【犯収法の本人確認(取引時確認)の時期(『行うに際して』の解釈)】

1 犯収法の本人確認(取引時確認)の時期
2 取引時確認を行うタイミング
3 取引の性質による取引時確認を行う合理的な期間

1 犯収法の本人確認(取引時確認)の時期

犯罪収益移転防止法(犯収法)では,一定の状況で取引時の本人確認(取引時確認)が義務付けられています。
詳しくはこちら|犯罪収益移転防止法による仮想通貨交換業者の取引時確認(本人確認)
詳しくはこちら|犯罪収益移転防止法による不動産登記申請を行う司法書士の確認の内容
この取引時確認を行う時期(タイミング)は,『取引を行うに際して』と規定されています。
本記事では,この取引時確認の時期に関する解釈について説明します。

2 取引時確認を行うタイミング

前記のように,取引時確認の時期は,『取引に際して』なので,特定取引の前に取引時確認が完了していることが必須ではないのです。特定取引の開始合理的期間内取引時確認を行えばよいということもあります。

<取引時確認を行うタイミング>

あ 条文規定

(特定取引を)行うに際しては取引時確認を行わなければならない
※犯罪収益移転防止法4条

い 『行うに際しては』の意味

『行うに際しては』とは『あらかじめ』『までの間に』などのように取引が完了する前に必ず本人確認が終了していなければならないという趣旨ではない
取引の性質に応じて合理的な期間内(後記※1)に本人確認を完了すべきという趣旨である

う 取引時確認未了による取引中断

合理的な期間内に完了しない場合は,通常,免責規定により取引を中断することになる
※犯罪収益移転防止法5条
※犯罪収益移転防止制度研究会編著『逐条解説 犯罪収益移転防止法』2009年p69,70

3 取引の性質による取引時確認を行う合理的な期間

取引時確認を行うタイミングは,一定の合理的な期間内とされています(前記)。取引の性質によって,この合理的期間の内容は違ってきます。
即時に現物の移転が完了するような取引については,取引より前取引時確認を完了する必要があります。
継続的取引については,取引の後に取引時確認を完了させることで足ります。
では,取引の何日後までか,というような明確な期限は法令上定められていません。実際に事業者によって運用に違いがあります。マネーロンダリングの防止の実効性を低くするという指摘(批判)もあります。

<取引の性質による取引時確認を行う合理的な期間(※1)

あ 即時現物取引における合理的な期間

ア 一般的基準 外貨両替や貴金属の即時現物取引においては
顧客との次回の接触が想定し難いorいつになるか分からない
→取引(財産移転)を終了した後で本人確認ができない事態が想定できる
取引に先立ちその場で本人確認をしておく必要性は高い
イ クレジットカードの例(参考) クレジットカードが交付される時点までに取引時確認が実施されていること
が要請されている
※経済産業省『割賦販売法(後払分野)に基づく監督の基本方針』
※中崎隆ほか著『詳説 犯罪収益移転防止法・外為法 第2版』中央経済社2017年p76

い 継続的取引

預貯金契約のような継続的取引を構築する場合においては
取引開始後,犯罪収益移転防止法規則に定められた方法をとる合理的な期間内で本人確認を行うことは可能である
※犯罪収益移転防止制度研究会編著『逐条解説 犯罪収益移転防止法』2009年p69,70

本記事では,犯収法の取引時確認時期(タイミング)について説明しました。
実際のサービスの設計においては,個別的なサービス内容に応じて適切なフローを設定する必要があります。
犯収法の本人確認(取引時確認)についての問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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