【サブリースの逆ざやによる賃料減額を認めた裁判例(坂戸専門店プラザ事件)】

1 サブリースの逆ざやによる賃料減額をみとめた裁判例(坂戸専門店プラザ事件)

サブリースの方式は、サブリース事業者が、管理業務や空室リスクの対価として利ざやを得る構造となっています。この点、賃料相場の下落や空室の増加により逆ざやが生じるケースもあります。その場合、サブリース事業者は賃料減額請求をすることができます。
詳しくはこちら|サブリースにおける賃料増減額請求の可否(賃貸借該当性)と判断の特徴
本記事では、裁判所が賃料減額を認めた裁判例として、坂戸専門店プラザ事件を紹介します。

2 サブリース・マスターリースの賃料の変遷

最初に、利ざやの状況を整理します。ショッピングセンターがオープンした平成5年には、テナントからの賃料収入が好調であり、原賃料(マスターリースの賃料)の約7割にあたる約6000万円が利ざやとなっていました。その後、利ざやは縮小してゆき、平成10年にはマイナス、つまり逆ざやとなってしまいました。
その後平成14年と15年にはプラスに戻しましたが、結局、この2年度以外はマイナス(逆ざや)になりっぱなしでした。しかも、マイナスの金額は大きくなり続けていました。

サブリース・マスターリースの賃料の変遷

年度 転貸賃料 原賃料 差額 平成5年 1億5375万6720円 9000万5000円 6375万1720円 平成10年 9594万円 1億0826万5000円 △1232万5000円 平成14年 (プラス) 平成15年 (プラス) 平成18年 7151万1000円 1億0962万2000円 △3811万1000円 平成19年 5879万8000円 1億0962万2000円 △5082万4000円
※年額
※東京高判平成23年3月16日

3 契約締結までの経緯の影響

ひとことでサブリースといっても、その背景(取引全体)にはいろいろなものがあります。このケースでは、建物の建築も含めて、ショッピングセンターを新たに作り出すことを原賃借人が原賃貸人(土地所有者)に対して詳細な計画を作って、サブリースにより利益が確保されるということを強調して提案、推奨していました。
このような背景があったので、裁判所は、賃料の金額は、原賃貸人の収益を相当程度確保する必要があるということを、まず指摘しました。

契約締結までの経緯の影響

平成元年9月ころに、西武石油が一審被告に対し、建築協力金方式による建物建築と建物の賃貸借契約を提案してから、平成6年8月23日に本件契約の締結に至るまで、建物賃貸借期間を通じて一審被告に多額の収益が生じることを予測した収益試算表を前提として交渉が重ねられ、この間、建築費用の見積増加により収益減少が見込まれた分について、追加賃料を設定して、当初の収益試算表による一審被告の収益を維持する提案が西武石油からなされ、最終的に一部建築取り止め等による賃料減額分を収益から控除した収益試算表が本件契約書に添付資料(5)として添付され、この収益を保証するものとして同契約書添付資料(6)の賃料が合意されたという事情を考慮すると、収益試算が固定資産税額や火災保険料について正確な数値を記載したものでなく正確性を欠いていることを考慮しても、本件契約における賃料額は、一審被告の収益を、相当程度確保するものでなければならないと考えられる。
※東京高判平成23年3月16日

4 逆ざやの発生と継続

次に裁判所は、実際に生じている逆ざやについて確認します。逆ざやが長期間継続しており、しかもその金額は大きくなり続けていました。賃料減額を認めないと、サブリース事業者は損失が年々累積され続けることになり、ダメージが大きすぎるといえます。

逆ざやの発生と継続

他方、本件建物のある坂戸市では、基準地価の平均価格は、平成5年ころから平成18年ころにかけて一貫して下落を続け、平成5年の価格を基準にして平成18年では商業地で30.6パーセント、住宅地で45.9パーセント下落し、一審被告は、平成5年度から平成18年度までの14年間に固定資産税・都市計画税の減額により、収益試算におけるより合計約5900万円、平成18年度だけでも465万1781円の負担軽減を受けたこと、また、一審原告が一審被告に支払う賃料額が一審原告の取得する転貸賃料を上回るという「逆ざや」状態が、平成10年以降において、平成14年及び平成15年を除く毎年続いており、平成18年は「逆ざや」による差額が3811万1000円に達していて、それ以降も更に拡大していること等の諸事情が認められる。
※東京高判平成23年3月16日

5 賃料不相当の認定(肯定)

裁判所は、賃料が不相当となったといえるかどうかを判定します。現実に生じ続けている逆ざやの金額が大きく、かつ、今後も継続すると見込まれることから、不相当であると判断しました。

賃料不相当の認定(肯定)

