過労死等とは何か(定義・範囲)

1 過労死等とは何か(定義・範囲)

「過労死」「過労自死」という言葉は、報道でも日常の会話でも使われます。ただ、その言葉が法律の中でどう位置づけられているのか、自分や家族の身に起きたことがそこに当たるのかは、言葉の印象だけでは分かりません。

「過労死等」には、法律が置いた定義があります。過労死等防止対策推進法という法律の2条です。そして、労災の対象になる病気の範囲は、それとは別に、労働基準法と労働基準法施行規則が決めています。定義と範囲は、別々の条文が担っています。

この記事は、「過労死等」が法律上どう定義されているか、労災の側では対象になる病気の範囲がどこで決まっているかを説明します。労災の申請や会社への損害賠償請求の全体像は、別の記事で説明しています。

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下の表は、「過労死等」に当たる場合を並べたものです。左が置かれている状況、右が労災の対象になる病気を並べた一覧(労働基準法施行規則別表第一の二)のどの号に対応するかです。

この表は当事務所の整理で、各行の根拠はこの記事の本文にあります。自分の状況に近い行があれば、その先の本文で詳しく説明しています。

<「過労死等」に当たるのはどういう場合か>

こういう場合労災で対象になる病気(別表第一の二)働きすぎで脳や心臓の病気になり、それが原因で亡くなった8号働きすぎで脳や心臓の病気になった(死亡には至らなかった)8号仕事による強い精神的負担で精神障害になり、自ら命を絶った9号仕事による強い精神的負担で精神障害になった(死亡には至らなかった)9号

2 「過労死等」は法律が定義を置いた言葉である

「過労死等」は、法律が定義を置いた言葉です。2014(平成26)年にできた過労死等防止対策推進法(平成二十六年法律第百号)の2条が、その定義にあたります。

一文で書かれていて読みにくいのですが、この一文が、このあとの話の土台になります。

過労死等防止対策推進法2条の条文

この法律において「過労死等」とは、業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡若しくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡又はこれらの脳血管疾患若しくは心臓疾患若しくは精神障害をいう。

※過労死等防止対策推進法2条

3 亡くなった場合だけを指す言葉ではない

2条の定義は、原因と結果を組み合わせた形で書かれています。原因の側が「業務における過重な負荷」と「業務における強い心理的負荷」、結果の側が「脳血管疾患若しくは心臓疾患」と「精神障害」です。

前半は、死亡した場合を指しています。「業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡」が、日常語でいう「過労死」にあたります。「業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡」が、「過労自死」「過労自殺」と呼ばれてきたものです。

そして末尾に「又はこれらの脳血管疾患若しくは心臓疾患若しくは精神障害をいう」と続きます。亡くならなかった場合の病気そのものも「過労死等」に含まれる、ということです。倒れて後遺症が残った場合や、うつ病で働けなくなった場合も、この言葉の中に入ります。

4 この定義は、防止対策を進めるための定義である

定義があると聞くと、これに当たれば労災が認められる、会社に賠償を求められる、と読みたくなります。しかし、2条の定義はそのためのものではありません。

同じ法律の1条が、何のための法律かを述べています。「過労死等に関する調査研究等について定めることにより、過労死等の防止のための対策を推進し」とあるとおり、実態を調べて対策を進めるための枠組みです。14条も、調査研究等の結果を踏まえ、必要があると認めるときは法制上または財政上の措置を講ずる、としています。必要な手当ては別の法律に委ねる、という建て付けです。

つまり、2条の定義に当たることと、労災が認められることや会社に賠償を求められることとは、別の話です。労災が認められるための要件については、別の記事で説明しています。

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過労死等防止対策推進法1条の条文

この法律は、近年、我が国において過労死等が多発し大きな社会問題となっていること及び過労死等が、本人はもとより、その遺族又は家族のみならず社会にとっても大きな損失であることに鑑み、過労死等に関する調査研究等について定めることにより、過労死等の防止のための対策を推進し、もって過労死等がなく、仕事と生活を調和させ、健康で充実して働き続けることのできる社会の実現に寄与することを目的とする。

