労働審判が打ち切られるとき|24条終了

1 労働審判が打ち切られるとき(24条終了)

労働審判には、申立てが対象に入っていても、手続がそこで打ち切られることがあります。3回以内の期日では終えられないほど複雑な事件だと判断された場合で、労働審判法24条にもとづく扱いなので「24条終了」と呼ばれます。

この記事は、24条終了になると何が起こるのか、どの程度起きているのか、そしてどういう事件で現実に問題になるのかを説明します。

労働審判でどういう紛争を扱えるのか、何を請求できるのかについては、別の記事で説明しています。

労働審判では何を請求できるのか|審理の対象と範囲

2 3回で終えられない事件は終了させられる

労働審判は、特別の事情がある場合を除いて、3回以内の期日で審理を終えなければならないとされています。この枠に収まらない事件、つまり3回では終えられないほど複雑な事件が、労働審判に馴染まないものとして扱われます。

そのための条文が労働審判法24条1項です。労働審判委員会が「事案の性質に照らし、労働審判手続を行うことが紛争の迅速かつ適正な解決のために適当でないと認めるとき」に、事件を終了させることができるとされています。

労働審判法15条2項の条文

労働審判手続においては、特別の事情がある場合を除き、三回以内の期日において、審理を終結しなければならない。

※労働審判法15条2項

労働審判法24条の条文

労働審判委員会は、事案の性質に照らし、労働審判手続を行うことが紛争の迅速かつ適正な解決のために適当でないと認めるときは、労働審判事件を終了させることができる。
2 第二十二条の規定は、前項の規定により労働審判事件が終了した場合について準用する。この場合において、同条第一項中「当該労働審判が行われた際に労働審判事件が係属していた」とあるのは、「労働審判事件が終了した際に当該労働審判事件が係属していた」と読み替えるものとする。

※労働審判法24条

3 打ち切られても請求は消えない——そのまま通常訴訟へ移る

24条終了になっても、申し立てた請求が失われるわけではありません。労働審判法24条2項が22条を準用しており、労働審判手続の申立てをした時に、その裁判所へ訴えの提起があったものとみなされます。手続はそのまま通常訴訟へ移ります。

かかる時間は延びますが、振り出しに戻って一から訴えを起こし直すことにはなりません。

労働審判法22条1項の条文

労働審判に対し適法な異議の申立てがあったときは、労働審判手続の申立てに係る請求については、当該労働審判手続の申立ての時に、当該労働審判が行われた際に労働審判事件が係属していた地方裁判所に訴えの提起があったものとみなす。この場合において、当該請求について民事訴訟法第一編第二章第一節の規定により日本の裁判所が管轄権を有しないときは、提起があったものとみなされた訴えを却下するものとする。

※労働審判法22条1項

4 24条終了は「例外中の例外」

労働審判法24条は、できるだけ限定的に解釈すべきものとされ、現にそのように運用されています。無限定に適用すると、使用者側が複雑な事案だと主張した事件はすべて労働審判では扱えないことになりかねず、制度そのものが骨抜きになるからです。

実際の割合も限られており、全既済件数のうち24条終了になったものは数%にとどまります(引用した文献では年の表記が重複していますが、原文のまま引いています)。

文献は「例外中の例外」として扱うべきだとしており、事件名や当事者の数によって一律に判断するのではなく、手続を進める中で慎重に判断すべきものだと指摘しています。安易に振り分ければ、労働審判を受ける権利を拒むことになるからです。

24条終了はできるだけ限定的に解釈すべきであり、現にそう運用されている

法24条1項は、「労働審判委員会は、事案の性質に照らし、労働審判手続を行うことが紛争の迅速かつ適正な解決のために適当でないと認めるときは、労働審判事件を終了させることができる」と規定しています(この規定に基づき手続を終了させる場合を「24条終了」といいます)。
労働審判は、3回以内の期日で調停を成立させ、調停が成立しない場合には審判を出して手続を終えるのが原則ですので、3回の期日では手続を終えられないような複雑な事件は、労働審判に馴染まないとして手続を終了させるものです(なお、この条文に基づき手続が終了した場合、審判に異議が出された場合と同様、審判申立時に提訴があったものとされ、通常訴訟に移行します。法24条2項)。
確かに、事案によっては労働審判には馴染まない事件はあるのですが、この条文を無限定に適用すると、使用者側が複雑案件だと主張した事件はすべて労働審判手続では対処できないことになりかねません。
このようなことになると、労働審判制度そのものが骨抜きになりかねませんので、この条文は、できるだけ限定的に解釈すべきであり、現にそのような運用がされています(全既済件数のうち24条終了になった事案の割合は、2020年が4.6%、2021年が5.1%、2021年が5.9%です)。

