税理士の二ヶ所事務所禁止とテレワーク
1 税理士の二ヶ所事務所禁止とテレワーク
税理士は、税理士事務所を二以上設けることができません(税理士法40条3項)。自宅で仕事をすることが当たり前になった今、この規定に触れないかが問題になります。
この点について税理士の側では、条文を変えずに、国税庁が基本通達を書き換えることで答えを出しています。令和4年3月31日付の改正(令和5年4月1日から適用)です。
この記事では、その改正が何をどう変えたのかを、新旧対照表にそくして説明します。
2 結論——事務所性の判定は「外部に対する表示」のみ=条文でなく通達の改正
本記事の結論を先にまとめます。いずれの行も、後述の各節で条文と出典を挙げて説明します。
令和4年改正が変えたこと
| 問い | 答え |
|---|---|
| 改正前、事務所かどうかは何で判定していたか | 外部に対する表示の有無、設備の状況、使用人の有無等の客観的事実 |
| 改正後は何で判定するか | 委嘱者等に示す連絡先など、外部に対する表示に係る客観的事実 |
| 「外部に対する表示」には何が含まれるか | 看板等の物理的な表示、ウェブサイトへの連絡先の掲載、契約書等への連絡先の記載 |
| 自宅で税理士業務を行うと二ヶ所事務所になるか | その場所に外部に対する表示に係る客観的事実がなければ該当しない(通達40-2) |
| 使用人を対面で監督できないときはどうなるか | 監督義務は事務を行う場所によって異ならない(通達41の2-1) |
| 条文(税理士法40条3項)は変わったか | 変わっていない。動いたのは通達だけ |
3 条文の文言=「税理士事務所を二以上設けてはならない」だけ
まず条文を確認します。事務所を設ける義務と、二以上設けることの禁止が置かれているだけで、何をもって事務所とみるかは書かれていません。
事務所の設置義務と二ヶ所事務所の禁止(税理士法40条)
税理士(税理士法人の社員(財務省令で定める者を含む。第四項において同じ。)を除く。次項及び第三項において同じ。)及び税理士法人は、税理士業務を行うための事務所を設けなければならない。
※税理士法40条1項
税理士は、税理士事務所を二以上設けてはならない。
※税理士法40条3項
4 改正前の通達=設備の状況・使用人の有無でも事務所性を判定
事務所に当たるかどうかの基準は、条文ではなく基本通達が置いています。改正前の40-1は、判定の対象を「継続的に税理士業務を執行する場所」とし、判定の材料に表示のほか設備や使用人も挙げていました。
自宅に机とパソコンがあり、そこで継続的に仕事をしていれば、この基準では事務所と判定される余地があります。テレワークが広がると、誰もが二ヶ所事務所になりかねない書き方でした。
改正前の40-1=判定の材料に設備・使用人が入っていた
40-1 法第 40 条に規定する「事務所」とは、継続的に税理士業務を執行する場所をいい、継続的に税理士業務を執行する場所であるかどうかは、外部に対する表示の有無、設備の状況、使用人の有無等の客観的事実によって判定するものと
※『税理士法基本通達の一部改正 新旧対照表(令和4年3月31日)』国税庁2022年p4
5 令和4年改正=判定を「外部に対する表示」の一本へ
令和4年3月31日付の改正は、40-1を次のように改めました(令和5年4月1日から適用)。判定の対象は「税理士業務の本拠」になり、材料は「外部に対する表示」だけになっています。設備の状況と使用人の有無は落ちました。
あわせて、「外部に対する表示」に何が含まれるかが例示されました。看板のような物理的な表示だけでなく、ウェブサイトへの連絡先の掲載も含まれます。
改正後の40-1=判定の材料は「外部に対する表示」だけ
40-1 法第 40 条第1項に規定する「税理士業務を行うための事務所」とは、税理士業務の本拠をいい、税理士業務の本拠であるかどうかは、委嘱者等に示す連絡先など外部に対する表示に係る客観的事実によって判定するものとする。
この場合において、「外部に対する表示」には、看板等物理的な表示やウェブサイトへの連絡先の掲載のほか、契約書等への連絡先の記載などが含まれることに留意する。
※『税理士法基本通達の一部改正 新旧対照表(令和4年3月31日)』国税庁2022年p4
6 通達40-2(新設)=表示のない執務→二ヶ所事務所の否定
同じ改正で、二ヶ所事務所の禁止そのものについての40-2が新設されました。二ヶ所事務所に当たるのは、自宅以外に事務所を設けて表示をしている状態で、自宅にも表示をして業務を行っている場合である、という組み立てです。
そのうえで、事務所以外の場所で税理士業務を行っていても、その場所に外部に対する表示に係る客観的事実がなければ、二以上設けていることにはならない、と明記しました。在宅勤務を正面から禁止の外に置いた部分です。
なお新旧対照表は改正後と改正前を左右に並べた表なので、40-2の条文は紙面の都合で2つの頁に分かれています。以下は続けて読む一続きの文です。
新設された40-2(前半・p4)
40-2 法第 40 条第3項の「税理士事務所を二以上設けて」いる場合とは、例えば、自宅以外の場所に税理士事務所を設け、40-1の「外部に対する表示」をしている状態で、自宅においても 40-1の「外部に対する表示」をして税理士業務を行っている場合などをいう。
したがって、自宅等の税理士事務所以外の場所で税理士業務を行っていても、その場所に 40-1の「外部に対する表示」に係る客観的事実がなく、法第 40 条第1項
※『税理士法基本通達の一部改正 新旧対照表(令和4年3月31日)』国税庁2022年p4
新設された40-2(後半・p5)
に規定する「税理士業務を行うための事務所」と判定される状態でない場合には、税理士事務所を二以上設けている場合には該当しない。
※『税理士法基本通達の一部改正 新旧対照表(令和4年3月31日)』国税庁2022年p5
7 通達41の2-1(新設)=監督義務は執務の場所で不変
使用人を抱える事務所では、離れた場所で働く使用人をどう監督するかが問題になります。この点についても41の2-1が新設されました。
監督義務は事務を行う場所によって異ならないとしたうえで、対面で監督できない場合でも情報通信技術を利用する方法で適切に監督されていれば義務は果たされている、としています。監督の方法として、ウェブ打合せへの同席や履歴の確認が例示されました。
新設された41の2-1=監督義務は場所で変わらない
41 の2-1 税理士の使用人その他の従業者(以下「使用人等」という。)
に対する監督義務は、税理士及びその使用人等が事務を行う場所によって異なることはない。
したがって、使用人等に対する監督方法として、対面による監督を行うことができない場合でも、情報通信技術を利用する方法などにより、適切に監督が行われている場合には、監督義務が果たされていると判断することに留意する。
※『税理士法基本通達の一部改正 新旧対照表(令和4年3月31日)』国税庁2022年p5
8 おわりに——動いたのは条文でなく判定の基準
ここまでを振り返ると、税理士法40条3項の文言は一字も変わっていません。変わったのは、その「税理士事務所」に当たるかどうかを決める通達の基準です。
判定の材料から設備と使用人を落とし、外部に対する表示だけを残したことで、表示を出さないかぎり執務の場所は事務所にならない、という結論が導かれます。条文を改正せずに、解釈の基準を書き換えることで実態との齟齬を解消した形です。
弁護士の側では、同じ問題が条文でも会規でもなく解釈で扱われています。「法律事務所」に当たるかどうかの判断基準は、別の記事で説明しています。
弁護士の在宅勤務・テレワークについても同じ問題が議論されていて、結論は同じですが根拠の置かれ方が違います。別の記事で説明しています。
本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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