権は消滅する
第三者が賃借土地の上に存する建物の所有権を取得した場合において、賃貸人が賃借権の譲渡を承諾しない間に賃貸借が賃料不払のため解除されたときは、借地法一〇条に基く第三者の建物買収請求権はこれによつて消滅するものと解すべきである。
※最高裁判所 1958-04-08 民集 12巻5号689頁
(3)無断譲渡解除の後の損害金不払い解除→消滅せず
紛らわしいのが、この2つが重なる場面です。従前の賃料不払いがないのに地主が無断譲渡を理由に解除したときは、地主はそれ以後の賃料を請求できなくなります。そのあとに賃料相当損害金の不払いが生じても、それを賃料の不払いと同視して解除することはできず、買取請求権も消滅しません。
無断譲渡を理由に解除した後の損害金不払いを理由とする解除では消滅しない
ところで、第三者が賃借土地の上に存する建物の所有権を取得した場合において、賃貸人が賃借権の譲渡を承諾しない間に賃貸借契約が賃料不払を理由に解除されたときは、借地法一〇条に基づく第三者の建物買取請求権は、これによつて消滅するが(最高裁昭和三二年(オ)第二六〇号同三三年四月八日第三小法廷判決・民集一二巻五号六八九頁参照)、賃料の不払はなく、賃貸借契約が賃借権の無断讓渡を理由として解除されたときは、賃貸人はそれ以後の賃料を請求することができず、その後に賃料相当損害金の不払が生じても、もはやこれを賃料の不払と同視して賃貸借契約を解除する余地はないのであるから、たとえその不払を理由とする解除の意思表示がされたとしても、これによつて建物買取請求権が消滅することはないと解する
※最高裁判所 1978-09-07 裁判集民 125号29頁/裁判所ウェブサイト/判タ 374号92頁/判時 911号112頁/金商 561号27頁
6 13条の買取請求権の移転という主張→判例は否定
ここまでは借地借家法14条(第三者の買取請求)の話です。これとは別に、借地権が消滅したときに借地人が取得した13条(期間満了時)の買取請求権が、建物とともに第三者へ移転するのではないか、という主張があります。判例はこれを否定していますが(大判昭和16年6月20日・大民集20巻937頁)、学説には、買取請求権は一身専属権ではないから建物と一緒になら処分されうる、として移転を認める見解があります。
判例は譲受人の請求を否定するが、13条の権利が建物とともに移転するという見解がある
これに反して、借地権消滅後に、借地人が地上建物を第三者に譲渡した場合、判例は、この譲受人は建物買取を請求しえない、とする(大判昭16・6・20民集20・937)。
この判例の考え方は、借地権消滅後の地上建物譲受人は、本法10条の建物買取請求権を取得しないとする考え方(→借地§10I1ウa中のa-iの類型)に立脚するが、この考え方が肯定されうるとしても、なお問題は残る。
けだし、借地権消滅のときに、借地人は本条の建物買取請求権を取得し、それが地上建物とともに第三者に譲渡され、第三者がこの買取請求権(本法10条によるものではない)を行使することができる、と考えるべきだからである(広瀬69、後藤255、戒能93、星野・借地借家213)。
そう考えても、貸地人がとくに不利になることはないし、一般的にいって、買取請求権も、一身専属権ではないから、建物と一緒になら処分されうる、と考えざるをえないはずである。
※鈴木禄弥・生熊長幸稿/幾代通ほか編『新版 注釈民法(15)増補版』有斐閣2003年p428〜429
7 おわりに
第三者の建物買取請求権が認められるかどうかは、建物をいつ取得したかで大きく変わります。取得の時点で賃借権が残っていたかをまず確かめ、残っていた場合は、そのあと賃借権がどの原因で消滅したのかを見ることになります。
本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
本記事の引用は、書籍・判例などの原文から範囲を選んで載せたものです。改行の位置は読みやすさのために当方で整えており、原文の改行と同じとは限りません。また、記号や外字の扱いにより、文字の一部が原文と異なって表示されることがあります。
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