【仕事による自死(過労自殺)の労災・損害賠償請求が認められる要件(基礎知識)】

1 仕事による自死(過労自殺)の労災・損害賠償請求が認められる要件

過労やパワハラ、セクハラなどの仕事が従業員(社員や公務員)を自殺(自死)に追い込んだというケースは残念ながらあとを絶ちません。仕事による自死のケースではいろいろな法律問題が出てきますが、その1つが労災や会社への損害賠償請求です。
詳しくはこちら|職場環境(過労やパワハラ)による自殺と労災・損害賠償の総合ガイド
労災や会社への損害賠償請求においては、これらの請求が認められるかどうか、ということが大きな問題になります。
本記事では、労災や会社への損害賠償が認められる要件(判断基準)の基本的な理論(基礎知識)を説明します。
なお、実際に労災申請をする際に役立つノウハウは、別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|職場環境(過労やパワハラ)による自殺の労災・損害賠償が認められる要件(実践アプローチ)

2 業務と精神障害の因果関係(業務起因性)の要件

労災も会社への損害賠償請求も、認められるのは、業務(仕事)が自殺に追い込んだといえる場合です。専門的には業務起因性(が認められる)ということになります。ちなみに公務員の場合は公務起因性といいますが、実質的な内容は同じです。
この業務起因性ですが、理論的には2段階に分けられます。
まず第1段階は、業務によって精神障害が発病した、といえるかどうかです。
この判断基準(要件)は、通達で示されていて、それを裁判所も採用しています。主な内容(要件)は、特定の精神疾患(業務によって発病しやすい精神疾患)の発病と、その発病の前の約6か月間に業務から強いストレスを受けた、というものです。
また、(当然ですが)その精神疾患の発病が業務以外の原因であった場合は除外されます。

業務と精神障害の因果関係(業務起因性)の要件

あ 対象疾病の発病

対象疾病(後記※1)を発病していること

い 発病の6か月前の強いストレス

対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷(ストレス)が認められること

う 業務以外の要因の不存在

業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと
※厚生労働省労働基準局長平成23年12月26日基発1226第1号『心理的負荷による精神障害の認定基準について』第2
※大阪高裁平成24年2月23日ほか

3 業務と自殺の因果関係(業務起因性)の判断基準

前記の要件が満たされると、業務によって精神障害が発病したと認められます。その次に、第2段階として、その精神障害自殺に追い込んだといえるかどうか、という判定に進みます。この判定の基準は通達で示され、裁判所も採用しています。内容は単純です。
前記の精神障害(対象疾患)が発病した後に自殺が生じた場合は、原則的に(業務によって生じた)精神疾患によって自殺が生じた(自殺に追い込んだ)と認められます。

業務と自殺の因果関係(業務起因性)の判断基準

業務により『対象疾病』を発病した者が自殺を図った場合
→(自殺について)業務起因性を認める
※厚生労働省労働基準局長平成23年12月26日基発1226第1号『心理的負荷による精神障害の認定基準について』第8−1
※大阪高裁平成24年2月23日ほか

4 業務起因性が認められる主な対象疾病(概要)

前記の精神障害の業務起因性が認められる要件(判断基準)の中では、対象となる精神障害が特定されています。判断基準(通達)の中では『対象疾患』という名称となっています。この『対象疾患』は、業務上のストレスによって生じやすいものが指定されています。細かい分類も含めるととても多いので、主なものまとめます。
その中でも実際のケースでよく出てくるのはうつ病、統合失調症、不安障害(パニック障害など)です。

業務起因性が認められる主な対象疾病(概要)(※1)

あ 統合失調症、 妄想性障害系(F2)

統合失調症
妄想性障害

い 気分(感情)障害系(F3)

躁・うつ病
双極性感情障害

う 神経症性障害系(F4)

神経症性障害
ストレス関連障害
身体表現性障害
恐怖症性不安障害
(広場恐怖(症)、社会恐怖(症))
恐慌性障害(パニック障害)
強迫性障害(強迫神経症)
適応障害(急性ストレス反応、外傷後ストレス障害)
解離性(転換性)障害(健忘、遁走(フーグ)、昏迷、運動障害、けいれん、無感覚、感覚脱失)
トランス、憑依障害
身体表現性障害
神経衰弱
離人・現実感喪失症候群
※平成27年2月13日付け総務省告示第35号(「疾病、傷害及び死因の統計分類」)(ICD−10(2013年版)準拠)
詳しくはこちら|業務起因性が認められる精神障害の種類(ICD-10の分類)

5 労働時間とストレス強度の関係(目安)

実際のケースでは、精神障害の発病ははっきりしているけれど、業務上のストレスが原因なのか(ストレスを受けていたのか)が問題となることが多いです。
たとえば上司や他の従業員から仕事や責任を押し付けられて、本人の強い責任感からストレスを感じるというようなことを証拠から再現するような立証活動が必要になります。ところで、強いストレスを受けたケースでは、労働時間が異常に増えていたというものがとても多いです。いわゆる過労です。この場合には、労働時間のオーバー分によって強いストレスを受けた、つまり業務による精神障害の発生(自殺に追い込んだ)と判断できることもあります。

労働時間とストレス強度の関係(目安)

あ 前提

週40時間を超える労働時間数を時間外労働時間とする

い 労働時間とストレス強度の関係

時間外労働時間160時間×1か月→業務上の疾病となる
時間外労働時間120時間×2か月→業務上の疾病となる
時間外労働時間100時間×6か月→業務上の疾病となる
※厚生労働省労働基準局長平成23年12月26日基発1226第1号『心理的負荷による精神障害の認定基準について』p6
※大阪高裁平成24年2月23日ほか

本記事では、仕事が自殺に追い込んだケースにおける労災の請求や会社への損害賠償請求が認められる要件(判断基準)について説明しました。
実際には手続や理論(判断)はもっと複雑です。個別的な事情によって適切や対応方法は違ってきます。
実際に自殺(自死)の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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