【民事の控訴審判決の種類(控訴棄却・自判・差戻しなど)】

1 民事の控訴審判決の種類(控訴棄却・自判・差戻しなど)

民事裁判で、第1審が判決で終了した場合、判決内容に不服である当事者は控訴申立をすることができます。控訴審裁判所が、原判決が間違っていると認めれば、適正な判決に変更することもあれば、原審(第1審)に差し戻すこともあります。それ以外の判断(結論)もあります。
本記事では、民事裁判の控訴審判決の種類を説明します。

2 控訴審判決の種類の整理

控訴審裁判所の判断の結果の形式にはいろいろなものがあります。最初に、全体を整理しておきます。
控訴申立の手続が不適法である場合、控訴却下の判決となります。事案内容の審理に入る前の門前払いです。
事案内容の判断(本案判決)としては、原判決を維持する控訴棄却と、原判決が間違っていると認める控訴認容の2つに分けられます。
控訴認容の場合は、原判決が間違っているので、原判決の取り消しをします。原判決破棄と呼ぶこともあります。原判決取消をした後の処理は3つあります。自判、差戻し、移送です。詳しい内容は後述します。

<控訴審判決の種類の整理>

あ 控訴却下(訴訟判決)

控訴申立の手続が不適法である場合、控訴自体を認めない

い 控訴棄却

原判決を維持する

う 原判決取消

ア 自判 原判決を取り消した上で、控訴審裁判所自身が判断を示す
イ 差戻し 原判決を取り消した上で、審理を第1審に戻す
ウ 移送 (専属管轄違反であった場合に、)原判決を取り消した上で、審理を管轄のある第1審裁判所に移送する

3 控訴棄却

控訴申立があった、つまり、当事者が、原判決は間違っていると主張しても、控訴審裁判所が原判決は正しい、と判断すると控訴棄却の判決となります。要するに原審判決を維持する、という結論です。

控訴棄却

あ 条文規定

(控訴棄却)
第三百二条 控訴裁判所は、第一審判決を相当とするときは、控訴を棄却しなければならない。
2 第一審判決がその理由によれば不当である場合においても、他の理由により正当であるときは、控訴を棄却しなければならない。
※民事訴訟法302条

い 不利益変更禁止との関係

原判決が不当であっても不利益変更禁止(申立拘束原則)の故に控訴棄却に止まることがある
※高橋宏志著『重点講義民事訴訟法(下)第2版補訂版』有斐閣2014年p653

4 控訴認容=原判決取消(全体)

控訴人が主張する控訴理由(原判決が間違っている点)について、控訴審裁判所も、そのとおりだと判断すれば、まず、原判決を取り消します。原判決を取り消した以上は、新たな判決(判断結果)を作る必要があります。控訴審自身で判断する自判と、別の(第1審)裁判所に判断させる差戻し、移送があります。これらについては後述します。

控訴認容=原判決取消(全体)

あ 条文規定

(第一審判決が不当な場合の取消し)
第三百五条 控訴裁判所は、第一審判決を不当とするときは、これを取り消さなければならない。
※民事訴訟法305条

い 控訴認容(原判決取消)の中身

控訴認容は、控訴人の不服を肯定するのであるから、原判決取消しである。
原判決が取り消されると、原告の請求に対する裁判所からの応答が消えてしまうことになるので、控訴審がこれへの応答をしなければならない。
ここで初めて、不服申立て=控訴という外皮が除かれ、原告の請求(訴え)が審判対象の正面に出てくるのである。
控訴審の応答の仕方は、自判、差戻し、移送のいずれかである。
※高橋宏志著『重点講義民事訴訟法(下)第2版補訂版』有斐閣2014年p653

5 原判決取消

(1)原判決取消・自判=原則

控訴審裁判所が、原判決を取り消した後の原則的な処理方法は自判です。控訴審自身が判断結果(結論)を判決として示すということです。原判決を変更する、ということになります。

原判決取消・自判=原則

あ 自判の原則

自判は、控訴審が原告の請求に対して自分で裁判することである。
例えば、金一〇〇〇万円の請求を棄却した原判決を取り消し、一〇〇〇万円を支払えという請求認容判決をする。
控訴審は、事実審であるから自判するのが原則である。
取消しと自判を合体して「原判決を次のように変更する」という判決主文例が用いられることもある。
※高橋宏志著『重点講義民事訴訟法(下)第2版補訂版』有斐閣2014年p653

い 取消・変更の範囲(条文規定)