※過労死等防止対策推進法1条

過労死等防止対策推進法14条の条文

政府は、過労死等に関する調査研究等の結果を踏まえ、必要があると認めるときは、過労死等の防止のために必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講ずるものとする。

※過労死等防止対策推進法14条

5 労災の側では、対象になる病気の範囲が別の条文で決まっている

では、労災の側はどうなっているか。出発点は労働基準法75条です。1項が業務上の負傷・疾病についての療養補償を定め、2項が「業務上の疾病及び療養の範囲は、厚生労働省令で定める」として、範囲の決め方を省令に預けています。

これを受けたのが労働基準法施行規則35条で、業務上の疾病は「別表第一の二に掲げる疾病とする」と定めています。労災の対象になる病気は、この別表第一の二という一覧で決まります。

一覧という形が採られているのは、迅速で定型的な判定を可能にするためだと説明されています。

労働基準法75条の条文

労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかつた場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。
2 前項に規定する業務上の疾病及び療養の範囲は、厚生労働省令で定める。

※労働基準法75条

労働基準法施行規則35条の条文

法第七十五条第二項の規定による業務上の疾病は、別表第一の二に掲げる疾病とする。

※労働基準法施行規則35条

業務上の疾病の範囲は省令に委ねられ、別表第一の二に類型的に列挙されている

そこで労基法は,その迅速で定型的な判定を可能とするため,業務上の疾病の範囲を厚生労働省令で定めることとし(75条2項),これを受けて労基法施行規則は,別表第1の2において,医学的にみて業務に起因して発生する可能性が高い疾病を有害因子と業務の種類ごとに類型的に列挙している(労基則35条)。

※水町勇一郎著『詳解 労働法 第4版』東京大学出版会2025年 9月p882

6 働きすぎによる病気は、別表第一の二の8号と9号に入っている

別表第一の二は、業務の種類と疾病の類型ごとに番号を振って並べた一覧です。このうち過労死等に対応するのが、脳・心臓疾患を挙げた8号と、精神障害を挙げた9号です。

どちらも2010(平成22)年の改正で加わったもので、それ以前は一覧に載っていませんでした。順に見ていきます。

(1)「過労死」と呼ばれてきたもの——脳・心臓疾患は8号

働きすぎが原因で脳や心臓の病気になった場合は、8号に当たります。脳出血、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症、心筋梗塞、狭心症、心停止、重篤な心不全、大動脈解離が並んでいます。「過労死」という言葉は、このうち亡くなった場合を指す呼び方として使われてきました。

次に条文を引き、続けて、この8号が加わった経緯を述べた文献を引きます。文献の側は2010年改正当時の条文を括弧の中に引いているため、末尾が「解離性大動脈瘤」となっていて、現行の条文(「重篤な心不全若しくは大動脈解離」)とは異なります。現行の文言は、条文の引用のほうです。

労働基準法施行規則別表第一の二第八号の規定

長期間にわたる長時間の業務その他血管病変等を著しく増悪させる業務による脳出血、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症、心筋梗塞、狭心症、心停止(心臓性突然死を含む。)、重篤な心不全若しくは大動脈解離又はこれらの疾病に付随する疾病

※労働基準法施行規則別表第一の二第八号

脳・心臓疾患は2010年の改正で別表8号に加えられた(それ以前は11号で判断)

この脳・心臓疾患の「業務上」認定については,従来は,労基則別表第1の2の職業病リストに列挙されていなかったため,「その他業務に起因することの明らかな疾病」(⇨⑪)に該当することを立証することで判断されてきた。
しかし,過重労働による脳・心臓疾患(死亡した場合「過労死」と呼ばれる)が社会的に深刻な問題となり,その行政や司法の判断も蓄積してきたことを受けて,2010(平成22)年の同別表の改正により,過重負荷による脳・心臓疾患(「長期間にわたる長時間の業務その他血管病変等を著しく増悪させる業務による脳出血,くも膜下出血,脳梗塞,高血圧性脳症,心筋梗塞,狭心症,心停止(心臓性突然死を含む)若しくは解離性大動脈瘤又はこれらの疾病に付随する疾病」)が列挙疾病として追加されるに至った(同別表8号)。