※鴨田哲郎 君和田伸仁 棗一郎著『3訂版 労働審判制度 その仕組みと活用の実際』日本法令2023年 5月p123〜124

24条による事件終了は「例外中の例外」

したがって、事件名や当事者の数によって一律に判断するのではなく、手続を進行させる中で事件を法24条により終了させるかどうかを慎重に判断すべきで、法24条による事件終了は「例外中の例外」として扱うべきです。

※鴨田哲郎 君和田伸仁 棗一郎著『3訂版 労働審判制度 その仕組みと活用の実際』日本法令2023年 5月p32

安易な振分けは労働審判を受ける権利の拒否になる

この点を一律・安易に振分けすれば、通常の訴訟に事件を流してしまい(法24条2項、法22条により訴え提起が擬制される)、労働審判を受ける権利の拒否となり、労働審判制度をつくった本来の意味がなくなってしまいます。

※鴨田哲郎 君和田伸仁 棗一郎著『3訂版 労働審判制度 その仕組みと活用の実際』日本法令2023年 5月p32〜33

5 24条終了が問題になりやすい事件類型

どういう事件で24条終了が現実に問題になるのか。文献が挙げているのは、賃金差別、整理解雇、就業規則の不利益変更、そして過労死などの損害賠償です。いずれも、判断のために会社側の資料を分析する必要がある類型です。順に見ていきます。

(1)賃金差別——「格差」の立証に時間がかかる

賃金差別では、「差別」を言う前に「格差」があることを示さなければならず、他の労働者の賃金を明らかにする必要があります。文書提出命令の手続を使うことになり、それ自体に時間がかかります。この構造から、賃金差別を労働審判で処理するのは一般には難しいとされています。

ただし、差別かどうかは別として、勤務成績に照らして査定が不合理だと示せる場合には、労働審判で審理できます。

賃金差別事件は「格差」の立証が不可欠で労働審判には乗りにくい

このような賃金等差別事件においては、「差別」の前提として、当該労働者の賃金が同期、同学歴者等との比較において低位に置かれているという「格差」の存在の立証が不可欠です。
しかし、差別を受けている労働者が他の労働者の賃金を明らかにすることは困難です。
仮に労働者側が一定の資料を提出できたとしても、使用者はその内容を争うのが通例です。
そこで、文書提出命令(民事訴訟法220条~225条)の手続を利用するなどして会社に賃金台帳等の資料を提出させることになりますが、文書提出命令に関しては、賃金台帳等が文書提出命令の対象となりうるのかが厳しく争われるのが一般です。
また、仮に文書提出命令が出されても、これに対しては独立の不服申立ができるなど、手続そのものにかなりの時間がかかります。
また、文書提出命令を通じて、もしくは使用者から任意に開示させた資料を分析するにもかなり時間がかかります。
さらに、「格差」の存在が明らかにされた場合でも、使用者は人事権の合理的な運用(裁量権)に基づきなされたものであるとして、当該労働者の勤務態度、成績の実態(不良さ)を明らかにする個々人ごとの個別立証をすることになります。
このような訴訟構造からすると、賃金差別事件を労働審判で処理するのは、一般的には困難と思われます。

※鴨田哲郎 君和田伸仁 棗一郎著『3訂版 労働審判制度 その仕組みと活用の実際』日本法令2023年 5月p124

査定が不合理と示せれば審理は可能

ただし、差別であるかどうかは別にして、当該労働者の勤務成績等に照らして、当該査定が不合理なものであることが明らかにできる場合には、労働審判で審理することは可能と思われます(査定についての労働審判の活用については、第34〈112頁以下〉を参照のこと)。

※鴨田哲郎 君和田伸仁 棗一郎著『3訂版 労働審判制度 その仕組みと活用の実際』日本法令2023年 5月p125

(2)整理解雇——事件名や人数では振り分けない

整理解雇は、事件名や人数だけで複雑な事案に振り分けられているわけではありません。人員削減の必要性がない、解雇回避の努力をまったくしていない、といったことを資料から明らかにできる事案なら、労働審判でも十分に解決できます。

逆に、会社が一応の解雇回避努力と説明協議を経ている場合は、経営資料の分析が必要になり、複雑な事案に当たることがあります。

整理解雇は事件名や人数だけで複雑な事案に振り分けられてはいない

このような事案については、労働審判によっても、十分に解決可能ですから、手続を終了させる必要はなく、労働審判制度の利用を避ける必要もありません。
実際の運用においても、整理解雇などの事件名や当事者の人数だけで複雑な事案に振り分けてしまうような扱いはしていません。

(3)複雑な事案とされる場合
その一方、会社が一応の解雇回避努力をし、かつまた、一応の説明協議を経ているようなケースでは、法24条1項の複雑な事案に該当する場合があります。

※鴨田哲郎 君和田伸仁 棗一郎著『3訂版 労働審判制度 その仕組みと活用の実際』日本法令2023年 5月p126

(3)就業規則の不利益変更——経営状況の分析が要る

就業規則の不利益変更は、有効性の判断要素が多く、なかでも労働条件を変更しなければならない必要性の内容や程度を見るには、会社の経営状況の分析が欠かせません。それを3回以内の期日で終えられるのかという問題があり、労働審判での審理に馴染まない事案があることは否めないとされています。

