【不動産登記申請をした司法書士の責任の裁判例(なりすまし・登記済証なし)】

1 不動産登記申請をした司法書士の責任の裁判例(なりすまし・登記済証なし)

司法書士が不正を見抜けなかったために虚偽の不動産登記申請を行ってしまい、司法書士(弁護士)の責任の有無が問題となるケースは多くあります。
責任の判断の枠組みはありますが、これによって個々の事案の責任を明確に判断できるわけではありません。
詳しくはこちら|不動産登記申請を行う司法書士の確認義務の枠組み(疑念性判断モデル)
本記事では、このような実例について司法書士の責任を判断した裁判例のうち、なりすましからの依頼であり、かつ、登記済証がなかった(保証書や本人確認情報の作成を行った)ケースについて紹介します。

2 抵当権設定・電話を引いてない説明の不自然性・責任あり

抵当権設定の登記申請について、なりすましを見抜けずに保証書を作成してしまったケースです。
本人確認の質問への回答の中で、自宅に固定電話を引いていないという説明が不自然であるのに見抜けなかったというような理由で、司法書士の責任(過失)が認められました。
なお、本人の特定(確認)に一切関わっていない司法書士の妻が保証人となっていることは、単独で違法行為です。このことも司法書士の責任を認める方向に働いているようです。

抵当権設定・電話を引いてない説明の不自然性・責任あり

あ 申請した登記

約1億6000万円の代金額での土地の売買契約のために
買主が売主に代金の一部1億3000万円を貸し付けて抵当権を設定することにした
正確には
買主X1とその知人X2が資金を用意したので、X1とX2を抵当権者とする抵当権設定登記をすることにした

い 虚偽登記の申請と実行

売主Aと名乗るBは、登記済証を保有していなかった
司法書士とその妻Cが保証人となって保証書の作成と登記申請手続をすることにした

う 虚偽登記の抹消

その後、BはA本人ではなかったことが判明した
抵当権設定登記は抹消することとなった(抹消登記請求訴訟による)

え 司法書士の行った調査内容

X1は司法書士に対して『BがA本人に間違いがないかどうか』を尋ねていた
司法書士は(所有者Aと名乗る者)Bに対してAの住所を尋ねると、登記簿上の住所と相違していた
その原因についてBは正確な回答をした
同行した関係者の中には銀行の関係者もいた
司法書士がBに対して電話番号を質問した
Bは『現在、自宅建替えのため、仮住まいをしており、そこには電話を引いていない』と答えた

お 調査内容の評価

Bの『電話を引いてない』旨の回答(え)は不自然である
司法書士は、この点についてそれ以上の関心を払っていない
さらに関係者の個々人から取引交渉の経過について事情を聴取していれば
登記権利者XらとBとは取引交渉の経過でまったく顔を合わせていないことに気づいたはずである
=BをA本人と確認するには不十分であることに気づいたはずである

か ダミーの保証

司法書士の妻Cは、BがA本人であることについてまったく知識を有していなかった

き 結論

司法書士の賠償責任あり
過失相殺=4割
※浦和地裁平成4年7月28日

3 売買・免許証をケースから出さない・責任あり

売買の売主がなりすましであったのに、司法書士が本人確認情報を作成してしまったケースです。実際の売主(所有者)の息子が同席し、なりすましていた者のことを、父に間違いないと説明していました。
このことから、司法書士が信じることにミスはないように思えますが、一方で、運転免許証の確認において、ケースから出していなかったという事情がありました。
これが決め手となり、司法書士の責任(過失)が認められました。

売買・免許証をケースから出さない・責任あり

あ 申請した登記

売買(所有権移転)

い 当事者

土地所有者C
Cになりすました者A
Cの息子であると自称する者B
司法書士Y(司法書士法人Y1と個人Y2)

