【定期借家契約における再契約予約方式(再契約保証型)】

1 定期借家契約における再契約予約方式(再契約保証型)

定期借家契約は,法定更新がなく,期間の満了で確実に契約が終了します。賃借人は退去しなくてはならなくなります。オーナーにとっていつ戻ってくるかわからないという普通借家のデメリットが解消されますが,賃借人にとっては(賃貸人が再契約に応じない限り)長期間は使用(居住)できないことになり,定期借家を避ける傾向が強くなります。
そこで,定期借家に再契約の予約(保証)をつけて,賃借人の不安を解消する方法が使われることもあります。
本記事では,再契約予約方式の定期借家について説明します。

2 再契約予約方式の内容

再契約予約方式とは,文字どおり,定期借家契約の中で,再契約することを予約しておく,というものです。再契約を保証するという言い方もあります。

再契約予約方式の内容

(再契約予約方式とは)
当初の2年,3年の契約を結ぶにあたり,当初の契約の終了後再度2年若しくは3年の契約を結ぶ旨を,当初の段階において予約形式で契約をしておくものである。
※澤野順彦編『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p155

3 再契約予約方式において定める条項

再契約予約方式を用いる場合には,無条件に再契約ができると設定するわけではありません。再契約をしない事情も決めておきます。また,再契約の後の賃料の金額をどのように決めるか,ということを決めておくことも有用です。
再契約をしない(できなくなる)事情としては,いろいろな事項を決めることができます。
たとえば,オーナー側の事情としては,建物の老朽化が進み,建て替えるという事情があります。
賃借人側の事情としては,契約違反やそれ未満の迷惑行為を設定しておくことが多いです。ここでは,普通借家だったら契約解除や更新拒絶が認められないような小さな事情であっても(再契約拒否事由としてならば)原則として有効です。とはいっても,せっかく拒否事由を決めたのに,拒否事由に該当するかどうかを明確に判定できないとトラブルになります。明確に判定できるように決めておく必要があります。

再契約予約方式において定める条項

あ 主な設定条項

ア 再契約予約条項 再契約を約束(保証)する条項
イ 再契約拒絶事由 (「ア」の例外として)再契約ができなくなる事情を特定する
ウ 賃料額決定方法 再契約締結後の賃料額の決定方法
※秋山秀樹ほか著『空室ゼロをめざす 使える定期借家契約の実務応用プラン』プログレス2011年p60,61

い 再契約拒否事由の例

ア 建物の建替 将来,貸主が賃貸建物の建替えを行う場合
イ 賃料滞納 賃借人が賃料を滞納した場合
例=「滞納額が一定額に達した場合」
ウ 違反や迷惑行為 賃借人がゴミ出しのルールを遵守せず,近隣住民から賃貸人に○回以上のクレームが出されたとき
賃借人が深夜に大音響を発生させた場合その他の迷惑行為により,近隣住民から賃貸人に○回以上クレームが出されたとき
※秋山秀樹ほか著『空室ゼロをめざす 使える定期借家契約の実務応用プラン』プログレス2011年p59

4 再契約保証型の定期借家の条項サンプル

再契約を保証する方式の定期借家契約のサンプルとして提唱されているものを紹介します。
このサンプルでは,保証する再契約の上限の回数と年数を明記しています。ある程度長期間が経過した時の状況は予測できないので,このように上限を決めておくことは望ましいでしょう。

再契約保証型の定期借家の条項サンプル

第◯条(再契約の保証)
甲(注・賃貸人)は乙(注・賃借人)に対し,乙が各号に定める再契約拒絶事由に該当しない限り4回の再契約による本契約締結日から10年間の使用収益の継続を保証するものとし,甲及び乙は,同期間中は本契約の期間の満了の日の翌日を始期とする新たな賃貸借契約(以下「再契約」という。)をするものとする。
一 乙が本契約期間中賃料を2月分滞納したとき
二 本建物において定めた館内規則中のゴミ出しのルールに違反し,甲から2回以上書面にて注意を受けたとき
三 騒音を発生させ,近隣住民等からのクレームを受け,甲から2回以上書面にて注意を受けたとき
四 ペット飼育禁止特約に反してペットを飼育し,甲から2回以上書面にて注意を受けたとき
五 悪臭を発生させ,近隣住民等からのクレームを受け,甲から2回以上書面にて注意を受けたとき
六 本物件のリフォーム,大修繕,建替え及び取壊しを理由に甲から期間満了の6か月前までに通知を受けたとき
2 前項の再契約保証期間において,再契約を締結する場合においても第◯条第◯項の通知は行うものとする。
※秋山秀樹ほか著『空室ゼロをめざす 使える定期借家契約の実務応用プラン』プログレス2011年p72,73

5 再契約予約方式の目的(実益)

定期借家契約で再契約を予約(保証)するのは,もともと,賃借人の不安を解消する,というものでした。その一方で,再契約拒否事由を決めるところも大きなポイントです。
最初に,賃借人の好ましくない行為(守って欲しいルール)を決めておけるので,そのような行為があった時に確実に再契約拒否ができる,つまり,確実に退去させられるという機能もあるのです。

