【全面的価格賠償の判決に期限や条件をつけた実例(集約)】

1 全面的価格賠償の判決に期限や条件をつけた実例(集約)

共有物分割訴訟で、裁判所が全面的価格賠償を採用する場合に、履行確保措置を工夫することが求められます。工夫の中でも、条件や期限をつけるという高度なものが提唱されています。
詳しくはこちら|全面的価格賠償の判決における期限や条件(賠償金支払先履行)の設定
このような提唱に応じて、実際の裁判でも、全面的価格賠償の判決の中に期限や条件をつけるものが次々と現れています。
本記事では、いろいろな実例として、裁判例の判断や判決主文を紹介します。

2 賠償金支払猶予+不払時の換価分割の判決主文の基本型

全面的価格賠償の判決に期限や条件をつけるパターンの典型は、賠償金支払に6か月程度の猶予を与えるとともに、仮に期限内に支払がない場合には換価分割とする、という判決です。
最初に、最も単純な判決主文(サンプル)を紹介しておきます。形成条項だけ、という主文です。

賠償金支払猶予+不払時の換価分割の判決主文の基本型

別紙物件目録記載の土地を次のとおり分割する。
(1)本判決確定の日から○月以内に甲が乙に対し〇〇円を支払ったときは、同目録記載の土地を甲の所有とする
(2)甲が前項の支払をしないときは、同目録記載の土地について競売を命じ、その売得金から競売手続費用を控除した金額を甲に〇分の〇乙に○分の○の割合で分割する。
※瀬木比呂志・近藤裕之稿/塚原朋一編著『事例と解説 民事裁判の主文』新日本法規出版2006年p211

3 賠償金支払猶予+不払時の換価分割(平成11年札幌地判)

以下、実際の裁判例を紹介します。前記の基本型に、いろいろな細かい事項が加わります。
最高裁判例の補足意見による提唱の直後である平成11年の札幌地裁の裁判例を紹介します。この裁判例では、賠償金について年5%の金利を付ける内容となっています。

賠償金支払猶予+不払時の換価分割(平成11年札幌地判)

あ 主文 (抜粋・簡略化)

1(1)原告が、本判決確定後6か月以内に、被告Aに対し◯◯円及びこれに対する本判決確定の日から支払済みまで年5分の割合による金員、被告Bに対し◯◯円及びこれに対する本判決確定の日から支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払ったときは、別紙物件目録1記載の各土地を原告の単独所有とする。
(2)原告が本判決確定後6か月以内に、被告らに対し、前記1の金員を支払わないときは、別紙物件目録1記載の各土地を競売に付し、その売得金を原告が◯分の◯、被告Aが◯分の◯、被告Bが◯分の◯の割合により分割する。
2(1)被告Aは、1項(1)により原告が別紙物件目録1記載の各土地の単独所有権を取得したときは、原告に対し、別紙物件目録1記載の各土地における同被告の共有持分◯分の◯について、共有物分割を原因とする持分全部の移転登記手続をせよ。
(2)被告Bは、1項(1)により原告が別紙物件目録1記載の各土地の単独所有権を取得したときは、原告に対し、別紙物件目録1記載の各土地における同被告の共有持分◯分の◯について、共有物分割を原因とする持分全部の移転登記手続をせよ。
※札幌地裁平成11年7月29日

い 要点

ア 支払猶予 賠償金支払を条件とした=支払猶予の設定をした
不払いの際の換価分割も入れた
平成10年最高裁の河合裁判官補足意見を採用した
平成11年最高裁の遠藤裁判官補足意見も採用した
イ 他の内容 遅延損害金の給付→採用した
賠償金の給付(債務名義化)、引換給付→採用しなかった
移転登記手続の給付→採用した

4 賠償金支払猶予+不払時の換価分割(平成15年広島高判・概要)

広島高判平成15年6月4日も、賠償金の支払期限を設定して、支払がない場合に換価分割としました。賠償金の利息は付けていません。
この裁判例では、対価取得者の共有持分に担保権が設定されているという特殊事情があり、この事情がもととなって支払期限が3か月と設定されました。また、賠償金の計算の中で、担保負担分の控除はされませんでした。
詳しくはこちら|共有持分の担保権を全面的価格賠償の賠償金に反映しなかった裁判例(平成15年広島高判)