う 登記申請の却下

登記申請については、登記官が申請却下をした
買主Xは売買代金相当額を失った

え 司法書士の行った調査内容

司法書士は、Cとは面識がなかった
司法書士は、Cと称するAと会った
Bが同席し、Aのことを『父(C)に間違いない』と供述した
客観的な手がかりとなる資料は、Aが提出した運転免許証のみであった
司法書士は、本人確認情報を作成し、登記所に提出した

お 調査内容の評価

司法書士は、運転免許証の外観、形状を見分して、不審な点がないことを確認した上で、貼付された写真とAの容貌の照合など、免許証に記載された情報とAとの同一性を確認すべきであった
この確認方法は容易に行うことができる
しかし、司法書士は免許証をケースから取り出さなかった
→ケースから取り出して確認すれば、偽造運転免許証であることを発見できた可能性は十分にあった

か 結論

AをCであると誤信したことには過失がある
司法書士の賠償責任を認めた
過失相殺=2割
※東京地裁平成20年11月27日

4 抵当権設定・健康保険証と運転免許証のコピーの確認・懲戒事由あり

抵当権設定の登記申請において設定者(所有者)がなりすましであったのに、司法書士が本人確認情報を作成してしまったケースです。
本人の確認のために、健康保険証と運転免許証を使ったのですが、いずれもコピーを見たにすぎませんでした。それにも関わらず、本人確認情報の中には、『コピー』(を確認した)とは記載してなかったので、原本を確認したと受け取れる状態でした。
そこで、司法書士が業務停止3か月の懲戒処分を受け、裁判所もこの結論を肯定しました。民事責任ではなく、行政責任(懲戒処分)に関する判断ですが、民事責任と同じ考え方といえます。そこで本記事で紹介しました。

抵当権設定・健康保険証と運転免許証のコピーの確認・懲戒事由あり

あ 申請した登記

抵当権設定

い 司法書士の行った調査内容

司法書士は、登記義務者であると称する者Aと面談して本人確認及び登記申請意思確認を行った
Aは、健康保険組合発行の健康保険被保険者証の原本及び運転免許証のコピーを提示した
運転免許証(コピー)の顔写真とAの顔を見比べて同一性があるものと判断した
運転免許証のコピーは偽造したものであった

う 本人確認情報の作成

司法書士は、本人確認情報を作成し、登記官に提出した

え 本人確認情報の内容

『7.確認資料』として
運転免許証、保険証が記載されていた
『8.登記名義人であることを確認した理由』として
『上記の証明書の提示を受け・・・免許証の写真により本人との同一性を確認し、その外観・形状に異状がないことを確認した。』と記載した

お 懲戒処分(前提)

司法書士が登記義務者の本人確認の際、運転免許証の原本を確認しなかった
原本を確認したかのような記載をした本人確認情報を提供した
※不動産登記法23条4項1号
法務局長が業務停止3か月の懲戒処分を行った
司法書士は、この国家賠償請求訴訟を提起し、行政処分が違法であると主張した

か 裁判所の判断

司法書士としての注意義務に著しく違反したものである
→懲戒事由に該当することは明らかである
※名古屋地裁平成23年4月22日

5 抵当権設定・リピーターの金融機関・親子間のなりすまし・責任なし

抵当権設定の登記申請において、設定者(所有者)がなりすましであったのに、司法書士がこれを見抜けず保証書を作成してしまったケースです。
以上の事例と違って、司法書士の責任はないと判断されました。
責任を否定する主な事情は、真の所有者の子によるなりすましであって、印鑑証明書と実印が本物であったことと、もう一方の依頼者である抵当権者が過去に依頼したことのある金融機関であったので、信用するような状況ができていたというところです。

抵当権設定・リピーターの金融機関・親子間のなりすまし・責任なし

あ 申請した登記

抵当権設定登記(父親による物上保証)
債務者=C(=所有者Bの子)

い 司法書士の調査内容

登記義務者B本人と名乗る者Cからの依頼であった
Cは、登記済証を紛失したと説明した
Bの子Aが、Bの印鑑証明書と登録印(実印)を持参していた
登記権利者(抵当権者)の代表者は、過去に司法書士に同様の登記申請を依頼したことがあった
登記権利者が、『Aに代理権があること』を信じていた

