【相続人が受取人の生命保険金の遺留分における扱い(改正前後)】

1 相続人が受取人の生命保険金の遺留分における扱い
2 平成30年改正前民法1031条の条文
3 平成14年判例の判決文引用(改正前)
4 生命保険金の遺留分算定基礎財産への算入(改正前・後)
5 保険金受取人の変更と指定の関係(改正前後共通)
6 生命保険金の特別受益該当性(概要・改正前後共通)

1 相続人が受取人の生命保険金の遺留分における扱い

<民法改正による遺留分の規定の変更(注意)>

平成30年改正民法により,遺留分の規定(制度)の内容が大きく変更されました。
令和元年6月30日までに開始した相続については,改正前の規定が適用されます。
令和元年7月1日以降に開始した相続については,改正後の規定が適用されます。

被相続人が亡くなった際,生命保険の受取人として相続人の1人が指定されていることがあります。この場合,相続に関していくつかの問題が出てきます。
詳しくはこちら|相続における生命保険金の扱いの全体像(相続財産・特別受益・遺留分)
その1つに,相続人が受領する保険金は遺留分に関してどのように扱うのか,という問題があります。本記事ではこれについて説明します。

2 平成30年改正前民法1031条の条文

平成30年改正前から,この問題についての議論がありました。そして,後述するように,平成14年判例がこの問題についての判断基準を示しています。
解釈の多少となる条文としては,相続人が受領する生命保険金(請求権)が,改正前民法1031条の遺贈・贈与にあたるかどうか,ということになります。なお,改正後は直接これに相当する条文はありませんが,1046条1項(遺留分侵害額請求)がこれに対応します。従前の解釈は改正後も同じように当てはまると思われます。
最初に,解釈の対象となる条文を押さえておきます。

<平成30年改正前民法1031条の条文>

あ 改正前民法1031条の条文

遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈及び前条に規定する贈与の減殺を請求することができる。
※民法1031条(改正前)

い 平成30年改正による影響(参考)

ア 対応関係 改正前民法1031条の規定自体は削除され,改正後民法1046条1項に対応する
イ 改正後民法1046条1項の条文(参考) 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。
※民法1046条1項(改正後)

3 平成14年判例の判決文引用(改正前)

平成14年判例はこの問題についての解釈を統一しました。判決文をそのまま引用します。当然,平成30年改正前の民法の条文を前提としています。

<平成14年判例の判決文引用(改正前)>

自己を被保険者とする生命保険契約の契約者が死亡保険金の受取人を変更する行為は、民法1031条(筆者・平成30年改正前)に規定する遺贈又は贈与に当たるものではなく、これに準ずるものということもできないと解するのが相当である。けだし、死亡保険金請求権は、指定された保険金受取人が自己の固有の権利として取得するのであって、保険契約者又は被保険者から承継取得するものではなく、これらの者の相続財産を構成するものではないというべきであり(最高裁昭和36年(オ)第1028号同40年2月2日第三小法廷判決・民集19巻1号1頁参照)、また、死亡保険金請求権は、被保険者の死亡時に初めて発生するものであり、保険契約者の払い込んだ保険料と等価の関係に立つものではなく、被保険者の稼働能力に代わる給付でもないのであって、死亡保険金請求権が実質的に保険契約者又は被保険者の財産に属していたものとみることもできないからである。
※最高裁平成14年11月5日

4 生命保険金の遺留分算定基礎財産への算入(改正前・後)

前記の平成14年判例の判決文は少し分かりにくいので整理します。結果として,遺留分算定基礎財産・遺留分減殺の対象となる遺贈・贈与にはあたらないというものです。平成30年改正によって遺留分の制度は変わりましたが,この判断の枠組みは改正後でもあてはまるはずです。

<生命保険金の遺留分算定基礎財産への算入(改正前・後)>

あ 問題の所在(前提事情)

被相続人が,自己を被保険者とする生命保険契約における受取人を第三者に指定した(または変更した)
第三者が保険金を受領した
遺留分算定基礎財産に算入されるか否か

い 遺留分における扱い(否定)

死亡保険金請求権は,指定された保険金受取人が自己の固有の権利として取得するものである
(遺留分算定基礎財産・遺留分減殺の対象となる)遺贈・贈与にはあたらない
※最高裁平成14年11月5日
※『最高裁判所判例解説 民事篇 平成14年度』法曹会2005年p941
※東京高裁昭和60年9月26日(傍論)
※『最高裁判所判例解説 民事篇 平成14年度』法曹会2005年p937,938

う 平成30年改正による変更

平成30年改正により遺留分の権利は金銭債権化された
『い』の判断のうち,生命保険金が遺留分算定基礎財産に含まれないという部分は改正後にもあてはまる

5 保険金受取人の変更と指定の関係(改正前後共通)

なお,平成14年判例の事案は保険金受取人を変更したという事例でした。これについては,保険金受取人を指定した場合も同じことになります。

<保険金受取人の変更と指定の関係(改正前後共通)>

(最高裁平成14年11月5日について)
本判決は,事案に応じて,死亡保険金の受取人を変更する行為について判示しているが,死亡保険金の受取人を指定する行為についても同様に考えられる。 
※『最高裁判所判例解説 民事篇 平成14年度』法曹会2005年p941

6 生命保険金の特別受益該当性(概要・改正前後共通)

生命保険が,特別受益に該当するかどうかは,平成16年の最高裁判例が示しています。
詳しくはこちら|相続人が受取人の生命保険金の特別受益該当性
平成14年判例で遺留分に関する扱いの基準が示され,その後,平成16年判例が特別受益に関してその考え方を踏襲したという流れがあったのです。
平成16年判例は生命保険金は特別受益にあたらないことを原則としつつ,例外となる可能性(判断要素)を示しました。一方,前記のように平成14年判例(遺留分についての判断)は例外を示していません。
結局,遺留分についても特別受益と同じ例外的扱いとする判断があてはまるかどうかについて統一的な見解がない状態といえます。
詳しくはこちら|相続における生命保険金の扱いの全体像(相続財産・特別受益・遺留分)
詳しくはこちら|相続人が受取人の生命保険金の特別受益該当性

本記事では,相続人が受取人として受領した生命保険金が遺留分に関してどのように扱われるか,という問題について説明しました。
実際には,個別的な事情によって法的扱いや最適な対応が違ってきます。
実際に相続において生命保険の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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