士業の登録・設立登記・従たる事務所の登記|効力の起点

1 士業の登録・設立登記・従たる事務所の登記|効力の起点

「支店を出したが登記がまだ完了していない。営業を始めてよいか」という問いは、士業の実務でよく出ます。

答えは「どの登記か」で変わります。登録を受ける前に業務をすれば業務制限に触れますが、従たる事務所の登記は完了を待つ必要がありません。同じ「登記が済んでいない」という状態に見えても、法律上の位置づけが違うからです。

この記事では、士業法が登録と登記をどう書き分けているかを、弁護士・税理士・司法書士・行政書士・社会保険労務士の5つの法律の条文で確認します。

設置したその事務所が二以上事務所の禁止に触れないかは、別の軸の問題です。弁護士と税理士については、別の記事で説明しています。

弁護士法の『法律事務所』の意味と判断基準

税理士の二ヶ所事務所禁止とテレワーク

2 登録=士業になる要件・設立登記=効力要件・従たる事務所の登記=対抗要件

本記事の結論を先にまとめます。いずれの行も、後述の各節で条文を挙げて説明します。

登録と登記は、どこから効くのか

場面 位置づけ 済んでいないまま業務をすると
個人の登録 資格を有する者が「弁護士」「税理士」そのものになる要件 業務制限の名宛人「○○でない者」に当たる(刑事罰のある業務制限に触れる)
法人の設立登記 効力要件(登記をすることによって成立する) 法人が存在しないので、法人としての業務ができない
従たる事務所の設置など、その他の登記事項 対抗要件(登記の後でなければ第三者に対抗することができない) 差し支えない。残るのは登記を怠ったことの過料だけ
会への入会(弁護士・税理士・行政書士・社会保険労務士) 登録の効果(登録を受けた時に「当然」会員となる) 登録していれば会員なので、この状態が生じない
会への入会(司法書士) 業務制限の名宛人の要件(73条1項が「司法書士会に入会している」と明示) 業務を行えない

3 個人の登録=資格を有する者が士業になる要件→未登録者は業務制限の名宛人

まず個人の登録です。税理士法・司法書士法・行政書士法・社会保険労務士法は、その資格を有する者が名簿に一定の事項の登録を受けなければならない、という形をとっています。弁護士法だけは「登録されなければならない」と受け身で書きますが、登録を経なければ弁護士にならない点は同じです。登録は資格を取る手続ではありません。試験や修習を終えて資格を得た者が、登録によってはじめて「弁護士」「税理士」そのものになります。

したがって登録を受ける前に業務を行えば、その者は「○○でない者」であり、各法の業務制限に触れます。士業の世界で「登録が済むまで動けない」と言われるのは、この場面を指しています。

個人の登録=5法の条文

弁護士となるには、日本弁護士連合会に備えた弁護士名簿に登録されなければならない。

※弁護士法8条

税理士となる資格を有する者が、税理士となるには、税理士名簿に、財務省令で定めるところにより、氏名、生年月日、事務所の名称及び所在地その他の事項の登録を受けなければならない。

※税理士法18条

司法書士となる資格を有する者が、司法書士となるには、日本司法書士会連合会に備える司法書士名簿に、氏名、生年月日、事務所の所在地、所属する司法書士会その他法務省令で定める事項の登録を受けなければならない。

※司法書士法8条1項

行政書士となる資格を有する者が、行政書士となるには、行政書士名簿に、住所、氏名、生年月日、事務所の名称及び所在地その他日本行政書士会連合会の会則で定める事項の登録を受けなければならない。

※行政書士法6条1項

社会保険労務士となる資格を有する者が社会保険労務士となるには、社会保険労務士名簿に、氏名、生年月日、住所その他厚生労働省令で定める事項の登録を受けなければならない。

※社会保険労務士法14条の2第1項

4 法人の設立登記=効力要件→完了まで法人は不存在

次に法人の設立登記です。5つの法律はいずれも、法人は主たる事務所の所在地で設立の登記をすることによって成立する、と定めています(弁護士法だけは「主たる法律事務所」と書きます)。

「成立する」とされている以上、設立登記は効力要件です。登記が完了するまで法人は存在しないので、法人としての業務を行う余地がありません。ここでも登記の完了を待つ必要があります。