再契約予約方式の目的(実益)

あ 賃借人の不安の除去

このような借家人の不安を取り除くための手法の1つとして「再契約の予約」という方式が存在する。
・・・
このことにより,借家人は2年,3年ではなく4年若しくは6年間の期間建物を借りることができるという安心感を持てるようにするという効果を狙ったものと評価することができよう。

い 再契約拒絶の確保

・・・案に相違して好ましい行動をとらなかった借家人に対しては,当初の契約期間が終了した時点で再契約を拒絶することができるようにするということである。
すなわち,当初から4年若しくは6年という長期の契約を結ぶのではなく,契約を2本結ぶことにし(定期借家契約とその予約契約),しかも当初の期間が満了した時点で家主側が借家人の行動いかんにより再契約を拒むことができるようにするのである。
※澤野順彦編『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p155

6 再契約拒絶事由の設定による正当事由創設

前述のように,再契約予約方式の定期借家では,再契約拒否事由を(賃貸人と賃借人で)自由に設定できるという特徴があります。当たり前のように聞こえますが,普通借家ではこのようなことはできません。契約を終了させる事情を設定(合意)しても,賃借人に不利なものであれば,法定更新の規定に反するものとして無効となってしまうのです。
この点,定期借家では,契約終了が原則形態なので,契約終了を弱める方向に設定しても賃借人に不利ということにはならないのです。普通借家になぞらえると,正当事由(契約終了が認められる事情)を当事者が自由に作れるという言い方ができます。

再契約拒絶事由の設定による正当事由創設

再契約の予約方式の狙いの中には,「原則としては,再契約をするが,例外的に何らかの事情が生じた場合などにおいては再契約を拒絶することがある」という趣旨を含むのである。
いわば,再契約を一種の更新のように考えた場合に,更新を拒絶することのできる一種の契約上の正当事由を家主と借家人との間で新たに創設するものとも評価ができるのである。
※澤野順彦編『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p155

7 再契約による長期化と普通借家認定リスク(否定)

ところで,定期借家契約で定めた期間は1〜2年と短くても,再契約を繰り返してトータル期間が長くなった場合に,全体としてみたら普通借家のようにみえる,という発想もあります。普通借家はもともと,更新が何度も繰り返されるという実情があるからです。
とはいっても,定期借家でも,もともと長い期間を設定することが許されます(実際にそのような事例はよくあります)。そこで,再契約が繰り返されたことが理由で普通借家に変化したということはありません。

再契約による長期化と普通借家認定リスク(否定)

定期借家契約においては再契約は何度も行ってもかまわないし,何度も行うことによって,結果,その定期借家契約が極めて長期間続くことになったとしても,そのことにより普通借家契約に変化するなどのおそれは一切存在しない
※澤野順彦編『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p153
※吉田修平稿『新基本法コンメンタール 借地借家法 第2版』日本評論社2019年p244

もちろん,他の理由で普通借家に変化することはあります。たとえば,再契約の手続(新たな契約書の調印)をしなかったようなケースです。
詳しくはこちら|定期借家における終了通知(遅れた通知の効果・黙示の更新)

8 再契約予約方式に反対する見解

再契約予約方式は,定期借家の使いにくいところを改良することで,定期借家を使いやすくする,普及を促進するものです。実際に,この方式は推奨されていて,実務でも使われることが多いのですが,反対(批判)する意見もあります。長期間の賃貸借とするなら別の方法を使った方が分かりやすいというような指摘です。いずれにしても,法的な有効性とは関係ない意見です。

再契約予約方式に反対する見解

あ 総論(法的効力とは別)

筆者は,定期借家契約制度の今後の健全な普及を考えた場合には再契約予約方式には全面的に賛成できないと考えている。
契約が自由である以上,再契約の予約そのものも無効とはなり得ないであろうが,定期借家制度の健全な普及のためには好ましくない,との趣旨である。

い 第1=本質を弱める

なぜならば,第1に,このような再契約の予約方式は,更新をせず期間が満了した際には有無を言わせずに契約が終了するという定期借家権の本質的部分の効力を当事者間の特約であえて弱めるものである。
そのようにして弱めることが定期借家権にとって必ずしも好ましいといえないものであることはいうまでもない。
なぜならば,当事者間においては仮に再契約をしない例外的な場合を詳細かつ克明に明記していたとしても,そのような事情に該当しない場合で,かつ定期借家契約を終了させなければならないような事態は生じ得るのである。
例えば,再契約されない場合の借家人側の悪しき行状等を克明に記載していたとしても,借家人側の事情とはまったく無関係な家主側の事情(例えば,アメリカ滞在中の息子夫婦が突然帰国することになり住まいが必要となった等々)により,定期借家契約を再契約できないような事態は生じ得るのである。
そして,そもそもそのような事態にも対応できるものとして定期借家権が創設された以上,このような定期借家権の本質的効力を減殺する方向での特約は一般的に好ましいものではないからである。
定期借家権は,過度に保護されていた借家人と家主との対等な関係を再構築するものであったことを忘れてはならない。