(第一審判決の取消し及び変更の範囲)
第三百四条 第一審判決の取消し及び変更は、不服申立ての限度においてのみ、これをすることができる。
※民事訴訟法304条

(2)原判決取消・差戻し=例外

控訴審裁判所が、原判決の取り消しだけをして、続きの審理、つまり新たな判断(判決)をすることを、第1審裁判所に戻すこともあります。差戻しといいます。これは自判だと不都合がある場合に使います。
たとえば、最初の第1審裁判所(原判決を出した裁判所)の審理では、まったく議論(主張や立証をし合う)されていなかった理論を、控訴審裁判所が採用して自判(判決)したことを想定しましょう。当事者が、この理論を不服に思って、再度審理をしてもらおうとしても、控訴はできず、上告(受理申立)しかできない状態になります。つまり、トータル3回審理してもらえる、という審級の利益が不完全になってしまうのです。
そこでこのように、控訴審で初めて議論になった理論を採用する場合には自判は避けることが望ましいです。この場合は結局、第1審裁判所に審理のやり直しをさせる、つまり差戻しとすることになります。審級の利益を確保することの裏返しとして、時間や手間が増えてしまうことになります。

原判決取消・差戻し=例外

あ 差戻しの位置づけ

差戻しは、審級の利益の関係でなお第一審が審理をするのが適当である場合になされる。
※高橋宏志著『重点講義民事訴訟法(下)第2版補訂版』有斐閣2014年p654

い 必要的差戻し

ア 条文規定 控訴裁判所は、訴えを不適法として却下した第一審判決を取り消す場合には、事件を第一審裁判所に差し戻さなければならない。ただし、事件につき更に弁論をする必要がないときは、この限りでない。
※民事訴訟法307条
イ 趣旨 訴訟判決があるだけであって、第一審の本案判決はないのであるから、第一審の本案審理を保障するため必ず差し戻すのである。
※高橋宏志著『重点講義民事訴訟法(下)第2版補訂版』有斐閣2014年p654

う 任意的差戻し

ア 条文規定 前条本文に規定する場合のほか、控訴裁判所が第一審判決を取り消す場合において、事件につき更に弁論をする必要があるときは、これを第一審裁判所に差し戻すことができる
※民事訴訟法308条1項
イ 裁量 任意的であるから、差し戻すことなく自判してもよい。
※高橋宏志著『重点講義民事訴訟法(下)第2版補訂版』有斐閣2014年p654
ウ 任意的差戻しとなる状況・伊藤眞氏指摘 任意的差戻しは、第一審においてさらに審理を行う必要があると控訴審が判断した場合に行われる(308I)。
訴訟手続の重大な違背などの理由のために、第一審の訴訟資料を控訴審の資料とすることができず、控訴審が自判をなすことが審級の利益を実質的に害する場合がこれにあたる。
※伊藤眞著『民事訴訟法 第7版』有斐閣2020年p749
エ 任意的差戻しとなる状況・瀬木氏指摘 (ii)(注・任意的差戻し)は、307条本文の場合以外の場合で、かつ、当事者に実質的な審級の利益を保障する観点から差戻しが相当と認められる場合の差戻しである。
第一審における弁論が著しく不十分であったために第一審の判断が不当なものになっている場合や第一審判決の手続に重大な瑕疵があった場合(いずれの場合にも、実質的な審級の利益がそこなわれているといえる)に行われる(308条1項。具体的には、条解1594~1595頁参照)
※瀬木比呂志著『民事訴訟法 第2版』日本評論社2022年p688

え 差戻判決がなされた後

ア 第1審への拘束力(条文規定) 上級審の裁判所の裁判における判断は、その事件について下級審の裁判所を拘束する
※裁判所法4条
イ 差戻判決への上告 なお、差戻しを命ずる判決も終局判決であるから、それに対して上告を提起することができる。
※高橋宏志著『重点講義民事訴訟法(下)第2版補訂版』有斐閣2014年p654

(3)原判決取消・移送

最後に、控訴審裁判所が原判決を取り消した上で、移送することもあります。これは最初に提訴した裁判所が専属管轄違反であったケースで行われる処理です。要するに、本来審理できない(第1審)裁判所が審理してしまったので、正しい裁判所に第1審をやり直させる、というものです。

原判決取消・移送

あ 条文規定

控訴裁判所は、事件が管轄違いであることを理由として第一審判決を取り消すときは、判決で、事件を管轄裁判所に移送しなければならない。
※民事訴訟法309条

い 専属管轄違反の限定

任意管轄違反は控訴審では主張できない
控訴審で主張できるのは専属管轄違反に限定されている
※民事訴訟法299条
※高橋宏志著『重点講義民事訴訟法(下)第2版補訂版』有斐閣2014年p654

本記事では、民事訴訟の控訴審判決の種類を説明しました。
実際には、個別的な事情によって、最適な法的手続や最適なタイミングは違ってきます。
実際に民事訴訟を利用を検討している、すでに利用していて何らかの問題に直面している、という方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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