5 賠償金支払猶予+不払時の換価分割(平成16年東京地判)

賠償金の支払期限を設定して、支払がない場合に換価分割とした別の裁判例を紹介します。こちらは賠償金の利息は付けていません。

賠償金支払猶予+不払時の換価分割(平成16年東京地判)

あ 主文

1 原告が本判決確定後6か月以内に、被告に対し、68万3200円を支払ったときは、別紙物件目録記載土地を原告の所有とする。
2 本判決確定後6か月を経過したときは、前項の場合を除き、別紙物件目録記載土地を競売に付し、その売得金を原告が7万1518分の6万8297、被告が7万1518分の3221の割合で分割する。
3 被告は、前記1により原告が別紙物件目録記載土地の所有権を取得したときは、原告に対し、同土地における被告の共有持分7万1518分の3221について共有物分割を原因とする持分全部の移転登記手続をせよ。
4 訴訟費用は、これを2分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

い 理由(抜粋)

もっとも支払が遅れた場合の被告の不利益を考慮するとき、この賠償金額は本判決確定後6か月以内のものと考えるのが相当であるから、原告は、それまでに被告に対し、前記賠償金額を支払うことを条件として、本件土地の単独所有権を取得し、被告は、その場合、持分移転登記手続義務を負うものとするが、原告が本件判決確定後6か月以内に同賠償金を支払わないときは、本件土地を競売に付し、その売得金を原告及び被告の各持分の割合に応じて分割するのが相当である。
※東京地判平成16年7月29日

6 賠償金支払猶予+不払時の換価分割(平成17年東京地判)

全面的価格賠償で、賠償金の支払猶予と支払がない場合の換価分割というセットはその後の裁判例でも採用が続きます。平成17年の東京地判の実例です。

賠償金支払猶予+不払時の換価分割(平成17年東京地判)

1 被告が、本判決確定後6か月以内に、原告に対し、○○円及びこれに対する本判決確定の日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払ったときは、別紙物件目録記載1の土地及び同目録記載2の建物をいずれも被告の単独所有とする。
2 被告が、本判決確定後6か月以内に、原告に対し、第1項の金員を支払わないときは、別紙物件目録記載1の土地を競売に付し、その売得金を原告に○分の○、被告に○分の○の割合で分割し、かつ、別紙物件目録記載2の建物を競売に付し、その売得金を原告に△分の△、被告に△分の△の割合で分割する。
3 原告は、第1項により被告が別紙物件目録記載1の土地及び同目録記載2の建物の単独所有権を取得したときは、被告に対し、同目録記載1の土地の持分○分の○及び同目録記載2の建物の持分△分の△について、共有物分割を原因とする持分全部の移転登記手続をせよ。
※東京地判平成17年6月16日

7 賠償金支払猶予+不払時の換価分割(平成25年東京地判)

同じく、賠償金支払猶予と支払がない場合の換価分割のセットを採用した平成25年の東京地判です。この「セット」自体はすでにありふれたものになってきていますが、原告自身は共有者ではなく、共有者の債権者として、債権者代位により共有物分割を請求していた、という特殊性がありました。
そこで、主文では、賠償金の支払先は原告(債権者)となっている一方、(不払時の)換価分割(競売)での分配先は共有者が指定(記載)されています。仮に競売となった場合は、原告(債権者)は、債務者(被告R)から裁判所に対する交付金請求権を差し押さえるということが想定されます。

賠償金支払猶予+不払時の換価分割(平成25年東京地判)

あ 主文

1 別紙物件目録記載の建物を次のとおり分割する。
(1)被告Gが、本判決確定の日から6か月以内に、原告に対し8億1500万円を支払ったときは、別紙物件目録記載の建物を同被告の単独所有とする。
(2)被告Gが上記(1)の支払をしないときは、別紙物件目録記載の建物を競売に付し、その売得金から競売手続費用を控除した金額を、被告Rに4分の1、被告Gに4分の3の割合で分割する。

