【無記名債権の民法上の扱い(動産みなし・即時取得・弁済の保護)】

1 無記名債権の民法上の扱い(動産みなし・即時取得・弁済の保護)
2 民法上の無記名債権の規定と有価証券の適用関係
3 無記名債権の意味と具体例
4 無記名債権の譲渡方式の動産扱い
5 無記名債権の即時取得
6 弁済の保護(人的抗弁の切断・調査義務の免除)
7 無記名債権の消滅時効・公示催告による無効

1 無記名債権の民法上の扱い(動産みなし・即時取得・弁済の保護)

民法では無記名債権動産とみなされます。その結果,即時取得が適用されます。
また,別の規定で債務者が弁済することについて一定の保護がなされています。
いずれも取引を円滑にするための規定です。
本記事ではこのような,無記名債権の民法上の扱いについて説明します。

2 民法上の無記名債権の規定と有価証券の適用関係

無記名債権動産とみなす規定があります。
この点,無記名債権でも有価証券に該当するものは有価証券を対象とするいろいろな規定が適用されます。有価証券は,一般的な無記名債権よりも強く取引が保護されるのです。
逆にいえば,無記名債権のうち有価証券ではないものだけが,(実質的に)動産とみなす扱いを受けるということです。

<民法上の無記名債権の規定と有価証券の適用関係>

あ 民法の規定

無記名債権は動産とみなす
※民法86条3項

い 有価証券との適用関係

無記名債権有価証券にも該当することがある
この場合,有価証券に関する規定が優先して適用される
詳しくはこちら|商法の有価証券と株式の善意取得(民法の即時取得よりも強化)

以下,有価証券には該当しないことを前提にして説明を続けます。

3 無記名債権の意味と具体例

無記名債権とは,債権者の表示(記名)がなく,また,権利行使などに証券が必要というものです。
実際の例としては,乗車券など,いろいろな企業が発行するがあります。

<無記名債権の意味と具体例>

あ 無記名債権の意味

証券上に債権者を表示しないで,債権の成立・存続・行使などに原則として証券の存在を要件とする債権である

い 無記名債権の具体例

『ア〜オ』によってあらわされる債権(有価証券に該当するものも含む)
ア 無記名公債イ 無記名社債ウ 商品切手エ 乗車切符(乗車券) ※大判大正6年2月3日(反対説)
オ 劇場観覧券

う 経済的な実情

証券自体が価値を有するものとして取引の対象とされる
※林良平ほか編『新版注釈民法(2)総則(2)』有斐閣1991年p627

4 無記名債権の譲渡方式の動産扱い

無記名債権動産として扱われるので,(債権)譲渡の時には引渡があって初めて譲渡の効果が生じます。

<無記名債権の譲渡方式の動産扱い>

あ 譲渡方式

譲渡は動産の譲渡方法による

い 動産の譲渡方式の内容

意思表示により譲渡の効果が生じる
引渡は対抗要件となる
※民法176条,178条

う 見解

証券の交付を債権譲渡の効力発生要件として捉える必要性がある
※林良平ほか編『新版注釈民法(2)総則(2)』有斐閣1991年p628

5 無記名債権の即時取得

無記名債権動産とみなされる結果として,一般的な民法の即時取得が適用されます。

<無記名債権の即時取得>

あ 即時取得の適用(原則)

無権利者から証券を取得した場合にも
民法の即時取得(民法192条)が適用される
→盗品・遺失物について一定の範囲で制限される
※民法193条,194条
※川島武宣ほか編『新版注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p148

い 有価証券の即時取得(特別規定あり・参考)

有価証券については即時取得の特別規定がある
即時取得の成立を緩く(広く)認めている
※商法519条,手形法16条2項,小切手法21条
→民法の即時取得(民法192条)は適用されない
詳しくはこちら|商法の有価証券と株式の善意取得(民法の即時取得よりも強化)
※林良平ほか編『新版注釈民法(2)総則(2)』有斐閣1991年p628

6 弁済の保護(人的抗弁の切断・調査義務の免除)

無記名債権に対して債務者が弁済することをよりスムーズにするような規定があります。
人的抗弁の切断と債務者(発行者)が負う調査義務の免除です。

<弁済の保護(人的抗弁の切断・調査義務の免除)>

あ 人的抗弁の切断

無記名債権の取引について
取引の直接当事者に生じた事由はその当事者間だけの抗弁事由となる
=善意の第三者に対抗できない
※民法473条,472条

い 発行者による調査義務の免除

発行者が,正当な権利者でない証券所持者に弁済した時の保護
→指図債権の規定(民法470条)の類推適用が考えられる
※林良平ほか編『新版注釈民法(2)総則(2)』有斐閣1991年p628

7 無記名債権の消滅時効・公示催告による無効

一般的に動産であれば,消滅時効が適用されることはありません。
この点,無記名債権動産とみなされるとはいっても,債権の性質を失わせる意味までは含みません。無記名債権が消滅時効にかかるのです。
無記名債権は,所持者が保護されます(前記)。他方で,無記名債権を紛失した者や盗まれた者は権利を失うことになり,犠牲をなります。
そこで,一定の範囲で無記名債権の権利を消滅させる公示催告手続が利用できます。

<無記名債権の消滅時効・公示催告による無効>

あ 無記名債権の消滅時効

無記名債権は,債権の規定にしたがい消滅時効を認める
『動産所有権は消滅時効にかからない』という理論を適用すべきではない

い 公示催告による無効

無記名債権は,公示催告手続により無効とすることができる
※民法施行法57条
※林良平ほか編『新版注釈民法(2)総則(2)』有斐閣1991年p628

本記事では,(有価証券ではない)無記名債権の民法上の扱いについて説明しました。
実際には,ストレートに無記名債権の扱いが問題になることもありますし,また,新しい決済手段に適用されるかという問題が生じることもあります。
実際に無記名債権に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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