【警察への暴力団情報照会(反社チェック)(要件・開示内容・手続など)】

1 警察への暴力団情報照会(反社チェック)(要件・開示内容・手続など)

各種取引をする際、反社チェックをすることがあります。
詳しくはこちら|取引相手の属性調査(反社チェック)の実務(弁護士を活用した効率的方法)
反社チェックの方法の1つとして、警察への暴力団情報の照会があります。本記事では、この照会制度について説明します。

2 警察の暴力団情報開示ルールの背景

警察庁通達「暴力団排除等のための部外への情報提供について」(令和6年2月26日付け警察庁丙組組一発第26号)は、組織犯罪対策部長から各地方機関の長、各都道府県警察の長宛てに発出されたものです。この通達は、暴力団情報の部外への提供に関する取扱いを定めています。
暴力団情報については、法令の規定により警察において厳格に管理する責任を負っている一方、一定の場合に部外へ提供することによって、暴力団による危害を防止し、その他社会から暴力団を排除するという暴力団対策の目的のために活用することも必要とされています。
各都道府県では暴力団排除条例が施行され、事業者が一定の場合に取引等の相手方が暴力団員・元暴力団員等に該当するかどうかを確認することが義務付けられています。
詳しくはこちら|暴排条例による契約書条項の改良,利益供与禁止
このような情勢を受けて、事業者からの暴力団関係者に関する情報提供の要望は依然として高く、条例においても事業者等に対し、必要な支援を行うことが都道府県の責務として規定されているのです。

3 通達の基本的な考え方

(1)組織としての対応の徹底

暴力団情報の提供については、個々の警察官が依頼を受けて個人的に対応することがあってはならず、必ず提供の是非について、警察本部の暴力団対策主管課長または警察署長の責任において組織的な判断を行うこととされています。

(2)情報の正確性の確保

暴力団情報を提供するに当たっては、必要な補充調査を実施するなどして、当該情報の正確性を担保することが求められています。

(3)情報提供に係る責任の自覚

情報の内容及び情報提供の正当性について警察が立証する責任を負わなければならないとの認識を持つことが必要とされています。

(4)情報提供の正当性(要件)

暴力団員等の個人情報の提供については、個人情報の保護に関する法律の規定に従って行うこととされています。特に、相手方が行政機関以外の者である場合には、法令の規定に基づく場合のほかは、当該情報が暴力団排除等の公益目的の達成のために必要であり、かつ、警察からの情報提供によらなければ当該目的を達成することが困難な場合に行うこととされています。

4 情報提供が可能なケース

(1)積極的な情報提供が推進される場合

暴力団犯罪の被害者の被害回復訴訟において組長等の使用者責任を追及する場合や、暴力団事務所撤去訴訟等暴力団を実質的な相手方とする訴訟を支援する場合は、特に積極的な情報提供を行うこととされています。

(2)法令等に基づく情報提供

債権管理回収業に関する特別措置法及び廃棄物の処理及び清掃に関する法律のように提供することができる情報の内容及びその手続が法令により定められている場合には、これによるものとされています。また、他の行政機関、地方公共団体その他の公共的機関との間で暴力団排除を目的として暴力団情報の提供に関する申合せ等が締結されている場合や、暴力団排除を目的として組織された事業者団体その他これに準ずるものとの間で申合せ等が締結されている場合についても、同様とされています。

(3)その他の情報提供

上記(1)または(2)以外の場合には、条例上の義務履行の支援、暴力団に係る被害者対策、資金源対策の視点や社会経済の基本となるシステムに暴力団を介入させないという視点から、可能な範囲で積極的かつ適切な情報提供を行うものとされています。

(4)暴力追放運動推進センターを通じた情報提供

都道府県暴力追放運動推進センターに対して相談があった場合にも、必要な暴力団情報をセンターに提供し、センターが相談者に当該情報を告知することとされています。

5 情報提供の要件(基準)

