【サブリースの逆ざやによる賃料減額を否定した裁判例(平成20年千葉地判)】

1 サブリースの逆ざやによる賃料減額を否定した裁判例(平成20年千葉地判)

サブリースの方式は、サブリース事業者が、管理業務や空室リスクの対価として利ざやを得る構造となっています。この点、賃料相場の下落や空室の増加により逆ざやが生じるケースもあります。その場合、サブリース事業者は賃料減額請求をすることができます。
詳しくはこちら|サブリースにおける賃料増減額請求の可否(賃貸借該当性)と判断の特徴
本記事では、裁判所が賃料減額を認めなかった裁判例を紹介します。

2 管理経費(利ざや)の設定(契約内容)

まず最初に、この裁判例で扱われた事案のサブリースの契約の要点を整理しておきます。
実際の入居者からサブリース事業者が受け取る(純粋な)家賃10%管理経費とする、という設定でした。実際には、サブリース事業者が家賃を集金した上、管理経費(10%)を差し引いて、その残額を借上料として原賃貸人(オーナー)に支払う、という仕組みになっていました。借上料とは、原賃貸借の賃料、ということになります。

管理経費(利ざや)の設定(契約内容)

あ 管理経費

管理経費は、原告が負担するものとし、その額は本件契約書9条に規定する家賃(家賃を変更した場合は、変更後の家賃)の10%とする(円未満四捨五入)。
また、物価その他経済事情の変動に伴い必要があると原告が認めるときは、原告と被告は協議の上、管理経費を変更することができる。

い 借上料

原告が被告に対して支払う借上料は、同9条1項の規定に基づき決定された家賃から、同5条の規定に基づき決定された管理経費を控除した額とし、借上料額は月額959万4000円とする。
借上料の変更は、家賃及び管理経費の変更に応じて行い、前項を準用する。
※千葉地判平成20年5月26日

3 空室保証特約の影響

以上のような設定(仕組み)が契約条項として作られて、サブリースによる運用(転貸)が始まりましたが、空室が増え、逆ざやが発生しました。つまり、サブリース事業者が受け取る賃料収入(家賃)よりも、支払う原賃料(借上料)の方が大きいという状態になったのです。
裁判所は原賃料の減額を認めるかどうかを判断することになりますが、その前に、判断の枠組みを特定してゆきます。
最初に、空室保証特約として、空室が増えても原賃料(借上料)は変わらないということが明確に定められていました。このことはサブリース一般の特徴なので、このような特約が明記されているサブリースの契約も多いです。
「空室が増えたから原賃料を下げる」ことを認めると、空室保証という約束を破る(原賃貸人を裏切る)ことになりますし、また、サブリース事業者が入居者募集業務の手を抜くことにもつながりかねません。裁判所は、このような構造を指摘し、安易に負担を原賃貸人に転嫁できない(減額を安易に認めない)という方針を示しました。

空室保証特約の影響

本件建物に関して空室が生じた場合のリスクは全て原告が負担するということが本件借上契約締結当時の原告及び被告の共通認識となっていたということができるから、その後の経済事情の変動によって空室が生じたとしても、安易にその負担を被告に転嫁させることはできないというべきである。
また、本件協定及び本件借上契約においては、入居者の募集及び選定業務を原告が行うとされているところ、仮に空室の発生による損失を被告も負担せざるを得ないとなると、入居者の募集業務が適切に行われずに空室が発生した場合でも、被告がその責任を負担しなければならないという事態を容認することとなり、契約上の公平を失する結果となる。
※千葉地判平成20年5月26日

4 借上料額が決定された経緯の影響

このケースで、借上料(原賃料)の金額が決まったプロセスを振り返ってみると、原賃貸人と原賃借人(サブリース事業者)で対等に協議したというわけではなく、サブリース事業者が収支予測をした上で原賃料として妥当な金額を提示していました。一方、原賃貸人(オーナー)はそれを信用して受け入れていました。
つまり、サブリース事業者が全面的にリスクを含めた判断をしていたのです。そこで裁判所は、原賃料を安易に変更しない、という方針を示しました。

借上料額が決定された経緯の影響

本件借上契約において定められた家賃及び借上料は、それぞれ原告が提示した金額であり、被告が家賃及び借上料の決定に関して意見ないし要望を述べたことはなかった
そして、原告は、特優賃住宅事業の管理者として、本件建物以外にも特優賃住宅事業にかかわっており、本件借上契約の事業収支に関する長期予測も行っていることに照らせば、本件借上契約締結時、原告はその専門的立場において自ら収集した情報に基づき、収支予測及び空室リスクも考慮した上で、原告が適正妥当と判断した家賃及び借上料を被告に提示したものと認めるのが相当である。
このような経緯に照らせば、原告は、空室保証特約の存在を前提に、少なくとも損失を出さない程度の家賃額及び借上料額を提示し得る立場にあったのであるから、原告が本件借上契約締結当時に予測し得なかったような経済事情の変動が生じたのであれば格別、そうでなければ、原告が提示した金額に基づいて決定された家賃額及び借上料額は、安易に変更を認めるべきではない
※千葉地判平成20年5月26日