法人の設立登記=5法の「成立の時期」

弁護士法人は、その主たる法律事務所の所在地において設立の登記をすることによつて成立する。

※弁護士法30条の9

税理士法人は、その主たる事務所の所在地において設立の登記をすることによつて成立する。

※税理士法48条の9

司法書士法人は、その主たる事務所の所在地において設立の登記をすることによつて成立する。

※司法書士法33条

行政書士法人は、その主たる事務所の所在地において設立の登記をすることによつて成立する。

※行政書士法13条の9

社会保険労務士法人は、その主たる事務所の所在地において設立の登記をすることによつて成立する。

※社会保険労務士法25条の12

5 従たる事務所の登記=対抗要件→完了を待たずに稼働可

ところが同じ法律が、設立以外の登記事項については別の書き方をしています。登記しなければならない事項は、登記より前は第三者に対抗できない、と定める形です。5法とも同じ文言です。

「対抗することができない」は対抗要件の言い方で、効力要件ではありません。従たる事務所の設置そのものは、定款の変更と現実の設置によって効力を生じ、登記はそれを公示する手続にとどまります。

ですから従たる事務所は、登記の完了を待たずに稼働できます。登記をしなかった場合に残るのは、登記を怠ったことに対する過料だけで、業務が違法になるわけではありません。

その他の登記事項=5法の対抗要件

弁護士法人は、政令で定めるところにより、登記をしなければならない。

※弁護士法30条の7第1項

前項の規定により登記をしなければならない事項は、登記の後でなければ、これをもつて第三者に対抗することができない。

※弁護士法30条の7第2項

前項の規定により登記をしなければならない事項は、登記の後でなければ、これをもつて第三者に対抗することができない。

※税理士法48条の7第2項

前項の規定により登記をしなければならない事項は、登記の後でなければ、これをもつて第三者に対抗することができない。

※司法書士法31条2項

前項の規定により登記をしなければならない事項は、登記の後でなければ、これをもつて第三者に対抗することができない。

※行政書士法13条の7第2項

前項の規定により登記をしなければならない事項は、登記の後でなければ、これをもつて第三者に対抗することができない。

※社会保険労務士法25条の10第2項

6 業務制限の名宛人=「○○でない者」→業務の可否は登録の有無で決まる

次に業務制限の規定です。5つの法律とも、名宛人は「○○又は○○法人でない者」という形で、資格を有するかどうかではなく、その者が「弁護士」「税理士」であるかどうかを問うています。

そして「弁護士」「税理士」とは、前節のとおり登録を受けた者です。したがって試験や修習を終えて資格を得ていても、登録していなければ名宛人に当たり、業務を行えば違法になります。業務の可否を決めるのは資格ではなく登録です。

業務制限の名宛人=4法の条文

弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

※弁護士法72条

税理士又は税理士法人でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行つてはならない。

※税理士法52条

行政書士又は行政書士法人でない者は、他人の依頼を受けいかなる名目によるかを問わず報酬を得て、業として第一条の三に規定する業務を行うことができない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合及び定型的かつ容易に行えるものとして総務省令で定める手続について、当該手続に関し相当の経験又は能力を有する者として総務省令で定める者が電磁的記録を作成する場合は、この限りでない。

※行政書士法19条1項

社会保険労務士又は社会保険労務士法人でない者は、他人の求めに応じ報酬を得て、第二条第一項第一号から第二号までに掲げる事務を業として行つてはならない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合及び政令で定める業務に付随して行う場合は、この限りでない。

※社会保険労務士法27条

7 会員資格=4法では登録の効果(登録を受けた時に「当然」会員)

では、会に入会していることは登録とは別の要件になるでしょうか。弁護士法・税理士法・行政書士法・社会保険労務士法は、登録を受けた時に「当然」会員となる、と定めています。本人が入会するかどうかを選ぶ余地はありません。

会員であることが登録から自動的に導かれるので、業務制限の条文に会員資格を書いても、登録の有無を書くのと同じになります。だから4法は書いていません。会員資格が要らないのではなく、登録に含まれているのです。