(1)提供の必要性

暴力団情報については、警察は厳格に管理する責任を負っていることから、情報提供によって達成される公益の程度によって、情報提供の要件及び提供できる範囲・内容が異なってきます。以下の観点から検討を行い、暴力団対策に資すると認められる場合は、暴力団情報を当該情報を必要とする者に提供することとされています。
(ア)条例上の義務履行の支援に資する場合その他法令の規定に基づく場合 事業者が、取引等の相手方が暴力団員、暴力団準構成員、元暴力団員、共生者、暴力団員と社会的に非難されるべき関係を有する者等でないことを確認するなど条例上の義務を履行するために必要と認められる場合には、その義務の履行に必要な範囲で情報を提供するものとされています。
(イ)暴力団による犯罪、暴力的要求行為等による被害の防止又は回復に資する場合 情報提供を必要とする事案の具体的内容を検討し、被害が発生し、または発生するおそれがある場合には、被害の防止または回復のために必要な情報を提供するものとされています。
(ウ)暴力団の組織の維持又は拡大への打撃に資する場合 暴力団の組織としての会合等の開催、暴力団事務所の設置、加入の勧誘、名誉職への就任や栄典を受けること等による権威の獲得、政治・公務その他一定の公的領域への進出、資金獲得等暴力団の組織の維持または拡大に係る活動に打撃を与えるために必要な場合には、必要な情報を提供するものとされています。

(2)適正な情報管理

情報提供は、その相手方が、提供に係る情報の悪用目的外利用を防止するための仕組みを確立している場合、提供に係る情報を他の目的に利用しない旨の誓約書を提出している場合、その他情報を適正に管理することができると認められる場合に行うものとされています。

6 提供される情報の範囲

(1)条例上の義務履行の場合

条例上の義務を履行するために必要な範囲で情報を提供するものとされています。この場合において、まずは、情報提供の相手方に対し、契約の相手方等が条例に規定された規制対象者等の属性のいずれかに該当する旨の情報を提供すれば足りるかを検討することとされています。

(2)その他の場合の段階的検討

暴力団による犯罪、暴力的要求行為等による被害の防止又は回復に資する場合や、暴力団の組織の維持又は拡大への打撃に資する場合には、次のア、イ、ウの順に慎重な検討を行うこととされています。
(ア)暴力団の活動の実態についての情報(個人情報以外の情報)の提供 暴力団の義理掛けが行われるおそれがあるという情報、暴力団が特定の場所を事務所としているという情報、傘下組織に係る団体の名称等、個人情報以外の情報の提供によって足りる場合には、これらの情報を提供することとされています。
(イ)暴力団員等該当性情報の提供 上記アによって公益を実現することができないかを検討した上で、次に、相談等に係る者の暴力団員等(暴力団員、暴力団準構成員、元暴力団員、共生者、暴力団員と社会的に非難されるべき関係を有する者、総会屋及び社会運動等標ぼうゴロをいう)への該当性に関する情報を提供することを検討するとされています。
(ウ)上記イ以外の個人情報の提供 上記イによって公益を実現することができないかを慎重に検討した上で、それでも公益実現のために必要であると認められる場合には、住所、生年月日、連絡先その他の暴力団員等該当性情報以外の個人情報を提供するとされています。

(3)情報提供の制限

前科・前歴情報は、そのまま提供することなく、被害者等の安全確保のために特に必要があると認められる場合に限り、過去に犯した犯罪の態様等の情報を提供することとされています。また、顔写真の交付は行わないこととされています。

7 提供する暴力団情報の内容に関する注意点

(1)情報の正確性確保

暴力団情報を提供するに当たっては、その内容の正確性が厳に求められることから、必ず警察本部の暴力団対策主管課等に設置された警察庁情報管理システムによる暴力団情報管理業務により暴力団情報の照会を行い、その結果及び必要な補充調査の結果に基づいて回答することとされています。

(2)指定暴力団以外の暴力団について

指定暴力団以外の暴力団のうち、特に消長の激しい規模の小さな暴力団については、これが暴力団、すなわち「その団体の構成員が集団的にまたは常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれがある団体」に該当することを明確に認定できる資料の存否につき確認することとされています。