※水町勇一郎著『詳解 労働法 第4版』東京大学出版会2025年 9月p884

(2)「過労自死」と呼ばれてきたもの——精神障害は9号

仕事による強い精神的な負担でうつ病などの精神障害になった場合は、9号に当たります。条文は「人の生命にかかわる事故への遭遇その他心理的に過度の負担を与える事象を伴う業務による精神及び行動の障害」という書き方で、病名を並べてはいません。「過労自死」「過労自殺」は、このうち自ら命を絶った場合を指す呼び方です。

8号と同じく、この9号も2010年の改正で加わりました。

労働基準法施行規則別表第一の二第九号の規定

人の生命にかかわる事故への遭遇その他心理的に過度の負担を与える事象を伴う業務による精神及び行動の障害又はこれに付随する疾病

※労働基準法施行規則別表第一の二第九号

精神障害も2010年の改正で別表9号に加えられた

これに対し,いわゆる「過労自殺」や「メンタルヘルス」問題が社会的に顕在化・深刻化し,その行政や司法の判断も蓄積してきたことを受けて,2010(平成22)年の同別表改正により,過重負荷による脳・心臓疾患(⇨884頁(ii))と並んで,過度の心理的負荷を与える業務による精神障害(「人の生命にかかわる事故への遭遇その他心理的に過度の負担を与える事象を伴う業務による精神及び行動の障害又はこれに付随する疾病」)が列挙疾病として追加されるに至った(同別表9号)。

※水町勇一郎著『詳解 労働法 第4版』東京大学出版会2025年 9月p890

7 一覧に載っていない病気が、それだけで外れるわけではない

別表第一の二は類型を並べた一覧ですが、そこで閉じているわけではありません。10号が厚生労働大臣の指定する疾病を、11号が「その他業務に起因することの明らかな疾病」を挙げていて、一覧に名前のない病気の受け皿になっています。

前に引いた文献が述べているとおり、脳・心臓疾患も、8号が加わる前はこの11号に当たるかどうかで判断されていました。一覧に載ったことで、その類型に当たるかどうかという形で判断できるようになった、という関係です。

労働基準法施行規則別表第一の二第十号の規定

前各号に掲げるもののほか、厚生労働大臣の指定する疾病

※労働基準法施行規則別表第一の二第十号

労働基準法施行規則別表第一の二第十一号の規定

その他業務に起因することの明らかな疾病

※労働基準法施行規則別表第一の二第十一号

8 対象の範囲に入ることと、労災と認められることは別である

別表第一の二の8号や9号に当たる病気であれば当然に労災と認められる、というわけではありません。ここまでが対象になる病気の範囲の話で、実際にその人の病気が業務によるものといえるかどうかは、そこから先の判断になります。その判断は、厚生労働省が定めている認定基準に従って行われます。

この記事は「過労死等」という言葉の定義と、労災の対象になる病気の範囲までを扱うものなので、認定基準の中身には立ち入りません。労災や損害賠償が認められるための要件については、別の記事で説明しています。

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対象になる精神障害の種類(国際疾病分類ICD-10による分類)については、別の記事で説明しています。

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9 おわりに

「過労死等」は、法律が定義を置いた言葉です。働きすぎによる脳・心臓疾患を原因とする死亡と、強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡、そして死亡に至らなかった場合の病気そのものが、その中に入ります。

ただし、この定義は防止対策を進めるためのもので、労災や損害賠償の要件を決めているわけではありません。労災の対象になる病気の範囲は、労働基準法75条2項から労働基準法施行規則35条を経て、別表第一の二の8号・9号に行き着きます。

ご家族や本人に起きたことがこれに当たるのではないかというとき、進め方としては、労災の申請と、会社に対する損害賠償請求があります。それぞれの根拠、金額の算定、手続の流れについては、別の記事で説明しています。

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