就業規則の不利益変更は判断要素が多く、馴染まない事案がある

最高裁が判示し、労契法が定めた上記のような合理性の判断基準に照らすと、労働条件の不利益変更事案を労働審判で審理することは無理ではないかとの指摘があります。
この点、確かに、労働条件を変更しなければならない使用者側の必要性の内容・程度(上記②)等に関しては、会社の経営状況の分析などが不可欠であり、これを3回以内の期日で終わらせなければならない労働審判で判断ができるのかという問題はあります。
したがって、労基法所定の就業規則の変更手続を経て労働条件が不利益に変更された事案の中には、労働審判での審理に馴染まないものがあることは否めません(その一方、労働審判によっても十分解決可能な不利益変更事案があることは第23で述べたとおりです)。

※鴨田哲郎 君和田伸仁 棗一郎著『3訂版 労働審判制度 その仕組みと活用の実際』日本法令2023年 5月p128〜129

(4)過労死・過労自死——責任の有無が争いなら難しい

過労死・過労自死については、用語を一つ確かめておきます。過労死等防止対策推進法2条は「過労死等」に、業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡を含めています。

会社の責任の有無そのものが争いになる事案では、労働時間と労働実態の立証に加えて医学的な裏づけが必要になり、労働審判の利用は困難とされています。ただし、すでに労災認定がされていて金額だけが争いなら、十分に審理できます。

過労死・過労自死の要件や賠償額の算定、労災申請の進め方については、別の記事で説明しています。

職場環境(過労やパワハラ)による自殺と労災・損害賠償の総合ガイド

過労死等防止対策推進法2条の条文

この法律において「過労死等」とは、業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡若しくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡又はこれらの脳血管疾患若しくは心臓疾患若しくは精神障害をいう。

※過労死等防止対策推進法2条

過労死は責任の有無が争いなら困難/労災認定済みなら可能

したがって、過労死に対する使用者の責任の有無自体が争いとなるケースで、労働審判を利用することは困難と思われます。
ただし、既に労災認定がなされている場合などでは、会社も労災の責任そのものは認め、損害賠償の金額だけが争いとなることもあります。
このようなケースでは、労働審判でも十分に審理が可能でしょう。

※鴨田哲郎 君和田伸仁 棗一郎著『3訂版 労働審判制度 その仕組みと活用の実際』日本法令2023年 5月p130

6 複雑そうな事件でも、調停は成立している

最後に一点。労働審判を担当した裁判官は、基礎時給の計算方法から勤務時間までがことごとく争点になった時間外割増手当の事件、時系列で多数の争点が生じたパワハラの損害賠償事件、休職期間満了による契約終了の効力を判断するために医学的な論争が必要だった事件——いずれも簡易とはいえない事件を経験したと書いています。

そしてそうした事件でも、申立人が柔軟に対応する前提で早期解決を視野に入れていれば、調停は成立していたとしています。複雑そうだから使えない、と決めつける必要はありません。

簡易とはいえない事件でも調停は成立している(担当裁判官の経験)

あ 争点が多い事件も現にあった

もっとも、当職が経験した個別労働関係民事紛争の中には、基礎時給の計算方法、毎日の勤務開始時間、退勤時間、休憩時間などがことごとく争点となり、計算関係が複雑になる時間外割増手当等請求事件、いわゆるパワハラを請求原因とし、時系列的に多数の争点が生じる損害賠償請求事件、解雇(休職期間満了による雇用契約終了)の効力の判断のために医学的論争が必要な事件など、簡易な事件とはいえない事件も存在した。

※和久田斉稿『労働審判の経験を踏まえた自庁調停』/『判例タイムズ1357号』2011年12月p23

い 柔軟な対応があれば調停は成立している

こうした事件においても、申立人が柔軟な対応をすることを前提に早期解決を図ることを視野に入れている場合は、調停が成立しており、コンパクトな事件であることが付調停の必要条件となるわけではないように思われる

※和久田斉稿『労働審判の経験を踏まえた自庁調停』/『判例タイムズ1357号』2011年12月p23

7 おわりに

24条終了は、対象になる紛争であっても手続がそこで終わる扱いですが、「例外中の例外」として運用されており、割合としても数%にとどまります。終了しても、申立ての時に訴えが提起されたものとみなされるので、請求そのものが失われるわけではありません。

問題になりやすいのは、判断のために会社側の資料を分析しなければならない類型です。もっとも、事件名や人数で一律に振り分けられているわけではなく、争点をどう絞り、何を資料で示せるようにしておくかで見通しは変わります。申立ての準備や証拠の集め方、申立書の書き方については、別の記事で説明しています。

労働審判の申立準備・証拠収集と申立書作成の実践ガイド

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過労死等とは何か(定義・範囲)

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