5 収支予測(満室前提)の合理性の影響

原賃料(や転貸料)の金額を決める前提となった収支予測は、前述のように、サブリース事業者が作成しましたが、その内容についても検討します。簡単にいえば、収支予測は、満室が前提となっていました。つまり空室が出ると赤字(逆ざや)になるというものだったのです。裁判所は、そもそもこの収支予測が不合理であったのであり、その後の逆ざや現象は、合理的な予測に反したとはいえない、つまり原賃料減額を認める理由にはなりにくい、という方向性を示しました。

収支予測(満室前提)の合理性の影響

・・・原告も、空室ゼロの状態で初めて収支が均衡するという制度設計であった旨主張している。
しかしながら、原告は、特優賃住宅事業の管理者として、本件建物以外にも特優賃住宅事業にかかわっており、専門的見地から十分に収支予測を検討し得る立場にあったところ、本件借上契約が締結された平成4年3月29日当時はいわゆるバブル崩壊期であり、地価の下落が始まりつつあったこと、本件借上契約は少なくとも20年間という長期の契約期間が定められていたことなどに照らせば、長期的には賃料相場も下落傾向となり、逓減的な助成措置に伴い入居者負担額が漸増する特優賃制度の需要が減少するというリスクを原告において予測し得なかったと認めることはできないのであるから、そのリスクの可能性を全く考慮せず、空室が生じると収支が均衡しないという制度設計をしたことが合理的であるということはできない
したがって、本件建物において平成7年度以降空室が生じ、実際の家賃収入が被告に支払う借上料を下回る事態が生じたこと、原告の負担において特別減額措置を実施せざるを得なくなったことは、合理的な予測に反した事態であるということはできず、この点についての事情変更を過大視することは妥当でない。
※千葉地判平成20年5月26日

6 賃料不相当の認定(結論=否定)

裁判所は、以上のような考え方の方針(方向性)を前提として、結論を判断しました。もうお分かりのように、全体として、減額を否定する方向性の事情が多く重なっています。そこで、結論として、賃料額が不相当になったとはいえない、つまり、賃料減額を認めない、ということになりました。
別の言い方をすると、サブリース事業者が逆ざやをくらったのは自業自得であり、裁判所はこれを救済しない、ということになります。

賃料不相当の認定(結論=否定)

あ 空室保証の影響

以上検討したところによれば、原告は、被告に対し、本件借上契約において、空室保証をしており、本件建物に関して空室が生じた場合のリスクは全て原告が負担するということが本件借上契約締結当時の原告及び被告の共通認識となっていたということができるから、その後の経済事情の変動によって空室が生じたとしても、安易にその負担を被告に転嫁させることはできない

い 原賃借人による収支予測

そして、原告は、本件借上契約締結当時の経済状況に鑑み、バブル経済の崩壊による不動産価格の下落ひいては空室の発生を予測することが不可能ではなかったにもかかわらず、また、空室保証のリスクを前提とした家賃額、借上料額を提示できる立場にあったのに、これらのリスクを全く考慮しないか又は重大視せずに収支予測をし、これに基づいて家賃額及び借上料額を決定したものである。

う 経済事情の変動の不存在

また、原告は、本件変更契約の際、当時の空室率を前提として適正な家賃額及び借上料額を提示し得た筈であるが、本件変更契約後に新たな経済事情の変動が生じたとの主張立証はない。

え 原賃貸人の立場

他方、被告は、原被告間の空室保証特約を前提に、原告が提示した収支予測に基づいて借入金の返済を予定しており、かつ、一度家賃額及び借上料額の変更に応じているものである。

お 相当賃料と現行賃料の乖離の程度

そして、本件意思表示がなされた平成16年12月21日時点での相当借上料額は、上記のとおり、現行の借上料額と同程度か、これより低いとしても、大幅に乖離しているものではないと認められる。

か 結論

このような事情に照らせば、本件においては、バブル経済の崩壊により不動産価格が下落したこと、本件建物において平成7年度以降空室が生じ、実際の家賃収入が被告に支払う借上料を下回る事態が生じたこと、原告の負担において特別減額措置を実施せざるを得なくなったことなどの経済事情の変動及び本件建物につき原告の負担において特別減額措置を行ったという原告に有利な事情を考慮しても、公平の観点から、借地借家法32条1項の「不相当になったとき」には該当しないというべきである。
したがって、本件においては、相当借上料額を検討するまでもなく、借地借家法32条1項に基づく原告の借上料減額請求を認めることはできない
※千葉地判平成20年5月26日

本記事では、逆ざやが発生したケースで、サブリースの賃料減額を認めなかった裁判例を紹介しました。
実際には、個別的な事情によって法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際にサブリース方式における賃料の金額(増減額)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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