4法の入会の条文=登録を受けた時に「当然」会員となる

弁護士名簿に登録又は登録換を受けた者は、当然、入会しようとする弁護士会の会員となり、登録換を受けた場合には、これによつて旧所属弁護士会を退会するものとする。

※弁護士法36条1項

税理士は、登録を受けた時に、当然、その登録を受けた税理士事務所又は税理士法人の事務所の所在地を含む区域に設立されている税理士会の会員となる。

※税理士法49条の6第1項

行政書士は、第六条の二第二項の規定による登録を受けた時に、当然、その事務所の所在地の属する都道府県の区域に設立されている行政書士会の会員となる。

※行政書士法16条の5第1項

社会保険労務士は、第十四条の二第一項の規定による登録を受けた時に、当然、次の各号に掲げる場合に応じ、当該各号に掲げる都道府県の区域に設立されている社会保険労務士会の会員となる。当該社会保険労務士が第十四条の二第一項の規定による登録のほか、同条第二項の規定による登録を受けた場合当該登録に係る事務所の所在地の属する都道府県の区域当該社会保険労務士が第十四条の二第一項の規定による登録のほか、同条第三項の規定による登録を受けた場合当該登録に係る事業所の所在地の属する都道府県の区域前二号に掲げる場合以外の場合当該社会保険労務士の住所地の属する都道府県の区域

※社会保険労務士法25条の29第1項

8 司法書士法73条1項=会への入会が業務の要件

5つの法律のうち、司法書士法だけが違います。業務制限の名宛人に「司法書士会に入会している」という限定が入っています。

会に入会していない司法書士は、資格を持っていても業務を行えません。司法書士法人が簡裁訴訟代理等関係業務を行う場合も、法人が司法書士会の会員であることが明文の要件になっています。

司法書士法=名宛人に「司法書士会に入会している」が入る

司法書士会に入会している司法書士又は司法書士法人でない者(協会を除く。)は、第三条第一項第一号から第五号までに規定する業務を行つてはならない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

※司法書士法73条1項

簡裁訴訟代理等関係業務は、社員のうちに第三条第二項に規定する司法書士がある司法書士法人(司法書士会の会員であるものに限る。)に限り、行うことができる。

※司法書士法29条2項

9 司法書士法57条1項=入会は登録の効果でなく別の手続→条文の表面に現れる

なぜ司法書士法だけが名宛人に書くのか。入会の組み立てが4法と違うからです。

司法書士法は、登録の申請をする者はその申請と同時に司法書士会に入会する手続をとらなければならないと定め、会員になるのは「入会の手続をとつた者」だとしています。手続をとらなければ、連合会は登録を拒否しなければなりません。入会は登録の効果ではなく、登録と並ぶ別の行為として組まれています。

だから「司法書士である」だけでは会員であることを言い表せず、業務制限の条文の表面に「司法書士会に入会している」と書く必要が出ます。登録事項に「所属する司法書士会」が入っているのも、同じ組み立ての現れです。他の4法の登録事項に所属する会は入っていません。

司法書士法=入会の手続を登録の要件に置く

第九条第一項の規定による登録の申請又は第十三条第一項の変更の登録の申請をする者は、その申請と同時に、申請を経由すべき司法書士会に入会する手続をとらなければならない。

※司法書士法57条1項

前項の規定により入会の手続をとつた者は、当該登録又は変更の登録の時に、当該司法書士会の会員となる。

※司法書士法57条2項

日本司法書士会連合会は、前条第一項の規定による登録の申請をした者が司法書士となる資格を有せず、又は次の各号のいずれかに該当すると認めたときは、その登録を拒否しなければならない。この場合において、当該申請者が第二号又は第三号に該当することを理由にその登録を拒否しようとするときは、第六十七条に規定する登録審査会の議決に基づいてしなければならない。第五十七条第一項の規定による入会の手続をとらないとき。心身の故障により司法書士の業務を行うことができないとき。司法書士の信用又は品位を害するおそれがあるときその他司法書士の職責に照らし司法書士としての適格性を欠くとき。

※司法書士法10条1項

10 誤解の構造=設立登記の記憶が従たる事務所の登記へ転移(筆者見解)

ここからは出典のない筆者の見立てです。

実務で「登記が済むまで動けない」と語られるとき、念頭にあるのは個人の登録と法人の設立登記だと思われます。どちらも完了を待つ必要がある場面で、しかも士業にとって一度は必ず通る手続です。

その記憶が、従たる事務所の登記にも転移するのではないか、と筆者は見ています。同じ「登記」という語で呼ばれ、同じ登記所へ同じような書類を出し、同じように完了予定日を知らされる。外から見える手続はほとんど同じなので、位置づけが効力要件から対抗要件へ変わっていることは、条文を読み分けないと見えません。

この見立てが当たっているとすれば、実務上の手当ては単純です。登記の話が出たときに「これは成立の登記か、変更の登記か」を先に確かめる。成立の登記なら完了を待ち、変更の登記なら待たなくてよい、という切り分けで足りると思われます。

本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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