弁護士の在宅勤務・テレワークと複数事務所禁止
1 弁護士の在宅勤務・テレワークと複数事務所禁止
弁護士は、いかなる名義をもってしても二箇以上の法律事務所を設けることができません(弁護士法20条3項)。この規定は昭和24年のもので、当時は自宅からウェブ会議で依頼者と打ち合わせることが想定されていません。
在宅勤務が広がり、オンラインでの期日や相談が当たり前になった今、自宅で仕事をすることが「二個目の事務所を設けた」ことにならないかが問題になります。
この記事では、東京弁護士会がこの問題をどう整理したかを見たうえで、判断の枠組みと、そこから出てくる実務上の注意点を説明します。
その場所が「法律事務所」に当たるかどうかの判断基準そのものは、別の記事で説明しています。
2 結論=判定の軸は「表示」と「依頼者の出入り」の2つだけ
本記事の結論を先にまとめます。いずれの行も、後述の各節で出典を挙げて説明します。
在宅勤務と複数事務所禁止の関係
| 問い | 答え |
|---|---|
| 自宅からウェブ会議で法律相談をすると二個目の事務所になるか | ならない。表示も依頼者の出入りもなければ単なる執務場所である |
| 弁護士の執務場所に法律上の制限はあるか | ない。法律事務を取り扱う場所は届出事務所内に限られない |
| 何があると法律事務所になるか | 依頼者が出入りする/表札を掲げて依頼者を誘致する/ウェブページに「分室」「サテライトオフィス」などと表示する |
| 表示だけで法律事務所になることはあるか | ある。法律事務を行う場所としての実体がなくても、外観から別個の事務所とみられれば抵触する |
| 複数事務所を禁止する趣旨は何か | 非弁護士の温床となることの防止と、弁護士会の指導・連絡・監督権の確保 |
| 他の士業はどうしているか | 税理士は条文を変えず、基本通達の判定基準を書き換えて解消している |
3 問い——自宅からウェブ会議で相談を受けたら二個目の事務所か→否定
東京弁護士会の会誌は、2020年10月号の特集「弁護士業務のIT化2020─今こそテレワーク─」で、この問題を正面から取り上げています。問題の立て方は次のとおりです。
問題の所在=自宅からのウェブ会議は20条3項に違反するか
⑴ テレワークの普及により、弁護士が、届け出られた法律事務所ではなく、その自宅に設置したパソコン等からウェブ会議やビデオ電話を利用して法律相談や依頼者との打ち合わせをすることが見受けられるようになった。
そこで、このような執務形態が複数事務所を禁止する弁護士法 20 条 3 項に違反するか否かが問題となる。
※『LIBRA20巻10号』東京弁護士会2020年10月p13
4 判断の前提=「法律事務所」の意味と複数事務所禁止の趣旨(参考)
答えを出す前提として、2つのことが確認されています。1つは、法律事務所とは弁護士の活動の本拠であって、弁護士が法律事務を取り扱う場所は届出事務所の中に限られないこと。もう1つは、複数事務所を禁止する趣旨が非弁護士の温床の防止と弁護士会の監督権の確保にあることです。
どちらもこの記事が正本ではありません。「法律事務所」の意味と判断基準、複数事務所の禁止の趣旨は、別の記事で説明しています。
弁護士法20条3項|複数事務所の禁止と法律事務所の単一性の判断基準
5 東京弁護士会の回答=表示・依頼者の出入りなし→単なる執務場所
この前提から導かれる結論が次のものです。自宅にパソコンを置いてウェブ会議やビデオ電話で執務しても、それだけでは法律事務所になりません。
分かれ目として挙げられているのは3つです。依頼者が出入りすること、法律事務を取り扱うと思われる表札を掲げて依頼者を誘致すること、そして事務所のウェブページに自宅を「分室」「サテライトオフィス」などと表示することです。
東京弁護士会の結論=表示がなければ自宅は法律事務所でない
⑶ ここから、弁護士が、自宅に設置したパソコン等からウェブ会議やビデオ電話を利用して執務したとしても、そこに依頼者が出入りしたり、自宅に法律事務を取り扱うと思量されるような表札を掛けて依頼者を誘致したり、事務所の webページに自宅を「○○法律事務所分室」、「サテライトオフィス」などと表示したりするのでなければ、自宅は単なる執務場所であって法律事務所には該当しないと解される。
※『LIBRA20巻10号』東京弁護士会2020年10月p13
6 表示があれば実体を問わず抵触(参考)
外観から別個の法律事務所が設置されたとみられる場合は、そこに法律事務を行う場所としての実体があるかどうかにかかわらず、複数事務所の禁止に抵触します。自宅で実際には何もしていなくても、表示を出せばそれだけで足りるということです。
実質と形式の両面からの判定については、別の記事で説明しています。
7 税理士との対比=通達の判定基準の改正で同じ結論(参考)
同じ問題は他の士業にもあります。税理士の側では、国税庁が令和4年に基本通達を改正し、事務所かどうかの判定の材料から設備の状況と使用人の有無を落として、外部に対する表示だけを残しました。あわせて、表示のない場所での業務は二ヶ所事務所に当たらないことを明記しています。
結論は弁護士の場合と同じですが、根拠の置かれ方が違います。税理士は所管庁の通達で、弁護士は会の刊行物の解説で扱われている、ということです。
8 判定の軸が表示だけ→開示するほど不利という逆転(筆者見解)
ここからは出典のない筆者の見立てです。
判定の軸が外部に対する表示だけに絞られると、実際の働き方ではなく、それをどう見せたかで結論が決まることになります。自宅で依頼者と何時間ウェブ会議をしても、表示がなければ事務所ではない。逆に、実際には使っていない場所でも、ウェブページに書けば事務所になり得る。
そうすると、テレワークの体制を対外的に丁寧に説明した事務所ほど、表示があると評価される材料を自分で作ることになります。筆者は、ここに開示と規制の向きが噛み合っていない面があると見ています。
もっとも、これは規制の趣旨(非弁護士の温床の防止と弁護士会の監督権の確保)に照らせば筋の通った線引きでもあります。外から見て弁護士の拠点と分かる場所を増やさない、という趣旨からすれば、表示を軸に置くこと自体は理解できるように思われます。
本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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