(3)暴力団準構成員及び元暴力団員等の場合の取扱い

(ア)暴力団準構成員 暴力団準構成員については、当該暴力団準構成員と暴力団との関係の態様及び程度について十分な検討を行い、現に暴力団または暴力団員の一定の統制の下にあることなどを確認した上で、情報提供の可否を判断することとされています。
(イ)元暴力団員 元暴力団員については、暴力団との関係を断ち切って更生しようとしている者もいることから、過去に暴力団員であったことが法律上の欠格要件となっている場合や、現状が暴力団準構成員、共生者、暴力団員と社会的に非難されるべき関係にある者等とみなすことができる場合は格別、過去に暴力団に所属していたという事実だけをもって情報提供をしないこととされています。
(ウ)共生者 共生者については、暴力団への利益供与の実態、暴力団の利用実態等共生関係を示す具体的な内容を十分に確認した上で、具体的事案ごとに情報提供の可否を判断することとされています。
(エ)暴力団員と社会的に非難されるべき関係にある者 「暴力団員と社会的に非難されるべき関係」については、当該対象者と暴力団員とが関係を有するに至った原因、相手方を暴力団員であると知った時期やその後の対応、交際の内容の軽重等の事情に照らし、具体的事案ごとに情報提供の可否を判断する必要があり、暴力団員と交際しているといった事実だけをもって漫然と情報提供をしないこととされています。
(オ)総会屋及び社会運動等標ぼうゴロ 総会屋及び社会運動等標ぼうゴロについては、その活動の態様が様々であることから、個別の事案に応じて、その活動の態様について十分な検討を行い、現に活動が行われているか確認した上で情報を提供することとされています。
(カ)暴力団の支配下にある法人 暴力団の支配下にある法人については、その役員に暴力団員等がいることをもって漫然と「暴力団の支配下にある法人である」といった情報提供をするのではなく、役員等に占める暴力団員等の比率、当該法人の活動実態等についての十分な検討を行い、現に暴力団が当該法人を支配していると認められる場合に情報を提供することとされています。

8 情報提供の方式

(1)照会時の必要書類

情報提供を行うに当たっては、その相手方に対し、情報提供に係る対象者の住所、氏名、生年月日等が分かる身分確認資料及び取引関係を裏付ける資料等の提出を求めるとともに、提供に係る情報を他の目的に利用しない旨の誓約書の提出を求めることとされています。

(2)回答方法

情報提供の相手方に守秘義務がある場合等、情報の適正な管理のために必要な仕組みが整備されていると認められるときは、情報提供を文書により行ってよいとされています。これ以外の場合においては、口頭による回答にとどめることとされています。

(3)情報提供の対象者

情報提供は、原則として、当該情報を必要とする当事者に対して、当該相談等の性質に応じた範囲内で行うものとされています。ただし、情報提供を受けるべき者の委任を受けた弁護士に提供する場合その他情報提供を受けるべき者本人に提供する場合と同視できる場合はこの限りでないとされています。

9 情報提供の手続に関する記録と決裁

(1)記録の整備

警察本部及び警察署の暴力団対策主管課においては、部外への暴力団情報の提供(警察部内の暴力団対策主管部門以外の部門から部外への暴力団情報の提供について協議を受けた場合を含む)に関し、情報提供の求めの概要、提供の是非についての判断の理由及び結果等について、確実に記録することとされています。

(2)決裁の流れ

原則として、所属長またはこれに相当する上級幹部が実際に最終判断を下し、決裁をするものとされています。ただし、警察署長が行う情報提供について、一定の条件に当てはまるときは、警部以上の階級にある、暴力団対策主管課長またはこれに相当する幹部において専決処理することも可能とされています。
また、情報提供を行うことについて緊急かつ明確な必要が認められる場合においては、事後報告としても差し支えないとされています。

(3)警察本部による把握

部外からの暴力団情報に係る照会及びそれに対する警察の回答状況については、情報の適正な管理に万全を期するため、各警察本部の暴力団対策主管課において定期的に把握することとされています。

10 まとめ

通達「暴力団排除等のための部外への情報提供について」は、暴力団情報の部外提供に関する基準と手続きを詳細に規定しています。暴力団情報については、警察は厳格に管理する責任を負っていますが、一定の場合に部外へ提供することによって、暴力団による危害を防止し、社会から暴力団を排除するという暴力団対策の目的のために活用することも必要とされています。
事業者等が暴力団排除条例に基づく義務を履行する際の支援として、警察は条例上の義務履行に必要な範囲で情報提供を行います。情報提供に当たっては、組織としての対応を徹底し、情報の正確性を確保するとともに、情報提供の正当性について十分な検討を行うことが求められています。暴力団情報の照会を行う場合には、照会対象者の身分確認資料や取引関係を裏付ける資料の提出とともに、提供情報の目的外利用を禁止する誓約書の提出が求められます。

本記事では、警察への暴力団情報照会について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際にいろいろな取引の適法性の確認に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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