・・・一審原告が本件契約において20年間の賃料を原判決添付資料(6)のとおり支払うことを約したこと及び一審被告がこれを信頼して本件契約を締結したことを考慮しても、・・・賃料額は、平成18年4月1日の時点においては不相当となったものというべきである。
※東京高判平成23年3月16日

6 相当賃料算定における方針

現在の賃料が不相当である場合、裁判所は、新たな賃料の金額を設定することになります。裁判所は、具体的な金額を決める前に、金額を決める(計算する)方針を明確化しました。その内容は、原賃貸人の収益を確保することと、前回の(裁判所を通さない)賃料改定を尊重するということです。

相当賃料算定における方針

あ 原賃貸人の収益保護

もっとも、上記の諸事情が賃料減額請求の当否を検討する際の一要素となるとしても、これらの事情によって本件契約によって約束された一審被告の収益確保が過度に脅かされるものであってはならないと考えられる。

い 前回の賃料改定合意の尊重

ところで、前認定の本件契約締結後の西武石油及び一審原告と一審被告との賃料減額交渉は、暫定的な内容であるにせよ、20年間の賃料額の約定及びその決定に至る事情を含む本件契約締結過程を踏まえてなされたものであり、賃料減額交渉の結果合意された賃料は、当事者双方の諸事情を反映させつつ自主的に決定されたものであるから、十分尊重すべきものである。
※東京高判平成23年3月16日

7 相当賃料の計算の内容

いよいよ、新たに設定する賃料(相当賃料)の具体的な計算に入ります。
まず、契約開始時点の原賃貸人の利益を計算すると月額約395万円になりました。これをベースにします。
次に、契約開始時から現在までの地価の変動をみると、38%下落していました。
そこで、現時点で原賃貸人に確保する利益も、契約当初から38%小さくすることにしました。具体的には約245万円となります。
経費とこの金額(約245万円)の合計額は約911万円となりました。
賃料(月額)を911万円にすれば、原賃貸人の手元に残る利益は245万円になる、ということです。
裁判所は、このような計算を行った上、端数カットして相当賃料(改定賃料)を910万円と定めました。

相当賃料の計算の内容

あ 暫定合意の存在

そして、一審原告と一審被告との間で平成17年2月25日に平成17年5月分から平成18年3月分までの賃料として月額913万5135円暫定的に合意されている。

い 原賃貸人の経費

この金額の妥当性を検討すると、一審被告は、平成18年4月以降も一審原告に対して保証金の返還義務を負うほか、共済掛金等の支払義務を負い、その年額は、保証金の返還額5164万3503円、固定資産税・都市計画税約800万円、敷金返還額の1年当たりの金額1936万6313円及びJA建物更生共済の共済掛金のうち火災保険金相当分の年額96万4000円(甲12)であり、これらを合計した年額7997万3816円前後(月額換算666万4500円前後)は、一審被告が確保しなければならない経費である。

う 原賃貸人の利益

そして、西武石油と一審被告との間で、一審被告の利益も確保できる金額として本件契約において合意された賃料は原判決添付資料(6)賃料支払額計算書記載の各賃料額であるところ、同計算書における平成18年4月の賃料は1062万2094円であり、同金額から666万4500円を控除した395万7594円が一審被告の粗利益というべきところ(一審被告は、そこから、建物補修費やJA建物更生共済の共済掛金のうち火災保険金以外の分等を賄わなければならない。)、

え 利益×地価変動率(経費への加算)

坂戸市の基準地価は、平成5年から平成18年にかけて商業地で30.6パーセント、住宅地で45.9パーセント(両者の平均は38.25パーセント下落しているので、同金額の62パーセント相当の245万3700円を666万4500円に加算すると911万8200円となり、

お 暫定合意の効力

上記暫定合意にかかる913万5135円は、本件契約の目的、その後の経緯に照らしても、平成17年5月から平成18年3月までにおける妥当な賃料であるということができる。
したがって、この月額913万5135円は、暫定的に合意されたものであるとしても、実質的に、本件契約における当事者間で合意された賃料としての意義を有するものと考えられ、覚書(甲9)に「平成18年4月1日よりの賃料については約定賃料を尊重する。なお、その時点で経済状況等の回復がない場合は、再度甲・乙協議するものとする。」との記載があることを参酌しても、協議が調わない場合の暫定賃料としての意義を失わないものと解される。

か 結論

そうすると、平成17年5月から平成18年3月までの賃料として暫定的に合意された月額913万5135円は、本件契約の目的等に照らしても合理的なものでありその後の若干の経済情勢の変化やウ(※上記「え」)に説示の妥当な賃料の試算額が911万8200円となること等を総合すると、同年4月以降の賃料としては、月額910万円とするのが相当である。
※東京高判平成23年3月16日

本記事では、逆ざやが発生したケースで、サブリースの賃料減額を認めた裁判例を紹介しました。
実際には、個別的な事情によって法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際にサブリース方式における賃料の金額(増減額)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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