い 条件をつけた理由

・・・賠償金の支払が遅れた場合代位債権者としての原告及び本件持分の持分権者としての被告Rが被る不利益などを考慮すると、当事者間の実質的公平を図るためには、被告Gが本判決確定の日から6か月以内に原告に対し上記賠償金を支払うことを条件に本件建物を被告Gの単独所有とすることとし、被告Gがこの支払をしない場合には、本件建物を競売に付し、その売得金から競売手続費用を控除した金額を各持分割合に応じて分配するのが相当である。
※東京地判平成25年2月8日

8 条件つき全面的価格賠償(賠償金支払猶予)の請求の趣旨(参考)

ところで、以上のように一定期間に賠償金を支払うことを条件として現物を取得させる判決が出るのは、現物取得者自身は無条件の取得を主張し、これに対して相手方(対価取得者)が賠償金支払を条件とすることを主張して、裁判所がこれを採用する、ということが多いです。これについて、逆に、現物取得を希望する原告自身が原告自身が賠償金を支払うことを条件にすることを主張することもあります。これにより、相手(被告)に、賠償金が不払いとなるリスクを生じさせない、そこで資力の審査は緩くなる、ということを意図する作戦です。

条件つき全面的価格賠償(賠償金支払猶予)の請求の趣旨(参考)

第1 請求(注・訴状の請求の趣旨に対応する)
1 原告が、本判決確定の日から1か月以内に、被告に対し金3727万9200円を支払ったときは、
(1)別紙物件目録記載の土地及び建物をいずれも原告の所有とする
(2)被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の土地及び建物について、共有物分割を原因とする持分移転登記手続をせよ。
(注・判決では被告が取得する全面的価格賠償が採用された)
※東京地判平成25年1月28日

9 現物取得者順位設定方式+両方不払時の換価分割(平成19年東京地判)

以上の裁判例は、現物取得者を特定していました。つまり、Aが賠償金を支払えばAが取得する、支払わなければ競売にするというものでした。
ここに、さらに工夫をした実例も登場します。それは、Aが賠償金を支払えばAが取得する、Aが支払わない場合、取得する権利はBに移ってくるというものです。その場合は、Bが支払えばBが取得する、Bも支払わない場合には競売にするというように、条件分岐が続くのです。要するに、現物を取得する者に順位をつけた(Aが1位、Bが2位)ということができます。

現物取得者順位設定方式+両方不払時の換価分割(平成19年東京地判)

あ 判決(引用)

ア 主文 1 被告が、本判決確定の日から1か月以内に、原告X1に対し○円を、原告X2に対し○円をそれぞれ支払ったときは、
(1)別紙物件目録記載の土地を被告の単独所有とする。
(2)各原告は、被告に対し、同土地について、共有物分割を原因とする各原告持分全部移転の登記手続をせよ。
2 被告が第1項の期間内に同項の金員の支払をせず、本判決確定の日から2か月以内に、原告X1が○円を、原告X2が○円をそれぞれ被告に対し支払ったときは、
(1)別紙物件目録記載の土地を原告らの共有(原告X1の持分○分の○、原告X2の持分○分の○)とする。
(2)被告は、同土地について、原告X1に対し持分○分の○につき、原告X2に対し持分○分の○につき、それぞれ共有物分割を原因とする持分移転登記手続をせよ。
3 被告が第1項の期間内に同項の金員の支払をせず、かつ、原告らが第2項の期間内に同項の金員の支払をしないときは、別紙物件目録記載の土地について競売を命じ、その売得金(売却代金から競売手続費用を控除した金額)を原告X1に○分の○、原告X2に○分の○、被告に○分の○の割合で分割する。
イ 順位設定方式を採用した理由 ・・・本件においては、
第1次的に被告の単独所有とする全面的価格賠償の方法による分割をし、
第2次的に原告らのみの共有とする全面的価格賠償の方法による分割をすることが相当であると認めるべき上記1にいう特段の事情があるということができる。
被告の単独所有とする全面的価格賠償の方法による分割を優先するのは、本件土地がいわゆる先代の遺産であるところ、原告らがこれを第三者に売却して換金することを考えているのに対し、被告その地上に建物を建てて居住したいと考えていることから、後者を優先させるのが相当と認めるからである。
また、被告の単独所有とする全面的価格賠償の方法による分割のみならず、第2次的に原告らのみの共有とする全面的価格賠償の方法による分割をも相当とするのは、賠償金についての被告の支払能力に一抹の不安が残らないではなく、被告が賠償金を支払えない場合には、直ちに競売を命じるより、原告らにも本件土地を取得する機会を与えることが公平にかなうからである。
そして、被告及び原告らが賠償金を支払うための期間としては、諸般の事情を考慮すると各1か月が相当である。
※東京地判平成19年4月26日