う 第2=過度かつ不正確な期待の発生

第2に,再契約の予約は借家人に過度の,しかも不正確な期待を生じさせるものであり,好ましいとはいえない。
・・・そのような詳細かつ克明な事情(注・再契約拒否事由)を記載すらしていないような場合にあっては,単に抽象的に借家人に対し長期間住み続けることが可能であるとの甘い期待を抱かせしめるものであり,将来においてこのような期待が裏切られたときの借家人のショックは知って大きく,しかもそれが居住に関わるものである場合には重大な問題が生じうるものであることはいうまでもない。
長期間住み続けることを前提にして内装,家具等を必要以上に豪華にしてしまったが,結局再契約がなされず,それらを撤去又は収去する場合等である。
すなわち,今後,借家人も定期借家契約を結ぶに当たっては自己責任を負担するのであり,そのような原則から見ても好ましくないと考えるからである。
※澤野順彦編『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p155,156

え 第3=長期居住を約束する直接的方法の存在

第3に,長期間の安定的な居住を約束したいのであるならば,当初から長期の契約を結ぶべきである。
そして,その場合には短期間の契約に比べて賃料をディスカウントするなどのメリットを借家人に与えることなどにより,今後のわが国における契約のバリエーションをより豊かにしていく役割をも定期借家権が担っていると考える。
このような観点からは,上記のような再契約の予約方式ではなく,長期契約プラス中途解約や転貸を自由に認める等の類型により借家人の希望に対応することのほうがより健全な賃貸市場の成立のために望ましいと考えるからである。
※澤野順彦編『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p156
※吉田修平稿『新基本法コンメンタール 借地借家法 第2版』日本評論社2019年p245(同趣旨)

9 米国の建物賃貸借(リース)の実情

ところで,実際の定期借家の活用の場面では米国の建物賃貸の実情が参考になります(役立ちます)。というのは,米国では契約期間が満了しても契約が終了しない(更新される)という,日本の普通借家のような扱いがないのです。日本の定期借家が米国のノーマルの賃貸借(リース)なのです。むしろ,契約で決めた時期が来ても建物を返さないという扱いの方がクレイジーだと映るようです。
米国では,標準が定期借家という状態で,しかも1年という短期間の設定が多いので,必然的に家具付きが多くなります。(短い期間の)定期借家と家具付きは相性がよい(セットにすると便利)ということがよく分かります。さらに,もっと期間が短くなると,電気・ガス・インターネットなどの利用も含まれるサービスアパートメントという形態が多くなります。日本ではウィークリーマンションやマンスリーマンションに相当するものです。このように,賃貸借を中心とする建物の提供(収益)の形態を考える時に,米国のリースの実情は参考になるのです。

米国の建物賃貸借(リース)の実情

あ 1年が標準

アメリカでは長期継続居住の場合でも契約期間は1年間とすることが圧倒的に多い。
※澤野順彦編『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p153,154

い 家具付きが標準

この点1年間という短期の定期借家契約が主流であるアメリカにおいて,家具付きの賃貸借が多いことが,今後の定期借家の普及についても参考となるのではないかと思われる。
※澤野順彦編『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p156

う 「定期」が標準(普通借家は日本オリヂナル)

英語では「定期借家契約」を何て言うの?
かつて,借地借家法が施行される前に,本書の共著者(江口・秋山両氏)らと一緒にアメリカに定期借家の研修に行きました。
その時,英語の不得手な私(林)なりに日本で新しくできる「定期借家契約」について話そうとしたのですが,何て訳すのかな?と考え,「定期」ですから有限というつもりで「リミテッドリーシング・・・」などと思ったりしました。
通訳の在米日本人の不動産業者に聞いた所,ただの「リーシング契約」でよいとのこと。
そうか,そもそも日本の普通借家契約だって,契約期間があるものだし,期間の取り決めのない契約まして一度貸したらもうその物件は戻らない,契約期間が満了しても契約は終了しない契約など世界中どこを捜しても日本にしかない代物なのです。
アメリカは契約社会ですから,当事者間で契約によって決めたことは遵守されるべきであるという思想です。
ですから,ただの「リーシング契約」で当り前なのです。
日本の借地借家法では,「契約期間が満了しても契約は終了しない」とアメリカ人に説明しても信じてくれません。
「日本は先進法治国家だろう?それはクレージーだ!」と言われる始末です。
日本の借地借家法は,日本の常識,世界の非常識なのです。
(林)(注・林弘明氏執筆部分)
※秋山秀樹ほか著『空室ゼロをめざす 使える定期借家契約の実務応用プラン』プログレス2011年p80

本記事では,定期借家契約における再契約予約方式(再契約保証型)について説明しました。
実際には,個別的な事情によって,法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に,建物の賃貸借をはじめとする不動産の活用,収益化の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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