う 保証書の作成

司法書士は保証書を作成した

え 結論

司法書士の賠償責任なし
※岐阜地裁昭和56年11月20日

6 所有権移転・弁護士が資格者代理人として受任・責任なし

売買の売主(所有者)がなりすましであったケースです。登記申請の代理を受任したのは司法書士ではなく弁護士でした。
これに関して、裁判所は、弁護士と司法書士で義務の内容に違いはないと指摘しています。
そして、裁判所は、弁護士が行った本人確認(調査)や取引の経緯に不自然な点はなかったと判断しました。結局、弁護士の責任は否定されました。

所有権移転・弁護士が資格者代理人として受任・責任なし

あ 申請した登記

売買による所有権移転登記

い 事案

自称所有者Aと買主Bが売買契約を締結した
弁護士Yが自称AとBから登記申請代理の依頼を受けた
自称Aは登記識別情報を紛失したと説明した

う 弁護士の調査内容

弁護士Yは自称Aと面談した
その際、住民基本台帳カードの提示を受けた
これを手にとって見た限り、違和感はなく、写真が付け替えられた様子や改ざんされた形跡もなかった
弁護士Yが自称Aに生年月日を尋ねた際にも、正確に回答がなされ、特段不自然な点はなかった
売買の経緯や登記識別情報の紛失の経緯(の説明)などに不自然な点はなかった

え 本人確認情報の作成

弁護士Yは本人確認情報を作成(提供)した

お 資格の差異による違い(否定)

資格者代理人の資格の差異によって義務の内容が異なるとする定めはない
→一般に弁護士が司法書士よりも高度の注意義務を負うとは認められない

か 結論

自称Aが登記名義人であることを疑うに足りる事情はなかった
→『う』以外の方法によって本人確認すべき注意義務はなかった
→弁護士Yは賠償責任を負わない
※東京高裁平成29年6月28日

本記事では、不正な不動産登記申請をしてしまった司法書士(弁護士)の法的責任を判断した裁判例を紹介しました。
実際には、個別的な事情や、その主張・立証のやり方次第で判断結果は変わります。

本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

共有不動産の紛争解決の実務第3版

使用方法・共有物分割・所在等不明対応から登記・税務まで

共有不動産の紛争解決の実務 第3版 弁護士・司法書士 三平聡史 使用方法・共有物分割・所在等不明対応から登記・税務まで 第3版では、共有規定の大改正に対応することはもちろん、その改正議論の中で展開され深化した解釈論により明らかになった実務への影響を余すところなく追録して大幅改訂増補!共有物分割、共有持分買取権行使、共有持分放棄、共有持分譲渡などの手続を上手に使い分ける指針を示した定番書!

共有不動産をめぐる法的紛争の解決に関する実務指針を
《事例》や《記載例》に即して解説する実践的手引書!

  • 第3版では、共有規定の大改正に対応することはもちろん、その改正議論の中で展開され深化した解釈論により明らかになった実務への影響を余すところなく追録して大幅改訂増補!
  • 共有物分割、共有持分買取権行使、共有持分放棄、共有持分譲渡などの手続を上手に使い分ける指針を示した定番書!
  • 相続や離婚の際にあわせて問題となりうる「共有者の1人による居住」「収益物件の経費・賃料収入」「使っていない共有不動産の管理」の相談対応や、「空き家」「所有者不明土地」「相続未登記」問題の解決のヒントに!
  • 他の共有者等に対する通知書・合意書、共有物分割の類型ごとの訴状、紛争当事者の関係図を多数収録しており、実務に至便!
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINE
【不動産登記申請をした司法書士の責任の裁判例(なりすまし・登記済証あり)】
【不動産登記申請をした司法書士の責任の裁判例(代理人からの依頼・登記済証あり)】

関連記事

無料相談予約 受付中

0120-96-1040

受付時間 平日9:00 - 20:00