い 評価(賛成)

このように[裁判例⑨]は、被告を第一順位、原告A・Bを第二順位として現物取得の可能性を認め、賠償金の一定期間内の支払いを条件として現物の帰属を認めた点に特徴がある。
双方が現物を取得する相当性ならびに適正に評価された賠償金の支払能力を有することが前提となるものの、現物取得を希望する当事者の意思および当事者間の公平に配慮した判決と評価することができるだろう。
さらに、このような順位付けを許容しなければ、被告の申立てだけが認められ、仮に被告が期限内に賠償金を支払わなかった場合は分割の効果が生じない。
その場合、再度原告A・Bは共有地をA・Bの共有とする共有物分割の訴えを提起する必要があることになり、訴訟経済の観点からも望ましくない。
※秦公正稿『共有物分割の訴えに関する近時の裁判例の動向』/『法学新報123巻3・4号』中央大学法学会2016年8月p123

10 賠償金支払に担保登記抹消の条件設定(平成20年東京地判)

全面的価格賠償の判決につける条件の少し変わった例として、担保登記抹消を対価支払の条件とする、というものがあります。
この点、担保権の負担があるケースでは、対価(賠償金)の金額の計算で負担分を控除するかしないか、という問題が起きます。
詳しくはこちら|全面的価格賠償の賠償金算定における担保負担額の控除
担保が消滅したことを条件とすれば、この問題は回避できます。

賠償金支払に担保登記抹消の条件設定(平成20年東京地判)

1 別紙物件目録記載の不動産を次のとおり分割する。
(1)同目録記載の不動産を以下のとおり被告らの共有とする。
被告Y1の共有持分 各○分の○
被告Y2の共有持分 各○分の○
被告Y3の共有持分 各○分の○
(2)原告は、被告Y2に対し、同目録記載の不動産の持分各○分の○につき、共有物分割を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
(3)被告Y2は、原告が同目録記載の不動産の持分各○分の○にされた別紙登記目録記載の根抵当権設定登記を抹消したときは、原告に対し、○○円を支払え
※東京地判平成20年12月18日

11 賠償金支払に担保登記抹消の条件設定(平成26年東京地判)

同じように、担保権の登記の抹消を賠償金支払の条件とした別の裁判例です。

賠償金支払に担保登記抹消の条件設定(平成26年東京地判)

1 別紙物件目録記載1の土地は、原告X2及び原告X1が持分各2分の1の割合で分割取得する。
2 別紙物件目録記載2の建物は、原告X2及び原告X1が持分各2分の1の割合で分割取得する。
3(1)原告X2は、被告Y1が別紙物件目録記載1の土地及び同目録記載2の建物にされた別紙登記目録記載の抵当権設定登記を抹消したときは、同被告に対し、1451万0850円及びこれに対する同登記を抹消した日の翌日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え
(2)被告Y1は、原告X2から1451万0850円及びこれに対する前記(1)の抵当権設定登記の抹消した日の翌日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員の支払を受けるのと引換えに、別紙物件目録記載1の土地及び同目録記載2の建物の被告Y1の各持分につき、持分全部移転登記手続をせよ。
4(1)原告X2は、被告Y2に対し、別紙物件目録記載1の土地の同被告の持分につき、持分全部移転登記手続を受けるのと引換えに、476万2500円及びこれに対する本判決確定日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)被告Y2は、原告X2に対し、476万2500円及びこれに対する本判決確定日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員の支払を受けるのと引換えに、別紙物件目録記載1の土地の被告Y2の持分につき、持分全部移転登記手続をせよ。
※東京地判平成26年11月27日

本記事では、全面的価格賠償の判決に期限や条件を付けたいろいろな裁判例を紹介しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に共有物分割などの共有不動産に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【共有物分割訴訟の訴状の請求の趣旨・判決主文の実例】
【全面的価格賠償における現物取得者の支払能力の要件(内容・証明方法と判定の実例)】

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